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高性能・大型パーツもこれなら安心!14cm角ファンを3基も搭載するコンパクトなPCケース
冷却性能を重視した「be quiet! PURE BASE 500DX」を空冷/水冷でテスト text by 竹内 亮介
2021年3月3日 00:00
最近のCPUやビデオカードは、その冷却状況に応じて自動でオーバークロックを行ない、より高い性能を引き出せる機能を備えるようになっている。加えて、ハイエンドモデルは急速な高性能化とともに発熱も増大。PC全体の冷却をになうPCケースの役割は、非常に大きなものとなっている。
こうしたトレンドを踏まえ、最近のPCケースでは風通しのよいメッシュ構造を各部に採用し、12cm角サイズ以上の大型ファンを多数搭載することで内部のエアフローを強化する冷却重視型が主流だ。
今回紹介するbe quiet!の「PURE BASE 500DX」(以降500DX)も、そうした冷却重視型のPCケースだ。ちょっとおもしろいのは、ミドルタワーケースの中でもコンパクトな部類ながら、14cm角の大型ファンを3基も組み込んでいること。最近の小型ミドルタワーケースでは12cm角ファンを搭載するモデルが主流であることを考えると、冷却性能にはかなり期待ができそうだ。
流行のコンパクトミドルタワー。LEDも美しい
外観的な特徴としては、前面と天板に風通しのよいメッシュ構造を採用することが挙げられる。これに3基の14cm角ファンを組み合わせることで、新鮮な外気をたっぷりと取り込んで内部のパーツを冷却できるようにしている。
またメッシュ構造の前面パネルや天板、そして底面には目の細かい防塵フィルタが組み込まれている。ホコリが内部に入り込み、ファンやヒートシンクなどに付着して冷却性能を低下するのを防ぐための仕組だ。またこれらの防塵フィルタは、簡単に取り外して清掃できる。冷却性能を保つためにも定期的な清掃を心掛けたい。
幅は23.2cm、奥行きは45cm、高さは44.3cmと、ミドルタワーケースの中では比較的コンパクトで置き場所に困らないのもうれしい。ミドルタワーなので机の下に置くのが定番だろうが、ちょっと幅の広い机であれば机の上に置いてもジャマになりにくいサイズ感。重さも約7.8kgと軽量で、組み込みやメンテナンスも楽に行なえる。
前面中央と左側面の上部には、アドレサブルRGB LEDテープが組み込まれている。天板のボタンで色や点灯パターンを変更できるほか、マザーボードに接続するピンヘッダケーブルも装備しているのでユーティリティで制御させることも可能。より自由度の高いイルミネーションが楽しめる。
とくに天板内部のLEDは内側に向けて発光素子が組み込まれており、内部に組み込んだパーツを美しくイルミネーションしてくれる。デザインに優れたパーツを組み込んだ後からでもじっくり眺めて楽しむのもなかなかオツ。外向きに比べ抑えめの光になるのもいい具合だ。
フロントポートには、Type-AとType-CのUSBポートを装備する。着脱がしやすいType-C用のピンヘッダケーブルも装備するなど、装備面では最新のトレンドをスキなくフォローしているという印象だ。
内部は広くゆったりとしている
強化ガラス製の左側板や右側板を外すと、内部にアクセスできる。ここからはマザーボードやCPUクーラーなどを組み込みながら、使い勝手などを検証していこう。左側面のメインパーツを組み込むエリアには、基本的にはケースファンが組み込まれているだけなので、広くゆったりとしたスペースで組み込み作業が行なえた。
ただ高さが抑えめということもあって、電源ユニットのEPS12Vケーブルを挿すときには二つほど注意しなければならないことがある。一つは天板に搭載するファンだ。これを付けたままにしておくと、EPS12Vケーブルを挿しにくい。組み込み作業前に一旦外しておいて、マザーボードやEPS12Vケーブルの作業が終わってからもとに戻そう。
