特集、その他
ASUSに聞く「Skylake世代のマザーボード選びのポイント」
~基本は「PRO GAMING」、そしてR.O.G.からスタンダードまで~ text by 清水貴裕
(2015/9/4 17:01)
“Skylake”こと第6世代Core iプロセッサと、対応するIntel Z170/H170/B150 Express搭載マザーボードが出揃った。
直前にWindows 10がリリースされたこともあり、「この先しばらく使える安定環境」を構築するにはベストなタイミングと言えるだろう。
そこで今回は、マザーボードの雄であり、今回も幅広いラインナップを有するASUSTekに「Skylake世代のマザーボード」、特に「ベースクロックOC」の実質的な復活で注目されるZ170搭載モデルの特徴や選び方のポイントをお伺いしてきた。
お話をお伺いしたのは、ASUS JAPANでマザーボードのプロダクトマネージメントを担当する黄 尚哲氏だ。
今回は「Windows 10対応」に全力既存製品も含めた「安心感」を
――Windows 10の登場、そしてSkylakeの発売と今回は矢継ぎ早でしたが、OSとプラットフォームがほぼ同時に更新されたこの状況を、ASUSとしてはどう考えていますか?
[黄氏]まず、OSとプラットフォームが同時に刷新された、というのはとても明るいニュースと考えています。今回はCPU、マザーボードだけでなく、メモリもDDR4へと刷新されていますが、刷新づくめのこの状況を会社としてはチャンスと捉えていて、開発部門から製造部門まで、会社を挙げて全力で動いています。
――Skylakeマザーボードの、Windows 10に対する検証はどうなっているのでしょうか?
[黄氏]スケジュールがタイトだったので、色々苦労はありましたが、Skylake向けの100シリーズマザーボードは、当然Windows 10に対応しています。
その一方で注目していただきたいのが、100シリーズマザーボードのWindows 7に対する対応です。
100シリーズのチップセットを使ったマザーボードは、ドライバの関係で、Windows 7のインストールに手間がかかることがある(USBコントローラのドライバをインストールディスクに適用しておかないと、インストール時にUSBキーボードなどが使えない)のですが、我々は、USBキーボードやマウスを自動でPS/2扱いにエミュレートする機能を搭載し、こうした面倒を一切気にせずWindows 7をインストールできるようにしました。この機能はWindows 7のインストール時に自動で機能し、インストール後は機能しなくなるため、本当に何も気にする必要がありません。
――両者を並行して検証していくことの苦労などはありましたでしょうか?
[黄氏]新プラットフォームのリリースが予想よりも早かった事もあり、かなりタイトなスケジュールでした。
Windows 10の検証が新型マザーの開発や検証と時期的に重なっていたので、本社は火の車だったと聞いています。その中でも優先順位をしっかりと決めて動く事で、新製品だけでなく既存製品のWindows 10対応も現在の水準まで実現できました。
さきほどのWindows 7の話も含めてですが、ちゃんと対応するのは当然として「安心してマザーボードをお使いいただきたい」というコンセプトをできる限り追求しました。一例を挙げますと、本社での検証だけでなくASUS JAPANとしての日本向け追加検証も(正規代理店の)テックウインドさんと共同で実施。日本のみなさんの環境により近く、より素早く対応できるようにしました。
これについては、既存の製品も同様で、「既存の製品をちゃんとWindows 10対応する」ことで、今後に対する安心感も感じていただけると考えています。
――既存製品のWindows 10対応についてはどのようなことをやっているのでしょうか?
