用途とカラーで選ぶHDD再入門

安定性と耐久性ならNAS用HDD、人気の「WD Red」の特性を調べてみた

標準モデル「WD Blue」と何が違うのか? text by 石川ひさよし

 Western DigitalのWD RedはNAS用をうたうHDDだ。

 自宅内にPCが、そしてスマートフォンやタブレットなど複数の情報端末が混在する現在、家庭内LANも普及しており、データの共有やバックアップにNASを活用する機会が増えている。そのNASのために専用設計されたHDDだ。

 では、「どこがNASのためなのか?」というと一見しただけではわかりにくい。外観だけなら、同容量のWD Blueと似ているこの「NAS用HDD」、一体なにがどう違うのか、今回はそこにフォーカスして、レビューしてみたい。

「NAS向け」の高耐久、かつ保証が長い「WD Red」

 それでは、同社のスタンダードなHDDであるデスクトップ向けHDD「WD Blue」と「WD Red」、まずスペック表から比較してみたい。

 まず、両製品が異なるのは3箇所、具体的には(1)ロード/アンロードサイクル、(2)環境温度:動作時、(3)製品保証期間だ。一方、回転数やキャッシュ容量、データ転送レートなど、パフォーマンスに関わるところはまったく同等、そして消費電力に関する部分も数値上同じ。耐衝撃性と動作音も変わりない。

 さて、違いの筆頭である「ロード/アンロードサイクル」だが、まずロード/アンロードという言葉自体は、HDDの記録ディスクが回転を停止した際にヘッドが記録ディスク外の領域に待避する方式を指す。ロード/アンロードサイクルはこの回数を示すものだ。この数値が、WD Redでは「600,000回」で、WD Blueの2倍。耐久性として2倍の数字ということになる。

 次は(2)の環境温度を見ておこう。WD Redは0~65℃、WD Blueは0~60℃と、WD Redのほうが上限が5℃高い。HDDが搭載される環境で比較すると、WD BlueがターゲットするPCよりもWD RedがターゲットとするNASのほうが筐体サイズが小さく、HDDの実装密度もNASのほうが高い傾向にある。それだけ内部に熱がこもりやすいわけだ。また、PCは一人のユーザーが作業するのに対し、NASは複数ユーザーが同時にアクセスすることもある。この点でNASのほうが瞬間的に高温が生じやすいとも言える。

「WD Red」の保証期間は3年と通常タイプのHDD「WD Blue」よりも保証が1年長い。

 そして最後に製品保証期間。製品保証期間は、WD Redが3年、WD Blueが2年でWD Redが1年長い。これは、上記のように耐久性を高めた結果、保証できる期間も長くできた、ということだろう。

 なお、「NAS用」とされるWD Redだが、HDDはHDDであって、PCに繋げて普通にHDDとして使うのももちろん問題無い。PCパーツショップで確認しても、「WD Redを、PC用として購入する人も多い」という。これは、ここまで見てきたようなWD Redの耐久性をPCで活用したいというニーズからだ。つまり、NASのように24時間365日運用する自宅サーバPCや、熱がこもりやすい小型PC、NASではないが複数台のHDDを高密度に搭載するPCなどなら、WD Redの特徴が活かせるわけである。

HDDの特性は「ファームウェア」で決まるWD Redは低発熱動作にチューニング

NAS向けにチューニングされたファームウェア「NASware 3.0」
WD Redは低発熱動作も特徴

 さて、こうした製品特性を生じさせている要因は、主にファームウェアである。

 もちろん、WD BlackやWD Goldのように回転数から異なるモデルではハードウェアにも違いがあるものの、WD BlueやWD Redのように、スペックも大きく変わらないモデル間となると、ファームウェアがその特性を決める。

 HDDのファームウェアにおいて、厳密にどこが異なるのかという点は、おおまかな機能のほかはほとんど公開されていない。しかし、今回の企画にあたりWestern Digitalにお話を聞く機会を得、そこでいくつかお聞きすることができた。

 同社技術スタッフによると、ファームウェアが制御するポイントの一つはアクチュエーターだという。アクチュエーターは、HDD内においてディスクからデータを読み書きするヘッドの動きを制御するものだ。例えば、性能を求める製品であれば、ヘッドを素早く動かしはじめ、素早く止める、そうでない製品であれば、ゆっくり動かしはじめ、ゆっくり止める。なぜなら、急激な動作は熱を生じさせるからだ。

