ボクたちが愛した、想い出のレトロパソコン・マイコンたち

誕生から40年、N-BASICが動く「PasocomMini PC-8001」が降臨!開発者に聞いた

ハル研究所 三津原所長&郡司氏インタビュー

完成した「PasocomMini PC-8001」を持つ二人。左がディレクターの郡司氏で、右が所長の三津原氏だ

 8月5日(月)、NECパーソナルコンピュータは"PC-8001へのオマージュを込めた特別モデル"を発表すると同時に、同製品の記念品として「PasocomMini PC-8001」がバンドルされることを明らかにした。このPasocomMini PC-8001はエミュレータにより実際のPC-8001用のソフトがマシン語レベルで動作するというもの。N-BASICまで実装されているという凝りようだ。

 開発は株式会社ハル研究所(以下、ハル研)で、同社が2017年に発売したPasocomMiniシリーズに属するモデルとなる。今回は、開発を担当した取締役所長・三津原敏氏(以下、三津原氏)と、開発担当ディレクターの郡司照幸氏(以下、郡司氏)に、いち早く詳細な内容と熱過ぎる思いの丈をうかがった。

まさに手のひらサイズの「PasocomMini PC-8001」だが、その外観は驚くほど精巧。これが動作するだけでもすごいのに、再現度の高さとこだわりの強さにはもっと驚かされる
こちらは実機のPC-8001。往年のパソコンファンの中には強い思い入れのある方も多いに違いない。しかしながら、さすがに今手に入れて動かすのは一苦労。そんなときこそ「PasocomMini PC-8001」の出番

MicrosoftのN-BASICが載る!あのPCG機能も!!

――まずは、「PasocomMini PC-8001」の特長についてお聞かせください。

[三津原氏]:一番の特徴的は、N-BASICが載っていることです。MicrosoftのN-BASICです。電源ONでPC-8001とまったく同じ起動画面が出てきます。BASICのバージョンは1.1です。PC-8001初期の頃に載っていた1.0でしか動かないソフトが(少数)あるらしいのですが、より長く使われていた1.1を採用しました。N-BASICが載ったこともあり、今回は残念ながらSmileBASICは搭載しませんでした。さらに、「PCG」(ユーザー定義キャラクタジェネレータ機能を持つ拡張ユニット。当時、ハル研究所が開発・販売していた)の機能を搭載しています。ハル研としては自社製品のPCGということで、こだわりを持って搭載しています。

――エミュレータでは、実機のROMに収められたソフトウェアやBIOSが関連各社のさまざまなしがらみで再現されないことがありますよね。レトロパソコンやエミュレータに詳しい人ほど、今回のPasocomMini PC-8001でN-BASICが実装されるのかは気になったと思います。そして、"PC-8001をハル研がやるならPCGを搭載するでしょ"となるでしょうから、実に的を射た実装と言えます。

[三津原氏]:今回もゲームが何本か同梱されるのですが、当初は16本を予定しています。専用メニューから選択して決定すると即起動します。前作の「PasocomMini MZ-80C」のときは5本でしたが、今回の「PasocomMini PC-8001」はコンテンツを充実させたほうが長く遊んでもらえると思ったので、同梱数を増やしました。

電源を入れると、N-BASICの画面が表示される。搭載バージョンは1.1なので、1.0に存在した一番右の文字が欠けるバグも修正されている

――"当初は16本"ということは、ゲームが追加される可能性があるのでしょうか?

[三津原氏]:はい。権利関係の解決が難しいものは後日の提供になりそうです。本数が増えると当然、権利者との話も多くなりますので、ていねいにやっています。

――さらに増える可能性があるのですね。同梱されるゲームは後ほどまた詳しく見せていただこうと思います。

[三津原氏]:もちろん、ユーザーが作ったプログラムをセーブ、ロードすることもできます。当時の雑誌に載っていたプログラムリストを自分で打ち込んで遊ぶことも可能です。ステートセーブもできるので、当時難しかったゲームの特定のシーンを何度でも挑戦し直すこともできます。

――カセットで提供されていたタイトルは遊べるのでしょうか?

