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Noctuaのフラグシップ空冷クーラーの新モデルがついに登場!Intel CPU特化タイプの「NH-D15 G2 HBC」をテスト

大型水冷に匹敵する冷却性能と高い静音性を両立 text by 石川 ひさよし

 空冷CPUクーラーのトップブランド、Noctua。冷却性能はもちろんだが静音性にも定評があり、こだわり派のPC自作ファンの間での人気は高い。

 “冷えて静か”はCPUクーラーの理想。今回は、そんな理想像を追求したであろうNoctuaの新製品で、新たなフラグシップとなる「NH-D15 G2 HBC」を入手できたので、早速テストしてみた。

NH-D15 G2はスタンダードモデルに加えてAMD/Intelに最適化した3モデル展開

 NH-D15 G2は、ロングセラーの名機「NH-D15」の後継製品となる。ツインタワーヒートシンクと2基のファンを組み合わせた、空冷CPUクーラーでは最大クラスの威容を誇る製品だ。CPUソケットのサポートは、AMD Socket AM5/AM4、Intel LGA 1851/1700/1200/1156/1155/1151/1150と、メインストリームから一部ハイエンドまで幅広く対応している。

Noctua「NH-D15 G2 HBC」

 公称スペックを見ていこう。ファンを含むサイズは高さ168mm、幅150mm、奥行き152mm。重量は1,525gとされる。素材はベースとヒートパイプが銅、ヒートシンクフィンがアルミ、表面がニッケルメッキ。ヒートパイプは8本で、フィンとはハンダ接合されている。

高さは168mm、幅は150mm
奥行きは152mm

 正面から見るとヒートシンクの中心とベースの中心がズレた構造が分かりやすい。ビデオカードとの干渉を避ける設計だ。また、下部には少し小さめのヒートシンクが出っ張っている。少しでもヒートシンク面積を稼ぐためのものと思われる。横から見るとメモリやVRMとの干渉を抑えた構造であることも分かる。

ヒートシンクは大きく、フィンの枚数も多い。メインのヒートシンクの下にも小型のヒートシンクが付いている
ハイエンド製品なのでヒートパイプも8本仕様。写真左に中心を寄せたオフセット設計も特徴

 ベース部分はこの製品で重要なポイントとなる。実はNH-D15 G2には三つのバリエーションモデルがラインナップされているのだ。ベース部分、CPUに接触する面がフラットに近いモデルが「NH-D15 G2 LBC」、軽く中央に凸部が設けられているスタンダードモデルが「NH-D15 G2」、凸部がもっとも大きいモデルが「NH-D15 G2 HBC」だ。

 LGA 1700系のCPUは、ソケット側のILMの圧力によってCPUヒートスプレッダーに「反り」が生じることが知られている。この反りに合った凸部を設けることで熱交換の性能をアップしようという考えだ。NH-D15 G2 HBCはLGA 1700系に最適化、一方のフラットに近いNH-D15 G2 LBCはSocket AM5/4に最適化されている、といった具合。

 ただし、自作PCの組み換えでAMDからIntel、IntelからAMDへと構成をガラッと換えることもあるだろう。そこでCPUクーラーを使い回したいようなニーズにはスタンダードなNH-D15 G2が適している。

写真からは伝わりづらいが、ベース部分に凸部を設け、その高さをIntel LGA1700用に最適化しているのがNH-D15 G2 HBC

 ファンは、単品販売もされている「NF-A14x25r G2 PWM」。9枚羽根の14cm径ファンで、ブレード先端に風切りが付いている。異型をしているのは固定穴が12cm角用の位置にあるためだ。

 また、ヒートシンクの頂点部(ヒートパイプの先)と高さを合わせて装着すれば仕様上の高さになるが、大きなヒートスプレッダーを装着したOCメモリなどと組み合わせる場合は上方へオフセットすることもできる。ファン固定はワイヤクリップ方式。