もう一つ、天板とマザーボード天辺の隙間はあまり広くない。今回はbe quiet!の空冷型大型CPUクーラー「DARK ROCK PRO 4」を組み込んでみたが、その状態では手を入れる隙間はほぼなかった。マザーボードをPCケースに入れる途中でEPS12V電源ケーブルを挿すか、フルプラグインタイプの電源ユニットを利用し、先にEPS12V電源ケーブルを挿しておくとよい。
右側面のマザーボードベース裏面には、実測で約2.5cmのケーブル配線用スペースが設けられている。ほかのPCケースと比べてもかなりゆったりとしており、付属の面ファスナーを利用すれば、各種ケーブルもしっかりと整理できるだろう。
電源ケーブルを引き出すためのスリットは広く、自由な場所から引き出せるように上から下まで空いているタイプだ。マザーボードやビデオカードの電源コネクタの位置に合わせ、最適な場所から引き出せる。電源ケーブルがダラッと垂れ下がらないよう、各種ケーブルはしっかりと整理しておきたい。
下部に装備する2基の3.5インチシャドーベイは、取り外しが可能な構造だ。大型の電源ユニットや、前面に28cm以上のラジエータを取り付けたい場合は、シャドーベイを取り外してスペースを広げることになる。ネジで固定されているだけなので簡単に着脱できる。
2.5インチシャドーベイは、マザーボードベース裏面や表面などに合計5基搭載する。前面近くのケーブルを引き出すスリットと一体化したマウンタを使うと、SSDの表面を左側面の強化ガラス越しに見える位置で固定できるのがおもしろい。最近増えてきているLED搭載のSSDを組み込むと楽しそうだ。
高性能パーツもしっかり冷やせる実力派
今回は、第4世代Ryzenシリーズの上位モデル「Ryzen 9 5900X」と、NVIDIAの「GeForce RTX 3070」を搭載したGIGA-BYTEのビデオカード「GeForce RTX 3070 EAGLE OC 8G」を組み込み、温度変化や動作音などを検証してみた。どちらも高性能なパーツであり、500DXの冷却性能を測るにはふさわしい組み合わせだ。
CPU | AMD Ryzen 9 5900X(12コア/24スレッド) |
マザーボード | ASUSTeK ROG STRIX B550-F GAMING(AMD B550) |
メモリ | CFD販売 W4U3200CM-8G(PC4-25600 DDR4 SDRAM 8GB×2) |
ビデオカード | GIGA-BYTE GeForce RTX 3070 EAGLE OC 8G (GeForce RTX 3070) |
SSD | Western Digital SanDisk Extreme PRO SDSSDXPM2-500G-J25 (PCI Express 3.0x4、500GB) |
電源 | Corsair RM850(850W、80PLUS Gold) |
OS | Windows 10 Pro 64bit版 |
検証条件 | 暗騒音:31.2dB、室温:22.2℃、アイドル時:OS起動から10分後の値、高負荷時:OCCT 7.3.2の「Power Supply」を10分間実行中の最大値、動作音計測:PCケースの前面から20cm離れた場所に騒音計を置いて計測、各部の温度:使用したソフトはHWMonitor 1.23でCPUはTemperaturesのPackage、GPUはTemperaturesの値 |
3/3 16:00更新 上記のスペック一覧は以下のテストを行なった際の環境のものです。制作スケジュールの都合から記事中の作例写真で使用した機材とは一部構成が異なります。
高い負荷がかかったときにどういった温度になるのかを検証するため、「OCCT V7.3.2」の「Power Supply」テストを10分間実行してみた。これはCPUとビデオカードに非常に高い負荷をかけるテストであり、僚誌DOS/V POWER REPORTでもPCケースの検証で利用している。
