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Core i9-12900Kの性能が出るのはWindows 11とWindows 10どっち?

新旧OSでPコア + EコアCPUに性能差が出るのか調べてみた text by 坂本はじめ

 Intel最新のCPUであるAlder Lake-Sこと第12世代Intel Coreプロセッサーには、PコアとEコアという異なるアーキテクチャのCPUコアを混載した「ハイブリッドCPU」が存在しており、その性能を最大限に引き出せるのはWidnows 11であるとされている。

 ただ、これはWindows 11でしかハイブリッドCPUが使えないという意味ではなく、広く普及しているWindows 10でもAlder Lake-SのハイブリッドCPUを利用することはできる。そうなると気になってくるのが、Windows 11とWindows 10でAlder Lake-SのハイブリッドCPUを使用した場合、どの程度パフォーマンス差がつくのかというところだ。

 そこで今回は、ハイブリッドCPUであるCore i9-12900Kを使って、Windows 11とWindows 10でそれぞれベンチマークテストを実施。OSの違いでハイブリッドCPUのパフォーマンスがどのくらい違ってくるのか確かめてみた。

Pコア + EコアのハイブリッドCPUはOSで性能差が出る?Alder Lake-Sの「Core i9-12900K」で新旧OSをテスト

 テストに用いるCore i9-12900Kは、Alder Lake-S最初期に発売されたCPUの一つで、8コア16スレッドのPコア(Performanceコア/高性能コア)と、8コア8スレッドのEコア(Efficientコア/高効率コア)を備えた、16コア24スレッドのハイブリッドCPUだ。

 Core i9-12900KのようなハイブリッドCPUには、コアの動作を制御する「Intel Thread Director」という機能が搭載されており、この機能がOSと連携することで特性の異なる2種類のコアを効率的に利用できる。Windows 11にはIntel Thread Directorを効果的に利用できる仕組みが導入されているので、Windows 10などのOSよりハイブリッドCPUに適しているという訳だ。

 ともすれば、Alder Lake-SのハイブリッドCPUにWindows 11以外のOSを組み合わせるのは避けるべきであると考えられがちだが、本当にそうなのかを今回のテストによって確かめてみよう。

Alder Lake-SのハイブリッドCPU「Core i9-12900K」。
CPU-Zの実行画面。PコアとEコアを8基ずつ搭載している。

 今回のテストでは、Core i9-12900Kを搭載するマザーボードとして、Intel Z690チップセットを備える「ASUS ROG STRIX Z690-F GAMING WIFI」を用意。

 電力リミットを解放したCore i9-12900Kを十分に冷却できる360mmオールインワン水冷「ASUS ROG RYUJIN II 360」、GeForce RTX 3080 Tiを搭載する「ASUS ROG-STRIX-RTX3080TI-O12G-GAMING」などを組み合わせた、ハイエンド環境で新旧OSでのパフォーマンスを比較する。その他の機材は以下の通り。

Intel Z690マザーボード「ASUS ROG STRIX Z690-F GAMING WIFI」。
360mmオールインワン水冷「ASUS ROG RYUJIN II 360」。
GeForce RTX 3080 Ti搭載ビデオカード「ASUS ROG-STRIX-RTX3080TI-O12G-GAMING」。
DDR5-4800動作の16GBメモリ2枚組「ASUS DDR5 U-DIMM 32GB KIT」。

ベンチマークソフト3種類で新旧OSの性能変化をテスト現状パフォーマンスはほぼ互角?

 まずはベンチマークソフトを利用してWindows 11とWindows 10でCore i9-12900Kのパフォーマンスに差が出るのか確かめてみた。

 今回は「CINEBENCH R23」、「HandBrake」、「Blender Benchmark」の3種類のソフトを使用し検証を行っている。

「CINEBENCH R23」でマルチスレッド性能とシングルスレッド性能を計測

 CPUの3DCGレンダリング性能を計測するベンチマークテスト「CINEBENCH R23」で、「Multi Core」と「Single Core」を実行した結果が以下のグラフだ。

 全てのCPUコアを使用する「Multi Core」では、Windows 11が「26,875」、Windows 10が「26,946」でほぼ横並びだった。一方、1スレッドでテストを行う「Single Core」のスコアは、Windows 11が「1,984」、Windows 10が「2,006」で、Windows 10がWindows 11を約1%上回った。

 いずれもほぼ同等と言える結果ではあるのだが、Windows 10の方が僅かながら高いスコアを記録していることから、少なくともWindows 11の方が優位といえる結果ではないことは確かだ。

動画エンコードソフト「HandBrake」で4K動画のエンコードを実行

 動画エンコードソフトの「HandBrake (v1.5.1)」では、約1分の4K動画をエンコードするのにかかった時間を比較する。エンコードに使用したのはYouTube向けのプロファイルで、フルHD(1080p60)と4K(2160p60)へのエンコードをそれぞれ実行した。

 フルHDへのエンコードでは、「57秒」を記録したWindows 11に対し、Windows 10は2秒早い「55秒」を記録した。一方、4Kへのエンコードでは両OSとも「1分26秒」で横並びの結果となっている。

