「普及期のテラバイトSSD」活用術
1TB SSDがついに普及期に、「買える価格」になったテラバイトSSDの活用法を考えてみた
「メンテしやすい小型PC」の作例も text by 坂本はじめ
2016年11月7日 00:01
日進月歩のPCパーツ業界で、近年著しい発展を遂げているのがSSD (Solid State Drive)だ。
転送速度はHDDを圧倒するSSDだが、容量単価の高さがネックになり、これまで「完全にHDDを代替する」までには至らなかった。しかし、NANDフラッシュの大容量化とそれに伴う容量単価の下落で、ついに1TB=3万円割れが一般化、いよいよ普及期になってきた。しかも、無名メーカーの製品だけで無く、例えばCrucialのような有力メーカーの製品であってもだ。
そこで今回、Crucialブランドを展開するMicronのご協力のもと、時代を変える「テラバイト級SSD」の使用例を考える集中連載を実施することになった。
初回となる今回は、基本となる「1TB SSDの使いどころ」を考察し、シンプルにそれを活かす「小型の万能PC」の作例を紹介していきたい。
「テラバイトSSD」時代は何が変わるのか?
SSDのデータ転送速度は以前よりHDDを圧倒していた。
SSDの高いパフォーマンスは、OSやアプリケーションをインストールするシステム用ストレージに適しており、「システム用に小容量のSSD」「データ用にHDD」をそれぞれ搭載するというのが近年のトレンドだった。これは、容量単価の高いSSDの欠点を容量単価の安いHDDで補うという理にかなった構成だが、テラバイト級の容量を持つ安価なSSDの登場は、この「SSD+HDD」という構成を過去のものにする可能性がある。
現在、大容量HDDが担っている用途は、以下のようなものが挙げられるが、これをSSDにすることでどうなるか、主なメリットを挙げてみた。
【現在、大容量HDDが担っている用途の例】
●高画素のデジタル一眼カメラで撮影したRAWファイルの保管
【SSD化の主なメリット】XQDやCFastなどの高速メモリカードからの転送の高速化、プレビューや編集の高速化、一時作業用ストレージと保管ストレージの一元化など
●動画編集時の素材置き場
【SSD化の主なメリット】高速メモリカードからの転送の高速化、編集の高速化、一時作業用ストレージと保管ストレージの一元化など
●大容量ゲームのインストール先
【SSD化の主なメリット】ゲームの起動やシーンチェンジの高速化、ゲーム本数が増えてもストレージ残量を気にせずに済むなど
そもそもの話として「ストレージの速度が速すぎて困る」ということはまずない。データ用ストレージでも高速にアクセスできればPCのレスポンスは向上するし、読み書きが同時に発生してもHDDほど大きくパフォーマンスが低下しなくなる。
また、SSDは、磁気ディスクを高速に回転させるHDDと違ってメカニカルな稼働部を持たず、耐衝撃性や静粛性も有利だ。これらの特性は、持ち運びを前提とするノートPCや、PCの動作音を抑えたい映像・音楽鑑賞用PCに適しているが、こうした用途でも「安価なテラバイト級SSD」の登場は朗報だ。
さらに、最近話題のVR向けPCでは、VR機材設置の都合上、PCの設置場所を室内で移動させたり、場合によってはプレイ場所まで持ち運ぶ、といったことが起こりえる。「電源を入れたまま持ち運ぶ」といったことをしない限り、HDDでも問題ないが、仕組み上、SSDのほうがより安心なのは言うまでも無い。
【Crucial MX300シリーズはどのようなSSDか】
さて、自作例を紹介する前に、今回利用するSSD「Crucial MX300 SSD」を軽く紹介しておきたい。
このSSDは、Micronが開発した3D TLC NANDメモリを採用したSSD。インターフェースにはSATA 6Gbps、フォームファクターは「2.5インチ(7mm厚)」と「M.2(2280)」の2種類。容量ラインナップは、2.5インチSSDが275GB~2TB、M.2 SSDは275~1TB。当連載で主に取り上げるのは、1TBの容量を実現した2.5インチSSD「CT1050MX300SSD1」で、実売価格はおおよそ28,300円ほど。1GBあたりの価格は約27円だ。
最近はTLCを使用したSSDも一般的となり、特に大容量品では価格の安さと容量を両立させる鍵になっているが、それでも「パフォーマンスが不安」という人がいるかもしれない。
