週刊3Dプリンタニュース

「3Dプリンタの銃規制」は本当に必要なのか?

3D-GAN理事長相馬氏にインタビュー

店頭で販売されている3Dプリンタ

 5月8日、3Dプリンタで自作した銃2丁を所持していたとして、27歳の男性が銃刀法違反の容疑で逮捕された。もちろん、3Dプリンタで自作した銃による逮捕はこれが国内初だ。

 そのため、この事件はテレビや新聞などでも大きなニュースとなり、「3Dプリンタの所持や販売などに対する法的な規制が必要なのではないか?」という論調も見かけるようになった。しかし、3Dプリンタに規制をかけることで、今回のような事件が防げるのだろうか?

 そこで今回の週刊3Dプリンタニュースは、当初の予定を変更して、この問題について考えてみることにしたい。

「3Dプリンタによって銃の脅威が増した」というのはナンセンス弾丸は3Dプリンタで作れるか?

一般的なパーソナル3Dプリンタは、ABSやPLSといった樹脂で出力する

 今回の事件は、3Dプリンタを使って作った銃を所持していることに対する銃刀法違反の容疑で逮捕されたというものだが、その逮捕自体は正当なものだといえる。実弾を発射する能力のある銃を不法に所持することは、銃刀法に違反するためだ。

 しかし、その銃は、本当に3Dプリンタだけを使って作られたのであろうか。ニュースなどでは、あたかも3Dプリンタのみを使って製作されたかように報道されているが、逮捕された男性は、金属加工を行うための小型フライス盤や旋盤、バンドソーなども所有していることをサイトで明らかにしており、過去に7年半、金属加工を行う町工場での勤務経験もあるので、実際にはこうした加工機械も駆使して銃を製作していた可能性が高い。

 個人が気軽に購入できるパーソナル3Dプリンタは、基本的にABSやPLSといった樹脂しか素材として利用できないため、実弾が撃てる銃を作ったとしても、金属製の本物の銃に比べれば遙かに耐久性が低く、何発も撃てるような銃は作れない。

 また、銃そのものは、データさえあれば3Dプリンタで出力できるが、実弾をどうやって手に入れるのかという、根本的な問題も見過ごされがちだ。米国などと違い、日本では一般の人が実弾を入手することは非常に難しいのだ。いわゆる「弾丸」(正確には実包)は、実際に飛び出す「弾頭」とそれを飛ばすための「火薬」、衝撃により発火する雷管を薬莢で覆った形になっているのだが、こうした弾丸を3Dプリンタで作ることは不可能だ。

 どうも報道では「3Dプリンタ」という言葉だけが一人歩きしている感はあるのだが、そのあたりをどう考えているのか、3Dデータおよび3Dプリンタの活用について詳しい、一般社団法人「3Dデータを活用する会・3D-GAN」の相馬達也理事長に緊急取材を行った。


--3Dプリンタによる銃の製造が社会の脅威になるという意見がありますが、それについてはいかがでしょうか?

[相馬氏]一貫して言っていることですが、3Dプリンタで銃を作ることはできます。ですが、他の製造法に比べて著しく有利だということはないので、社会的脅威にはなり得ません。弾薬が手に入るのなら、もっと有利な銃の製造法は他にたくさんありますから、3Dプリンタの所持を規制する必要も意味もありません。

--弾薬がなければ、脅威は小さいですよね。

[相馬氏]今回の報道に関しては、弾薬はどうしたのかということが全く報じられていないのも疑問です。

 弾薬を3Dプリンタで作ることはできませんので、この部分はもっとも重要な話だと思います。今回の事件の問題点を把握するには、「銃の仕組み」「材料加工」「3Dプリンタ」などさまざまな知識が必要です。こうした知識があまりない人が、よく分からないから「怖い」、「悪い」と言っている感じですね。

--確かに、規制が必要だといっている人は3Dプリンタを実際に使ったことのない人ばかりのように見受けられます。

[相馬氏]規制が必要ないだろうと言っている人のほうが、何十倍も知識も経験もあると思います。

 ただ、規制に反対している人は、3Dプリンタ関連で仕事をしている人が多いので、商売上の利害で反対しているんじゃないかと思われがちですが、別に商売と関係なく、真実として3Dプリンタへの規制はいらないんだよという話ですね。