[黄氏]8シリーズや9シリーズだけでなく、古い製品だとH61シリーズまで対応を告知しています。
あまり古い製品は「アップグレードインストールのみサポート」とさせていただきましたが、そうでないモデルについては新規インストールもサポートしていますし、ドライバやBIOSの対応状況や、WHQL認証の取得状況をWebサイトで確認できます。これについては、弊社の特設サイト内にWindows 10対応製品のリストを掲載していますので、詳しくはそちらをご覧下さい。
また、各製品のページを見て頂ければ分かるのですが、対応している製品は製品ページに「Windows 10 Ready」のロゴを掲載していますし、既存モデルに関しても「Windows 10 Ready」と書かれたシールを追加で貼って判るようにしていますので、店頭でお求めの際も安心して頂けると思います。
Skylake向け新型マザーの特徴は?選び方のコツも聞く
――今回の新シリーズのラインナップを一言で説明すると、どんな感じですか?大きな変更点や目玉となる機能などがあれば教えて下さい。
[黄氏]まず大きく変わったのがデザインです。
スタンダードシリーズは、好評だったX99シリーズの白と黒を基調としたものに変更されていますし、R.O.G.シリーズも黒と赤のカラーリングから黒と灰色を中心としたものに変更されました。特にR.O.G.製品のデザインやカラーリングは社内でもかなり評判が良いです。
デザインに関してはかなり力を入れておりまして、台湾本社にデザインセンターを設置しています。
例えば、私が以前所属していた液晶モニタ関連の部署での出来事があります。デザインに凝った極薄ベゼルが特徴のMXシリーズという液晶モニタのシリーズがあったのですが、これが社内での予想に反してかなり売れました。こうしたことも、弊社が製品開発の中で「デザイン」を重視していることで起きたことだと思っています。
また、「普及価格帯のゲーミングマザーボードを」という声に応えるべく、これまで好評だった「PRO GAMER」モデルを昇華した、「PRO GAMING」シリーズを追加しました。
実は、スタンダードシリーズの看板モデルだった“PRO”というグレードは今回、Z170モデルにはないのですが、この「PRO GAMING」はその代わりとなり得る「実装と価格のバランスが良いモデル」であり、ゲーム用途を重視しない、普通のユーザーさんにもお勧めできる製品です。
――なるほど、その“PRO GAMING”シリーズの特徴やお勧めな理由を教えて下さい。
[黄氏]“PRO GAMING”シリーズは、Z170の「Z170 PRO GAMING」とH170の「H170 PRO GAMING」の2つがありますが、基本的な特徴として、高音質なオーディオ機能“SupremeFX”やIntel製のLANコントローラ、高耐久な実装部品を採用した事によるタフさなどがあります。ゲーマーは音を気にしますし、LANの品質ももちろん重要、そして安定性は言わずもがな、というコンセプトです。
また、メモリを使ったSSD/HDDキャッシュ機能「RAM Cache」も用意し、大容量のDDR4メモリを搭載しても十分に活用できると考えています。
ゲーム用と謳われている製品ではありますが、こうした実装と価格のバランスはとてもいいので、一般のユーザーにもお勧めです。
ハイエンドの「Z170-DELUXE」は、非常に多くのデバイスや機能を搭載した製品ですので、“ハイエンドの「Z170-DELUXE」ほどの機能は必要ないが、「Z170-A」や「Z170-K」では物足りない”という方には良い選択肢になると思います。
――今回のラインナップされている製品のシリーズ毎の主な特徴を教えて下さい。
[黄氏]ではまず、R.O.G.シリーズからご説明します。
もはや説明不要かもしれませんが、こちらはゲーマーやオーバークロッカーをターゲットにしたシリーズです。ゲーム向けの高音質サウンド機能や高品質なLAN機能に加えて、オーバークロック向けの屈強な電源回路を搭載しているのが特徴です。オーバークロック向けやゲーミング向けの様々な細かい設定や、実験的な(先進的な)機能も多数搭載しています。
新しい機能の多くは、まずR.O.G.で実装され、その一部が他のクラスにも波及していく、ということが多いので、品質の高さや先端機能に興味のある方はぜひこちらを選んで欲しいと思っています。
次にTUFシリーズですが、こちらは耐久性の高さに特化したシリーズです。
24時間365日の連続稼働にも耐えうる耐久性を実現するために、コンデンサやチョークコイル、モスフェットのなどの実装部品の品質にこだわり、サーバーマシン並みの耐久性を実現しているのが特徴です。
具体的な製品については、残念ながら、現時点ではお話しすることができないのですが、それほど遠くないうちにご紹介できると思います。
新設されたPRO GAMINGシリーズですが、こちらはゲーマーをターゲットにしたシリーズになっております。R.O.G.シリーズに搭載されているゲーム向けの機能を受け継ぎつつ、ゲームに不要な機能が省かれているので、コストパフォーマンスが高くなっています。コストパフォーマンスの高いゲームPCを組みたい方には一押しのシリーズです。
スタンダードシリーズは扱い易さ抜群、汎用性の高さが売りのシリーズです。強力なファンコントロール機能や、ワンクリックでOC設定、ファン設定が行える機能などを備えているので、初心者から経験者まで多くのユーザーにお勧めです。
――今回、メモリはDDR4とDDR3が使えますが、これらについてはどうお考えでしょうか?
