石田賀津男の『酒の肴にPCゲーム』

XBOX One以降のディスクをデジタル版に変換する施策の裏に、失敗した中古対策の名残が?

 Microsoftは、XBOX OneとXBOX Series Xのディスク版ゲームを、デジタルライセンスに移行するテストを8月31日より開始した。XBOX Insiderプログラムの参加者を対象にしている。

 詳細は公式発表をご確認いただくとして、普通に考えれば、「ディスクがあればデジタルライセンスをもらい放題になるのでは?」という疑問がわく。本稿ではなぜXBOX One以降のディスクをデジタルライセンスに変換可能なのか、技術的な面を解説する。

XBOX One以降のディスクは1枚ごとに個体を識別できる

XBOX One(初期型、Kinectセット)

 先に答えを言うと、XBOX OneおよびXBOX Series Xのディスクには、固有の識別データが記録されているからだ。

 ブルーレイディスク(BD)には、「バーストカッティングエリア(BCA)」と呼ばれる特別な記憶領域があり、ここにディスク1枚ごとに異なる固有のデータを書き込める「プリレコーデッドメディアシリアルナンバー(PMSN)」という仕様が存在する。

 一般には映像データのコピー制御に使われており、映像データが何回コピーやムーブが行われたかを把握するため、ディスク固有の識別データを使っている。BCA領域は一般的な書き込み用ドライブでは書き込みや修正ができない場所にあるため、データがコピーされたかどうかを把握するために使える。

 Microsoftはこの固有の識別データを、XBOX One以降のゲームディスクに導入している。デジタルライセンスへの変換の際には、ディスクの個体ごとの識別データを読み取り、そのディスクのゲームを持っているユーザーのアカウントに、デジタルライセンスが付与される。

 もしこのディスクが他人に渡り、その人が再びデジタルライセンス化の手続きを行うと、ディスクを手放した元の所有者のアカウントからは、デジタルライセンスが消失する。つまりディスクを譲渡した時点で、デジタルライセンスの所有権も移るという考え方だ。

 デジタルライセンスを受け取ってからそのディスクを中古で売ると、そのディスクを買ったユーザーがデジタルライセンス化したタイミングで、元のユーザーはゲームを遊べなくなる。デジタルライセンスを所持し続けたいなら、ディスクを他人に譲渡してはいけない。固有の識別データを持つディスクを、ライセンスの物理的な鍵として扱うわけだ。

大失敗した中古対策プロジェクト

固有の識別データを持つXBOX Oneのゲームディスク

 ここで気になるのが、なぜXBOX Oneのゲームディスクに固有の識別データが導入されているのか、ということだ。「来るデジタル時代を見据えて、あらかじめ備えていた」のだったら格好いいのだが、残念ながらそうではない。むしろ大失敗したプロジェクトの名残だ。

 MicrosoftはXBOX Oneの発売に合わせて、ゲームの譲渡に厳しい条件を設定しようとした。ゲームディスクとアカウントを連携し、一度連携したディスクは簡単には譲渡できないようにする。一定の条件を満たした親しい友人にだけは譲ることが可能な仕組みは設けるが、中古ソフトとしての流通はできない。

 XBOX Oneのゲームディスクは、ゲームをプレイするための鍵であり、データをインストールするためのメディアである。ディスクに固有の識別データがあり、オンラインに常時接続する環境があれば、この仕組みは容易に導入できる。

 Microsoftはハードウェアやネットワークが進化した時代に、ゲームディスクの中古売買を事実上不可能にする施策を取ろうとした。しかしこれは発表とともに大ブーイングを受け、発売前に撤回。現在もXBOX OneやXBOX Series Xではディスクの売買に制限はない。

 この経緯を受けて、XBOX Oneのディスクには固有の識別データが書き込まれている。この識別データは、Microsoftの正規品ディスクであることを示すチェック機構としても機能するので、海賊版対策としては役立っているはずだが、当初の目的は失われた状態だった。

 それが2026年になり、さらに環境が変化してディスクからデジタルライセンスへの移行がより強まった際に、「あの時の固有識別データが使えるじゃないか」となった。これはMicrosoftが発表した話ではないが、時系列を繋ぎ合わせるとこの答えにたどり着く。

 あまり格好いい話ではないが、うまく再利用されてよかった、という話である。

物理ディスクとデジタル、XBOXとWindows PCを跨ぐMicrosoftの戦略

現行機のXBOX Series X(左)とXBOX Series S(右)。Sは光学ドライブ非搭載なので、ゲームディスクはX専用という位置づけになる

 Microsoftは、過去のXBOXゲームをPCで動かせるようにする、後方互換プロジェクトも進めている。今回のデジタルライセンス化の施策と合わせて考えると、XBOX OneやXBOX Series Xのゲームも、いずれはWindows PCで動作するようになり、デジタルライセンスでいつでもダウンロードしてプレイ可能になる、という未来が想像できる(既にXBOX Play Anywhereによって実現されているソフトはある)。

 ゲーム機を所持し続ければその必要はないとも言えるが、光学ドライブは仕組み上、経年劣化しやすい。デジタルライセンス化しておくことで、もし光学ドライブが不調になったとしても、そのゲーム機で遊び続けられる可能性がある。

 今回のデジタルライセンス化の対象は、XBOX One以降のゲームディスクに限られる。初代XBOXやXBOX 360についても、デジタルライセンス化できるかどうかはともかく、ディスク版がPCで動作するようになってくれれば、古くからのゲームファンとしては嬉しい。もっとも、PCに光学ドライブが搭載されなくなってきて、内蔵型BDドライブの単体製品が入手困難な状況なので、あまり価値はないのかもしれないが。

 それにしても、XBOX Oneがディスク版の譲渡制限を試みたことは、撤回を余儀なくされるほどに批判を受けたのに、PlayStation 5が2028年1月以降にディスク版の生産を終了すると発表したことには、ユーザーからはそれほど大きな批判が上がっていないというのが面白い。XBOXが時代を先取りしすぎたとも言えるし、なまじディスクという物理メディアがあるから中古売買したくなる、という側面もあったかもしれない。

 デジタルライセンスになれば、ゲームの譲渡はできなくなり、中古売買は一切できなくなる。新作に関しては、ディスクではなく、ダウンロード用のシリアルコードを記したカードによる販売は可能だが、店頭に並ぶ新作ゲームは減るだろう。十数年経って、ユーザーの考え方も大きく変わったということだ。

 そのはざまにあって、XBOXはディスクの資産も無駄にしない、しかもPCを互換機として扱えるようにしたいという、とても野心的でユーザーフレンドリーなプロジェクトを動かしている。結果オーライではあるが、PCプラットフォームを持つMicrosoftならではのやり方だ。それが今後のXBOXプラットフォームの成長にどれだけ寄与するかは、まだ見通せないが。

著者プロフィール:石田賀津男(いしだ かつお)

1977年生まれ、滋賀県出身

ゲーム専門誌『GAME Watch』(インプレス)の記者を経てフリージャーナリスト。ゲーム等のエンターテイメントと、PC・スマホ・ネットワーク等のIT系にまたがる分野を中心に幅広く執筆中。1990年代からのオンラインゲーマー。窓の杜で連載『石田賀津男の『酒の肴にPCゲーム』』(AKIBA PC Hotline!に移動)、『使ってわかるCopilot+ PC』などを執筆。

・著者Webサイト:https://ougi.net/

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