石田賀津男の『酒の肴にPCゲーム』

「Wi-Fi 8」はゲーマーに効く。高速化より低遅延・高信頼性重視で“無線で対戦ゲーム”がより現実的に

 ASUSからWi-Fi 8に対応したルーター「ROG Rapture GT-BN98」が発売された。Wi-Fi 7の導入もまだという方も多いかもしれないが、Wi-Fi 8はまだ規格策定中のドラフト段階なので、慌てる必要はない。何せWi-Fi 8に対応するPCやスマートフォンなどの子機は、まだ一般市場に出回っていないためだ。

 正式な仕様の策定は2028年になる見込みだが、今後はドラフト仕様による製品もだんだんと増えてくるのがネットワーク機器の通例だ。そしてWi-Fi 8は、特にゲーマーには恩恵の大きな仕組みが導入されている。注目点を学んでおこう。

ゲーマーにメリットが大きいWi-Fi 8の新仕様

 Wi-Fi 8は名前のとおり、現行のWi-Fi 7に続く無線LANの通信規格で、IEEE 802.11bnとも呼ばれる。

 まず重要なこととして、規格上の速度はWi-Fi 7と変わらない。これまでは世代が進むごとに最大通信速度が引き上げられてきたが、今回は6GHz帯の使用や4096-QAM変調方式などが据え置きとなった。子機の性能にもよるものの、320MHzの帯域幅で2x2 MIMO時の最大通信速度は5,764Mbpsにとどまる。

 代わりにWi-Fi 8では、Ultra High Reliability(UHR)をうたっている。日本語で「超高信頼性」である。限られた電波を無駄なく活用して、通信を確実に届ける。今までより実測での通信速度が向上し、遅延も低減すると言われている。

 これは1つの技術で実現しているのではなく、さまざまな技術を併用することで実現される。Wi-Fi 8には、これまでなかった新しい機能がいくつも追加されているということだ。全部説明するとかなり大変なことになるので、ゲーマーに恩恵が大きい要素をいくつか紹介する。

NPCA(Non-Primary Channel Access)

 Wi-Fiは使用できる周波数帯のうち、一部を指定して使用する。広い帯域を使用したい場合には、複数の周波数チャンネルを束ねて利用する。

 例えば5GHz帯で20MHz幅のチャンネルを4つ使って80MHz幅で通信するために、36、40、44、48という4つのチャンネルを使うとする。この時、36チャンネルをプライマリチャンネルに設定し、通信以外にも存在を知らせるビーコンを送るなど別の仕事をさせる。

 そして通信する際には、プライマリチャンネルが使用中だと、他のチャンネルが空いていても通信が待たされる場合がある。これは効率が悪いので、プライマリチャンネル以外のサブチャンネルへ一時的に権限を移して通信を行う。

 効率的に通信することで、周辺に無線機器が多い環境でも実効速度の向上が見込める。また通信待ちの時間が減れば、ゲームの通信遅延も抑えられる。オンラインゲームでは遅延の低減が極めて重要であり、いわゆるPing値の改善や安定化が期待できる。

LDPC(Low Density Parity Check)の延長

 Wi-Fi通信はデータに乱れがあっても、パリティチェックによるエラー訂正でデータを復元する機能を持っている。エラー訂正でデータを救えればそれで良いし、救えなければデータパケットの再送を求めることになる。再送処理は通信遅延につながるので、なるべく避けたい。

 Wi-Fi 8では、パリティチェックを行う符号の長さを伸ばして、エラー訂正能力を高めた。再送処理が減れば、通信遅延を低減できる。一瞬の遅延も極力許したくないゲーマーにとっては、確実に信頼性が向上するありがたい仕組みだ。

Multi-AP Coordination

 複数のWi-Fiルーターやアクセスポイント(AP)が近い位置に設置されている場合、互いの電波が干渉して性能が低下してしまうことがある。アパートの隣の部屋のWi-Fiルーターが、壁一枚挟んだすぐそこにあっても、電波自体はきちんと届いているように見えるので、干渉に気づくのは難しい。

 そこで新たに導入されるのが、Multi-AP Coordination。日本語では「マルチAP連携」という意味で、AP同士が干渉を減らすように協調して動くようになる。

 機能は多岐にわたる。AP間で送信タイミングを調整して時間的な衝突を回避する手法や、ビームフォーミングを応用して近隣APへの電波干渉を抑制する手法、通信品質を維持できる範囲で送信出力を絞る手法などが挙げられる。これらを協調動作させることで電波干渉を抑え、通信を安定させる。

ゲーマーにも無線があると便利な時代

 これ以外にも、低遅延を求める通信を優先する機能や、AP間の移動時における接続切り替え(ローミング)を円滑にする機能などが盛り込まれている。恩恵の度合いは利用環境によって左右されるものの、Wi-Fi特有の一時的な遅延(レイテンシスパイク)に悩まされている環境であれば、Wi-Fi 8の導入によって通信が大幅に安定する可能性がある。

 「ゲームは有線接続でやる」と言うPCゲーマーは多いと思うが、今やスマートフォンで遊ぶリアルタイム性の高いオンラインゲームも数多くある。クラウドゲーミングサービスの「NVIDIA GeForce NOW」や「XBOX Game Pass」を使えば、ノートPCやスマートテレビでヘビーなゲームも遊べる。

 有線接続の方が通信の安定性に優れることは揺るぎない事実だが、利便性を考慮するとWi-Fiで済ませたい場面も増えている。有線接続に限りなく迫る性能を備えたWi-Fi環境は、現代のゲーマーにとって不可欠な要素となりつつある。

 そうしたなかで登場するWi-Fi 8は、高信頼性と低遅延という、まさに“ゲーマーに効く”仕様を備えているといえるだろう。

ASUSが東京ゲームショウ2026に展示した「ROG Rapture GT-BN98」
著者プロフィール:石田賀津男(いしだ かつお)

1977年生まれ、滋賀県出身。金沢工業大学 工学部情報工学科卒。

ゲーム専門誌『GAME Watch』(インプレス)の記者を経てフリージャーナリスト。ゲーム等のエンターテイメントと、PC・スマホ・ネットワーク等のIT系にまたがる分野を中心に幅広く執筆中。1990年代からのオンラインゲーマー。窓の杜で連載『石田賀津男の『酒の肴にPCゲーム』』(AKIBA PC Hotline!に移動)、『使ってわかるCopilot+ PC』などを執筆。

・著者Webサイト:https://ougi.net/

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