パワレポ連動企画

GPU冷却でビデオカードの性能をフルに引き出す

【冷却まわりの新鉄則、教えます(10)】

DOS/V POWER REPORT 9月号

 このコーナーでは、こだわりの自作PC専門誌「DOS/V POWER REPORT」の最新号と連動、同誌9月号の特集記事「冷却周まわりの新たな鉄則、教えます~冷却・静音、これが答えだ!~」をほぼまるごと掲載する。

 第十回目の今回は、ビデオカードの性能をフルに引き出すための冷却・静音チューニング術を紹介する。

 なお、この特集が掲載されているDOS/V POWER REPORT 9月号は絶賛発売中。9月号では今回の特集のほか、USBバスパワーで動作する冷却グッズや薄型CPUクーラーの紹介、6TBクラスの大容量HDD特集、髙橋敏也の改造バカ一台など、多数の記事が載っている。また、100個の自作PC問題を載せた「PC自作力 2014年度夏期試験」が小冊子として付いてくるなど、盛りだくさんの内容だ。


- DOS/V POWER REPORT 2014年9月号 Special Edition -


GPU冷却を追求し、ビデオカードの能力をフルに引き出す!

 ビデオカードはCPU以上の熱や騒音の発生源で、冷却を軽視すると性能が低下する。ここではゲーミングPCのビデオカードの冷却・静音チューニング術を紹介する。

テストマシンのポイントとなる各パーツ

 今回の特集の第三回で解説したとおり、GeForce系の安価なビデオカードがフルパワーを出せるのは負荷がかかり始めてから数分程度で、それ以降はクロックが若干落ちたり短時間で上下に変動したりする場合がある。独自設計モデルにはクロックが変動しないものもあるが、そうした製品は同じGPUでもやや割高だ。そこでここでは下の構成で作ったゲーミングPCをベースに、安価なビデオカードのクロックを下げずに運用するにはどうすればよいかを試行錯誤してみたい。

カテゴリー製品名実売価格
CPUIntel Core i5-4690K(3.5GHz)26,000円前後
マザーボードMSI Z97 GAMING 5(Intel Z97)23,000円前後
メモリUMAX Cetus DCDDR3-8GB-1600(PC3-12800 DDR3 SDRAM 4GB×2)9,000円前後
ビデオカード玄人志向 GF-GTX760-E2GHD/OC/SHORT26,000円前後
SSDMicron Crucial MX100 CT512MX100SSD1(Serial ATA 3.0、MLC、512GB)25,000円前後
HDDWestern Digital WD Green 3TB WD30EZRX-1TBP(Serial ATA 3.0、5,400rpm、3TB)10,000円前後
PCケースCorsair Components Obsidian 750D Full Tower ATX Case18,000円前後
電源ユニットCooler Master Technology V550 Semi-Modular(550W、80PLUS Gold)14,000円前後
CPUクーラーThermalright TRUE Spirit 120M Rev.A4,000円前後
今回選んだビデオカード「玄人志向 GF-GTX760-E2GHD/OC/SHORT」

 ビデオカードに安めの製品を選んだことから、そのほかのパーツ構成もスタンダードなものを中心とした。CPUはゲームに最適なCore i5、SSDは低価格&大容量で売れ筋のものを選択した。

今回選んだPCケース「CORSAIR Obsidian 750D」
今回選んだCPUクーラー「Thermalright TRUE Spirit 120M Rev.A」

 ただ、PCケースの選定については多いに悩んだ。左サイドにファンマウンタがあり、ビデオカードの真横から風を吹き付けられるタイプを選べば、ビデオカードの冷却は至極簡単だが、当たり前過ぎておもしろくない。そもそも最近のゲーマー向けPCケースは中を見せることにこだわっているため、サイドはアクリルウィンドウ化され、ファンマウンタを持たないものが増えている。ならばその主流に乗っかりつつ、ビデオカードの冷却は強化できるのか?というお題を立ててパーツを選択してみた。ちなみに、性能面に影響はないが、マザーとメモリはケースのブラックに映えるレッドをアクセントにしたデザインのものを選んでいる。

