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第3世代Ryzen&ASRock「X570 Creator」は動画クリエイターの救世主となるか!?
機能充実で映像編集に最適な“光らない”マザー、プロの目線で搭載PCをチェック
2019年9月9日 00:00
デスクトップPC全体がにぎわいを取り戻してきている。その中心となっているのが、第3世代Ryzenシリーズだ。第3世代Ryzenでは、メインストリーム向けのIntel Coreシリーズのコア数を上回る12コアモデルが投入された。
より多くのCPUコアを求めるのはゲーマーだけではない。ハイエンド製品に頼っていたクリエイティブ分野もメインストリームで対応できるようになり、クリエイター向けをうたうマザーボードも増えてきた。そんな中から今回は、9月14日(土)に発売されるASRockの「X570 Creator」を紹介しよう。
ASRock X570 Creatorは、第3世代Ryzenをサポートする新チップセット「AMD X570」を搭載するマザーボードだ。対応CPUソケットは第2/第3世代RyzenをサポートするSocket AM4。フォームファクターはATXだ。
現在のマザーボードは、コスパ重視のスタンダードタイプ以外はゲーミングタイプが多くを占める。X570 Creatorはハイエンドクラスの製品だが、ゲーミングマザーボードとはコンセプトが異なる。見た目で分かるのが「光らない」ところ。RGB LED用ピンヘッダは搭載しているものの、マザーボード上の各部がピカピカ光るということはない。クリエイティブ用途でこれは不要だからだ。大量のRGB LEDが光る傾向にある現在のマザーボードが苦手という方にもこの点は注目してほしい。
12コアの高性能CPUを安定して運用できる電源設計
クリエイティブ用途のPCに求められることはなんだろうか? 一つ目は信頼性。クリエイティブ用途では、Ryzen 9やRyzen 7といった第3世代Ryzenの中でもコア数の多いハイエンド寄りのCPUを組み合わせることになるだろう。こうした高性能CPUのパフォーマンスを安定して引き出せるかがカギとなる。
そこで本稿執筆時点で第3世代Ryzenの最上位モデル「Ryzen 9 3900X」(12コア24スレッド)と、第2世代のメインストリームクラス「Ryzen 5 2600X」(6コア12スレッド)で、どのくらいパフォーマンスが変わるのかを検証してみた。クリエイティブ用途を想定し、TMPGEnc Video Mastering Works 7のエンコード時間で比較した。
エンコードに要した時間はRyzen 9 3900Xが105秒、Ryzen 5 2600Xが238秒だった。コア/スレッド数から半分に短縮できることが予想できたが、アーキテクチャやクロックなどの違いも合わせて約2.27倍のパフォーマンスが得られた。
続いて3DCGレンダリングのパフォーマンスを計測するCINEBENCH R20のスコアも比較してみた。全コア全スレッドを使うCPUスコアで比較すれば、2.4倍ほどパフォーマンスが高いという結果になった。いずれにせよ、2年前ならハイエンドクラスと呼べた6コア程度のCPUを使うより、最新の第3世代Ryzenにアップグレードすることで作業時間を大幅に短縮でき、生産性向上につながることが分かる。
さて、こうしたハイエンドCPU、基本的にコア数が多ければ消費電力も大きい。その高性能CPUに電力を供給するため、X570 Creatorでは14フェーズ電源回路を採用している。
14フェーズを駆動する部品の品質も重要だ。X570 CreatorではIR製のデジタルPWMコントローラ「IR35201」を採用し、CPUが求める電力をすみやかに供給できる設計だ。スイッチングにはIR製のDrMOS「IR3555」が採用されている。各フェーズに対して最大60Aの出力に対応しており、十分な電力を供給できる。合わせてCPU用電源コネクタは、通常のEPS12Vの8ピンに加えてATX12Vの4ピンが用意され、高負荷時には大電力を供給、ケーブルにかかる電力負荷も分散される。
CPU電源回路の発熱はかなりのもの。この冷却に大型のヒートシンクを採用している。二つに分かれたヒートシンクはヒートパイプによって結ばれており、一体となって放熱する。
ハイエンドビデオカードの運用も安心、Steel Slotを搭載
ゲーミングだけでなく、クリエイティブ用途でも重要性が増しているのがビデオカードだ。ほかにもインターフェースの追加などで拡張スロットを使うことがあるだろう。