[黄氏]DDR4メモリはパフォーマンスも良く、価格も大きく下がっているので、基本的にはDDR4対応モデルを中心にラインナップしました。DDR3モデルは、H170で2モデル、B150で1モデルご用意しました。型番に「D3」と入っていますので、識別は簡単かと思います。
――各シリーズのお勧めモデルを教えて下さい。
[黄氏]まずはZ170チップセットでお話させていただければと思うのですが、スタンダードシリーズのお勧めモデルは2つあります。
コストパフォーマンス重視の場合、これは「Z170-A」がお勧めです。ミドルクラスのモデルではありますが、M.2やNVMe SSDを利用したPCI Express RAID、Type-AやType-C型のUSB 3.1などの最新の機能を利用して頂けますし、電源回路の設計もしっかりとしています。
一方、「とにかく良い物が欲しい方」や、100シリーズの新機能を余す事なく体感したいという方には、機能満載の「Z170-DELUXE」がなんと言ってもお勧めです。M.2からU.2の変換に対応した「Hyper Kit」、M.2 SSDを取り付けた状態でPCI Expressスロットに挿して使用する「Hyper M.2x4ミニカード」が付属している他、USB 3.1コネクタが合計6基も搭載されています。
R.O.G.シリーズは3モデルありますが、ゲーム中心の使い方の場合は「MAXIMUS VIII RANGER」、さらなるオーバークロック時の安定性も求める場合は「MAXIMUS VIII HERO」を選んで頂くといいでしょう。
高性能かつコンパクトなゲームマシンを組みたい場合は、R.O.G.シリーズの機能をmicroATXサイズの基板に凝縮した「MAXIMUS VIII GENE」が最適だと思います。
オーバークロックをされない方や、ライトなオーバークロックに留める場合はPRO GAMINGシリーズの製品がお勧めです。R.O.G.シリーズ譲りのサウンドやLAN機能を搭載しているので、ゲームメインの使い方をされる方にジャストフィットする製品だと思います。
「ASUS独自要素」も多数搭載「CPU取り付けアダプタ」にOC向けの「PRO Clock」チップ、UEFIからネット接続→直接BIOS更新も
――さて、個々の製品を見ていきたいのですが、「CPU取り付けアダプター」という付属品がついているモデルがありますが、なぜこのアダプターが付属することになったのでしょうか?
[黄氏]これまでの統計上、「CPUを落としてソケットを傷つけてしまった」という人は一定数いらっしゃるのですが、Skylakeの基板はこれまでのCPUの物よりも薄くなり、掴みにくくなっています。
取り付け時に落下させる危険性がこれまでよりも高くなりましたので、CPUの取り付けをより安全、かつ確実にするためにご用意しました。「このアダプタにCPUを乗せ、アダプタをそのままソケットに置き、そのまま固定する」という判りやすい使い方ですので、初心者の方も経験者の方も安心してCPU装着・交換が行えます。
付属しているのは、大部分のZ170モデル(Z170-K、Z170M-PLUSを除く)です。
――なるほど、もう一方のウリが新搭載の「PRO Clockチップ」と聞きましたが……
[黄氏]「PRO Clockチップ」とはCPUのベースクロックを生成するクロックジェネレータの事です。Skylake世代になり、クロックジェネレータはマザーボード上に実装することになりました。これは各社とも同じですが、弊社の製品はひと味違います。
我々の製品には、CPU電圧やオーバークロック関連制御を行う「TPU」(TurboV Processing Unit)と電源回路や電力供給の制御を行なう「EPU」(Energy Processing Unit)が既に搭載されていますが、これに加えてクロックジェネレータである「PRO Clockチップ」を搭載し、この3者が連携動作します。
結果として安定性やオーバークロック耐性を高める事に成功しています。PRO Clockチップも、CPU取り付けアダプタ同様、大部分のZ170モデル(Z170-K、Z170M-PLUSを除く)が搭載しています。
――搭載デバイスなどで力を入れていることはあるのでしょうか?
[黄氏]まずUSB関連ですと、新規格のUSB 3.1や、リバーシブルのType-Cコネクタの搭載に力を入れています。ストレージの面だとM.2スロットに力を入れています。最大32Gb/sという高速な転送速度に対応する、PCI Express 3.0x4接続なのがポイントです。
――その他の新機能について教えて下さい。
[黄氏]ソフトウェア面では、「R.O.G. RAMCache」と「RAM Cache」という新しいソフトをR.O.G.シリーズとPRO GAMINGシリーズに付属させました。
これは、メインメモリの一部をSSDのキャッシュとして割り当てる事で、ストレージの速度を高速化させる機能です。R.O.G. RAM CacheはR.O.G.向け、RAM CacheはPRO GAMING向け、機能としてはほぼ同じです。
このほか、ビジュアル面の新機能にも注目して頂きたいです。R.O.G.マザーやスタンダードのフラッグシップモデルである“Z170-DELUXE”には“Lightning Control”というPCHクーラーのイルミネーション機能が搭載されています。256色のカラー選択が可能なだけでなく、音楽に合わせて点灯させる事もできます。
それ以外のモデルでは、私の一押しモデルであるZ170 PRO GAMINGにも“LED CONTROL”というイルミネーション機能が搭載されています。製品名のシルク印刷の下の部分と、オーディオ回路部分のLEDを点滅させる事が可能です。
こういったイルミネーション機能は最近流行しているケースMODなどのカスタムPC向けに実装された機能です。
そのほか、UEFIについても強化しました。
特に注目して頂きたいのがUEFIアップデート機能のEZ Flash 3で、UEFIからインターネット経由でのアップデートが可能となりました。USBメモリに保存することなく、簡単に最新バージョンに更新する事が可能です。
このほか、UEFI画面でビデオカードの動作状況を表示できる「GPU Post」やストレージのS.M.A.R.T.情報を表示させる機能もR.O.G.シリーズやZ170-DELUXE、Z170-Aで実装、Z170-KやZ170M-PLUSでも最新BIOSで搭載しました。これらは、前シリーズでもR.O.G.や一部のハイエンドに搭載していたのですが、好評でしたので、今回より搭載モデルを増やしたかたちです。
――新機能中心にお話を伺いましたが、既存機能で変更になったものや強化されたものはありますか?
