【 2012年7月10日 】 | |
Ivy Bridge世代のXeonを“殻割り”してみた Core i7との違いは?動作検証から見る殻割の意義 Text by 瀬文茶 |
先日PC Watchに掲載したCore i7-3770Kの殻割り検証記事で、Ivy Bridge世代のCore シリーズのCPUコアとヒートスプレッダ間に塗布されたグリスが、熱輸送のボトルネックとなっていることを紹介した。
Ivy Bridg版Xenoの「Xeon E3-1275V2」
テストにはリテールパッケージ品を使用した筆者はその記事の中で、IntelがTIM(Thermal Interface Material)をグリスからはんだに戻す可能性は低いと予想した。しかし、同じIvy Bridgeでもコンシューマ向け製品より高い信頼性が求められるXeonは、「グリスではなくはんだを採用しているのではないか」との憶測がなされているようだ。そう言われると、「絶対に無い」とは言い切れない話である。
そこで今回、真相を確かめるべくIvy Bridge世代のXeonである「Xeon E3-1275V2」を用意した。これを殻割りし、Ivy Bridge世代のXeon E3シリーズが採用したTIMを確認する。
なお、TIM(Thermal Interface Material)とは、発熱源と放熱ユニットの接触面に存在する微細な凹凸を埋め、熱の伝達をスムーズにすることを目的とする材料の総称だ。代表的なものとして、サーマルグリスや熱伝導シートなどが挙げられる。
CPUとヒートシンクの間をはじめ、様々な箇所にTIMは塗布されているのだが、今回確認するのは、CPUコアとそれを覆うヒートスプレッダの間に塗布されたTIMについてだ。Core iシリーズに関しては、Sandy Bridge世代では“はんだ”採用し、Ivy Bridge世代では“グリス”が採用されていることを確認している。
Xeonもヒートスプレッダの下はグリス 今回、殻割り用に用意したXeon E3-1275V2は、LGA1155対応のXeon E3シリーズ製品であり、定格3.5GHz、Turbo Boost時には最大3.9GHzで動作する4コア8スレッドCPUである。動作クロックやキャッシュ容量をはじめとする基本的なスペックは、コンシューマ向け製品のCore i7-3770に相当する。その他、メモリコントローラのECCメモリ対応や、内蔵GPUのIntel HD Graphics P4000など、Xeonならではの特徴を備えている。
それでは早速、殻割りの結果から紹介する。下掲の写真がヒートスプレッダを除去したXeon E3-1275V2である。
殻割り後のXeon E3-1275V2
Xeon E3-1275V2に使用されているグリスご覧の通り、Xeon E3-1275V2のTIMにもグリスが採用されていた。見た感じでいえば、塗布されているグリスはCore i7-3770Kに採用されていたものと同じに見える。Xeon E3-1275V2の結果だけなので、他のXeon E3シリーズが全てグリスを採用しているとは言い切れないが、現時点ではんだ版Ivy Bridgeは存在する可能性は極めて低いだろう。
シール材除去後のXeon E3-1275V2
写真はCore i7 3570Kを割った時の物だが、殻割りは一般的なカッターを用いて行っている
今回、CPU基板にキズを入れてしまったのだが……、幸い動作には支障が出ずに済んだXeonもグリスがボトルネックになっている?
