【 2010年12月18日号 】
[不定期連載]PCパーツ最前線:
Shuttleに聞く“帰ってきたShuttle”
〜復活のベアボーンPCメーカー、年末はファンレスAtomで勝負〜
 自作PCユーザーにはコンパクトPC、とくに「キューブタイプベアボーンPC」の代名詞として広く認知されている老舗PCベンダーのShuttle。

 昨年あたりからは登場する新製品も少なく、元気がなかったメーカーだが、ここへきて復調の兆しが見られる。そんな同社の動向と、今後の展開について、日本Shuttleの伊藤氏にお話を伺った。


聞き手:保坂 陽一
協力:日本Shuttle、ファスト
実施日:2010年12月2日



 
ドン底からの復活
この1年のShuttleはどうなっていたのか


日本Shuttle
セールス&マーケティング ディレクター
伊藤 賢氏
―――いきなり不躾で申し訳ありませんが、今年の前半はどうなっていたのですか? 1月のCESで発表されていたH55のキューブベアボーンなども一向に発売されませんでしたね。

[伊藤 賢氏(以下、伊藤)]はい、全くそのとおりで、ツラい時期が続きました。

 ことの始まりは去年(2009年)の8月あたりまでさかのぼるのですが、あの頃はIONチップセットの小型マシンが市場で大人気だったにもかかわらず、弊社にはIONを搭載した製品が全くありませんでした。

 IntelのAtomプロセッサ登場以降、Mini-ITXフォームファクターの製品が一気に増えてきて、小型PCで勝負する弊社として危機感はもちろんあったのですが、とくにこの時期にあれよあれよと言う間に他社にシェアを持っていかれまして。そうした製品に対して、弊社のキューブマシンは割高感が出てしまったのも厳しかったですね。



2006年発売の「XPC X100」。この頃としてはかなりの小型で、モバイルCore 2 DuoやGPUにMXMインターフェースを採用したRadeon X1400を搭載。デスクトップタイプだが、その中身はノートPCの技術でできている
―――それでも、すぐに新製品投入といかなかったのは?

[伊藤]実はこの時期に本社のCEOが変わったというのが大きな要因です。新CEOはもともと弊社に関わりのある人間で、ODM/OEMなどのノートPCビジネスで実績のある方です。国内でも好評をいただいた「X100」の開発に関わるなど、そう遠くない関係でした。

 合理性や生産性を追求するノートPC畑の人間からすると、同じキューブタイプでありながら、複数の異なるプラットフォームを用意していた、それまでの弊社のキューブマシンは、メスを入れたいポイントとになりました。とりあえず、新製品投入よりも現在持っている在庫の整理から始めろ、と。ここでキューブケースも一度リセットするぞ、ということになったんです。昨年8月から12月あたりは、赤字も覚悟でかなりの在庫を売り捌きました。



G41チップセット採用の「XPC SG41J1」。LGA1156のCore iシリーズがメインストリームとなった時期に、このLGA775対応モデルしかなかったのは厳しい。ただ、汎用性は高く、手持ちのCPUを流用して小型マシンを構築したい人にはピッタリである
―――そして、今年になって登場したキューブマシンはシャーシ統一になったわけですね。

[伊藤]1月のCESで展示していたとおり、今年の第1四半期には新シャーシのラインナップで攻勢をかけるぞと意気込んでいたのですが、1から新コンセプトのキューブを作りこまなくてはならない上、ノートビジネスという新事業の立ち上げもあって、深刻なリソース不足に直面しました。結果的に2月にようやく出せたのが「SG41J1」(G41チップセット採用のエントリーモデル)の1機種でした。

 ここからが本当にツラい時期の始まりでして、何せ大量に在庫を捌いた後なので商品がない。あるのはSG41J1と、去年発売した「SA76G2」(AMD 760Gチップセット搭載でこちらもエントリーモデル)、後は液晶一体型の「X50」シリーズくらいでした。SG41J1はお手頃価格でそれなりに売れたのですが、この時期に弊社支社史上、3カ月連続で売り上げワーストを記録したりもしました。本当に新製品として表に出せるのがSG41J1くらいしかなかったので、もう「株式会社SG41J1」に社名変更したほうがいいんじゃないか、なんて声も出たくらいです(苦笑)