[黄氏]まずご紹介したいのがファン制御機能の「Fan Xpert 3」に簡易水冷クーラーのポンプを制御する機能が実装された事です。
全てのモデルではありませんが、「W_PUMP」と書かれている簡易水冷クーラーのポンプ専用のピンヘッダがマザーボード上に搭載されています。こちらにポンプを接続して頂くと、UEFI上やWindows上からポンプの流量調整が可能になります。
サウンド機能についても、R.O.G.シリーズに搭載されているサウンド機能が「SupremeFX 2015」へとアップデート、より高音質になりました。
ハードウェア面での強化ポイントですが、単体DACやOPAMPが実装されたほかに、ポップノイズ防止リレーやジッター排除のためのクロックジェネレータも実装されています。それだけでなく、コンデンサがELNA製からニチコン製に変更されていたりもするので、かなり大掛かりなアップデートになっています。
その一方、スタンダードシリーズの「Crystal Sound 3」もアップデートしました。ノイズ低減のためのオーディオ用プレレギュレーター回路が実装され、音質が向上したのが特徴です。
長期的に使うモノだからこそ「安心」な製品を
――なるほど、それでは最後に何かありますでしょうか?
[黄氏]Windows 10は今後、長期間にわたってPCのOSの基本となる、と言われています。
PCのアップグレードや更新は、なかなかタイミングが難しいものですが、「長期間使える」というOSが出て、同時にPCのプラットフォームが変わる、というのは皆さまにとっても踏ん切りがつきやすいと思います。そうした中、皆さまに選んでいただける、高品質、高機能、そして「安心感のある」製品を提供できたと自負しています。
皆さまよろしくお願いいたします。
――ありがとうございました
■PRO Clockチップの実力はいかに?ベースクロックOCに挑戦
「安心感」という話の後にはなるが、今回の100シリーズでは「ベースクロックOCの可能性が大きく広がった」のも大きなポイントだ。
というのも、Sandy Bride以降のCPUでは、クロックジェネレータがチップセットに内蔵されており、ベースクロック変更によるOCが難しくなっていた。CPUのベースクロックがPCI Expressのクロックと同期していたのが原因で、110MHz付近まで動かせれば御の字といった具合だった。
しかし、Skylake世代ではそのクロックジェネレータが再びマザーボード上に復帰。「PCI Expressクロックの呪縛」から解き放たれた事で、ベースクロックの大幅な変更が再び可能になったのだ。
ASUSTeKのZ170シリーズマザーには、オリジナルの高性能クロックジェネレータである「PRO Clockチップ」が実装されている。最大で400MHzまでの設定が可能と謳われているが、常用する事を考えると安定して使えるのはどのラインなのかは気になるところ。同社一押しのゲーミングモデルである「Z170 PRO GAMING」を使って、ベースクロックを変更するOCに挑戦してみた。
まずは、ベースクロックを120MHzに設定して起動するかをテスト。ベースクロックを上げる事で、CPUやメモリクロックが高くなるので、CPUやリングバスの倍率、メモリクロックを下げる。CPUの倍率は37倍、リングバスの倍率は34倍、メモリクロックは使用メモリのXMP設定値であるDDR4-3000MHzに設定した。
120MHzではすんなりと起動してきた上に、CINEBENCH R15のマルチスレッドテストも危なげなくパス。さらに上を目指すべく、ベースクロックを125MHzに設定。CPUの倍率は36倍に設定し、リングバスの倍率は32倍に設定した。
125MHzでも軌道に成功しCINEBENCH R15のマルチスレッドテストをパス。更に上を目指すべく130MHzに設定するも、POST中にフリーズしてしまう。ここから上を目指すとなると、アンコア電圧の昇圧などの調整が必要になりそうな気がする。
KシリーズのCPUはもともと倍率変更でのOCが可能だったが、ベースクロックが柔軟に変えられるようになったことで、OCも柔軟になった。また、“倍率ロックモデル”のCPUと組み合わせることで若干のOCができる可能性もありそうだ。
OC機能を備えるZ170マザーボードを選択する理由が、1つ増えた、といっても間違いないだろう。
[制作協力:ASUS]