特集、その他
Seagate「NAS HDD」ってどうなの?
性能・電力・温度を比較してみた
text by 日沼諭史
(2015/6/29 00:10)
最近は、一口に「HDD」と言っても、いろいろな種類のHDDがある時代だ。
同じメーカーの内蔵用SATA HDDだけ見ても、ブランド名・シリーズ名の異なる製品が存在し、プラッター枚数や容量違いをはじめとして、読み込み・書き込み速度、回転速度などが違っていたりする。
最近では、「用途向け」にカスタマイズされた製品も多く、例えばネットワークストレージ(NAS)の人気に呼応して「NAS向けHDD」という製品もデスクトップPC向けHDDとは別に出ている。
「NAS向け」というからには、「NASで使うには最適」なのだと思われるが、このHDDはもちろんPC用としても利用でき「耐久性や長時間動作の点で、PC用としてもオススメできる製品」(Seagate)なのだという。だとすると、「なぜNASに最適といえるのか、判るような判らないような……」と思ってしまう人も多いだろう。
そこで今回は、NAS向けHDDとデスクトップPC向けのHDD、一体どこにどんな違いがあるのか、実際にNAS上で稼働させつつ比較してみることにした。
「圧倒的な耐久性能」がウリのNAS HDD
今回比較に使用したのは、Seagate製の内蔵用3.5インチSATA HDD。
比較に使うNAS向けHDDには同社が「NASやRAID環境、サーバ向け」として発売する「NAS HDD」シリーズのST2000VN000を、デスクトップPC用HDDにはBarracudaシリーズのST2000DM001を選んだ。
これらHDDを2台ずつ用意し、マルチメディアファイルの管理などにも適したSynology製NAS「DS214Play」にセット。Synology独自のRAIDシステム「Synology Hybrid RAID(SHR)」でフォーマットしたうえで、ベンチマークや各種検証を行った。
さて、検証内容と結果をお見せする前に、NAS向けHDDがどういうものなのか、ちょっとだけ解説しておきたいと思う。
まず、そもそもの話として、NAS向けHDDとデスクトップPC用HDDで、見た目やインターフェースに違いがあるわけではない。だから、デスクトップPC用HDDをNASに接続しても問題なく動作するし、逆にNAS向けHDDをデスクトップPCに搭載しても、フツーに使うことができる。
では何が違うのかというと、1つは搭載する機器において想定される使用条件・環境だ。
以下のスペック表をご覧いただきたいが、複数のユーザーからアクセスされることを想定したNASの場合は、基本的に電源は切らずに使うことになるため、長期間の連続稼働でも問題が発生しにくい高い耐久性能を備えている。表でいえば「通電時間」と「平均故障間隔(MTBF)」がそれに当たる。
スペック表 | ||
---|---|---|
Desktop HDD ST2000DM001 | NAS HDD ST2000VN000 | |
インターフェース | 3.5インチ SATA 6Gb/s | 3.5インチ SATA 6Gb/s |
回転数 | 7200rpm | 5900rpm |
キャッシュ | 64MB | 64MB |
最大連続データ転送速度 | 210MB/s | 159MB/s |
アイドル時消費電力 | 5.4W | 3.0W |
動作時平均消費電力 | 8W | 4.3W |
動作時許容温度 | 0~60度 | 0~70度 |
通電時間 | 2400h | 8760h |
平均故障間隔(MTBF) | 75万時間 | 100万時間 |
重量 | 626g | 535g |
保証期間 | 2年 | 3年 |
実売価格(6月中旬時点の例) | 9,380円 | 11,800円 |
通電時間は、1年間にどれだけ通電してOKかを示すもので、8760時間ということは、つまり24時間365日電源オンで大丈夫、という意味になる。デスクトップPC用HDDは2400時間なので、これを単純に365日で割ると、1日あたり6.5時間余り。実際の使用想定環境としては平日9時間(週5日)とされており、要するに、一般的な社員のデスクワークをカバーする耐久性能だ(1日9時間以上、休日もなく働き続ける人には向いていないHDDとも言えるが……)。
MTBFは文字通り、どれだけ使うと故障する可能性があるか。25万時間という差だけ見ても、年に換算すると28年以上も長く、さらに動作温度も10度余裕があるなど、耐久性能には雲泥の違いがあることが分かる。
簡単にまとめると、多少過酷な環境や使用状況であっても、安定して動作することを目的に設計されているのが「NAS向けHDD」、ということになる。
安定させるための熱くならないHDDはどっち?
さて、その「安定動作」だが、大事な要素の一つが動作温度。
熱すぎる環境は、HDDにとってもNASそのものにとっても良くないものだ。スペック表を見ると、動作温度の範囲はデスクトップHDDより広く、10℃高くてもよい、とされているNAS HDDだが、自身からの発熱量はどうなのだろうか?