―――その次に出たのはX58チップセットの「SX58J3」ですね。

[伊藤]それをようやく出せたのが6月になります。丸半年後ですね。

 この頃ようやく、リソースがこちらにも割いてもらえるようになりまして、新製品を考える余裕も出てきました。そこでキューブタイプに付帯するものとして、新しい製品も作ろうということで誕生したのが、超小型でファンレスの「XS35」です。

 同時期の8月に発売したH55チップセットの「SH55J2」と合わせて、大変好評をいただいております。XS35は1万5,000円前後、SH55J2は最近2万円台前半で売られるようになったこともあり、以前あった割高感も払拭できているのではないかと。一時期は国内ベアボーン市場で22%まで落ち込んでいたシェアが、現在では65%くらいまで一気に回復しています。

―――それはものすごいV字回復ですねえ。



 
単なるファンレスに留まらない
徹底的にこだわったファンレスAtomキット「XS35」


ファンレス小型ベアボーンPC「XS35GT」。Atom D510+IONのいわゆるION2構成だが、基板が分離した構造になっており、ION搭載ボードを取り外したものが「XS35」ということになる

冷却のためのメッシュパネルは両サイドだけではなく、天板もこのとおり。ヒートパイプを使ってこの天板部にヒートシンクを配置しているが、地金が見えるとデザイン的に納得いかないということで、ヒートシンクもブラック塗装されている
―――しかし、XS35のファンレスというのは、いかにAtomマシンとしてもかなり思い切った選択だったと思うのですが。

[伊藤] 今現在、イチオシといえるのがこのXS35/GTなんですが、これは「小型=キューブ」という考えをやめて、もっと魅力的な新しいジャンルを作ろうというところからスタートしました。

 単に超スリムなマシンであれば、他社がすでに出していますから。それならうちは使いやすさ優先で光学ドライブは搭載できるようにしよう。メモリカードリーダーも欲しい。それだけではインパクトがないので、じゃあファンレスにしてはどうか、という感じですね。

 ファンレスにするには当然冷却を確保しないといけないので、出来上がった筐体にどんどん穴を開けていきました。すると、穴を開け過ぎると強度が落ちる上に、塗装もうまくいかない。ブラックボディの隙間から銅製のヒートシンクが見えると、モアレのように見えてしまったり。半年も引っ張っておいて出る製品が、こんなのじゃダメだ!と、試行錯誤が続きました。

 現在ではこうした細かい日本ならではの視点、意見が、本社の開発まで届くようになったというのも大きいですね。以前のShuttleは、基本的に本社が作るものを売るというスタンスでしたので、今のように意見が反映されることはありませんでした。今は技術的クレームを本社に集計して、支社を交えて、製品を作るという体制ができています。最近では本社のホームページの内容変更まで、支社の意見がスムーズに通りますよ。



両サイドパネルは背面のネジ1本で簡単に取り外しが可能。メンテナンス性でもShuttle製品の中で随一、と胸を張る伊藤氏。シンプルな製品に見えるが、メッシュパネルは強度を上げるために3層構造となっているなど、細かいこだわりの塊である
―――XS35の内部はかなりアクロバティックな作りですね。

[伊藤]空冷を追求した結果、両サイドから冷却するという形になり、ION搭載モデルの「XS35GT」ではAtomの乗ったメイン基板とIONの乗った基板が左右に配置され、それをケーブルで接続するという感じになっています。

 この辺りはノートPC開発部隊の力が大きいですね。メッシュパネル一つ取っても、アイディアの塊でして、補強を入れて三層構造になっていたりと、非常に手間がかかっています。メッシュだらけにしたおかげで内部が透けてしまうため、内部のヒートパイプやヒートシンクを黒に塗ったり、と細かいところまでこだわりにこだわりました。ネジ1本だけで両サイドパネルの取り外しができる辺りもポイントです。

 おかげさまで発売時から大反響をいただいたのですが、身内から見ても惚れ惚れするマシンに仕上がったなと思っています。ファンレスにしたおかげで、実は法人様の引き合いも多いんですよ。



右側面にAtom D510+NM10チップセットを搭載したマザーと、DDR2 SDRAM SO-DIMMスロット、2.5インチドライブベイを搭載。主要部分はこちらに集約した形だ。マザー全体が薄型のヒートシンク覆われており、これもデザイン上のこだわりでブラック塗装されている

