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Patriotに聞く「イマドキのメモリ」、AMDメモリ誕生の経緯から最新事情まで
「メモリの適温」も?
(2013/3/28 12:30)
メモリというと、PCに必須のパーツでありながら、値動きが激しいパーツとしても有名だ。
バルク品が中心だった昔と違い、今は、多くの方が各社のパッケージ品を購入していると思われるが、どのような点で選べば良いのだろうか。
今回は、メモリメーカーとしても古株で、昨年は「AMDメモリ」、「Intelメモリ」という2つのCPUメーカーとのコラボメモリを相次いで投入したPatriot Memoryにメモリの最新事情を伺った。
お話を伺ったのは、Patriot Memory、チーフ テクノロジー オフィサーのLes Henry氏とPatriot Memoryの日本代理店である、株式会社ファスト代表取締役の林統氏だ。
まずは気になる「AMDメモリ」「Intelメモリ」の経緯から聞いてみた。
AMDやIntelとのコラボメモリを相次いで投入
――AMDメモリはどのような経緯で誕生したのでしょうか
[Henry氏] 我々とAMDとのパートナーシップは2011年にスタートしました。我々は、我々の販路においてAMDというネームバリューを活用でき、一方でAMDはメモリに関するフィードバックを欲していたことから、パートナーシップの締結に至りました。
AMDメモリはを具体的には、「AMD Memory Profile」と呼ばれるメモリプロファイル(拡張SPDのようなもので、Intel XMPに相当する)が設定されたメモリで、AMDプラットフォーム向けマザーボードと組み合わせることで、手動設定の煩わしさナシに最適なメモリ設定が適用できます。AMDとのパートナーシップは、2012年をもって終了したため、現在はPatriot製品としては販売していません。ただし、AMDとの協力関係は継続中で、今後はAMDからODM方式で生産することになります。
――AMD Memory Profileは、AMDメモリでしか利用できないのでしょうか
[Henry氏] 現在、他製品で継承しております。
――AMDメモリの反響はいかがでしょうか
[Henry氏] 日本市場においては成功と言えると思います。AMDメモリは、PatriotとAMD(グローバル)双方から販売しておりましたが、日本市場の出荷量はPatriotから出荷したうちの10%にのぼり、アジア、太平洋地域では1位の販売量を達成しました。
[林氏] ちなみに、ファストが取り扱うハイエンドメモリで、最大4割をAMDメモリが占めていた時期がありました(笑
――では、Intel Extreme Master Limited Memory(以下IEMメモリ)はどのような経緯だったのでしょうか
[Henry氏] IEMメモリは、Intel Extreme MasterというeSport(ゲーム)イベントに協賛したことからコラボレーションがスタートしました。IEMメモリについては、まずメモリ上のチップはもちろん、抵抗のように細かな部品についても、Intelの認証を得たモジュールになります。
Intelの第2・第3世代Core iプロセッサに最適化されているとともに、XMPをサポートすることで、高性能であることはもちろん、それを挿せば使えるという点もゲーマー向けに訴求しています。ポジショニング的には弊社のハイエンドメモリであるViper 3に相当し、とくにIEMの開発にあたり、ヒートシンクを新設計し、面積を拡大したほか、エアホールを設けることで冷却性能を高めています。
――「Viper 3相当」とのことですが、Viper 3とIEMはどのような点で異なるのでしょうか
[Henry氏] モジュールとしてはほぼ同じと考えてください。ただ、Viper 3がクロックを追求するオーバークロッカー向けの製品であるのに対し、IEMはゲーマー向けに最適化している点、大容量である点を訴求しています。また、IEM関連イベントへの協賛など、マーケティング面でも差別化しております。
――Intelとのコラボレーションは、期間を決めたものなのでしょうか
[Henry氏] AMDメモリ同様ですが、Intelとの契約も、2012年Q3から2013年3月までとなっております。IEMイベント自体は毎年開催されるため、Intelが今年もまたメモリ製品で認証制度を設けるようなことがあれば、再度契約することになるかもしれません。
――AMD、Intelと、CPU大手2社とのコラボレーションメモリをリリースしましたが、これら2社がPatriotをパートナーとして選んだ理由はどこにあるとお考えでしょうか
[Henry氏] Patriotは、25年以上の歴史がありますし、技術力もあります。パートナーシップも重視しておりますし、何より、Patriotの本社が、両社の本社(カリフォルニア)に近いという物理的な利点もあるかと思います。
こだわりは「品質と安定性」メモリは60℃が適温
――メモリメーカーとして、どのような点にこだわっているのか教えてください
[Henry氏] ひと言で言えば、品質と安定性です。Patriotは、マーケティングという面ではやや弱いのかもしれません。しかし25年以上にわたる実績と、CPUメーカー、マザーボードメーカーとの堅いパートナーシップを築いております。OCメモリ以外では、例えばUltrabook用メモリとして、Intelに認定されてもいます。ほか、サーバ向けなど、あらゆる分野向けのメモリを手がけています。
――「メモリモジュールの製造過程」というのはどういうものなのでしょうか?
