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ASUSに聞く、R.O.G.で「本格水冷ビデオカード」を出した理由

「ASUSしかできない挑戦で業界をリードしたい」 text by 清水 貴裕

POSEIDON-GTX780-P-3GD5
水冷チューブの接続部分

 「PCの水冷」は根強い人気があるジャンルだが、昨今は簡易タイプの製品がそのほとんどだ。実際、簡易水冷のCPUクーラーを導入したり、店頭で検討してみた人も多いだろう。

 反面、単品のラジエーターやポンプ、タンク、水冷ヘッドなどを組み合わせる本格水冷は、チューニング次第で水冷の実力を存分に発揮できる反面、その手間から敬遠されがちだ。

 ビデオカードの分野でも、過去、簡易水冷クーラーを標準装備したビデオカードはいくつか出ており、有力メーカーでもASUSが昨年3月に簡易水冷系のビデオカード「ARES2-6GD5」を発売している。

 しかし、2月末にリリースされた同社「POSEIDON-GTX780-P-3GD5」は、簡易水冷ではなく、本格的な水冷システムに対応。さらに空冷も併用するという独自の「空水冷ハイブリッドモデル」を採用している。OCモデルなど、「こだわり」を追求するR.O.G.シリーズとはいえ、なぜこの時期に本格水冷モデルをリリースしたのか?

 その理由やこだわりを、同社広報の岩崎晋也氏におうかがいしてきた。

「本格水冷」は新しい挑戦ASUSしかできないイノベーションで業界をリードしていきたい

ASUS広報 岩崎晋也氏
水冷で動作中のPOSEIDON-GTX780-P-3GD5

--まずは基本的な話からお伺いします。ビデオカードを水冷するメリットとはなんでしょうか?

[岩崎氏]「より冷やしやすい」ことだと考えています。温度そのものを下げてもいいですし、同じ温度で良ければ、より静かになります。冷却力と静音性という相反する要素を両立できるのが水冷のメリットですね。

--POSEIDONには色んな意味で驚かされました。何故、「本格水冷に対応したビデオカード」を発売されたのでしょうか?

[岩崎氏]入口としては「水冷を望んでいるユーザーさんが一定数おられるから」です。

 「じゃあなんで本格水冷になるのか?」というと性能の問題があります。

 性能を第一に考えると、240mm以上の大型ラジエータがベストですが、ケースへの取り付けを考えると環境を選ぶ製品になってしまいます。かと言ってラジエータのサイズを120mmにすると、今度は容量不足でビデオカードの発熱を冷やし切れなくなります。

 下手をすると空冷よりも冷えない水冷になる可能性さえあるんですよ(苦笑)。それらを解決するために、「本格水冷」という方法を選びました。本格水冷なら、自分で水路を組むのでラジエータのサイズやレイアウトに自由度がありますからね。

 後は市場の状態もありますね。各社が製品を売ろうとして努力した結果、高品質で高性能な製品が増えたのは喜ばしいことです。しかし、みんなで同じ方向を向いて、同じように考えているからか、似たような製品ばかりになってしまいました。

 そんな市場の状態だからこそ、我々にしかできない、R.O.G.にしかできない製品を作りました。


展開図
DirectCU H2Oの裏面

--では、その搭載クーラーである「DirectCU H2O」の特徴はどういったものでしょうか?そして、具体的にはどういう構造になっているのでしょうか?

[岩崎氏]まず、水冷と空冷の双方を同時に活用して冷却できる、というのが特徴です。

 GPUに接するベイパーチャンバーには水冷パイプと3本の空冷用ヒートパイプが付いており、水冷による冷却をきっちり行いつつ、通常の空冷クーラーと同じようにファンとヒートシンクによる冷却も行う、という仕組みになっています。

 冷却性能については、水冷を使わず、空冷だけで使ってもリファレンスクーラーより約7℃(20%)冷えますし、水冷と空冷を併用すれば実に24℃(140%)冷えることを確認しています。

 これは裏話ですが、空冷クーラーが故障した場合のことも考えて、水冷だけでもきちんと動くように設計しています。保証外の動作になるのでお勧めできませんが、それだけ水冷部分の設計もしっかりしているということです。

 また、構造的な特徴をいうのであれば、GPU以外も効率よく冷却できるのも大きな特徴です。

 展開図を見て頂ければ分かるのですが、ベイパーチャンバーを搭載した受熱部がGPUだけでなくメモリチップも冷却する構造になっています。

 VRM部分のMOSFETも受熱部にくっついているので、基板上の発熱箇所を全て冷却できるんです。これは、ヘッドでGPUだけしか冷却できない簡易水冷クーラーにはないメリットです。


2スロットの厚さに収めるには苦労があったという

--本格水冷に対応した空水冷ハイブリッドモデルということで、開発は大変だったと思いますが、どんな苦労があったのでしょうか?またこの部分にこだわって作ったよ、みたいなところはありますでしょうか?