[三津原氏]:ゲームカセットは、WAVファイル化すれば、コンバート機能があるので読めます。内部メニュー上でCMTファイルの読み書きが出来ますので、お手持ちのCMTファイルを読むことができます。

――ということは、カセットのゲームがSDメモリーの速度で読み出されるわけですね。その意味では実機より手軽で快適に遊べてしまう。思い入れがあっても、テープのあの速度だとなかなか起動できないという方は多いと思います。

正式発表に至るまでの苦難の道程。NECパーソナルコンピュータ社長との協議が突破口に

――初代のPasocomMini「PasocomMini MZ-80C」の発表が、2017年5月11日でした。そこから数えると2年3カ月ぶりとなる「PasocomMini PC-8001」ですが、ここに至るまでにどんな苦労があったのでしょうか。

[三津原氏]:とにかく難産でした。頑張ってなんとかなる大変さと、自分たちではどうにもならない大変さの二つがあるのですが、後者の時期が長かったです。

――つまり、前者が開発の大変さで、後者が権利問題の大変さということですね。

[三津原氏]:開発の大変さはディレクターの郡司が語ってくれると思いますが、許諾関係は正直何回もあきらめかけました。大の大人の心が折れるとは、こういうことかと。

――前回の「PasocomMini MZ-80C」を知らない読者もいるかもしれませんので、改めて今回の発表にいたるまでの経緯を教えてください。

当時の文献を前に、完成したばかりの「PasocomMini PC-8001」を持ちながらインタビューに応じる二人。三津原氏は往年のパソコン関連の技術書を数多く保有する収集家だという

[三津原氏]:そもそも、私が手のひらに乗る程度の大きさのパソコンが欲しかった、というのが原点です。その後、メーカーのスマイルブームさんと「電源ONでSmileBASICが起動するハードがあったらいいよね」という話をしていました。手のひらに載る程度の大きさのパソコンで、どうせなら昔活躍した「PC-8001」や「X1」、「FM-7」、「MZ-80C」といった"あの機種たち"が欲しい。しかし、それらを発売するとなれば"誰が見ても本物"かつ"操作手順も本物"という商品を売り出さなければなりません。そういうところが後々、大変な手間になる引き金でもあるのですが……。"あの機種たち"について、誰がどう許可を出したらよいのか(よく分からないから答えられない)という話を、どこのメーカーを訪ねても言われてしまう(笑)。

 これらの問題をクリアして2年前に発売したのがパソコンミニの第1弾で、シャープが1979年に発売したパソコン「MZ-80C」を1/4サイズにした「PasocomMini MZ-80C」です。今回の「PasocomMini PC-8001」も企画が立ち上がった当初は、いろいろと先が見えなかったのですが、NECパーソナルコンピュータのデビット・ベネット社長に「PasocomMini PC-8001」を披露できるチャンスをいただき、話し合いの場を設けてもらったことが突破口になりました。これが、ちょうど2018年の9月28日、「PC-8001」発売39周年の日でした。そのときに「来年の今日(2019年9月28日)、「PC-8001」は40周年を迎えます。「PC-8001」40周年の記念イベントをハル研で企画することはできませんが、このようなものがあります」とお伝えしました。そして「PasocomMini PC-8001」の試作品を披露後、「よろしければお手伝いさせてほしい」とお話しをして、最終的に今にいたるという感じです。

――前回の「PasocomMini MZ-80C」開発者インタビューの時には、すでにモックアップという形で「PasocomMini PC-8001」がありました。開発の意欲は、その時点からあったと思うのですが、その後にNECさん側と交渉を重ね、昨年9月28日にGOサインが出たということでしょうか?

[三津原氏]:その時点では、まだそこまでは行っていないです。"検討する"と、かなり前向きのコメントをいただけたという段階です。

――その時点ではどのくらい完成していたのでしょうか?

[三津原氏]:モックアップはできていました。

[郡司氏]:背面部分は、実機「PC-8001」と同じでした。製品版はRaspberry Piの接続端子を出すため、その部分をカットしてあります。

左が、2017年に取材した時点で撮影した「PC-8001」のモックアップ。右は、今回撮影した「PasocomMini PC-8001」だ。背面が変化しているのが分かるだろう

[三津原氏]:ソフトウェアの部分は先行して開発を進めていました。

[郡司氏]:NECパーソナルコンピュータのデビット社長に提案する時点で、エミュレータ本体は普通に動いていました。あとはどこまで完成度を上げるか、追加機能はどうしようかと……。

[三津原氏]:という感じでしたので、(主要な部分は)ほぼできあがっている状態でした。

――搭載されている、Raspberry Piのモデルは何を採用したのでしょうか?