 それでは、実際に稼働させた試行錯誤の過程を紹介しよう。

標準構成でGPU Boostが何分持つかチェックする

 上で紹介したパーツの組み込み自体はとくに難しい部分はない。ケースの裏配線スペースを有効活用し、ケース表側に極力ケーブルを出さないようにすることで、内部のエアフローをスムースにすることを心掛ければ、ベストの状態で組み上がる。

各パーツをPCケースに組み込んだ状態

 ここでのテストについては、あくまで実ゲームプレイ時の挙動にこだわった(OCCTを使った負荷だとKepler世代のGPUは一瞬でクロックが低下してしまうためでもある)。そこで高負荷時の温度や騒音は最高画質に設定した「トゥームレイダー」のベンチマークモードを動かしたままで30分放置した時点で計測。温度は「HWiNFO64」、動作音は騒音計「testo AR-815」をケース正面から30cmの位置に設置して測定している。

動作音、各部の温度、GPU Boostの動作状況

 テスト中のCPU占有率は35%前後で50℃台半ばを上下するのに対し、GPUの負荷はほぼ100%に張り付くため、開始2分半を待たずに80℃に到達する。そのためかテスト開始からわずか3分20秒辺りでGPUのクロックは1,162.7MHzから1,136MHzに降下し、その後も徐々に低下。製品スペック上のブーストクロック(1,084MHz)は維持しているので問題のない挙動と言えるが、これを冷却の強化でなんとか上限張り付きにしたい。

 また、ケースには14cm角ファンが前面に2基、背面に1基装着済みで、天面と底面に2基ずつ増設が可能。ただ、底面ファンの追加にはシャドーベイを外す必要がある上、ダストフィルタがないためホコリ対策の手間も増える。手軽なのは天板側だろう。

3DMarkとトゥームレイダーのベンチマークスコア

 これらを念頭に、まずは定石のファンのチューニングから冷却強化に挑んでみたい。

ファンのチューニングで冷却性能の改善を図る

 GPU Boostの効果が低下する原因はさまざまだが、普通のゲーム環境ではGPUの発熱量の上限が一定ラインを越えたときがそのタイミング。ノーマル状態でのテストでは、GPU温度が80~82℃のラインで上下する状態が1分程度続いた後クロックが落ち始めたので、温度リミット到達で即クロック低下とはならないようだが、冷却強化以外に手軽に低リスクでチューニングできる手法はない。

【ファン増設は定番だが……】
ファンの増設はもっとも簡単で効果的な冷却強化手法だが、静音性が犠牲になりがち。しかも取り付け場所や方向を間違えれば、効果がないだけで終わってしまうこともある
【ファン回転数の調整は手軽で有効】
ファンの増設は費用がかかるが、すでにあるファンの回転数を調整するならマザーやビデオカード付属のツールを使えば無料でできる

 冷却強化の手法としては、まずはファンの回転数の調整があるが、今回使用したObsidian 750Dには追加で天板/底面ファンを追加できる余地がある。しかし、ファンノイズ増加により静音性が損なわれるのは極力避けたい。

 そこで「クロックはブースト時最高クロック1,162.7MHzからブレないこと」、「ファンノイズはノーマル状態と同等、可能ならば静音化」を目標に冷却設計を模索することにしたい。

ビデオカードのチューニングにはどんなツールを使う?

 今回のようなビデオカードの冷却力調整には、GPU用のOCツールをまず準備しよう。こうしたツールに内蔵されているファンの回転数調整機能を使うのが一番確実だ。ビデオカード用OCツールは大手メーカーなら自社製のものがある場合が多い(Radeonはドライバ内にOC機能がある)が、設定項目の細かさと分かりやすさ、さらにビデオカードメーカーを問わず使えるため多数のユーザーに愛されているツールがある。それがMSIが配布している「Afterburner」と、EVGAの「Precision X」だ。

 両者はGPUチューニングツール「RivaTuner」がベースになっており、UIの設計や使い勝手はやや違えど、GPUのOCやファンの回転数調整など、ビデオカードチューニングに必要な要素は網羅している。