[岩崎氏]苦労した部分は水冷と空冷のハイブリッド冷却ながら「ビデオカード全体で2スロット」という薄さに収めたことです。それがこだわりでもあります。

 普通のDirectCU IIを搭載した製品は2スロットですが、たとえばこれに「水冷ヘッドを足しました」とやると当然2スロットに収まりません。皆さんの利用シーンを考えると、やはり「2スロットで」ということになるので、ヒートシンク本体やフィン、ファンなど、様々な部分を工夫して2スロットに収まるよう、そしてその状態で高い性能を発揮できるように工夫して設計しました。


基板上の電源回路部
メモリチップ
製品にあるロゴは光る

--なるほど。では、ビデオカードそのものについてはいかがでしょうか?

[岩崎氏]R.O.G.シリーズということで、当然ですがASUSオリジナルの最高品質コンポーネントを使用しています。

 具体的には、耐久性の高い日本製の高品質コンデンサである「Black Metallic Capacitor」や、動作温度の低さが特徴の「Super Alloy Choke」、対応電圧が30%拡大された「Super Alloy MOS」などを採用しています。

 特に注目して頂きたいのはVRMです。当然デジタル制御方式なのですが、マザーで評価の高い技術である「DIGI+ VRM」を採用しています。

 うちはいち早くデジタル制御方式をマザーに導入してきたのでデジタル制御方式には自信があるんです。今までに蓄積されてきたノウハウがビデオカードでも活きてるんですよ。

ただのテクノロジーデモではなく、“買ってもらえる革新的な製品”にしたかった

基板裏面
基板側面

--ところで、なぜ今の時期にGeForce GTX 780なんでしょうか?780TiやTitanなどの上位チップもあるわけですが…

[岩崎氏]端的に言うと、この製品を「ただのテクノロジーデモ」にしたくなかったんですよ。

 いくら革新的な製品でもユーザーの手に渡らなければ意味がないですし、ユーザーの選択肢になるためには、価格も現実的なものにしなくてはなりません。

 我々はこの製品に自信を持っていますし、ぜひ試していただきたいから、あえてGeForce GTX 780で発売しました。もちろん、この製品が受け入れて頂けるのであれば、当然、上位を含む他チップを搭載したモデルも検討されると思います。

 個性的かつユーザーを選ぶ製品なので、正直、たくさん売れるとは思っていません。ショップによっては、店頭在庫がない場合もあると思います。そういった場合は、ぜひ取り寄せでご購入いただければと思います。いや、現場からのユーザーの声って強いんですよ(笑


POSEIDON-GTX780-P-3GD5の製品パッケージ。なお、ASUSでは水冷キットなどがあたるクイズ形式のキャンペーン「ASUSビデオカード知ってた?キャンペーン」を3月31日まで実施中。クイズは「本格○○はASUSだけ」の○○をあてるというもの。ちなみに、キャンペーンページでは「水冷」ではなく「液冷」という表記が使われている。

--ところで、さきほど「静音性」という言葉が出ました。まさか、R.O.G.製品のインタビューで「静音性」という言葉がお聞きできるとは思いませんでした(笑

[岩崎氏]R.O.G.っていうとバリバリのゲーマーやオーバークロッカー向けのイメージがありますし、それは否定できません(笑)。でも、今のR.O.G.はそれだけではありません。

 今のR.O.G.は「イノベーション」のブランドなんです。パフォーマンスの高さだけでなく、誰もが考えないようなイノベーティブ(革新的)な製品を提供していきたいんです。今回のPOSEIDONにしてもそうですが、初めての試みで市場の可能性を広げていくことが目的のひとつなんです。悪い意味で言えばブレているともとられそうですが、常に新しいことを考え、前進していくのがR.O.G.なんです。

 今回の製品を含めたR.O.G.もそうですが、ASUSではこれからも様々な革新的な製品を、「現実的に購入できる価格」で出していくことにこだわっていきます。

 皆様よろしくお願いします。

--ありがとうございました。


せっかくなので、その威力も検証してみた~まずは空冷で~

 インタビュー後、製品版の「POSEIDON-GTX780-P-3GD5」をお借りしてきたので、簡単に検証してみた。

 まずはスペックからチェックしていこう。

 コアクロックはGeForce GTX 780定格の863MHzから954MHzへ、ブーストクロックは900MHzから1,006MHzへと大幅にオーバークロックされている。メモリクロックは1,502MHzでこれは標準のまま。基板は独自設計で、補助電源は8pin+6pinという仕様。DirectCU IIクーラーを搭載する空冷の姉妹モデル「GTX780-DC2OC-3GD5」のコアクロックが889MHz、ブーストクロックが941MHzであることを考えると、より高レベルなチューニングが施されていることが伺える。