[三津原氏]:今回はRaspberry Pi Zero WHを採用しました。前回はRaspberry Pi 1 model A+を使用しましたが、これは当時Raspberry Pi Zeroの大量入手が出来なかったことによる選択です。今回は当初から意図していたRaspberry Pi Zero WHを調達できたのですが、高さがギリギリで、筐体に収まるかドキドキしました。

――高さがギリギリに?

[郡司氏]:ギリギリです。この調整には、かなり時間がかかりました。Raspberry Piの基板上のピンが筐体上部の裏側に当たってしまうのです。ピンを切ってほしいという交渉をしたのですが、そうすると思ったよりもコストがかかってしまい……最終的には、「PasocomMini PC-8001」の筐体裏側に穴をあけて、そこに基板裏のハンダ付け部分がはまるようにすることで、ピンが当たらないようにできました。

――底面に穴をあけたというのが、ブレイクスルーになったのですね。

[郡司氏]:はい。ピン自身はハンダで接着されているので、その高さがバラバラなんです。ギリギリを狙って貫通させずにハンダ部分だけをへこませたバージョンも作ってみたのですが、うまくいかない。だったら、もう穴を完全にあけてしまおうと。穴をあけることにより少々強度が落ちてしまったので、ネジ穴の位置をギリギリまで攻める必要が出てきましたが……逆に、穴をあけたことで放熱もできるから、よかったかと思っています。

[三津原氏]:当然ながら、こちらが勝手に形を変えるわけにはいかないので、その辺りは非常に気を使って作りました。

――底面の完成度も、非常に高いですよね。

[郡司氏]:足も塗装しましたし、基板を留めているカードスペーサーは銀色で着色し、実物っぽく見えるようにしています。天板のスリットは、後期バージョンの"十字"にしています。当初手元にあったPC-8001が縦スリットだったので、モデリングも縦スリットで作っていたんですが、その後箱付きのPC-8001を手に入れたら十字だったので、そちらに修正しました。またスリットもただの溝だと立体的な陰影がつかず、質感が落ちるのできちんと穴を開けています。

正面から撮影した写真を見ると分かるが、スリットは完全な縦溝ではなく、裏側に横棒が当てられている後期型のデザイン。筐体上部を外すと、中に入っているRaspberry Pi Zero WHが見える。底面には穴があけられており、これのおかげで高さがギリギリ間に合った

こちらは実機の底面と背面

――非常に精巧な筐体ですが、製造は前回と同じく今回もアオシマ(青島文化教材社)でしょうか?

[三津原氏]:そうです。

――構造面でのアイディア出しは、アオシマと共同で行なったのでしょうか?

[郡司氏]:チーム内で精密測定後3Dモデリングし、NC機器を使ってパーツを削り出してモックを作り、それを元に「このようにできますか?」と伺いながら金型で再現できるラインを詰めていってます。そして後から気付いたのですが、「PC-8001」は微妙に側面のラインが斜めなんですよね(正面から見ると、左右が"ハ"の形になっている)。最初は分からなくて"アレ? おかしいな"となりました。精密測定中に気がつきまして、なるほどなと(笑)。

――前回の「PasocomMini MZ-80C」ではスリットの本数を減らしたということがありましたが、今回はそういうことは一切なく?

