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「HGSTブランドはあと2年は確実に残る」
QNAPとHGSTが1年ぶりのイベント開催

~ NASの新UIやヘリウム注入HDDの特徴を解説 ~ text by 関根慎一

会場の様子

 QNAPとHGSTは11月7日、両者が取り扱うストレージ製品の紹介イベントを開催した。会場はツクモパソコン本店4F。

 会場にはPCとともにQNAPのホットスワップ対応4ベイ搭載機「TurboNAS TS-453mini」やHGSTの7枚プラッタ採用モデル「Ultrastarシリーズ」の実機が展示されていた。

 TS-453miniでは新OS「QTS 4.2」の試用が可能だったほか、Ultrastarは液体(フロリナート)の中に沈んだ状態で稼動しているデモも実施。密閉性の高さをアピールしている。

 なお、当日のセッションは2回実施されたが、どちらも50人近い来場者が詰めかけ、会場のキャパシティがギリギリになるほどの盛況ぶりだった。

TurboNAS TS-453mini
フロリナートに沈んだ状態でも問題なく動作するUltrastarの密封性をアピールしている

HGSTが語る「HDDにヘリウムガスを封入して得られた効果」

HGST営業本部ストレージソリューション部 部長
山本慎一氏
目次
クラウドストレージ市場が要求する容量の伸びと、従来実現可能だった容量のギャップ
筐体内にヘリウムを注入することで空気抵抗が減り、搭載できるプラッタの枚数を増やすことができる
Ultrastarのカットモデル
7枚のプラッタが確認できる
MTBFが従来よりも100万時間伸びた

 HGST営業本部ストレージソリューション部 部長の山本慎一氏(以下、山本氏)は、Ultrastarに採用されている技術とその効果について解説した。

 筐体内にヘリウムガスを封入する「HelioSeal」や回転振動を抑制する「RVS」(Rotational Vibration Safeguard)をはじめ、製品に新技術を導入した経緯と、その背景となるストレージ市場についても詳しく紹介している。

 HDDの筐体にヘリウムを封入すると、搭載できるプラッタの数が増えることで、HDD1台あたりの容量を増やすことができる。山本氏は、HelioSeal技術が登場した背景には、クラウド市場におけるストレージ容量の要求が増加していると話した。

山本氏「これまでの技術では、クラウドストレージ市場が要求するストレージ容量を十分に満たしているとは言えませんでした。HelioSealは、このギャップを埋めるための方策の1つでした」

山本氏「Ultrastarは7枚プラッタなのですが、普通は7枚も入れると空気の摩擦でディスクを回すのが大変なんですね。でも筐体内にヘリウムガスを注入することで、空気抵抗の値が約7分の1に減るので、プラッタの隙間を詰めても安定してディスクを回せるようになります。この結果、容量を上げながら安定したドライブができあがるというわけです」

 HelioSealによって、容量が約3割増加、消費電力が約23%削減できたほか、空気抵抗の負荷が下がることによって発熱量も低減させることができたという。

山本氏「大体4~5℃くらい下がります。温度は信頼性のファクターとしても振動に並び重要な要素なので、ヘリウム封入の効果は非常に大きかったのです。また、副次的な効果として、回転音も低く抑えられるようになりました。設置環境にもとからあるバックグラウンドノイズと同じくらいです。聞こうとしない限り、聞こえないレベルといえるでしょう」

 熱と振動が抑えられたことで、スペック上ではMTBF(平均故障間隔)が大幅に増加している。現行のUltrastarでは250万時間と記載されているが、従来のUltrastarでは150万時間だった。

"HDDはなぜ壊れるのか?"

HDDが壊れる要因
アーカイブの運用方法として、データを"移住"させていくヤドカリ方式を勧めていた

 山本氏によれば、HDDは全世界で年間5億台売れているという。現在、市場にはおよそ30億台のHDDが回っている状況であり、この状況は今後4~5続くとの見解を明らかにしている。この中で、複数年にまたがって運用する際のMTBFについても言及した。

山本氏「一般的なデータセンター向けHDDのMTBFは100万時間なので、5億台という販売台数に対して時間ベースで考えると、年間500台くらいのHDDが壊れるという計算になります。でも、物理メディアですから、MTBF以外の要素に起因するトラブルも当然あるわけです。初期不良が電子部品の偶発的な故障や劣化系の不良は当社の製造者責任によるところが大きいのですが、一方で流通・ユーザーサイドで生じる故障リスクもありえます。具体的には、PCへの組み込み品質や、流通経路上における扱われ方、使用環境や外的要因による品質変化などです」