 次に、3DMark Fire Strikeを走らせてカードの持つポテンシャルをテストしてみた。比較対象には、GeForce GTX 780のリファレンスカードを用意した。

 GPUクロックがオーバークロックされている分、「POSEIDON-GTX780-P-3GD5」はリファレンスカードよりも約7%高い9,196ポイントを記録。この時のGPU温度は、リファレンスカードが73℃まで上昇したのにも関わらず、「POSEIDON-GTX780-P-3GD5」はOCモデルにも関わらず58℃までしか上がっていない。ファン設定がAUTOのままなので、ファンの回転数もほとんど上昇せず、動作音はかなり静かに感じた。

 DirectCU H2Oクーラーの空冷性能が思いの外高かったので、水冷化する前に空冷状態でのオーバークロックテストも行ってみた。

 結果、ファン回転数を75%まで上げることでブーストクロック1,280MHzでの3DMark Fire Strikeの完走に成功。GPU温度は52℃までしか上昇しなかった。ファンの回転数を上げることによって逆に定格状態よりもGPU温度が下がったのには驚きだ。温度にかなり余裕があるので、GPUコア電圧をさらに掛ければより上が狙えそうだが、ここでGPU Tweakの電圧設定の上限値に達してしまった。電圧値の設定上限がOC特化モデルよりも低めに設けられているのがその理由だ。上限が設けられているとは言え、空水冷で常用を目的としたオーバークロックをする上では十分な設定値なので、安全面を考えると納得できる仕様だ。

水冷併用なら高負荷でも39℃! そしてGPUクロックは900MHz→1,358.7MHzに高負荷時の動作音低減やさらなるOCに威力を発揮

検証の様子。
【検証環境】CPU:Core-i7 4770K、マザーボード:ASUS SABERTOOTH Z87、メモリ:G.SKILL F3-19200CL9Q-16GBZHD(DDR3-1600MHz、2枚で使用)、SSD:OCZ AGILITY3 60GB、OS:Windows 8 Pro 64bit版、ディスプレイドライバ:335.23 WHQL
【検証条件】室温23℃、アイドル時はベンチマーク実行10分後の値、高負荷時は3DMark Fire strikeを3連続で実行中の最大値
【測定方法】GPU温度はGPU-Zのtemperatureの値、チップセット温度はチップセットヒートシンク上にK型熱電対をテープで張り付け「SATO SK-1120」で測定

 空冷のテストを終え、次は気になる水冷時の性能をテストしてみた。

 詳細な表は記事末尾にまとめたが、アイドル状態のGPU温度は26℃、3DMark Fire Strikeを実行中の最大値は39℃を記録。特筆すべきは、高負荷時のGPU温度の低さで、空冷時と比べて19℃もGPU温度が低下しているのは圧巻の一言。

利用したラジエータ
利用したタンクとポンプ
最高クロックは1,358.7MHzを記録した。定格ブーストクロック(900MHz)と比べると実に5割もの上昇だ
最高クロック記録時の諸データ

 GPU温度が19℃も下がれば、リーク電流が少なくなり、同じ電圧でより高いクロックが狙える可能性があると思い、駄目元でオーバークロックしてみた。これがビンゴで、電圧設定値は空冷時と同じながらも、ブーストクロック1,300MHzを突破し、最終的にはこの個体で1,358.7MHzまで動作クロックを伸ばすことができた。本格水冷のパワーは絶大だ。

 水冷状態で使ってみて素晴らしいと思ったのは、その静音性の高さだ。ハイブリッド冷却のため、ファンは一応は回っているのだが、空冷時のように温度に合わせて回転数が上がらないので、負荷を掛けていても常に静かなのだ。ゲームに没入したいような場合に、この静音性の高さは大きなアドバンテージになるだろう。

 「実売価格80,000円前後」という価格はそれなりに高価だが、空冷のカードを買って水冷化するコストと手間を考えると、べらぼうに高いわけではない。本格水冷用のウォーターブロックは、10,000~20,000円くらいが相場なので、ビデオカード+専用設計の水冷クーラーの販売価格としては本製品はかなり頑張った価格設定であると言える。

 簡易水冷キットやサードパーティー製のウォーターブロックを搭載したビデオカードはこれまでにもあったが、本格水冷向けの空水冷ハイブリッドクーラーを搭載する製品はこのモデル以外ない。ASUSが挑戦するだけのことはある、非常に挑戦的で革新的な製品であることは間違いない。

【3DMarkの結果】
【温度】

清水 貴裕

ASUS ROG POSEIDON-GTX780-P-3GD5