特集、その他
台湾最大のメモリモジュールメーカー「ADATA」の“今”を聞く
DIMMにSSD、USBメモリ、そしてLED照明まで text by 石川ひさよし
(2014/7/1 12:57)
ADATAは、自作業界では以前から名の知れた定番メモリメーカーだ。
DIMMはもちろん、最近ではUSBメモリやSDカード、SSDでも製品を展開、購入しやすいリーズナブルな製品を中心に展開している、といったイメージだろうか。とくにメモリに関しては、地方店舗や家電量販店で見かけることも多く、実際に使用されている方も多いはず。
そんなADATAだが、実は、台湾のメモリモジュールメーカーでもかなりの大手。たとえば、2013年には台湾メモリメーカーのなかで最大の売り上げを記録している。
「そこまで大手のメーカーだったの?」と驚く人も多いと思うが、今回、COMPUTEX TAIPEI 2014に合わせ、現地の担当者にインタビュー、製造工程などを見学する機会を得た。日本では意外に知られていない、「ADATA」という会社のポイントや、今後が気になるDDR4 DIMMやM.2 SSDの話など、様々な話をお伺いしたので、是非参考にして欲しい。
「自社ブランド」「OEM」「組み込み向け」の3本柱「実はADATA製」も意外に多い?
ADATA本社は、台北の南、新北市中和区にあるビジネスオフィス団地の一画にある。そして、歩いて数分のところにある別のビル内に台湾工場を構えている。また、このほかに中国の蘇州にも中国工場を構えており、2つの工場で製品の製造を行っているという。
まず、メモリモジュールに関しては、同社のDennis氏に話をお伺いした。
――ADATAではどのようなメモリを製造しているのでしょうか
[Dennis氏]ADATAのメモリは、自社ブランドで販売しているコンシューマ向け製品と他社ブランドで販売されるOEM製品、そして有力PCメーカーに納品している組み込み向け製品の3タイプを製造しています。
特に数量が多いのは組み込み向けで、世界的な有力メーカーの厳しい要求を満足させている、という点は是非みなさんに知っていただきたいと思っています。
また、「OEM向け」という点では、「他社ブランドで販売されているメモリモジュールでも、実はADATA製」といったこともございます。メーカー名は控えさせていただきますが、製造キャパシティがご想像いただけるかと思います。
なお、日本向けを含む、自社ブランドの製品は主に台湾工場で、組み込み向けの製品は主に中国工場で生産しています。いずれも品質は共通で、高いレベルを保っていると自負しております。
――ADATAではメモリモジュール製造に際し、どのような点に注力されていますか
[Dennis氏]メモリモジュールの製造では、何より安定性や信頼性の向上に注力しています。
開発段階では、チップからモジュール化までの間で何か問題が生じた場合には、チップテストの段階まで遡って再テストを行っています。こうした取り組みにより、安定した動作の、信頼性の高いメモリモジュールを開発、製造しています。
また、製造の各工程でテストを行ない、さらに、出荷前にもテストを実施することで、高品質の維持に努めています。各工程のなかで問題が生じた際にはそれをフィードバックし、どこに問題があるのかを分析、改善しています。
全て自社内で行っているため、こうした改善に対して、素早く対応することが可能です。
また、出荷前のテストでは、完全なPCシステムとして、マザーボードにメモリを挿してテストしています。自社開発のテストプログラムはユーザーの使用環境をシミュレートしており、3Dゲームなど28ものパターンを実施、製品によって20分から1時間かけて行います。
こうしたテストでは、常にワーストケースを想定していますので、メモリスロットの上にはカバーをかけて熱を逃げにくくし、ヒートシンクもない状態でやっています。
「世界最高速」のDDR3-3100も出荷中
――最近ではOCメモリでもアグレッシブなクロックの製品をリリースされていますが、こうしたOC製品はどのように製造されるのでしょうか
[Dennis氏]OCメモリに関しては、現在DDR3-3100までの製品を製造しており、このDDR3-3100に関しては、量産品としては世界最速のメモリになります。
量産品と言うのは、例えばOCメモリでは高クロックで動作するチップを選別するのですが、膨大な数のチップを扱わなければ量産に足るボリュームを確保できません。特注やスポットではなく、量産品として高クロックなOCメモリを生産するためには、メーカーとしてのメモリモジュールの生産規模が重要と言えます。
これらOCメモリは「XPGシリーズ」としてスタンダードなメモリとは別に展開しています。一般コンシューマの方、とくに日本のお客様はスタンダードなメモリでOCをせず利用されるケースが多いようですが、欧米ではごく一般的に認知されており、気軽にOCを試されています。
現在のPCではIntelの「XMP」というOCメモリのためのプロファイルが用意されており、これを利用すれば、誰でも簡単に、安全にパフォーマンスの引き上げができます。日本市場に向けても「OCを一般コンシューマに」普及させていきたいと考えております。
――OCメモリには各種さまざまなクロックのモデルがありますが、OC初心者にはどのようなクロックの製品がオススメでしょうか
[Dennis氏]現在のオススメはDDR3-2133になります。DDR3-1600が主流ですので、そこからするとクロックもそこそこ引き上げられておりパフォーマンスが向上できることに加え、このあたりのクロックがコストパフォーマンス的に見ても最適だと思います。