[郡司氏]:「PasocomMini MZ-80C」は、実機どおりに作ると細くなりすぎてしまい強度が出なくなるので本数を減らしましたが、今回は十字スリットにすることにより強度を補完できたので、できる限り同じ数になるようにしています。

――「PC-8001」は、このスリットの下に横長の電源が入っていますよね。

[郡司氏]:そうですね。そこにコードネーム"PCX-01"と書かれています。

――銘板に、NECのロゴが入っていませんね。

[三津原氏]:ロゴは、NECのご判断により入らなくなりました。本来ならば箱にもNECと入ってはいるのですが……。

――確かにそうですね。何かありそうなスペースが(笑)。

[郡司氏]:訓練されたPC-8001ユーザーなら、ここにNECさんのロゴが見えるはずです(笑)。ちなみに、PC-8001の実機の箱は、MZ-80Cの実機と同時に入手していました。

[三津原氏]:どうせ作るのであれば、本体を見て喜ぶのはもちろんのこと、買って手にした瞬間からうれしいほうがいい。だからこそ、本物そっくりの箱にもこだわりました。

[郡司氏]:この頃の印刷は今ほど精度が高くなく、ゴム版を押したように少し文字が曲がってしまってます。それも再現していますので、じっくり見ると少々曲がっている感じで印刷されているのが分かると思います。気付く人は、どのくらいいるのかな(笑)。

当時収納されていたダンボールも再現している。"パーソナルコンピュータ"の書体が、昭和を思い起こさせる

実機より便利?今こそカセットテープのゲームを掘り起こせ!

――カセットテープの扱いについて、もう少し詳しく教えてください。

[郡司氏]:CMTファイル(カセットテープをWAVファイルとして保存した後、エミュレータなどで使用できるカセットテープのイメージファイル形式に変換したもの)が読めますので、手元にCMTファイルがある人は、それが使えます。N-BASICのコマンドであるCSAVEとCLOAD、マシン語モニタでのWとLコマンドのI/Oポート経由で入出力するデータは、μPD8251Cエミュレータ上で処理し、ファイルへの書き出し読み込みを行なっています。テープのエミュレーションではないですが、マシンのメモリやICの状態を保存するステートセーブという機能があります。ステートロードすれば、その時の状態に復帰させることが可能です。たとえば昔のゲームは理不尽(?)なものが多いですが、それでもクリアしたいという人も多いと思います。そんな時はこのステートセーブ機能を使ってリトライを繰り返せばクリアができるのでは?と思います。

 また、自分でプログラムを組んでいる時、CSAVEするよりステートセーブするほうが、メモリー状態もそのまま復帰するので開発しやすいと思います。もっとも、プログラムを新規開発する人が、どのくらいいるかですが(笑)。

――さすがに、もういない気がします(笑)。

[郡司氏]:さらに今回、コンバートという機能を用意しました。あらかじめ今時のパソコンで、当時のカセットテープからWAVファイルで録音しておきます。これを、microSDカードのあるフォルダにコピーして、「PasocomMini PC-8001」の"CONVERT"というメニューからコンバートを行なえばCMTファイルに変換されますので、実行することができます。

microSDカードにWAVファイルをコピーしてCONVERTメニューを選ぶと、そのファイルが表示されるようになっている。ファイルを選んでCONVERTボタンを選択すれば、手元にあるゲームソフトなども「PasocomMini PC-8001」で遊ぶことが可能だ

――これは驚きのサービスですね。

[郡司氏]:プログラムは、もちろん自前で開発しています。対応しているボーレートは、「PC-8001」標準の600ボーですね。

[三津原氏]:倍速セーブなどには対応していないです。

[郡司氏]:実機で読み込めているテープなら、ほぼ大丈夫だと思います。

――録音フォーマットは決まっているでしょうか?

[郡司氏]:サンプリング周波数、量子化ビット数などは、ある程度柔軟に対応しています。詳細は、「PasocomMini PC-8001」がお客様の手元に届くまでにはパソコンミニ公式Webサイトで公開する予定です。

――データレコーダの需要が増加しそうですね(笑)。

[郡司氏]:確かに、モノラルヘッドのデータレコーダのほうがよいかもしれません。さらに、今回もゲームパッドに対応しているのですが、ボタン配置をキーボード図上で選べるようになっています。「PasocomMini MZ-80C」のときはIOポート番号でしたが、今回はビジュアル的にしました。その部分のグラフィックは、私がドットを打ちこみました。

――設定メニューはリッチな画面を使っていませんが、これはなぜでしょうか?