 さらにこのツールをインストールすると「RTSS(RivaTuner Statistics Server)」というヘルパーツールも同時にインストールされる。このツールと「HWiNFO64」を同時に起動させておくと、HWiNFO64の監視するデータをゲーム画面上にオーバーレイ表示が可能になる。CPUやGPUの温度やクロックなど、必要な情報を表示させ、ゲーム中における温度などの挙動を把握できるのだ。RTSSを終了させればオーバーレイ表示も消えるので、調査したいときだけ起動すればよい。

ビデオカードの性能を引き出す
ゲーム画面上にオーバーレイ表示

GPUファンの回転数増加で第1の目的は達成したが……

 最初にとりかかるのは今あるファンの回転数アップだ。GPUの冷えとクロックの安定で得られるリターンがファンノイズ増大のデメリットを上回っていればよい。

GPUファン設定
ファン回転数アップ後の動作音/各部の温度/GPU Boostの動作状況

 マシンを組んだ直後の状態で高負荷時のファン回転数の上限値をHWiNFO64+RTSSの合わせ技でチェックすると、GPUファンは負荷開始5分後、80℃以上で最高76%(2,550rpm)まで上がっていた。

 そこでAfterburnerを使い、70℃で90%まで上がるように設定。低発熱時の回転数を変更しないでおけば、アイドル時の静音性は維持される。この条件で試したのが右の結果。GPUの温度は79℃前後を上下するようになり、クロックは見事1,162.7MHzに固定された。しかし一方で、ファンの回転数は実測で94%(3,210rpm)となったため、ファンの風切り音が耳に付くマシンになってしまった。クロック固定という目的は達したものの、静音性確保という観点では失敗と考えたい。

GPUファンの回転数増加後の3DMarkの結果
GPUファンの回転数増加後のトゥームレイダー ベンチマークの結果

天板へのファン増設はビデオカード冷却に効くのか

【天板にファン増設可能】
Obisidan 750Dは、側面へのファン増設はできないものの、天板と底面への増設が可能。ビデオカードに直接風を当てることはできないが、ある程度の効果が見られた

 次はファン増設による冷却効果をチェックする。上記でも触れたとおり、ケースの天板には3基のファン取り付け穴があるが、このうち1基にCorsairのAF140 Quiet Editionを装着してテストした。効果の差を見るために、GPUおよびケースファンの回転数設定はデフォルトに戻して実験している。

ファン増設後の動作音/各部の温度/GPU Boostの動作状況
【サイドファン増設が一番楽か】
手軽さの面で言えば、ビデオカードの真横にファンを増設できるケースが一番簡単。しかし大型カードとの干渉やファンノイズの増大、さらにケースを開ける際電源ケーブルに負担をかけるなど、デメリットもある

 結論から言えば、天板ケースファンの増設によるGPUへの影響は確かにあった。GPUの温度低下は数値的には1℃だが、ノーマル状態よりもGPUのクロックの安定度は高かった。だが、残念ながらクロック完全固定にはいたらなかった。ただ一度クロックが落ちはじめたら落ちっぱなしではなく、しばらく経つとまた1,162.7MHzに上がるという動作になる。またファンの増加により、体感的にはわずかだが明らかに“ファンが回ってる感”が増した。ビデオカードにも効果はあるが、天板ファンはやはりCPU付近の熱気を飛ばすもの、と考えたほうがよさそうだ。

水冷キットを使ってGPU冷却を追い込む!