ファンは14cm径の「NF-A14x25r G2 PWM」。ブレード枚数も多く、独特の形状が見て取れる

 ファンの仕様は回転数が最大1,500rpm。付属の静音化アダプター「L.N.A.」を介すと最大1,250rpmに抑制される。風量は156.6m^3/h(91.58cfm)またはL.N.A.使用時127.1m^3/h(74.81cfm)で、静圧は2.56mmH2OまたはL.N.A.使用時1.3mmH2O。大口径で回転数は控えめだが、風量は多いキャラクターのファンと言えるだろう。

 付属品はかなり多い。各種ソケット用のリテンションキット「SecuFirm2+」に加え、トルクスドライバー「NM-SD1」、PWM分岐ケーブル「NA-YC1」、L.N.A.「NA-RC16」×2、AM5用のグリスガード「NA-TPG1」、クリーニングワイプ「NA-CW1」、グリス「NT-H2」、そしてNoctuaバッジにマニュアルなど。QRコードはスキャンするとWebマニュアルを参照できる。

付属品一覧

 NH-D15 G2を先代NH-D15と比べると、ヒートパイプが6→8本に増え、ファンは最大回転数こそ同じでも風量、静圧とも向上している。NH-D15 G2はNH-D15から大きく性能向上したモデルとしてNoctuaもアピールしている。また、ここにLBCとHBC、ヒートスプレッダーへの最適化も加わるので、先代モデルユーザーも注目のモデルと言えるだろう。

組み立ては付属のトルクスドライバーで。各部干渉の恐れは少ない

 今回はNH-D15 G2 HBCをIntel LGA 1700 CPUと組み合わせて検証した。LGA 1700の場合を例に、組み立ての流れを写真で紹介しよう。

 組み立ては、バックプレートにピンを立てるところから始まる。バックプレートの裏からピンを挿し、表からは脱落防止用シムワッシャーで固定する。その後は空冷CPUクーラーではおなじみの方法で、マザーボード裏からバックプレートをあてがい、最後に中央ファンを外した状態の本体を載せ、ネジで固定して完了だ。

 なお、マザーボード表からはスペーサー→ブラケットの順でピンに通し、袋ナットで固定する。ネジの締め付けにT20トルクスドライバーを用いるところが特徴だ。付属のトルクスドライバーはメンテナンスや取り外しでも用いるのでしっかり保管しておこう。

 実際に組んでみて、ほかのモデルと比べて工数はそこまで増加することはない。トルクス以外に特殊なことはないので、1回でもほかの空冷CPUクーラーを装着した経験があればとまどうところはなさそうだ。

やぐら部分は一般的な組み立て方法(写真左はやぐらの形状を見せるためにマザーに取り付けずに組み立ててみた写真)
トルクスのナットを採用しているため、専用ドライバーが付属する

 各部の干渉について。メモリはヒートスプレッダーのないスタンダードメモリでは問題なし。VRMヒートシンクについても十分なスペースがある。また、バックプレートの右端(一般的にオーディオ入出力端子が並ぶ側)に対してヒートシンクの右端が内側に位置するため、直下にPCI Express x16スロットがあるウルトラハイエンドマザーボードであってもビデオカードとの干渉はないと思われる。

メモリとのスペースは、スタンダードメモリならOK。高さのあるメモリではファンの取り付け位置を上方にオフセットして対応する(ケースの幅に注意)
テスト環境ではVRMヒートシンクやビデオカードとの干渉は生じなかった

36cmクラス簡易水冷に匹敵する優秀なパフォーマンス

 今回はCPUにCore i5-14600Kを組み合わせて検証した。PL1&2の値は定格どおり181W。マザーボードはASUS「ROG STRIX Z790-F GAMING WIFI」で、ファンの回転数制御はArmoury CrateのFan Xpert 3上で「ターボ」を設定。以下にファンカーブのスクリーンショットを掲載する。NH-D15 G2 HBCについては静音化アダプターのL.N.A.ありとなし、さらに比較対象には空冷メインストリームの指標としてDeepCool AK400、簡易水冷(36cmクラス)の指標としてDeepCool LS720を計測した。ほか測定環境としては室温28℃、暗騒音31dBだ。