X570 Creatorには、x16スロットが3本、x1スロットが3本搭載されている。x16スロットのリビジョンとレーン数は搭載するCPUによって変わる仕様だが、第3世代Ryzenの場合は1スロット使用時にGen4 x16、2スロット使用時にGen4 x8+x8、3スロット使用時はGen4 x8+x8+x4になる。PCI ExpressカードタイプのSSDやRAIDカードはx4やx8レーンでの接続を求めるものがあるが、X570 Creatorなら搭載可能だ。
また、グラフィックス用途ではAMDのCrossFireXは4-way、3-way、2-wayに対応、NVIDIAのSLIも4-way、2-wayが利用できる。
クリエイティブ用途では搭載するビデオカードもハイエンド寄りになるだろう。そして昨今のハイエンドビデオカードは、冷却のための構造が大型化し、重くなってきている。そうした重量級ビデオカードをしっかり支えるのが「Steel Slot」だ。x16スロット全体を金属カバーで覆い、その脚はPCBを貫通し背面で固定されている。これにより重量のあるビデオカードを搭載した際のスロットや接点へのダメージを抑えることができる。
AMD X570チップセットは、第3世代Ryzenで初めてサポートされたPCI Express Gen4や、最大16レーンのPCI Expressなどをサポートするなど大幅に高性能化している。ただし、それは同時に発熱の増加も意味する。
X570 Creatorでは、チップセット用に冷却ファンを搭載している。チップセット上のヒートシンク内に搭載されたファンは小径だが、高風量かつ長寿命のEBRベアリングファンを採用。ライフタイムは5万時間で、平均的な就業時間で計算すると5.7年に相当すると言う。
PCI Express Gen4 x4対応M.2で大容量の映像データをキビキビと処理
映像編集、とくに複数の4K/8Kソースなどを取り扱っているとHDDなどでは速度が足りず、入力・出力時にボトルネックが生じることもある。クリエイティブ用途のPCではストレージもより高速であることが求められる。
もちろん大容量でコストが安く、転送速度も600MB/s級のSerial ATA SSDを利用することもできるが、それを大きく凌駕する数GB/sの速度を実現できるのがNVMe SSDだ。とくに第3世代RyzenではPCI Express Gen4 x4接続のNVMe SSDが利用できることがポイントになる。現在、一般的なNVMe SSDはPCI Express Gen3 x4に対応したもので、3GB/sを超える速度のものが多い。一方、PCI Express Gen4 x4 SSDは5GB/sクラスの超高速転送を実現し、クリエイターにとって必須の構成になるだろう。
X570 Creatorは、PCI Express Gen4 x4対応SSDを搭載できるスロット(Hyper M.2スロットと名付けられている)を2基搭載している。SSDはHDDに比べて容量が少ないのがネックだが、2スロットあるため、2TBのSSDを二つ組み合わせれば4TBとなり、容量の制限をある程度緩和できる。
また、高性能SSDで課題となるのがサーマルスロットリングによる性能低下だ。高性能であればあるほど処理が増え、コントローラチップなどの発熱は増大する。効率的に冷却しサーマルスロットリングを抑制するため、X570 CreatorではM.2 SSD用のアルミヒートシンクも採用。チップセットヒートシンクと一体化するデザインは、「M.2 Armor」と名付けられている。
次世代の有線/無線LANで宅内ネットワークをブースト
個人レベルではなく、中小規模以上の制作スタジオでは作業が分散され、ネットワークを通じて並行作業することも多い。そうなると重要になるのがネットワーク速度だ。X570 Creatorは、有線/無線双方で、次世代ネットワーク規格に対応しているところが大きな強みになる。
まずは有線LAN。現在一般的な規格はギガビット・イーサネットでこれは最大1Gbpsだ。次世代のイーサネット規格は2.5Gbps、5Gbps、10Gbpsの三つが策定されており、X570 Creatorではもっとも高速な10Gbps LANをサポートしている。搭載チップはAQUANTIA製「AQC107」。互換性のために最大1Gbpsで安定性に定評あるIntel i211-ATも搭載しているので、当面は1Gbpsで運用し、将来的に10Gbpsネットワークにアップグレードしたいという方も安心して利用できる。