[郡司氏]:実は、あえてやっています。プログラムを組んでいるときに見るならば、同じような文字フォントのほうが見やすいからです。見た感じは、1990年代によく使用されていたファイラーソフトなどのオマージュです。なので、背景がちょっと青くなっています。

[三津原氏]:「PC-8001」のフォントを利用してメニュー画面を作るのもおもしろいよね、という話もしていましたので。

[郡司氏]:くわえて今回は、BASICマニュアルも付けました。説明文に関しては、私が文章を起こしました。現状、フロッピーディスクドライブやプリンタには対応していないので、関連コマンドは省いてあります。プログラミングに必要になると思われる、キャラクタ表とキーボードマトリックス表も入れてあります。表示位置の切り換えなども考えたのですが、固定で問題ないかなと。

コマンドのマニュアルやキーボードマトリックス表は、オーバーレイで表示される。プログラムを入力しながら参照できるため、使い勝手は良好だ。画面の大きさは、"Full"や"dot by dot"など複数から選択が可能

――キャラクタ表は、"あの"高橋はるみさんが見ていたら大喜びしそうですね(笑)。

[郡司氏]:そう思います(笑)。

――今、テレビに画面が表示されていますが、解像度はいくつでしょうか?

[郡司氏]:1,280×720ドットです。出力カラーも設定メニュー上で変更できますので、目に優しい色にすることも可能です。またテンキーが省略されたキーボードのことも考えて、設定メニューからNumロックのON/OFFも選べます。PCGに関してですが、ジャンパ設定のON/OFFも用意しました。ONにすれば、ソフトウェアでPCGのON/OFFが制御できます。

内蔵しているPCG8100に関しては、ON/OFFだけではなくジャンパ設定も変更可能

高いレベルのエミュレーション。実機のROMイメージをそのまま搭載

――今回も、マシン語レベルでいじっても問題ないエミュレーションなのでしょうか?

[郡司氏]:はい。今回は素の「PC-8001」なので、前回のようなSmileBASICによるデバッガ支援はありません。

――エミュレータ部分に関しては、郡司さんの製作ですか?

[郡司氏]:はい。可能な限り、調べられるだけ調べて対応しました。実機と比べると若干の違いはあるかもしれませんが、全体的には遜色ないものに仕上がっていると思います。

[三津原氏]:「PasocomMini PC-8001」には、実機のROMイメージがそのまま載っています。マシン語のエミュレーションの上にN-BASICが搭載されているだけですので、BASICを動かすために何か頑張ったというわけではなく、完成度を高めていったらBASICも動くということです。

[郡司氏]:ハードウェアエミュレーションをきっちり行なうと、中のN-BASICは当時と同じように動くはずというのがもともとの考え方です。その上で「えっ、なんでこんな挙動に!?」ということが開発中にあるので、そこで実機に戻って確認する。

――エミュレータと実機を行ったり来たりなんですね。

[三津原氏]:回路図は見ていたよね。

[郡司氏]:回路図は見っぱなしですね。回路図はそのハードの設計図なので、まずはあれを読み込まないと。分からなければ回路図をチェック。ただ、回路図だけではダメでそこに載っているチップの情報も必要です。ところが、その資料が世の中にないんです。買おうと思っても買えない……ただ、ハル研が昔パソコン関連のハードを手掛けていたということもあって、当時のICの規格表が残っていたんです。それを見て「やっぱり!」と確認したり、誤表記もあったりするので実機上の動きと違いがないかチェックして、それが確認できたらハードウェアエミュレータをそのとおりに作るという、二重三重のチェックをした上で製作を進めていました。

[三津原氏]:クリエイティブな仕事というか、職人芸というか……。

[郡司氏]:たとえるなら考古学ですね(笑)。当時の文献をあさり、目の前のものを少しずつ発掘し解析していく。そんな感じですね。

[三津原氏]:ハル研には"新しいものはどうすれば作れるのか?"を常に考えている人のほうが圧倒的に多いです。ところが、このプロジェクトに関しては"これは昔はこうだったから、それをマネするためにはどうするか?"という考えで、通常とは脳の使い方が大きく異なります。ここは本当に、郡司が一人で違う方向で頑張ってくれていたと思います。

――開発時、とくに苦労した実装は何だったでしょうか?