 ハイエンドPC向けHDDやエンタープライズ向けHDDでは、十分な冷却が行われる前提で、発熱が起きても速度を重視するが、NAS向けHDDではネットワーク側にボトルネックがあるため「HDD本体の性能はそこまで求められず、一方でPCよりも熱を抑えたい」ということになる。

 ……ということで、ヘッドの急速な速度変化を抑える方向でチューニングされているという。WD Redでは、「NASware 3.0」として、こうした専用のファームウェアチューニングを施している。

 また、ファームウェア以外の「NAS向け」設計として、振動対策も挙げられている。WD Redにおける振動対策のキモは「3D Active Balance Plus」と呼ばれるHDD1台ごとの個別調整だ。

 HDDのプラッタは、精密にバランスが取れていない状態で高速回転させると大きな振動が発生してしまうが、これを的確に補正するのが「3D Active Balance Plus」技術。一般的にはデュアルプレーンバランスとも呼ばれており、工場の生産工程でHDD1台ずつディスクスタックを組上げた状態でモーターを回転させ、回転軸に対して3次元方向 及びバランスリングで補正を実施、HDDから発生する振動を最小限に調整するものという。こうした微調整により、振動やノイズを抑え、データの読み書きに影響を与えないようにできるとされる。

 RAIDでの検証・最適化という点では、まずNASボックスメーカーの互換性検証が大きいほか、もうひとつとしてタイムアウトの設定がデスクトップ向けHDDと大きく異なるという。

 データの読み出し時、何らかのエラーで読み出し不具合が出たとする。HDDの基本としては、「こうした場合、あらゆる手段を使ってデータを読み出せるよう努力する」(同社)そうで、正しく読めるまでしつこくリトライするHDD動作を見たことのある読者もいるだろう。

 しかし、複数ユーザーも想定されるRAID環境では、こうした動作を長時間するとNASシステムが応答しなくなってしまうし、そもそも「データの安全性を確保する」のはRAID側の役割である。そこで、「NAS向けHDD」ではリトライ回数を抑え早めにタイムアウトし、素早くデータを返すことを優先するという。

WD Redをベンチマークで検証速度より低発熱に振った仕様

 ではWD Redのパフォーマンスを見ていきたい。

 今回は、PCに接続した場合と、NASに搭載した場合の2つの検証環境を用意した。メインに取り上げるのは6TBモデル「WD60EFRX」のパフォーマンスだ。

 まずは同容量で通常タイプのHDDと比較をしてみよう。比較に用いたのはWD Blueの6TBモデル「WD60EZRZ」だ。

CrystalDiskMark 5.1.2 x64のスコア(データサイズ1GiB)
CrystalDiskMark 5.1.2 x64のスコア(データサイズ32GiB)

 PC接続時のCrystalDiskMark 5.1.2 x64のスコア(5回計測時の平均値)を見ると、データサイズが1GiB時も32GiB時も、WD Blueのほうがやや高速という結果になった。

 キャッシュに収まってしまう50MiB時はどちらも転送速度がバラつくので省いているが、キャッシュをあふれる1GiB時と32GiB時のスコアには大きなバラつきは見られないため、この差は確かなものと見ることができる。外観は同じ、仕様上では性能も同じ製品だが、細かなところでは違いがあるようだ。

 次にNASに接続した際のスコアを見てみよう。NASはSynologyの2ベイNAS「DS216+II」を利用している。

NAS搭載時のCrystalDiskMark 5.1.2 x64のスコア(データサイズ1GiB)
NAS搭載時のCrystalDiskMark 5.1.2 x64のスコア(データサイズ32GiB)

 こちらはPC接続時と異なり、1GiB時も32GiB時も両者ほとんど変わらない結果となった。とくに、シーケンシャルリード/ライトはネットワーク帯域側にボトルネックが生じているようだ。そうなると4K時のパフォーマンスが重要なのだが、こちらも大差がない。

 NAS搭載時のデータはつまり、NAS側のパフォーマンスに引きずられているわけだが、これこそNAS用HDDのポイントだ。要はNAS用HDDに求められるのはパフォーマンスではなく安定性や耐久性なのである。