左側面の薄型ヒートシンクを取り外したところ。写真の右手前の基板がGPUとして使用するION搭載ボードで、反対側にあるAtomマザーとケーブルを介してPCI Express x1接続される仕組みだ。このボードを持たない「XS35」では、Atom D510内蔵のグラフィックス機能を使用することになる

メモリと2.5インチドライブに、スリム光学ドライブを取り付ければ完成。2.5インチドライブはトレイにネジ止めして挿し込む。サイドパネルが外しやすいので、取り付けも簡単だ。冷却や性能面を考えると、SSDの選択はかなり理に適っているのではなかろうか


スリム光学ドライブを搭載するためのベイだが、ここを2.5インチベイとして活用するオプションが用意されている。が、発売が遅れており、ユーザーの間ではすでにほかのパーツを流用して搭載している人もいるのだとか。
―――業務用途と考えると、どうしても動作温度の高くなるファンレスはあまり好まれない気がするのですが?

[伊藤]:それよりもファンレスであることで、メンテナンスフリーになるというのが大きいのです。

 確かに一般的なデスクトップPCからすると、CPUの動作温度が60℃オーバーというのは明らかに高いのですが、ノートPCからすると十分許容範囲です。その辺りの設計はうちの開発の得意とするところで、販売店様にもご理解を示してもらっています。高負荷時ではCPUが80℃に達するのですが、「ファンレスならそんなものだよね」みたいな。

 実際、そうした熱による動作不良のクレームは来ていません。一番多いクレームは当初から発売予定だった、スリム光学ドライブベイに2.5インチドライブを取り付けるためのオプションや、VESAマウンタの発売が遅れていることでして(苦笑)、大変申し訳なく思っております。これは年明けにはアナウンスできると思いますので、よろしくお願いいたします。


〜試しに温度を測ってみた〜
 試しに動作時のCPU/GPU温度も計測してみた。アイドル時で60℃オーバーというのは、一般的なデスクトップPCからすると、確かにかなり高い(Atom D510はそれなりのクーラーを付ければ30℃台までは簡単に下がる)。しかし、Atomの動作温度としては十分許容範囲とのこと(Atom D510の動作温度は0〜100℃)。ノートPCなどからするとむしろ冷えているほうだとか。

 ちなみに、計測ではかなりの高温に見えるが、内部のヒートシンクと筐体外装は抵触しておらず、動作中に外から触れてもさほど熱くはない。もちろ ん冷却のためには周囲の空間を確保したいところであるが、それほど神経質になる必要はなさそうだ。

【測定環境】
本体:XS35GT、メモリ:PATRIOT PSD22G8002S(PC2-6400 DDR2 SDRAM SO-DIMM、2GB)×1、SSD:PATRIOT INFERNO PI100GS25SSDR(Serial ATA 2.5、100GB)、OS:Windows 7 Ultimate 64bit版
【検証内容】
アイドル時はOS起動から10分後の値、高負荷時はPCMark Vantageを動作させた際の最高値。温度測定にはHWMonitor Pro 1.10を使用。室温25℃。

上記構成でのWindows 7のエクスペリエンスインデックスの値。筆者としては、3点がギリギリ快適に使えるラインという認識だが、ION搭載品で3.2ほど。他のAtom製品同様、用途と性能は把握しておくべきだろう。ここではPATRIOTの2GBメモリ(PSD22G8002S)と100GB SSD(INFERNO PI100GS25SSDR)を使用しているが、SSDの快適さにはかなり助けられる


この薄さながら、USB 2.0ポート4基に、Dsub 15ピン、HDMI出力などを装備。eSATAポートなどは備えていないが、利便性との取捨選択でこの構成になっているとのこと
―――ところで、「XS35」とION搭載の「XS35GT」ってどっちが売れてるんでしょうか?

