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検証・計測で見えた!「Seasonic FOCUS-PX-750」の実力を徹底レビュー

80PLUS認証 Platinumの鉄板となる電源がついに降臨! text by 藤山哲人

 Seasonicの人気シリーズの2本柱、「PRIME」シリーズと「FOCUS」シリーズ。

 今回は、FOCUSシリーズに新たに登場した、フルモジュラーケーブル方式で80PLUS Platinum認証の新製品「FOCUS PX」のレビューをお届けする。

 本シリーズは、抜群の省エネ性能と650W/750W/850Wと使いやすい出力を備えた奥行きショーティーな140mmの電源。シリーズの系譜的には、既存の「FOCUS PLUS」(FOCUS Platinumモデル)の後継機にあたる。

製品仕様
規格ATX
定格出力750W
ファン12cm角(底面)
80LUS認証Platinum
ケーブルフルプラグイン
電源コネクタATX20/24ピン×1、ATX/EPS12V×2、Serial ATA×10、ペリフェラル×3、PCI Express 6+2ピン×4、ペリフェラル→FDD変換コネクタ×なし
サイズ(W×D×H)150×140×86mm
容量ラインナップ650W/750W/850W
3.3Vと5Vはともに20A(合計100W)で、12VからDC-DCコンバータによるもの。したがって、12V(62A/744W シングルレール)にまわせるのは、CPUの消費電力を差し引いて500~600W程度という感じだ。ミドルクラスのビデオカード1枚使用という環境向き

 通常のPlatinum電源は、“省エネ性”と“安定性または低ノイズ性”がトレードオフの関係になっていて、すべてにおいて優秀な電源はほとんどない。

 しかし本電源は、のちに紹介する検証を通じて、安定性と低ノイズ性の両面に長けておいることがはっきりと分かった。これは、今後Platinum電源の鉄板となる製品がついに登場した! という感じだ。

 出力表を見ると、いずれの出力も3.3と5Vが合計で100Wという、高出力12Vに振り切った構成。ビデオカードのクラスに合わせて製品をチョイスできるほか、省エネ性を見込んでサーバー用途にも向いている。コストパフォーマンス的にも優れた電源で、ビジネスやインターネット用のPCから、AVやゲーミングエントリーモデルにも使える、オールマイティ電源である。

 それでは、製品の細部をチェックしていこう。まずケーブル関係だが、ここは、書きどころがないほど(笑)きわめて標準的なものだ。とはいえ、750Wや850Wで奥行き140mm、というショーティーなボディは、フルプラグイン電源にぴったりマッチする、という点は特筆すべき点。小型のケースでも電源の取り回しに苦労しないだろう。もちろんフラットケーブルは、エアフローのジャマにもならず理想のPCを構築する電源となるのは間違いない。

ATXのみメッシュケーブル、そのほかはフラットタイプ。ケーブル長はいずれも標準的なので、取り回りに困ることはない。配線しやすくコネクタ数も必要十分。FDD用コネクタは非添付
本体プラグインコネクタ部分
温度と負荷を検知してファンを制御する、ハイブリッドファンコントロール機能を搭載。動作モードは「ファンレス」、「サイレント」、「クーリング」の3モード。本体背面にある「HYBRID MODE」スイッチで、ファンレスモードの有無を切り替えられる

 温度と負荷により自動的にファンの駆動を調整する「ハイブリッドファンコントロール機能」によって準ファンレス運用することもできる(背面ボタンにより、ファンレス駆動のON/OFFを変更可能)。

 ファンの運転音もほぼ無音なので、静音性は優秀だ。本機の内部を見てみると、奥行きを詰めたぶん集積度が高くなっているので、ファンレスモードをOFFに切り換え、できるだけ送風して冷却効果を狙うほうがよいだろう。

 ATX仕様のPCケースは、5インチベイが1個あるかどうかというところまでコンパクトデザイン化が進んだ製品も少なくない。そんな中、コンパクトでフルプラグインできる本機は、いろんな用途向けPCのいろんなケースに対応でき、Platinumならではの省エネ性能を発揮しつつ、安定した高出力を供給してくれる電源としてオススメできるだろう。

負荷に関係なく、80PLUS Platinumの製品としては標準的な消費電力。多数のモデルが発売されている80PLUS Gold製品より低負荷時の省エネ性が高いので、アイドルが多いマシンで利用するなら、Platinumで選ぶという手もあり。ビジネスやネット中心だが、たまにゲームという方にも
ファンレス運転も可能だが、高負荷時でも暗騒音(33.5dB)に近く、目立った音は聞こえない。奥行きショーティーで詰め込んでいる感があるので、ファンは動作させたほうがよいだろう