OCCTでは、テスト中の温度変化や消費電力、動作クロックの状況などを画像で表示してくれる機能がある。下の画像がそれだが、CPU温度は5分後に67℃に達した後は、おおむねほとんど変化はなく、HWMonitor 1.23上での最高温度は68℃だ。
ビデオカードの温度もほぼ同じタイミングで70℃になって安定し、最高温度は71℃だった。実際に利用する上ではまったく問題ない温度であり、また今までテストしてきたほかのPCケースと比べても、トップクラスに位置する結果となった。
動作音もかなり小さかった。音漏れを防ぐ構造をほとんど採用しない冷却重視型のPCケースでは、動作音は大きくなりがちな傾向にある。しかしケースファンに付属する14cm角ファンをマザーボードに接続して制御した場合、アイドル時の回転数は400rpm前後と非常に低くなった。
この程度の回転数なら、ファンの動作音はほぼ気にならない。実際アイドル時の騒音レベルは35.4dBと、耳を近付けないと動作音はほぼ聞こえてこない状態だった。Webブラウズや書類作成、Teamsでのビデオ会議程度軽作業では、ファンの回転数は上昇せず騒音レベルも変わらない。
もちろんOCCTを実行中の高負荷時は39.1dBと騒音レベルは上昇するが、主にこれはビデオカードのビデオカードのクーラーやCPUクーラーの動作音だ。CPUの温度があまり上がらないため、高負荷時でもケースファンの回転数は500rpm前後までしか上がらなかった。
500DXでは、前面に最大36cmクラスまで、天板に24cmクラスまでの水冷用ラジエータを固定できる。今回は、ケース前面に28cmクラスのラジエータを搭載するEnermaxの簡易水冷型CPUクーラー「LIQTECH Ⅱ ELC-LTTO280-TBP」を取り付けて、同じようにCPUやビデオカードの温度の様子を検証してみた。
前面に28cmクラスのラジエータやファンを取り付けるには、前面下部のシャドーベイユニットを取り外す必要があった。右側面から固定しているネジを外すだけの作業なので、難しいことは何もない。また前面ファンも外すので、このファンは天板に排気ファンとして追加した。
空冷時と同じく、OCCT V7.3.2のPower Supplyテストを実行したときの状況は下記のとおりだ。CPU温度は、3分後に58℃前後まで上がった後は安定し、最高温度も60℃。Ryzen 9 5900Xをこの温度で利用できるのはオドロキだ。ビデオカードの温度変化や最高温度は、空冷時とほとんど変わらなかった。
定格運用でここまでCPU温度が低いなら、Precision Boost Overdrive(PBO)機能を有効にしても大丈夫そうだ。そこでUEFIからPBOを有効にして同じくOCCT V7.3.2を実行してみると、約2分後にRyzen 9 5900Xの最大温度となる90℃まで達してしまった。
このときのCPUの消費電力は230W前後、動作クロックは全コア4.7GHzとかなり高い負荷がかかっており、温度的にはいたしかたのないところではある。ただ、OCCTは短時間に現実的な利用シーンとはかけ離れた負荷をかけるテストであり、実使用時にここまで温度が上がるというものでもない。
実際、実際のゲームを使ったベンチマークテストはCPU温度が上がり過ぎることもなく、普通にテストは終了した。筆者はハイエンドパーツ使用時はとくに“安全第一”で使う主義なのだが、より高いパフォーマンスが必要というときに一時的にPBOを有効にして利用する、という運用なら問題ないと判断した。
幅広いニーズやユーザーに対応できる「選ばない」ケース
冷却重視型らしい優れた冷却性能を備えており、高性能な構成にも耐えうる優れたPCケースだ。また優れているのは冷却性能だけではない。14cm角の大型ファンをゆっくりと回転させることで、動作音の低減と風量の確保を両立しており、パーツを吟味すれば静音PCを作ることも夢ではない。
強力なCPUやビデオカードを組み込んでゲームPCを作りたいユーザーから、テレワークなど軽作業が中心のユーザーまで、幅広いニーズに対応できる、優れたPCケースと言ってよいだろう。
[制作協力:オウルテック]