 GPUファン回転数の引き上げやファン増設で目標はかなりの部分まで達成できたが、静音性が損なわれるという問題は解決していない。またファンをフル回転近くまで回してもGPU温度は80℃近辺より下がらない。ヒートシンクが小さいので設計どおりと言えるのだが、暑い夏を迎えるにあたり、もっとGPU温度は下げておきたい。

 そこで最終手段として「水冷化」に挑むことにした。ビデオカードの水冷と言えば、チューブからタンクまでバラで組む方式がまだ一般的だが、NZXTのアダプタ「Kraken G10」を使えば、CPU用の簡易水冷キットが利用できる。ビデオカードのクーラーよりヒートシンク部を格段に大きくできるため、静音性向上以上に大幅なGPU温度低下が期待できる。もちろん大幅に温度が下がれば、さらなるOCも可能になるので、パフォーマンス面でも非常におもしろいパーツだ。

 ただKraken G10に適合する水冷クーラーはポンプ部に歯車状の突起があるタイプのみなので、購入時には簡易水冷キットとの対応を慎重に見きわめよう。

ビデオカード水冷化パーツ「NZXT Kraken G10」
CPU用簡易水冷キットをビデオカードで利用できるようにするアダプタ。9cm角ファンを1基固定できるが、これは全長20cm超クラスのカードのVR部を冷やすためのもの。実売価格は5,000円前後
標準のクーラーを慎重に取り外そう
今回使用したビデオカードはネジ6本で簡単にクーラーが外れる。GPU表面のシリコングリスを除去してから良質なグリスを塗っておこう。今回はARCTIC COOLINGのMX-4を使用した
簡易水冷キットと組み合わせて利用
今回は12cm角タイプでかつKraken G10で使用できる形状の水冷ヘッドを持つキットが入手できなかったため、人気の大型ラジエータ使用モデル、Corsair ComponentsのH110を使った
Kraken G10が使えるビデオカード・使えないビデオカード

ケースファン撤去は必須だが冷却&静音性は格段に向上

 ビデオカードへのH110の組み付けはさほど難しくないが、ケースへの組み込みに少々手こずる場面があった。H110は14cm角ファンを2基使用するため、底面のスペースは使えない。天板への設置となるが、標準搭載の背面ケースファンとラジエータ基部やパイプが干渉するので、ケースファンは撤去した。

Kraken G10をケースに装着
Kraken G10装着後の動作音/各部の温度/GPU Boostの動作状況

 こうした苦労のかいあって、高負荷時でも温度は50℃台前半、もちろんGPUクロックも1,162.7MHzでずっと安定する。さらにGPUコアを定格+150MHzにOCした場合でも安定動作(最大クロックは1,306.5MHz)。冷却強化でマージンが増え、静かでより高性能なマシンに仕上がったのだ。

 水冷化後の静音性も格段に向上した。ポンプ由来のノイズは出るものの、ノーマル状態のファンノイズほど気にならない。

 しかし、この手法の問題点は手間よりもコストだ。今回のプランに必要な費用は約2万円。手持ちのビデオカードの強化ならまだしも、これから新たにビデオカードを買うのであれば、MSIのN760GTX Twin Frozr 4S OCなどのような標準で静か、かつクロックが落ちないGPUクーラーを装備した製品のほうが安上がりではある。だが高負荷時でも50℃台という領域に到達できるのは水冷しかないのだ。

ビデオカード水冷化後の3DMarkの結果
ビデオカード水冷化後のトゥームレイダー ベンチマークの結果

【まとめ】

●ビデオカードのファン速度を増やすのはGPUクロックの変動を防ぐ手軽な手段だが、静音性が損なわれやすい
●ファン速度増加や天板ファン増設を行なっても、GPU温度は大きく下がらない
●Kraken G10による水冷化は静音性と冷却力の向上において最強だが、設置スペースやコストが考えどころ


【検証環境】

OS:Windows 8.1 Pro 64bit 版、アイドル時:OS起動10分後の値、高負荷時:トゥームレイダーのベンチマークモードを実行、GPUクロックおよび温度計測:HWiNFO64、動作音測定距離:PCケースの正面から約30cm、騒音計:testo AR-815

[Text by 加藤勝明]



DOS/V POWER REPORT 9月号は7月29日(火)発売】

★巻頭特集「冷却周まわりの新たな鉄則、教えます~冷却・静音、これが答えだ!~」はもちろん、USBバスパワーで動作する冷却グッズや薄型CPUクーラーの紹介、6TBクラスの大容量HDD特集、髙橋敏也の改造バカ一台など、多数の記事を掲載

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(AKIBA PC Hotline!編集部)