[郡司氏]:N-BASICでコマンドを入力したとき、そのとおりに動かないことがあるのですが、それはエミュレータが悪いのか、それともそれ以外に原因があるのか? その切り分けが難しかったです。

[三津原氏]:たとえば、とあるゲームが動かないというとき、ソースを追いかけても間違いが見付からないことがあります。もとのプログラムに問題があるのかと調べたら、問題ない。調べると、ハードウェア的には実はこういう解釈をするのが正しいです、というのがいくつもありまして、それらを一つずつつぶしていくのに非常に時間がかかりました。これを、郡司は頭を抱えながらずっと作業していましたので、後半はそうとうに頭から湯気が立っていました。

[郡司氏]:技術だけではなく、当時のハードウェアのお作法も発掘しなければならない。これが、エミュレータを作る上での苦労ですね。

同梱タイトルには、当時有名だった"あの人!"の作品も

――今回、16本のタイトルが同梱されますが、それらの解説を簡単にお願いします。

[三津原氏]:はい。まず、「平安京エイリアン」と「JUPITER LANDER」に関してですが、これは当時ハル研が作ったものでもあるので収録しています。くわえて、PCGに対応しているということも後押しになっています。「モールアタック」はモグラ叩きですが、これは当時ハル研のオリジナルタイトルとして作っていまして、担当したプログラマはいまもハル研にいます。

――この3本が、当時のハル研作品ということですね。

「平安京エイリアン」は、碁盤の目状に描かれた道路に徘徊するエイリアンを、検非違使を操作し穴を掘って落とし、埋めていく

「JUPITER LANDER」(ジュピターランダー)は、着陸船を上手に地表に着陸させるゲーム。非常に難易度が高いので、成功したときの喜びはひとしお

「モールアタック」は、俗に言うモグラ叩き。当時は、「PC-8001」とは思えないリッチなグラフィックが表示されることから話題を呼んだ

[三津原氏]:「LUNAR CITY SOS!!」、「SNAKE WORLD」、「ASTEROID BELT」、「SPACE MOUSE」の4本は、芸夢狂人さん作ですね。当時、「PC-8001」用プログラムと言えば工学社さんの雑誌「I/O」が有名だったかと思いますが、そこで活躍されていた芸夢狂人さんのタイトルを同梱しています。

――芸夢狂人さんが投稿する「PC-8001」用のゲームを、毎月心待ちにしていた読者も多かったですよね。

当時、さまざまな機種に移植された「LUNAR CITY SOS!!」(ルナシティ SOS!!)は、芸夢狂人氏の代表作。今プレイしてもおもしろい傑作

画面の左右に出現するスネークを、ジャマするサソリから逃げながら倒す「SNAKE WORLD」(スネークワールド)。こちらも数多くの機種に移植された

「ASTEROID BELT」(アステロイドベルト)は、当時としてはめずらしく敵の攻撃パターンが4種類もあった。撮影時にブレてしまうほど、動作も速い

「SPACE MOUSE」(スペースマウス)も、氏を代表する作品。250階あるビルの屋上を目指して駆け上がるアクションゲーム。シンプルゆえ、すぐにルールを飲み込めて熱くなれる

[三津原氏]:続いては「SPACE SHIP」、「SUB-MARINE」、「MARINE BELT」、「CHECK.P」、「PARACHUTE」、「PC-ジャン!」、「ROCKET BOMB」です。作者は、今風太(こんぴゅうた)さんですね。たくさんのオリジナルゲームを投稿されていた方で、私の個人的な思い入れの強さもあり、今回同梱しました。今風太さんの作品はPCGを使ってないのですが、お会いして話をうかがったところ「当時のPCGは高くて買えなかった」とおっしゃっていました。なお、「ROCKET BOMB」は4方向にスクロールする、「PC-8001」ではめずらしいゲームです。

「SPACE SHIP」(スペースシップ)は、オーソドックスな固定画面シューティング。4面クリアすると、アーケードゲーム「ムーンクレスタ」風のドッキングミッションが発生する

画面内の敵潜水艦を破壊する「SUB-MARINE」(サブマリン)。潜水艦からの容赦ない攻撃を避け、機雷を投下しまくろう

画面下半分を上下左右に移動しながら、画面上方に出現した敵を倒す「MARINE BELT」(マリンベルト)

自機を操作し、ステージ内の旗をすべて通過すればクリアとなる「CHECK.P」(チェックポイント)。敵に追い付かれそうになったら、煙幕で動きを停止!