発熱は「安定性」がポイント?
SynologyのNASはユーティリティ上から搭載ストレージの温度を確認することができる。

 では発熱などの点で両者に差は出るのだろうか。温度比較は、NAS搭載時とPC接続時で計測した。

 まず、NAS接続時だが、CrystalDiskMarkを1回実行、その後1時間アイドルさせて温度を安定化。さらにその後、別のNASからNASへのファイルコピーを2時間行った際の温度を計測した。温度はNAS上のユーティリティ画面から確認した。

 スタート時の温度はWD Red、WD Blueともに34℃。そして2時間後、WD Redは34℃、WD Blueは35℃となった。24時間駆動を前提に冷却が十分行われているNASだが、とりあえず1℃の差が出た、という状況だ。

PC接続時のWD RedとWD Blueの温度変化

 さて、PC接続時の測定だが、バラックではなく、実環境を想定してPCケースを利用。計測のためのHDDは5インチベイ用リムーバブルベイ(ファン非搭載)に装着している。ガイドとなるフレームには金属があるが、放熱効果を持つものはそれだけだ。計測方法は先と同様にCrystalDiskMark実行から1時間のアイドルをとった後、NASからのファイルコピーを2時間行っている。また、温度計測はOpenHardwareMonitorから5秒毎のログをとっている。

 PC接続時の温度は、スタート時でWD Redが44℃、WD Blueが41℃と、WD Blueのほうが低かったが、コピー開始から温度が上昇、WD Redは45℃のままだったが、WD Blueは46℃に上昇した。結局こちらも1℃の差でしかないが、温度上昇の傾向を見ると、どうもWD Redのほうがゆるやかな印象だ。

動作音も静か

 ちなみに、「NAS向け」で気になる動作音だが、WD Redシリーズは「NAS向け」として特に静音性に配慮されているとされている。そもそも最近のHDDは以前と比べてかなり静かだが、実際、今回試した「WD60EFRX」ももちろん静かだった。

 NASに入れた際はもちろん、検証台のようにケースに収めない状態でも、まずモーターのスピンアップ音は分からないレベル。アクセス時のシーク音は聞こえるにしても、「かすかに」という表現が妥当なくらい静かだった。おそらく現行HDDのなかでもトップクラスの静かさと言える。

 PCケースに収めれば、ほとんど音が漏れ聞こえることはないだろうし、NASの場合でも、(複数台搭載することで多少音が大きくなる可能性があるものの)「冷却ファンの音とどちらが大きいか」というレベル。どちらにせよ、静かなHDDを選ぶことは、リビングやプライベートルームにNASを設置する際の大きなポイントになる。また、最近ではHDDをバックアップ媒体代わりに使うこともある。そのような用途ではスタンド型のHDDをむき出しのまま装着するSATA→USB変換アダプタなどを用いることも多いが、こうした防音対策のない機器で用いても、音に悩まされることはほぼないだろう。


 最後にWD Redの8TBモデル「WD80EFZX」の速度を紹介しておこう。

 WD Red 8TBモデルは、ヘリウム充填技術を用い、キャッシュ容量を6TB未満のモデルから倍増させたモデルだ。仕様的な面で他の容量のWD Redとは異なる製品といえる。また、WD Blueには8TB(ヘリウム充填)モデルが存在しないため、メインの検証からは外した。

 CrystalDiskMarkでの速度だが、WD Redの6TBモデルよりも高速。ちなみに、この結果はWD Blue 6TBモデルよりも高い。グラフにはしていないが、アクセスタイムはリード時が16ms、ライト時が10.6msで、こちらもWD Red/Blueの6TBよりも高性能となっている。

 現在のHDDでは、全容量が同一の技術で製造されているわけではない。より大容量のモデルほど、最新の技術を用いており、さらに言えば、容量に対してキャッシュの容量も増えていく。同一シリーズ内でパフォーマンスを求めるのならば、容量がひとつの目安となる場合もある。また、ハイエンドデスクトップ向けHDDやエンタープライズ向けHDDなど、7,200rpmでパフォーマンス志向のモデルでは、5,400rpmモデルよりも小さい容量モデルからキャッシュが増える。単純にパフォーマンスを求めるのならば、こちらを選ぶほうがよいだろう。

【コラム】NAS用のなかでも大企業向けにはWD Red Pro、さらに録画PCに適したWD AV-GPなどニッチな製品にも注目!