 HDDドライブにはモバイル向けやデータセンター向け、アーカイブ向けなど用途別の性格付けがしてあるので、想定されていない使い方をされると故障リスクが高まるのだという。例えば、モバイル向けのHDDをデータセンターで使った場合、想定されていない使い方なので壊れやすくなってしまう。

 製品ごとの用途や特色は製品に表示・記載しており、価格もチューニングや搭載している機能に合わせて変えているが、なかなかその点がユーザーに伝わりにくいのが課題だと話した。

山本氏「ただ、ストレージの交換頻度を増やして運用するという考え方もあるので、一概に悪い使い方とは言えません。"安かろう悪かろう"を承知のうえで使うならば、何の問題もないというのも事実です。現場ではデータベースのリビルド回数が増えて大変だとは思いますが」

HDDの振動が起こすエラーを防ぐRVS

RVSセンサーの動作模式図

 RVSは、回転方向の揺れを検知し、加速度フィードバックコントローラと連動してアクチュエータアームを制御し、振動をキャンセルする仕組み。基板の両端に2つ搭載し、両者の位置の差を取って外部振動を検知する。

山本氏「このクラスのストレージは数台から数十台という規模で並べて運用するケースが多いので、ラックやケース全体が物理的に大きく揺れることがあります。揺れは読取りアームの位置をずらすことがありますので、その場合はディスクの周回待ちが起こります。振動への対策が不十分だとアームの位置ズレが常に起きて、パフォーマンスが数十%落ちていることも起こり得るわけです。NASの場合はこれに気づきにくいのがやっかいですね」

HGSTブランドはまだまだ健在? 今後も強みを活かしていく

 山本氏は最後に、Western Digitalの子会社となっているHGSTブランドの存続についても言及している。

山本氏「これまでは独禁法の関係で別々にオペレーションせよとのお達しがきて、完全に別の会社として動いていました。これが今年の10月19日に統合していいということになったのですが、今度はさらに2年間、別々に販売しろという話になったのです。なので、HGSTブランドはあと2年は確実に残ります。いまのところ、Westarn DigitalよりもHGSTの方がデータセンター向け製品では強いので、今後もうまい具合に残っていくのかなあと思っています」

QNAPはNASの新UI「QTS 4.2」を解説

ユニスター
越沼哲史氏

 QNAPの国内代理店をつとめるユニスターの越沼哲史氏(以下、越沼氏)は、代表的なNAS製品の現行モデルを紹介したほか、QTS 4.2の新機能、新UIについて言及した。

 QTS 4.2では、バックアップ機能やマルチメディア機能の強化、UIの更新、サーチ機能の追加、Onedrive、Googleドライブといったクラウドサービスへの対応などを盛り込む。

越沼氏「QTSはQNAPのすべてのモデルで同じUIが使える点が特徴ではありますが、ベースの部分で大きな変化はありません。NASはベイの数やハードウェア面で性能の違いはあれど、基本的な使い方は同じです。とはいえ、人や環境によって色々な使い方があると思いますので、製品による特色を出すこと、用途によって必要とされる性能も違いますから、それをきちんとわかりやすい形でお伝えすることがこれから大事になってくる思っています」

越沼氏「海外と日本ではコピーコントロールや法制度の関係で機能面での仕様がけっこう違います。海外では使えて日本では使えない機能もあれば、日本ならではの機能もあります。そういった部分を上手いこと調整して、今後もユーザーが使いやすい製品を出していきたいと思います」

UIが刷新された
フラット表示によりメニューの視認性が向上したという
ストレージプールでスナップショットを作成できるようになった点が最も大きなトピックとして挙げていた
仮想化機能によって、Windows、Mac、UNIX、AndroidがNAS上で動作するようになった
新製品として、8ベイ搭載でThunderboltを備えた「TVS-871T」が紹介された
Android OSで動作する「TAS-268」「TAS-168」

会場は満員御礼、セッション終了後には恒例のじゃんけん大会も実施

特価購入チケットをかけたじゃんけん大会も盛り上がった

 HGSTと合同ではあるが、QNAPが一般向けにイベントを行なうのは約1年ぶり。

 じゃんけん大会ではQNAPのミドルレンジNASシリーズ「TS-420-D」、「HS-210-D」、「TS-220」が特価で購入できる限定チケットなどが進呈された。

 参加者がじゃんけんの結果に一喜一憂する中、盛況のままイベントは終了した。

【11月7日 QNAP・HGST製品紹介イベント】