UFOからPARACHUTEで落下してくるエイリアンを撃ち落とす「PARACHUTE」(パラシュート)。エイリアンに地上を占領されるとゲームオーバーだ

「PC-8001」の160×100ドットという限られた解像度で麻雀牌を再現した「PC-ジャン!」。PCGを使用しなくても、牌の判別が付くのが素晴らしい

「ROCKET BOMB」(ロケットボム)は、ステージ内を4方向に移動しながら敵を見付け、倒すゲーム。固定画面アクションが多かった時代に、4方向スクロールを実現していた

収録のため日産自動車に直談判した「走れ! スカイライン」

[三津原氏]:続いて市販ソフトですが、「走れ! スカイライン」は、今見てもよくできていると思うのと、「PC-8001」の中では特徴的なゲームでもありましたので、ぜひ同梱したかった。実は、ゲーム中どこにも「スカイライン」という文字は出てこないのです(笑)。でもタイトルには使われているので、お話しをするために日産自動車へ行きました。会社を訪れて話をすると、昔のことすぎて当時を知る方がいらっしゃらない。そこで、まずは「PC-8001」とはどういうものかということからスタートしてご説明したところ、最終的にはよいお返事をいただけました。

 そして、「オリオン80」です。当時、そうとうに高い技術力で作られていることと、「PC-8001と言えばオリオン80」という人も中にはいるだろう、ということで同梱しています。

コムパックから発売されていた「走れ!スカイライン」は、「PC-8001」向けの数少ない背面視点のレースゲーム。挙動も、当時としてはリアルだった

当時としては、「PC-8001」とは思えない技術力で作られていた「オリオン80」。スクロールのなめらかさなどは、今プレイしても感嘆のため息が出るほど

――実際に作者にお会いして、許諾をもらったということですね。

[三津原氏]:はい。しかし、これが捜すのが大変でした。40年前の雑誌に、本名ではなくてペンネームだけが掲載されているわけですからね。実は、前回も協力してもらった80mkII会(数十人が数カ月に一度「PC-8001mkII」などを持ち寄り一日遊ぶ会)のメンバーに、今回も作者捜しでご協力いただきまして、かなり助けてもらいました。見つけた後は、その方が住んでいるところまで出向いて話をしました。とくに、今風太さんはこれまでメディアに出たことがない方でして、顔出しもありませんでした。雑誌に何度も投稿し掲載されていたけれども、出版社を訪ねたことはなかったそうです。

――当時の人としてはめずらしいですね。

[三津原氏]:ええ、そう思います。ほかにも大勢接触している人がいるのですが、権利関係のクリアが難しかったりして時間かかっているタイトルに関しては、まとめて次の機会にと考えています。ということで、ソフト追加は今後バージョンアップされる予定があります。ただし、本数は事情により増減することがあるかもしれません。

――「PasocomMini PC-8001」の、ハル研さんからの単体販売はあり得るのでしょうか?

[三津原氏]:NECさんが、記念品として提供した反応を見て決めたいです。もちろん、好評であればうれしいです。

――気になるところとしては、この当時のNECのパソコンは、ほかにも「PC-6001」シリーズや「PC-8801」シリーズ、「PC-9801」シリーズなど数多くの人気機種があり、ユーザーからのミニ化の希望も多いです。それらのPasocomMiniシリーズに関しての、今後の展開を教えてください。

[三津原氏]:現時点では未定です。

――「PasocomMini MZ-80C」発表時には、「MZ-80C」と「PC-8001」、そして「FM-7」のモックが登場していましたが、残っている「FM-7」についてはどうでしょうか?

[三津原氏]:現段階では未定です。

――口が堅いですね(笑)。今はゲーム機の復刻ミニ機が流行していますし、再来年には「PC-6001」と「PC-8801」の40周年、その翌年となる2022年は「PC-9801」の40周年が控えていますので、期待が膨らみます。続報、首を長くして待ちます。

[三津原氏]:最後に、とんでもないプレッシャーをかけられたような!?

――私個人の期待です(笑)。今日はありがとうございました。

(C)2019 HAL Laboratory, Inc.
(C) 1979-2019 Microsoft