【検証環境】
 CPU:AMD Ryzen 7 2700X(3.7GHz)
 マザーボード:ASUSTeK ROG STRIX X470-F GAMING(AMD X470)
 メモリ:Kingston HyperX Savage DDR4 HX430C15SBK2/16(PC4-24000 DDR4 SDRAM 8GB×2)
 ビデオカード:ZOTAC GeForce GTX 1080 Mini 8GB(NVIDIA GeForce GTX 1080)
 SSD:CFD販売 CSSD-S6T240NMG2L(Serial ATA 3.0、TLC、240GB)
 OS:Windows 10 Pro 64bit版
 室温:18℃
 暗騒音:33.5dB
 アイドル時:ベンチマーク終了10分後の値
 高負荷時:3DMarkを実行中の最大値
 動作音測定距離:ファンから約15cm
 電力計:Electronic Educational Devices Watts Up? PRO

国産パーツへのこだわり。長寿命+高安定&低ノイズ

 「見えない気配りかたまり」これで本機の特徴。ファンレス運転に対応するため、とにかく熱源にはヒートシンクを設けているが、実はDC-DCコンバータ裏にも装備。さらに高信頼性の部品を使うことで実現している10年保証。これも見ない気配りだ。

 さらにほとんど見えないのだが、プラグインコネクタ裏にはバイパスコンデンサが入っており、安定性向上に努めるなど、いろいろな配慮が見られる。何よりみなが待ち望んでいたPlatinumで「低ノイズ」、「安定出力」や「奥行きショーティーでフルプラグイン」など、僕らのわがままにすべて応えるべく、徹底したこだわりが詰め込まれている。

やや大容量の1次側コンデンサ(ルビコン560μF)は、まわりに熱源も多いため耐熱105℃タイプを採用しているようだ。熱源に挟まれているのでファンは動作させたほうがよい
2次側は平滑用ハイグレード品の電解コン+固体コンデンサ。ニチコンの105℃耐熱ハイグレード品に加え、FP(=ニチコン)のアルミ固体コンデンサで平滑。プラグイン裏にも多数のパスコンを入れている様子
1次側のノイズリダクション回路をインレット裏に詰め込みトランスを実装。最近はやりの端よせトランスで奥行き14cmのショーティーを実現している。小型化しても2次側平滑のヒートシンクを設け放熱性を高めている
プラグインコネクタ裏を隙間から見てみると、バイパスコンデンサが入っていることが分かる
+12V電圧の電圧計測結果。三和電気計器 PC-20を3台使用し、各コネクタの電圧を計測している。基準電圧はATX、EPS、PCI Expressともに12.1Vに置き理想に近い。安定性はATXがきわめて高く0.1V以内。EPSは電圧降下を検出するようで+0.2~-0.4辺りでとどまる。PCI Expressは0.4Vの効果が見られるが、底打ち感があるので安心感があり、全体的に安定した電力を供給してくれる。

省電力性能重視の電源の宿命を打ち破れ!

 Platinum電源は、とにかく「省電力性」が問われる。一方で、これまでトレードオフになっていたのが「低ノイズ性」や「安定性」。それはなぜか。

 省エネとは、必要なときには大電力を確保し、必要ないときは電力を作らないことで実現する。PC用の電源は「スイッチング電源」と呼ばれるが、大電力が必要なときはスイッチを入れっぱなしにして、フル稼働させる。逆に少なくてよい場合は、スイッチを一定時間で入れたり切ったりを繰り返して電力を確保する。

 電気スタンドや部屋の壁スイッチを猛烈にON/OFFすると、スイッチがから小さな火花が出たり、ラジオからプチ! というノイズが聞こえるのをご存じだろうか? つまり省エネ性を高めたスイッチング電源のノイズが多かったり、出力が安定しづらいのは「機能的な宿命」を背負っているためだ。

 これを念頭に置きつつ、本機で計測したノイズグラフ(短周期および長周期)を見てみよう。リプル計測方法はPico Technology PicoScope 2204を使用しアイドル時に計測した。いずれも、Platinum電源としては実に優秀な結果だ。

Platinumは省エネ性能とのトレードオフで、多くの電源がノイジーになってしまう。しかし本機はGoldでもここまで低ノイズの電源がないほどにめずらしい電源に仕上がっている。じゅうぶんAV用にもオススメできる
こちらは長周期ノイズのグラフ。瞬間的に大きなノイズも時折見えるがまったく問題ない。長周期の揺らぎがほんのわずかに見られるが、あら捜しレベルだ。音が勝負を決めるFPSやTPSでも優位に立てるだろう

 本電源は、部品や回路、技術から宿命をブレイクスルーして、Platinumなのに「低ノイズ」と「安定性」を両立させた数少ない存在となっている。省エネ性でサーバーやビジネス用途、安定性と低ノイズでAV系PCやゲーミングPCのエントリーモデル用に幅広く使える、鉄板の電源になることは間違えなさそうだ。

低ノイズ・安定・信頼性を高レベルで実現した貴重なPlatinum電源

「Platinum電源の最終形ここにあり」と言わんばかりの完成度。数年前ならライバルの他社から発売されそうな仕様の製品(笑)だが、Seasonicから発売されたことで、業界勢力図が変わってくるかもしれない。

 安定性、静音性、品質ともにハイレベル。ファンレスOFFでもここまで静かなのであれば、ボタン一発で変更可能とはいえ、そもそもファンレス運転はもう不要かもしれない。

[制作協力:株式会社オウルテック]