[Henry氏] Patriotでは、まずメモリチップの段階で選別を行います。例えば「これは2,133MHzまでOK、これは1,866MHzまでOK、これは1,600MHzまでOK……」といった具合です。この過程は社外に委託しております。こうした過程を経て、PCBに実装していくわけですが、弊社では、サーバー向けやOC向けではメモリは8層基板を、一般的なメモリでは、通常6層基板を用います。層は多いほうがよい信号特性が得られる一方、コストが跳ね上がります。この点はマザーボード等と同様です。
なお、あらかじめチップ段階で選別をしているため、モジュールにした際の不良率は低く抑えられます。そして、互換性という点では、ASUSTeK、GIGABYTE、MSIなど幅広いマザーボードベンダーの製品でテストを実施しております。当社ではJEDECに厳格に準拠しているほか、エントリー向けモデルのSLラインを含め、全製品100%チェックを行なっていますので、安心してご利用いただけます。
――チップメーカーごとのクセというのはあるのでしょうか
[Henry氏] クセはあります。結果として、2,133MHzなど高クロックなメモリにはMicron、1,866MHzや1,600MHzの製品にはElpidaやHynix、1600MHz以下にはSamsungといった具合に使い分けたりします。ただ、当社の製品であれば、モジュール段階で100%テストをしていますので、ユーザーはクロック表記を見るだけで、チップベンダーを意識することなく利用できます。
――メモリも高クロックになると発熱対策が必要かと思いますが、どのくらいの温度を保てばよいのでしょうか。また、メモリファンは有効なのでしょうか
[Henry氏] メモリにとっての動作温度範囲はおよそ0~80℃ですが、60℃あたりがベストです。メモリファンの効果は限定的です。とくにケースに入れて利用する場合、ただ単にケース内で空気をかき回すだけですと、あまり効果は期待できないと思います。
――ではファンを追加するよりはヒートシンクの技術が重要ということでしょうか
[Henry氏] ヒートシンク設計はとても重要です。
例えば最上位のViper Extremeシリーズでは、チップとアルミヒートシンクの間に薄い銅箔を挟んでいます。これにより、チップの熱を効果的にヒートシンクへと伝えることができます。Viper 3シリーズでもヒートシンクの面積の大型化や、エアホールの追加などを行なっています。
メモリをより長く安定してご利用いただくためには、ケース内温度やエアフローに気を配っていただくことが重要だと思います。
DDR4の足音も聞こえてきた!?DDR3は3000+に到達、
――これからのメモリとしてはどのような動きがあるのでしょうか
[Henry氏] DDR3メモリの次はDDR4という規格が控えています。
おそらく2013年Q4頃には何らかの動きがあるかと思います。そこに向け、我々もDDR4メモリモジュールのテストを行なっております。DDR4メモリは1,866MHzあたりからスタートする見込みで、動作電圧もDDR3の1.5VからDDR4では1.35Vへと引き下げられる見込みです。
――これまでのDDR3メモリの今後はいかがでしょうか
[Henry氏] 現在、DDR3-2400までは製品化されています。ただ、ラボにおいては、DDR3-3000+(3,000MHz超)という動作を実現しています。現時点では大量生産ラインに載せるほどのチップの確保が難しいため、受注は受けておりませんが、OEM、ODM生産は可能です。ただ、すごく高価な点はご了承いただきたい点になります
――ありがとうございました。
【実機でチェック!】XMPって何? どう使う?
インタビューに出てきた「XMP」だが、最後にちょっとおさらいしておきたい。
通常のメモリが「DDR3-1600」など適切なクロックで動作するのは、SPDという設定定義(プロファイル)がメモリモジュール内にあり、これをマザーボードが参照するためだ。
昔のオーバークロックメモリでは、それをの動作クロックで動作させるための設定を記した紙切れが同梱されており、これに従ってBIOSの各項目を手作業で設定していった。
この仕組みをオーバークロックメモリまで拡大したのがXMPだ。昔のオーバークロックメモリでは、細かい設定を記した紙切れが同梱されており、これに従ってBIOSを手作業で設定していったのだが、これで扱いが手軽になった。
実は、メモリにおけるオーバークロック・プロファイルを最初に提唱したのはNVIDIA。NVIDIAのチップセット「nForce」用に、2006年5月に発表したのが「EPP」。NVIDIAは既にチップセット事業から撤退しているが、これのIntel版が「XMP」、AMD版が「AMP」というわけだ。
ただし、XMPでメモリ・プロファイルを格納したからといって、デフォルトでオーバークロックが適用されるわけではない。基本的に、メモリを挿しただけでは、そのメモリはSPDの情報に基づくプロファイルを適用する。XMPのプロファイルを適用するには、BIOS(現在はUEFI)で、XMPを読みに行くよう設定する必要がある。
なお、BIOS設定は、マザーボードによって異なるので、製品のマニュアルを参照していただきたい。また、ローエンドモデルを中心に、XMPに非対応のマザーボードというのもあるので、この点要注意だ。ここでは、ASUSTeKのP8Z77-V DELUXEを例に、設定方法を紹介しよう。
さて、果たしてオーバークロックメモリの効果はどのようなシーンで表れるのだろうか。
簡単だが、ベンチマークテストで検証してみた。PCはCPUやメモリ、GPU(ビデオカード)といったパーツから構成されており、それぞれは、単独で高性能化して効果がある時もあれば、バランスが重要という時もある。用いたのは、DDR3-1600 IEMメモリの「PVI38G160C9K」、DDR3-1866のViper 3「PV38G186C9KRD」、DDR3-2133のViper 3「PV332G213C1QK」だ。
詳細は以下のグラフにまとめたので、参考にしてほしい。
[取材協力:ファスト]