一方、どちらかと言えば個人用途になるだろうか。室内のレイアウト上、無線を使わざるを得ない方に注目してほしいのがWi-Fi 6(IEEE802.11ax)だ。X570 Creatorはこれにも対応している。従来規格のWi-Fi 5(IEEE802.11ac)は一般的な2ストリームの場合で最大866Mbps、一方Wi-Fi 6は2ストリームで最大1.2Gbpsの速度が得られる。つまり、Wi-Fi 6はギガビット・イーサネット(1Gbps)の有線LANよりも理論上は帯域が若干広い。ではWi-Fi 6とギガビット・イーサネット、実環境でどのくらいの速度が出ているのか比べてみよう。
NETGEARのWi-Fi 6対応ルーター「NIGHTHAWK RAX120」と2台のPCを用意し、1台は1Gbpsの有線LANで接続、もう1台をWi-Fi 6と有線LANで接続を切り換え、1台に設けたネットワークドライブへの転送速度をCrystalDiskMarkから計測した。結果は下記のとおりで、有線LANには一歩およばなかったが、シーケンシャルリードは誤差の範囲、シーケンシャルライトはややWi-Fi 6接続のほうが遅いものの、従来の規格と比べれば十分な速度が得られている。
高速・多機能インターフェース「Thunderbolt 3」を搭載
クリエイティブ系の業務では、Thunderboltになじみが深いのではないだろうか。とくにMacにThunderbolt 2が採用された頃、映像制作分野に一気に普及しはじめた印象がある。
クリエイティブ向けをうたうX570 Creatorにはその最新バージョン、Thunderbolt 3が搭載されている。AMD CPUをサポートするマザーボードでThunderbolt 3に対応するのは全メーカーの中でもASRockの2製品しかない(世界初は同じくASRock製のX570 Phantom Gaming-ITX/TB3)。コネクタ形状はUSB Type-Cを採用し、USB 3.2 Gen2としても使えることで使い勝手が大幅にアップ。最大速度は40Gbpsと、USB 3.2 Gen2(10Gbps)よりも高速だ。
Thunderbolt 3は制作した映像をバックアップ、あるいは持ち運ぶ際の手段として、SSDベースの外部ストレージ製品での採用例が多い。Intelの次世代CoreシリーズはThunderbolt 3コントローラを内蔵することを発表済みで、今後対応製品が増加するのも間違いなさそうだ。
Thunderbolt 3にはもう一つ機能がある。それは映像出力端子としての側面だ。Thunderbolt 3ではDisplayPort信号を同時に送出することができる。ただし、ビデオカードを組み合わせるデスクトップPCの場合、ビデオカードが出力するDisplayPort信号をどこかでThunderbolt 3とミックスさせる必要がある。そのため、X570 Creatorにはバックパネルとボード上にDisplayPort入力端子を備えている。ビデオカードのDisplayPort端子は一般的に出力なので、通常であればバックパネルのDisplayPort入力端子にケーブルを接続することで、Thunderbolt 3端子からDisplayPort信号も合わせて出力できるようになる。
ただし、ASRockではPC内部で接続できるように、ボード上にDisplayPort出力を搭載するビデオカードを用意するようだ。そうしたビデオカードと組み合わせれば、PCケース内部でDisplayPortケーブルを取り回すことができ、見た目をスッキリさせることができる。
クリエイティブ向けのマザーボードとして文句のない仕上がり
X570 Creatorは、ハイエンドカテゴリーであるが、これまで見てきたようにゲーミングマザーボードとは特徴がハッキリ異なる。ハイエンドゲーミングマザーと同じ部分は高耐久・高信頼重視の電源回路設計、拡張カードスロットカバーなど。一方で、異なる部分は、ネットワークやThunderbolt 3などの充実したインターフェースで、ここはクリエイティブユーザーの要求にマッチした仕様と言える。そして、光らないところも。
現状、第3世代Ryzen向けのマザーボードでThunderbolt 3に対応するのはASRock製品に限られる。強力なRyzenのパワーをクリエイティブ分野で活かすには本製品が最高のパートナーと言って差し支えないだろう。
動画クリエイターがプロの目線で搭載PCをチェック! コスパのよさに驚きの声も
石川氏の製品レビューに続いて、ここからはフリーの映像エディターとしてさまざまな映像の制作を行なっている小林譲氏に、X570 CreatorにRyzen 9 3900XやPCI Express Gen4 x4接続のM.2 SSD、32GBのDDR4-3200メモリなどを組み合わせたPCを試用していただき、映像のプロフェッショナルとしてどう感じたかをうかがった。