見た目ではCore i7-3770Kに塗布されていたグリスと同様に見えるXeon E3-1275V2のTIMだが、これも熱輸送のボトルネックとなっているのだろうか。殻割り前後のCPU温度の変化を確認してみた。
MAXIMUS V GENEのUEFI画面、CPUはXeon E3-1275V2として認識されている
テストはグリスのかわりにLiquid Proを塗布して行った
比較にはCPU付属のクーラーと、Thermalright Silver Arrow SB-Eを使用している結果を紹介する前に、検証に利用した機材とその動作について触れておきたい。今回、Xeon E3-1275V2を試すにあたって、ASUSのIntel Z77 Expressチップセット搭載マザーボード「MAXIMUS V GENE」を利用した。Xeon E3シリーズへの対応をうたっていないMAXIMUS V GENEだが、テスト時点での公式最新BIOS(0813)では、Xeon E3-1275V2と正常に認識。Turbo Boostなどもスペック通りの動作をしており、定格動作については特に問題は見受けられなかった。
ただし、CPUのオーバークロックについては倍率を35倍までしか設定できないという制限が設けられていた。Turbo Boost時には最大39倍までCPU倍率が引き上げられるXeon E3-1275V2だが、Turbo Boost動作(CPU倍率)の設定変更はできなかった。ベースクロックを大きく上昇させることができないIvy Bridgeでは、CPU倍率変更無しでの大幅なオーバークロックは困難となる。
このCPU倍率設定の制限については、正式対応品ではないMAXIMUS V GENEが原因である可能性も考えたが、後日、Xeon E3シリーズ対応をうたうASRockの「Fatal1ty Z77 Professional-M」で動作確認を行ったところ、35倍以上のCPU倍率を設定しても実際の動作には反映されないことを確認した。
マザーボード2製品の結果だけなので確実とは言えないが、Xeon E3-1275V2はCPU倍率やTurbo Boost時の倍率を調整することができない仕様である可能性は高そうだ。
さて、それではテスト結果を紹介する。テストではCPU付属クーラーとThermalright Silver Arrow SB-E搭載時のCPU温度を測定した。上段が殻割り前で、下段が殻割り後(グリスを取り除きLiquid Proを塗布)のもの。詳細なテスト条件についてはグラフ中に記載してあるので、そちらをご確認いただきたい。
なお、CPU電圧を1.25Vまで昇圧した際の温度データも取得した。これはオーバークロック時にグリスがボトルネックになっている可能性を確かめるためで、オーバークロック以外の目的でここまで電圧を上げる必要はない。
殻割り前後の温度比較温度測定の結果を見てみると、CPU付属クーラー、Thermalright Silver Arrow SB-Eともに、ロード時は大きくCPU温度が低下していることが確認できる。Core i7-3770K同様、Xeon E3-1275V2のCPUコアとヒートスプレッダの間にも、大きな熱輸送のボトルネックが存在することが見て取れる結果である。
殻割りでTurbo Boostの効きは向上するのか? Core i7-3770Kのテスト結果同様、CPUコアとヒートスプレッダ間に塗布されたグリスが、熱輸送のボトルネックとなっていることが確認できたが、はたして熱輸送のボトルネックは、パフォーマンスのボトルネックになっているのだろうか。これを確かめるため、Turbo Boostを有効にした状態で測定したベンチマークスコアを殻割り前後で比較した。
テスト環境には温度差検証と同じ環境を利用し、シングルスレッドテストのSuper PI Mod 1.5XS 32Mと、マルチスレッド対応テストのCINEBENCH R11.5を、殻割り前後で3回ずつ実施してスコア差を比較した。
テストの結果は以上の通りで、殻割り前後で各ベンチマークのスコアに有意な差は見いだせなかった。各テストにおけるスコア差は最大でも1%未満に留まっており、この程度であれば誤差の範疇だろう。熱輸送のボトルネックであるCPUコアとヒートスプレッダ間のグリスだが、定格動作のXeon E3-1275V2にとって、パフォーマンスを低下させるようなボトルネックにはなっていないようである。
熱輸送のボトルネックは存在するが、定格使用時の殻割りはハイリスクローリターン Ivy Bridge世代のXeon E3シリーズも、コンシューマ向けの第三世代Core プロセッサー同様、CPUコアとヒートスプレッダの間に熱輸送のボトルネックが存在した。しかし、それは定格動作において、パフォーマンスのボトルネックとはなっていないようだ。
パフォーマンスのボトルネックとならない以上、Ivy Bridgeを定格動作で運用する場合において、殻割りを行って得られるメリットは、多少の静音化と熱輸送のボトルネックが存在するという気持ち悪さの解消程度だろう。
筆者としては、CPU温度の上昇が原因で常用が困難になるくらいまでオーバークロックを行わない限り、Ivy BridgeのTIMについては気にしない方が良いと考えているが、価値観は人それぞれだろう。CPUの殻割にチャレンジするのであれば、CPU破損のリスクを冒し、リテールパッケージ版CPUに与えられている3年間の製品保証を失効してまで行う価値があるのか、よく検討することをお勧めしたい。
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【2012年5月11日】Core i7-3770Kの「殻割り」で熱輸送のボトルネックを確かめる
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/column/sebuncha/20120511_532119.htmlIntel Xeon E3-1275V2