3DCGソフトの公式ベンチマーク「Blender Benchmark」

 3DCGソフト「Blender」の公式ベンチマークソフト「Blender Benchmark」では、標準で用意されている6シーンのレンダリング時間を計測した。

 シーン別のレンダリング時間では、両OSはほぼ同タイムを記録しているものの、「bmw27」と「pavilion_barcelona」で1秒、「Victor」で2秒、それぞれWindows 10が早くレンダリングを終えており、合計レンダリング時間ではWindows 10が4秒早いという結果となった。

 20分以上ものレンダリング時間のうちの4秒に過ぎないので、Windows 10が優位と言える結果ではないが、当然ながらWindows 11が優位と言える結果でもない。

ゲーム4タイトルを使って新旧OSでパフォーマンスに差が出るのかテスト最適化が進めばWindows 11有利?

 続いては実際にゲームプレイして新旧OSでパフォーマンスに差が出るのか確認してみよう。

 ゲームタイトルは「バトルフィールド 2042」、「レインボーシックス シージ」、「Forza Horizon 5」、「Microsoft Flight Simulator」の4種類を使用して検証してみた。

新作FPS「バトルフィールド 2042」でフレームレートを比較

バトルフィールド 2042。

 バトルフィールドシリーズの最新作「バトルフィールド 2042」では、フルHDと4Kで平均フレームレートの比較を行った。テスト時のグラフィックプリセットは「最高」で、レイトレーシングは無効にしている。

 フルHDの平均フレームレートは、Windows 11が「152.4fps」で、Windows 10はそれをやや上回る「154.7fps」だった。一方、4KではWindows 11が「81.0fps」で、Windows 10の「80.6fps」を僅かに上回っている。

 フルHDと4Kで新旧OS間に多少の差はついたものの、どちらも誤差の範囲内と言える程度の差でしかない。OSを問わず同程度のパフォーマンスが得られたと言って差し支えない結果だろう。

新旧OSに明確な差が生じた「レインボーシックス シージ」

レインボーシックス シージ。

 「レインボーシックス シージ」では、グラフィックプリセットを「最高」にして、フルHDと4Kでベンチマークモードを実行した。レンダリングのスケーリングは「100%」で、グラフィックスAPIは「Vulkan」を選択している。

 フルHDでは、「462fps」を記録したWindows 11が、「427fps」のWindows 10を約8%上回った。4Kでも、Windows 11は「224fps」を記録し、「214fps」のWindows 10を約5%上回っている。

 レインボーシックス シージでは、明確にWindows 11が有利な結果となった。これをWindows 11がハイブリッドCPUを効率的に利用した結果と言い切ることまではできないが、OSの違いによってこのようなパフォーマンス差がつくこともあるという一つの事例ではある。

オープンワールド・レーシング最新作「Forza Horizon 5」は新旧OSどちらが有利?

Forza Horizon 5。

 Forza Horizon 5では、グラフィックプリセットを「エクストリーム」にして、フルHDと4Kでベンチマークモードを実行した。

 フルHDでは、「125fps」を記録したWindows 11が、「123fps」だったWindows 10を2fpsだけ上回った。Windows 11は4Kでも「86fps」を記録して、Windows 10の「84fps」を2fps上回っている。

 ややWindows 11が優位な結果ではあるものの、レインボーシックス シージほど明確な差はなく、同程度と言っても差し支えない程度だ。

人気のフライトシミュ「Microsoft Flight Simulator」で差は出る?

Microsoft Flight Simulator。

 Microsoft Flight Simulatorでは、羽田空港から関西国際空港へのルートをエアバスA320neoで飛行し、離陸前後3分間の平均フレームレートを計測した。グラフィックプリセットは最高の「ウルトラ」で、グラフィックスAPIは「DirectX 11」。

 フルHDでは、Windows 11の「58.3fps」に対し、Windows 10が約3%高い「59.9fps」を記録した。一方、4Kでは「50.7fps」を記録したWindows 11が、Windows 10の「49.3fps」を3%上回っている。

 フルHDと4Kで優劣が分かれる結果となったが、計測のバラツキも生じやすいゲームでの結果なので、どちらが有利だと言い切れるほどの差はないと見るのが適当だろう。

思いのほか差がつかなかったWindows 11とWindows 10Windows 10環境でも性能はしっかりでるAlder Lake-S

 CPUテストやゲームで新旧OSのパフォーマンスを比較してみたが、思いのほか差がつかなかったというのが率直な感想だ。明確にWindows 11がWindows 10を上回ったと言えるのは「レインボーシックス シージ」くらいで、その他のテストではWindows 10でも最新OSと遜色ないパフォーマンスが得られた。

 今後を考えれば、Alder Lake-Sと同時に最新OSであるWindows 11を導入するのが良い選択であることは間違いないが、Alder Lake-SのハイブリッドCPUとWindows 10を組み合わせても、パフォーマンス面でのデメリットは大きなものではない。何らかの理由でWindows 10を使い続けたいからと言って、Alder Lake-Sを避ける必要はないだろう。