MX300 SSDではこのTLCの特性に対して、メモリ領域の一部をSLCキャッシュとして活用する「Dynamic Write Acceleration」を全モデルでサポートすることでパフォーマンスの低下がないよう、フォローしている。実際、CT1050MX300SSD1でベンチマークテストを実行してみると、大容量のテストデータを転送しても極端な速度低下は見られず、安定して高いパフォーマンスを発揮していることが確認できる。
「テラバイトSSD時代」のキホンPCを作ってみたサイズは小さく、でもメンテナンスも軽視せず
さて、今回1TB SSDの活用例として紹介するのは、Mini-ITXフォームファクターを活用した万能仕様のPCだ。
「SSD 1台で済む(=HDD不要)」ということは、HDDの設置場所が不要、ということであり、電源の負担やエアフローの点でも楽になる。「SSDを活かして小型化」というのはわかりやすいコンセプトと言えるだろう。
パーツ構成としても、特定目的に突き詰めず、これまでの標準的な高性能PCを「SSD 1台で済ますことができる」ことを活かして小型化する、ことをコンセプトとした。パフォーマンス面でも、最新パーツをバランスよく搭載、どんな用途でも安定したパフォーマンスを発揮できるのが目標だ。フォームファクターにMini-ITXを採用したのは、「旧来のミドルタワー型ケースよりもコンパクトにまとめる」のが狙いだが、メンテナンス性も十分に維持したい。
今回構築したPCのパーツ構成は以下の通り。コストパフォーマンスに優れたCPUとGPUをベースとし、ストレージは1台の1TB SSDに集約した。
組みあがったPCのパフォーマンスも、そのコンセプトにそったもの。Intelのメインストリーム向けCPU最上位であるIntel Core i7-6700Kはシングル・マルチスレッド性能ともに優れ、GPUにRadeon RX 470を搭載したことで、人気のFPSゲームタイトルであるOVERWATCHであれば60fps以上のフレームレートで快適にプレイ可能な実力を持つ。
GPUのRadeon RX 470は、Adobe Photshopのようなクリエイター向けアプリケーションでも有効に機能し、回転ビューツールや拡大縮小で引っかかりのない滑らかな動作が可能となり、ピクセルグリッド表示が可能となる。
より日常的な場面としては、Youtubeなどにアップされた4Kかつ60fpsの高画質動画である「2160p60」も滑らかに再生できた。これからの高解像度コンテンツにも余裕をもって対応できる実力を持ったPCと言えるだろう。
最新のマザーボードと高速な1TB SSDの組み合わせはシステムの起動を高速化しており、再起動であれば18秒ほど、電源を完全に遮断した状態からの起動で30秒あればOSが立ち上がる。この起動時間の大部分はマザーボードのUEFIが起動するまでの時間であり、OSの読み込みに入ってからデスクトップ画面が表示されるまでの時間は2~3秒だ。
また、ストレージを1台にまとめたシンプルな構成も手伝って、アイドル時の消費電力は36W、ピークでも212Wという数値に収まった。パフォーマンスを考えれば電力効率の高いPCであると言えるだろう。
概観的には、ハイパフォーマンスなPCをそのまま小型化、メンテナンス性や拡張性もしっかり確保できている(ドライブベイにも空きがある)。「SSDオンリーで作る小型PC」の基本的な作例になったのではないかと考えている。
この作例はMini-ITXとしては大きめだが、その分メンテナンス性も良い。「小型PCにリプレースしてみたら、メンテナンスしにくくて閉口した」といったこともないだろう。
これをベースに極限までサイズを小型化したり、さらなる性能を求めてRadeon RX 480やGeForce GTX 1070/1080などの上級GPUや作業用SSDを追加する、といった方向で考えてみるのももちろんアリ。「1TB SSD」が手頃になったことで、様々な可能性が出てきたことを感じてもらえば幸いだ。
SSDは「テラバイト時代」に
というわけで、価格が安くなったテラバイト級SSDの基本的な活用法と、それを活かしたベーシックな小型PCを紹介してみた。
SSDは「速度は速いけど、容量が……」といっていた時代が長かったが、そうした時代も徐々に変化しつつある。また、今回製作したPCは、特定用途に特化した仕様ではないが、ストレージを1TB SSDに一本化することでシンプルな構成にしたイマドキのPCだ。「もう十分“買える価格”になってきた1TBや2TBのSSDをいかに活かすか」、それを考える参考にしてもらえば幸いだ。
[制作協力:Crucial]