そこで、動作時(連続アクセス時)の動作温度を測ってみた。具体的には、ベンチマークソフトであるCrystalDiskMarkを使い、PCから連続でアクセスさせながら、Synology DS214Playの管理画面上で10分ごとの温度変化を確認してみた。その結果が以下のグラフだ。
起動直後(電源投入から5分経過時)はいずれの場合もディスク1が29度、ディスク2が30度のところからスタートし、ベンチマークを実行するとわずかずつ温度が上昇していった。しかし、その上昇率はNAS HDDの方がずっと緩やか。デスクトップPC用HDDは序盤にぐっと大きく上がり、その後は最高36度で踏ん張ったが、1時間経過した時点で3度の差がつき、温度面でもNAS HDDが明らかに有利、という結果に。
少し高めの温度になったデスクトップPC用HDDをこの温度で稼働し続けることで、すぐに何らかのトラブルやパフォーマンスの低下につながる、といったことはありえないだろうけれど、NAS HDDの動作許容温度が10度高いことも考え合わせれば、耐久性や安定性はNAS HDDが圧倒的に上だと言える。
消費電力の差は大きい?小さい?
次に確認しておきたいのは消費電力だ。
スペック表では明らかにNAS HDDの方が低消費電力とされており、発熱の低さもそれを裏付けるものとなったが、実際の数値も確認してみたい。
今回は、ワットチェッカー機能付きの電源タップで、アイドル時(読み書きしていないタイミング)と稼働時(ベンチマーク実行中)の数値を計測した。
消費電力の比較 | ||
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NAS HDD ST2000VN000(2台) を使った場合の システム電力 | Desktop HDD ST2000DM001(2台)を使った場合の システム電力 | |
アイドル時 | 20~21W | 25~26W |
稼働時 | 22~23W | 26~27W |
アイドル時においては5Wの差があり、2台のHDDを搭載していることを考慮するとほぼスペック表通りの違いが出ていると言える。
稼働時は3~5Wの差で、スペック表から想定される7~8W差には達していないものの(ワットチェッカーの分解能の問題もありそう)、はっきりと低消費電力を保っているのが見て取れる。
あとはこの「数ワットの違い」をどう考えるか、だ。ただ、少なくともNASは長時間連続稼働させるものであり、ものによっては4台、8台、16台と多数のHDDを搭載するものでもある。
消費電力は少ない方がいいに越したことはないだろう。
実環境でのリード・ライト性能は?
さて、発熱、消費電力とNAS HDDの優位性が見える結果になってきたが、スペック表を見ていると、読み書き性能の差が気になる人もいるだろう。
耐久性の高いNAS HDDだが、回転数や転送速度はデスクトップPC用より控えめで、例えば「最大連続データ転送速度」のスペックを見ると50MB/s低い公称値となっている。
そこで、実際の環境ではどうなのか、基本性能をベンチマークソフトで確かめてみることにした。
使用したソフトは「CrystalDiskMark 4.0.3」(Windows 8.1 64ビット版上で動作)。PCからギガビット対応のスイッチを経由してNASにアクセスできるようにし、Windows共有フォルダにドライブを割り当ててベンチマークを実行した。結果は以下の通り。
スペック上は速度差のある両製品だが、今回の環境では「最大でも8MB/s差」という結果。
これは、そもそものネットワーク速度がギガビットイーサネットであることや、NASそのものの動作速度が影響しているものと思われる。ランダムライトではNAS HDDの方が良い結果になっている部分もあり、全体的に見て「NASを考えて作られた製品」なんだな、というのがよくわかる結果と言える。
「用途に合わせたHDD」を選ぶ時代に
以上、動作温度、消費電力、読み書き性能と、NASにとって重要な3つの項目について検証した。「NASにはNAS向けHDDが一番なんだろうけど、デスクトップPC用でもいいんじゃね?」とわりと軽く考えがちかもしれないが、やはりそこには明確な差がある、ということが確認できた。
今回は検証しなかったが、SeagateのNAS HDDは、エラー発生時にドライブ全体ではなく部分的にデータ再構築を行って迅速な復旧を促す「Error Recovery Control」や、アイドル状態から高速に通常動作に復帰する「Quick Time-to-ready」など、デスクトップPC用HDDにはない独自の機構を備えていて、高速かつ安定したNASの稼働をサポートするという特徴もある。
また、上位モデルには大規模システム向けの「Enterprise NAS HDD」もラインアップ。こちらは転送速度を220MB/sと高速化しつつ、外部からの振動があっても性能への悪影響を最小限にできるという、回転振動センサーによる補正機能も搭載するなど、より高い信頼性を確保しているという。さらには記録方式にSMRを採用、6TB/8TBといった大容量を比較的安価に実現した「Archive HDD」という製品も用意。用途に合わせたHDDの選択肢が一層多彩になってきた。
HDDは、「余ったパーツの流用」がしやすいのも魅力の一つだが、こと「データの保管」という点では今回のような「NAS向けHDD」が優位にあることは間違いない。特に、温度や動作時間などがシビアな環境下でデータを確実に保管したいなら、NASであってもPCであっても、今回の「NAS HDD」のような、あるいはその上位にあたる特化型の製品を使うのがよいだろう。
[制作協力:Seagate]