--昔から、それこそ鉄パイプ銃とか、模造銃や改造銃の犯罪はあったわけで、別に犯罪として新しい犯罪ではないですよね。そういう意味では3Dプリンタはあまり関係ないですよね。

[相馬氏]関係ないですよ(笑)。データさえあれば誰でも作れるんでしょっていうのは、確かに旋盤などに比べれば簡単ですが、その分、できたモノがショボいですから、それを勘案すると特に脅威が高まったとは、全く判断できないんですよ。

--3Dプリンタの販売や所持については私も規制は不要だと思いますが、銃などの3Dデータが容易に入手できるというのは好ましくないですよね。

[相馬氏]そうですね。今、映像とか映画とかに関しては、違法アップロードっていう概念があるじゃないですか。

--はい、ありますね。映画泥棒のCMとか。

[相馬氏]あれと同じように、「銃が作れる3Dデータのアップロードを規制する」というのは有効だと思います。

 不法な3Dデータのアップロードを取り締まるっていうことで、対処するのが一番よいという風に思っています。3Dプリンタそのものへの規制の必要は全く用をなさないというか、意味がないです。

 今回の事件も、銃刀法という現行法で対処できているわけですよね。法規制っていうのは、既存の現行法では追いつかないから、新たに規制するわけですから、銃刀法できちんと取り締まられているのに、なぜ新しい法律を作る必要があるのかっていうのもロジックとしてありますよね。


 また、3D-GANでは、3Dプリンタ使用のガイドライン策定を計画しているという。このガイドラインによって、銃刀法や著作権法などへの配慮を簡潔にうたい、正しく3Dプリンタを使うための注意喚起、啓発活動も行うことで、現実的で実りある利用環境を実現していきたいとのことだ。

 政府内でもこの問題についてはいろいろ議論が行われているようだが、5月9日午前の閣議後の会見で、茂木経済産業大臣は、3Dプリンタを使用した銃などの製造について、追加的な規制は考えていないとしたうえで、関係省庁と連携して対策を検討する考えを示している。少なくとも現時点において、追加的な規制を行うことは考えてはいないようだが、相馬氏がコメントしたように、データアップロードに関する規制を行うことは考えられる。

 今回の事件は、3Dプリンタを製造・販売しているメーカーや3Dプリントサービスを行っている企業にとって決して看過できない問題である。

 事件を受けて、国産パーソナル3Dプリンタ「BS01」を製造・販売しているボンサイラボ株式会社は、同社のWebサイトで「わたしたちは、反社会的行為を目的とした3Dプリンタの利用に関して、疑わしい行為が見受けられた場合は販売をお断りさせて頂きます。 また販売後に同様な使用目的が判明した場合は、速やかに公的機関に報告させて頂きます。」という声明を発表している。

 また、事件後、中野ブロードウェイで「あっ3Dプリンター屋だ!!」を運営している株式会社東京メイカーと株式会社ストーンスープも、Facebookの公式ページに、「大道に店を広げて、どんな人か分からないまま受注してモノを作ることを生業としている我々側に、引き合いが来た部品が何に使われるのかを慎重に見抜く「受注者責任」が生じたことを、ひしひしと、実感しています。」というコメントを載せている。

 今回の事件は、かなり特殊なケースであり、これによって銃の脅威が増したと断じるのはやはり早計であろう。金属粉末を焼結して造形する業務用3Dプリンタならともかく、軽くて熱に弱いABSやPLAしか利用できないパーソナル3Dプリンタで、殺傷力を持つ銃を作ることは非常に難しく、もしできたとしても、弾丸の入手が困難なことは先ほども述べたとおりだ。

 また、実際に動作する銃の内部までの3Dモデリングを行える人は、それほど多くはないと思われるため、不法データのアップロードを規制することで、「誰でも3Dプリンタを使えば銃を作れる」ということは、机上の空論に過ぎなくなるだろう。新聞などに掲載された、今回の事件にからめたコラムをいくつか見たが、その多くはトンデモ記事といっても差し支えない内容である。

 3Dプリンタがあれば、偽ブランド品も容易にできるとか、家電製品もそのままコピーされてしまうといった論調の記事もみかけたが、それは現在の3Dプリンタでは全く不可能であり、ドラえもんの秘密道具かなんかと勘違いしているのだろう。

 以前に比べると、3Dプリンタが何でも作れる機械のように報道する風潮は多少落ち着いたと思ったのだが、この事件を契機として、そうした誤解がまた広まらないことを願う。

(石井 英男)