DDR4メモリはOCタイプもラインナップ、マザーと同時期に発売予定
――次世代メモリのDDR4に関してはいかがでしょうか
[Dennis氏]次世代のDDR4メモリ(アンバッファド)に関しては、Intelと協業、戦略的パートナー契約を結びまして、積極的に開発を行っています。
そして今回、COMPUTEXのブースで実働デモを行えるようまでになりました。ラインナップでも、DDR4-2133からXPG Z1シリーズに属するOCメモリのDDR4-2800まで、プラットフォームの登場と同時に幅広いラインナップを展開できる準備が進んでおります。
DDR4メモリは、DDR3メモリと比べ、クロックが向上し、一方で駆動電圧は引き下げられています。つまり、高性能化と低消費電力化を両立できるメモリとして規格化されており、将来的にスタンダードなメモリになると考えています。動作クロックに関しては、当初はDDR4-2133からスタートし、将来的にはDDR4-3200まで引き上げられる予定です。
また、DDR4レジスタードメモリに関しては、ひと足先にIntel製品に対応可能となっております。
【SSDについて】
SSDに関しては、Allen氏に説明いただいたが、NANDチップやコントローラチップに関し、様々なサプライヤから供給を受けるマルチサプライヤ戦略をとり、安定した供給と様々なニーズに応えていると言う。
また、R&Dを自社内に置き、試作から量産化まで、様々な段階でテストを実施したり、同時に静電や実使用での耐久性、落下試験や環境試験(塩分や高温、粉塵)といった試験を行ったりしているとのこと。
もちろん、製品出荷段階でも全品テストが行われる。また、高品質という面では、SSDでもICソーティング(選別)を行ない、より品質のよいICをSSDに使用することで一定の品質を維持できるよう努めているとのことだ。
製造過程も見学してみた
さて、その後に工場内部も見せていただいたが、撮影の許可が出たのは一部のみ。
ここでは、そのエッセンス、ということで、主にDIMMとUSBメモリができあがっていく流れを紹介しよう。
なお、実際にはこれらの過程の間にそれぞれ検査工程が入る、というかたちになる。
ちなみに同社は最近、LED照明モジュールにも参入したという。「新事業として、様々な産業を調査したが、“チップを調達して選別し、モジュールを生産する”という点で、メモリモジュールビジネスと同じで、ノウハウが活かせる」のが大きなポイントになったとか。
COMPUTEXでのADATAブースはDDR4やM.2の実働デモで賑わう
さて、そんなADATAだが、COMPUTEX TAIPEI 2014では、ADATAは南港展覧館の1F中央の目立つ一角にブースを構えていた。
ブースの規模も最大級で、その一辺にはデモ機がずらりと並べられ、注目のDDR4メモリの実働デモのほか、DDR3 XPGシリーズの高クロックなOCメモリをさらにOC動作させたデモや、次世代のストレージインターフェースであるM.2やSATA Express対応製品が展示、デモされていた。
DDR4メモリは、製品名が分からないように厳重にカバーが施されたマザーボード上に、CPUを挟む形で2枚ずつ計4枚のモジュールを挿し、Windowsが起動する形でデモされていた。これだけだと、後ろに何か別のPCを隠しているのではと疑ってしまうところだが、CPU-Zを起動した際の表記やUEFI画面などで、確かにDDR4メモリを用いたシステムが起動していると確認できる。来場者の目に触れる形でこうしたデモを行っていたメモリモジュールメーカーは、ADATAのみである。
装着されていたのは、DDR4-2800メモリのXPG Z1で、赤い専用ヒートシンクが特徴。XMP 2.0に対応しており、容量ラインナップには8GB×8枚、8GB×4枚、4GB×8枚、4GB×4枚が予定されているとのこと。PCB基板は2オンス銅箔層を用いた10層構造で、DDR3メモリで一般的な6層/8層基板よりもさらに層を増やしている。
一方、スタンダードなDDR4モジュールは製品展示のみだったが、ヒートシンクの無い従来通りのスタンダードメモリ的な形状だった。こちらはすぐ横にDDR3モジュールが展示されており、端子の形状の違いがよく分かる。DDR4 DIMMは288ピンで、DDR3 DIMMは240ピン。ピンの密度の違いに加え、DDR4側には切り欠き部分に4~5ピンほどの幅でピンの無いスペースが用意されており、ここで判別できる。
M.2に関しては、既に同社もSATAインターフェースの製品はリリース済み。今回新しいのは、PCI Express接続のモジュール「SR1020NP M.2 PCIe」の展示になる。
PCI Express接続のM.2 SSDは、コントローラに「SF373975」を搭載していた。SF3700シリーズ、とくにSF3739は、エンスージアストやバリューエンタープライズ向けのコントローラで、SATA 6GbpsおよびPCI Express Gen2の2/4レーン接続に対応しており、最大容量は2TBまでサポートされる。サイズは目測でType 2280と、M.2スロットを搭載した9シリーズの多くのマザーボードで利用できそうだ。デモ機はGIGABYTEのマザーボード「GA-Z97X Gaming 7」を用いていた。
このほか、SATA Express対応のSR1020も展示。1,800MB/sの公称速度をアピールしていた。