フリーの編集マンとして日夜活動する小林氏、メインマシンのiMac Proで作業するよりも、撮影の現場や出先の編集スタジオでMacBook Proを使って作業する時間が長いと言う。動画を編集する際はプレビューの画像を見ながらカットやズームをしたり、各種エフェクトを加えたりするが、プレビュー時の画質は2の次で、ストレスなくサクサク作業のできる環境が大切とのこと。最後のエンコード以外はマシンパワーはさほど重要ではないそうだが、それは自分一人で作業する際の話。実際の現場では監督やクライアントの横に座って作業することも多く、その際はそれなりの画質でないと説得力に欠けるため、マシンパワーはあるに越したことはないと言う。
撮影現場での立ち会い編集作業はめずらしいことではなく、「ついさっき撮影した映像に粗い編集を施したものを演者さんに見せることで、制作側の意図がすみやかに伝わり、次のテイクから表情も変わってきます」(小林氏)といったメリットもあるそう。プロの現場では、ソース映像に対して、カラーコレクションや再生速度の微調整、ズームなど最低でも2~3のエフェクトをかけるのが当たり前。自然とプレビュー時の負荷も上がり、PCへの要求性能も高いものとなる。その点、今回試用したPCの性能は申し分ないそうだ。
X570 Creatorの最大の特徴と言えるのがThunderbolt 3のサポートだ。映像制作の現場ではThunderbolt 3はどのような存在なのだろう。小林氏によれば、Thunderbolt 1/2の頃はそこまで普及したという印象はなかったそう。しかし、AppleがMacBookのインターフェースをThunderbolt 3を含むUSB Type-Cに統一したことで、Thunderbolt 3対応ストレージがスタンダードになりつつあると言う。「スピード的にも申し分ないので、もっともっと普及してほしい」(小林氏)という本音も聞かせてくれた。
今回のPCにはThunderbolt 3対応機器としてBlackmagic DesignのHDキャプチャデバイス「UltraStudio HD Mini」を用意したが、このデバイスも最近現場でよく見かけるようになったと言う。その背景には、Thunderbolt 3の広帯域でなければ実現できない高性能デバイスのニーズがあるのはもちろん、トラブルの少なさもあるようだ。「空気のピンと張り詰めた現場では機材トラブルは許されません。Thunderbolt 3機器は接続するケーブルの本数が抑えられるのもメリットです。トラブルの要因は少ないに越したことはありませんから」(小林氏)。
PCI Express Gen4 SSDの速度の効果はどうだろう。5GB/sという速度を聞いた小林氏、「ちょっと現場でも聞いたことがない速度ですね。コンサートの映像はマルチカメラと言って、小規模でも8~10カメ、大規模な例だと60カメを同時に展開して編集するということもあります。編集時は各カメラの映像をタイムラインに並べて映像を切り換えていくわけですが、ストレスなく編集するにはストレージの性能が非常に大事。今回はソースを持ってきていないのですが、5GB/sならそうした作業もこなせそうですね」。
最後にネットワーク関連について聞いてみた。「NASにデータを置くことは当然ありますし、そのデータは4K、8Kと大型化しています。10GbpsでLANを構築したら快適でしょうね」(小林氏)。10Gbpsの有線LANにも興味があるそうだが、無線LANはどうだろう。ノートPCならともかく、デスクトップPCで無線LANが速くてもあまり役に立たないのでは? 「それが、撮影現場にデスクトップPCを持ち込む人もいるんです(笑)」(小林氏)。年々現場編集の重要性は増しているため、無線LANと言えどおろそかにできないようだ。
上級者はもちろん、これから本格的な映像編集を始めるという方に最適
ここまで、プロの目線でX570 Creatorの備える先進機能をチェックしてきたが、その充実ぶりは小林氏も認めるところ。クリエイティブ分野で利用するのに申し分ない性能を備えているが、映像編集に特化したマシンを自作した際のコストパフォーマンスのよさも見逃せない。次世代規格の数々をサポートするなど、将来性についても不安はない。すでに動画編集を楽しんでいるユーザーの買い換えにもピッタリだが、Ryzenマシンの購入を機にクリエイティブワークに挑戦してみたいという方にとくにお勧めしたい。
[制作協力:ASRock Incorporation]