 なお、CPUとしてはもっと発熱のデカい上位の製品があるわけだが、上位のCPUはCPU温度が高くなりすぎ、「どのクーラーを使っても差がない」ほどになってしまう可能性が非常に高い。そこで、ある程度製品ごとの差が見やすいCore i5-14600Kをテスト用CPUとしている。

【検証環境】
CPUIntel Core i5-14600K
(14コア20スレッド)
マザーボードASUS ROG STRIX Z790-F GAMING WIFI
(Intel Z790)
メモリDDR5-5600 32GB
(PC5-44800 DDR5 SDRAM 16GB×2)
システムSSDM.2 NVMe SSD 1TB
(PCI Express 4.0 x4)
ビデオカードNVIDIA GeForce RTX 4070
電源1,200W(80PLUS Gold)
OSWindows 11 Pro

 一つ目のベンチマークはBlender Benchmark。実行中のCPU温度推移を計測した。Blenderは統合型3DCG製作ソフトウェアであり、ベンチマークは三つのシーンを3Dレンダリングしてサンプル数/分でスコアを出すというもの。今回はベンチマーク開始から終了までのCPU温度ログを取得しグラフ化した。

温度取得は約2,000ミリ秒ごと。実際には取得タイミングに微妙なばらつきがあるため、グラフの横軸は時間ではなく取得回数としている(以下、折れ線グラフはすべて同様)。このグラフの場合は約2,000ミリ秒ごとに60回、時間にするとおおむね120秒

 グラフには三つの山が描かれ、それぞれのシーンに相当する。NH-D15 G2 HBCは、空冷と36cmクラス簡易水冷CPUクーラーの中間で推移している。NH-D15 G2 HBCのオレンジの線はどちらかと言うと簡易水冷CPUクーラー寄り。L.N.A.使用時はちょうど中間といったラインを示している。

 次にBlender BenchmarkのCPUクロック推移およびスコアのグラフを見てみよう。CPUクロックの推移グラフについてはCore i5-14600Kが搭載する14コア(Pコア6、Eコア8)の平均値のため低い値となっている。

 先のグラフの山に相当する部分を見ると、NH-D15 G2 HBCと簡易水冷CPUクーラーはほぼ同じ。空冷メインストリームは山部分でもクロックを下げていることが分かる。

 以下のグラフは、各クーラーでのベンチマークスコア。実行時の誤差もあるので参考値ではあるが、温度推移の傾向と同様に、NH-D15 G2 HBCはおおむね簡易水冷CPUクーラーと同じ程度のスコアを記録している。

 二つ目のベンチマークはPCMark 10。Extended実行中のCPU温度推移を計測した。PCMark 10 Extendedはホーム用途のEssentials、ビジネス用途のProductivity、コンテンツ制作のDigital Content Creation、加えてGamingという四つのシナリオで構成される。長時間のテストになるため上下に激しいグラフとなっているが、それでもおよそグレーの空冷メインストリームが高め、黄色の簡易水冷が一段低く、ブルーおよびオレンジのNH-D15 G2 HBCは中間にある傾向が分かる。

 PCMark 10 ExtendedのスコアについてはCPU負荷の点からもほとんどが誤差の範囲だ。

 三つ目のベンチマークはゲーム「サイバーパンク2077」。フルHD、レイトレーシング:ウルトラ設定とし、ビルトイン・ベンチマークを実行した際のCPU温度推移だ。70秒程度の短いベンチマーク(グラフでは32、33秒付近で終了する)なので前二つのベンチマークよりも分かりやすいグラフだ。これも冷える順としては簡易水冷>NH-D15 G2 HBCの二つ>空冷メインストリームとなった。

 5回計測してスコアの平均をとると、ごくわずかな差ではあるが空冷メインストリームのみほかよりやや低め、NH-D15 G2 HBCは簡易水冷とほぼ誤差の範囲といったスコアになった。フレームレートの推移も見たが、狭い範囲でも変動が激しく順位を付けるのは難しい。ただ、先と同様のCPUクロック(平均)で見ると空冷メインストリームはクロックが低下するシーンが多く、次いでNH-D15 G2 HBC+L.N.A.。NH-D15 G2 HBCは後半に少しクロックが落ちるシーンが見られる程度、簡易水冷はまったくのフラットとなった。