[伊藤]もうAtomマシンはION搭載じゃなきゃ売れない!みたいな時期もあったので、XS35は必要ないのではという意見もあったのですが、代理店と改めて協議した結果IONなしでもいけると判断して出すことにしました。

 結果的に、XS35GTのほうが確かに売れているのですが、それでも1.3倍程度で実はそんなに差がありません。これはユーザーのAtomの性能に対する認知度の高まりがあると考えています。Atomは低発熱、省電力ですが、性能も低い。IONチップセットを搭載することで、BD再生などが可能になるといったメリットは確かにありますが、そうした使い方をしなければIONを搭載していても、していなくても、実はそんなに使い勝手に差はない、と。ネットトップやファイルサーバとしては十分ですし、5,000円差も大きいので、選ぶ際に判断もしやすいのではないかと思います。

 そうした搭載スペックの選択としては、USB 3.0ポートやHDMI端子の有無と言った流行的なものもしっかり考慮しています。実際、今のキューブにこの機能は必要なのか、それを付けることで価格をいくら上げなくてはいけないのか、といった具合に。結果として、USB 3.0は発売時期の兼ね合いもあって今回は非搭載、HDMI端子は搭載、という形になっています。

 弊社の製品ラインナップは多くはありませんが、それだけに一つ一つをしっかりと吟味することができます。マザーボード単体ではなく、「ケースも含めたベアボーン製品」としての魅力をもっと押し出して行きたいですね。来年はAtom D525搭載バージョン(DDR3 SDRAMモデル)も予定していますが、このX35のスタイルの製品は当面継続して販売していきます。


無線LAN機能とメモリカードリーダーを標準で搭載しているのは、値段的に見てもかなり破格である。バックアップ電池の黄色いカバーが外から透けて見えるのはご愛嬌?

付属のACアダプタは40Wと電源出力は小さめだが、その分コンパクトなものとなっており、取り回しやすい

 
より現実的に、魅力的な新製品を
ホットなタイミングで投入



今年発売されたキューブ3製品のケースは、Mini-ITXマザーへの換装が可能だが、旧来のエントリータイプで使われていたキューブケース(写真左:SA76G2などはこれである)と比較すると一回り大きい。フロントベイも旧型のほうが汎用性が高い。この辺りは目下協議中とのことだが、より使いやすいものが近々登場するのは間違いなさそうだ

「ICE Technology」という名称で知られる同社のキューブマシンではおなじみのヒートパイプ型クーラー。マザーに合わせた専用設計となってしまうが、汎用クーラーにはない冷却性能と静音性を両立ができている。こうした仕組みの無い、汎用Mini-ITXマザーと汎用CPUクーラーの組み合わせによるサーマル問題は、これから表面化してくるのではないか、と伊藤氏は懸念していた
―――これから発売される新製品はほかにどんなものが? あと、Mini-ITXへの対応などはどうなるのでしょうか?

[伊藤]:来年は打って変わって、ホットなタイミングでホットな製品を投入していきます。すでにSandy Bridge搭載のキューブベアボーンも開発が済んでおり、対応CPUなどの登場に合わせて素早く市場に出荷することができると思います。

 これまではASUSTeKさんやGIGABYTEさんからマザーボードが発売されて、しばらくして弊社の製品が登場するという感じでしたが、これからは同列同時期に購入を比較検討してもらえるように努めてまいります。

 Mini-ITXに関しては、現在のSG41J1、SH55J2、SX58J3の3兄弟が、マザーボードの換装に対応していますが、Mini-ITX対応としたことで「Shuttleのキューブ」としての魅力が薄れた部分もあると感じています。対応のために、せっかくのボディが大きくなってしまったり、フレームを薄くせざるをえなかったり。また、アルミシャーシからスチールシャーシとしたことや、ドライブベイの汎用性の低さなども、従来のファンの方から残念だという意見を数多くいただいております。来年は5インチベイにフタのないモデルも帰ってきますので、ご安心ください。

 そのほか、Mini-ITXには真似のできない拡張性や、ヒートパイプによる背面冷却クーラーの優秀性など、弊社のキューブマシンのよさを見直しつつ、より魅力的な、持つ喜びを感じてもらえる製品を投入してまいりますので、ご期待いただければと思います。私個人としても、来年に対する期待感はこれまでにないものとなっております。

―――新製品、楽しみにしています。今日はありがとうございました。


□日本シャトル
http://www.shuttle-japan.jp/
□ファスト
http://www.fastcorp.co.jp/
□XS35GT
http://www.shuttle-japan.jp/barebone/XS35GT/index.html

Shuttle XS35GT

※特記無き価格データは税込み価格(税率=5%)です。