WD Red Pro

 WD RedがNAS用途でサポートしているのは8ベイまでだ。家庭から中小企業までの用途に向けたNASはおおむねこのベイ数で足りる。

 一方、8ベイ以上に向けた製品としてはWD Red Proが用意されている。こちらは最大16ベイまでサポートしており、いわゆるラックマウント形状のファイルサーバなどにも対応できる設計だ。スペックの違いとしては、よりパフォーマンスを重視した7,200rpm(クラス)で、キャッシュも4TB以上のモデルで128MBに増量され、転送速度も6TBクラスでは200MB/s超となっている。

 製品保証も5年に延長され、非動作時の耐衝撃性は300Gsへと強化されている。なお、動作時の環境温度は5~60℃とむしろ範囲が狭くなっている。これは、WD Red Proが想定する利用シーンがあくまでもプロが扱うもので、冷却対策も十分に施されているという前提であるためだろう。

WD AV-GP

 また、WD Redの高耐久性から、録画PCに用いる方が多いと聞くが、Western Digitalに聞くところでは、WD RedよりもWD AV-GPのほうが適しているとのことだった。

 WD AV-GPは、いわゆるHDDレコーダーのように本来組み込み向けのHDDだ。スペックで見ると、ロード/アンロードサイクルはWD Blueと同様の300,000だが、保証期間はWD Redと同じ3年、動作時の環境温度はWD Redよりもさらに上限が高い0~70℃となっている。

 Western DigitalのHDDは、このように様々な分野に向けた製品が、PC-DIY市場でも購入できる。PC自体はソフトウェアとハードウェアの組み合わせによって1台で様々な用途に対応できるものだが、あえて特定の用途に絞り込み、その用途に適したハードウェアを組み合わせることで、長期安定性という点を狙ってみてはいかがだろうか。

【コラム】「NASでHDDを確実に使いたい」ならNASメーカーの互換性リストの確認を

Sunologyのサイトに公開されている、同社製NAS(DS216j)の対応HDDリストの一部

 こうしたNAS向けHDDだが、「NAS用HDD」として安心できるもう一つの理由がある。

 大手のNASメーカーでは、HDDの新製品が出るたびに、NAS製品との互換性レポートを自社のサポートページに掲載しているが、この互換性検証が優先的に行われるのがNAS向けHDDだ。

 一般的な傾向としては、NAS向けHDD、エンタープライズ向けHDD、そしてサーベイランス(監視カメラ)向けHDDが優先され、デスクトップ向けHDDがリストに掲載されたとしてもハイエンドデスクトップ向けHDDなどごく一部のモデルに限られる。

 また、HDD搭載済みのNASを販売するメーカーでも、とりわけ信頼性を訴求するモデルでは、「WD Red採用」をうたうモデルがある(なお、AV向けNASでは同様に高信頼のAV向けHDDを搭載している例もある)。この点、うがった見かたをすれば、コスト重視で搭載HDDに何の表記もされていないモデルには、デスクトップ向けHDDが採用されている可能性が高いと見ることもできる。

NAS向けHDDという特性を再確認安定性や耐久性を求めるユーザーに

 以上、WD Redの「NAS向けチューニング」を見てきた。

 デスクトップ向けHDDであるWD Blueと比較すると、同じパフォーマンスレンジではあるものの、わずかにパフォーマンスが低く出る傾向だ。しかし、温度上昇は微妙に少ない傾向で、やはり安定性や耐久性に振った仕様であることがわかる。

 そうした仕様、そして構造などの結果として、WD Redは24時間365日の動作を保証している製品だ。保証期間も3年と長く、特に「データをしっかり保存したい」というニーズにはピッタリはまる製品といえる。

 また、現在、8TBといった大容量品があるのもポイントだ。WD Redは「データ保存」を重視したモデルとして、これまでも大容量品が積極的に投入されてきた。現在、ヘリウム充填を使ったWD Goldでは10TBモデルもラインナップされているが、例えばWD BlueやWD Blackのような製品では6TBまでのモデルしか発売されておらず、今後も大容量モデルが比較的早期に投入されると思われる。

 特に高い信頼性と安定性、容量で選ぶHDD、それがWD Redと言えるだろう。

[制作協力:Western Digital]