 今回の検証環境に関しては、静音化アダプターL.N.A.の装着/非装着で想定したほどの差はつかなかった。CPU温度で見ると、CPU負荷が高いBlender Benchmarkで少し差がついたが、CPU負荷がほどほどの残り二つについては誤差の範囲だ。ベンチマークスコアにもそこまで顕著な差がついていない。NH-D15 G2 HBC対空冷メインストリームよりも小さな差でしかない。CPUクロックはサイバーパンク2077のように拡大するとL.N.A.の装着時のほうがクロック低下の頻度が多かったので、厳密に言えばL.N.A.の装着でわずかな性能低下は生じている、と考えてよさそうだ。

 L.N.A.を使用するメリットは、この理論上のわずかな性能低下と次の静音性検証の結果を合わせて総合的に判断いただきたい(もちろんCPUが変われば値も変わるが参考として)。

静音に特化した運用をしたいならL.N.A.は有効

動作音検証は、CPU温度計測とは別に実施している。回転数設定「ターボ」でのBlender Benchmark、サイバーパンク2077に加え、マニュアルモードでPWM:20%時、同100%時を加えた。

【お詫びと訂正】記事初出時、上記の「動作音」のグラフに誤りがありました。お詫びして訂正させていただきます。

 PWM:20%時で見ると、どれも30dB台前半で静かだが、NH-D15 G2 HBCは1段静か。アイドル時や低負荷時の静かさにこだわる方はここに注目してほしい。サイバーパンク2077中の動作音がもっとも静かなのはL.N.A.アリのNH-D15 G2 HBC。フレームレートのグラフと併せて見ると、静かでも性能低下はほとんどない、ということが分かる。静音ゲーム環境を望む方はL.N.A.を装着してもよいだろう。

 ただし、L.N.A.を装着した場合、サイバーパンク2077中のファンの回転数はほぼ100%に達している。一見すると静かに見えるが、もうこれ以上回りようがない状況になっていることは注意が必要。この傾向はAK400も同様なのだが、NH-D15 G2 HBCのほうが大型である分、L.N.A.装着で回転数を抑制していてもCPU温度の上昇を抑えられているといったところだろう。

 NH-D15 G2 HBCとLS720の動作音にフォーカスを当ててみよう。ここまでと同様にBlender BenchmarkでもNH-D15 G2 HBCはLS720よりも静か。PWM:100%時も同様だ。とはいえ静かなNH-D15 G2 HBCでもPWM:100%で50dBを超えるとさすがにうるさい。うるさいがLS720の52.8dBより若干静か、という結果だ。

性能は絶品だが価格的にも高級品空冷トップクラスの性能を追求するなら

 ベンチマークのとおり、NH-D15 G2 HBCは空冷CPUクーラーとしてトップクラスの冷却性能とトップクラスの静音性能を見せてくれた。動作音は、通常ならファンが1基のものよりも2基と、増えるごとに大きくなる。NH-D15 G2 HBCは大口径で回転数を抑えることで1基あたりの動作音を静かに、ファン自体も静かでありながら風量も大きい、という設計なのだろう。

 予想実売価格は25,000円前後になるようだ。為替の影響がかなりあると思われるが、同じ価格で簡易水冷CPUクーラーなら36cmクラスの中堅どころが買えてしまうため、空冷CPUクーラーにこの額を払える方もそこまで多くはないだろう。ただし、ラジエータ設置スペースがない、液漏れが怖い、なによりも静音性を求めている、ということなら、本機の価値は非常に高いはず。サイズ、信頼、性能については何を求めるのか。ここに対するニーズが“高性能志向”でマッチするなら、NH-D15 G2 HBCは強くオススメできる。品質は折り紙付きだ。支払った額に対して相応の快適さが得られる製品と言える。