特集、その他

【マザーボードの基礎知識:製品選び編】同じチップセットなのに価格が2倍も違うことも! マザーボードを買うときはここを見て決めろ!

自作PCの“方向性”を決める最大の醍醐味、マザー選び!! text by マルオマサト

 マザーボード編の後編となる今回は、マザーボードを購入するときの具体的な製品選びのポイントを解説する。使うCPU、それに対応したチップセットがだいたい決まったら、いよいよ実際に買うべきマザーを絞り込んでいくのだが、同じチップセットを搭載する製品でも、安いものから高いものまで実に豊富。2倍以上の価格差があることも珍しくない。最初に明言しておくが、同じCPUを仕様どおりに使う限り、価格の高低を含めてマザーボードの違いによる性能差はかなり小さい。大きく違ってくるのは、機能やパーツを接続できる数、耐久性、オーバークロックといった特殊な使い方をする場合の性能などだ。これを踏まえて読み進めていただきたい。

「マザーボード」を買うときに気を付けるところは?

対応CPU、搭載チップセットが同じでも製品によって差がある
電源回路の品質、冷却機能の差、拡張性やデザインなどチェック
用途によって必要な機能は異なる。用途と予算を念頭に計画を!

なぜ同じチップなのに3倍もの価格差が!? マザーボードにはグレードがある

 マザーボードのグレードは、チップセットや基本機能だけでは決まらない。ユーザーのニーズに合わせて、さまざまな付加価値が付けられており、それがマザーボードの価格差につながっている。

同じMSI製で同じZ690チップセットを搭載したマザーボード2製品だが、パッと見ても分かるように、装備や機能には違いがある。左のハイエンド製品「MEG Z690 ACE」と、同社のZ690マザーとしては最安クラスである右の「PRO Z690-A DDR4」とでは、3倍以上の価格差が付いている

 電源回路(VRM)はもっともコストがかかる部分で重要な差別化ポイントの一つだ。ハイエンドCPUをパワフルに使いたい場合には、高出力かつ高耐久設計のVRMを搭載した製品を選びたい。また、熱源になる電源回路やチップセット、SSDを冷却するパーツも意外にコスト増になる部分で、低価格マザーでは省かれやすい。金属パーツ/プレートを利用して基板やスロットを補強する頑丈設計というアプローチも見どころ。

 上で、同じCPUを使う限りマザーによる性能差は小さいと書いているが、現実的にはハイエンドCPUやハイエンドビデオカードを低価格マザーに搭載するという極端な組み合わせは避けたほうが無難。スペック通りの性能は出るものの、ハイエンドパーツの真の実力が発揮しきれない、一部の機能が使えない、という可能性があるためだ。

 ほかにも、カスタマイズ性、UEFIや付属ユーティリティの使い勝手にも特徴が出る。用途や予算も考えつつ、必要なモノを見極めよう。次項では、とくに注目したいポイントについて説明する。

電源回路は差が付きやすい

 マザーの電源回路はグレードによる仕様の違いが大きい。一般的には回路の数を示す「フェーズ」と出力を示す「A(アンペア)」で表現され、フェーズ数が多く、Aが高いほど高性能(回路で使用されるパーツの種類・品質などでも価格は上下する)。高負荷時の負担が大きい部分だけに、高性能な電源回路を備えるマザーは安定性・信頼性・耐久性に優れ、ときにはハイエンドCPUの性能にも直結してくる。

 通常の使い方であればCPUの消費電力急上昇によってシステムが著しく不安定になることは少なくなったが、ピーク性能の持続時間が短くなったりする可能性はある。CPUの性能を限界を超えて絞り出す“オーバークロック”に挑戦するなら、電源回路の強さは必須だ。逆に、消費電力がそこまで大きくないエントリー~ミドルレンジCPUを使う場合は、そこまで電源回路の性能をシビアに気にする必要はない。

低価格マザーの電源回路はシンプル
大規模で高度な高性能マザーの電源回路

ハイエンド機ほど冷却が重視される

 電源回路やチップセット、M.2 SSDは高性能なほど発熱が大きく、これらの部品は高温になると保護のために一時的に動作速度を落として温度を強制的に下げる機能が働き、一時的に性能が低下してしまう。そのため、パーツが高温になることを防ぎ性能や製品寿命への影響を抑える冷却性能も、ミドルレンジ以上のマザーでは重視され、差別化ポイントとして各社とも力を入れている(一方で、こうした冷却パーツはコストがかかるだけに低価格帯の製品では省略されやすい)。

 また、CPUを冷却するCPUクーラーのファン(および水冷クーラーのポンプ)、ケース内に設置するファンをマザーボードで制御できる“数”も、グレードが上がるほど多くなり、きめ細かいコントロールができる。なお、高性能SSDは高温になったときのパフォーマンスへの影響が大きいため、最近ではヒートシンクはほぼ必須と言われている。ただし、仮にマザーボードにSSD用ヒートシンクがなかったとしても、PCパーツショップなどではSSD用ヒートシンクが多数販売されているので、後付けでパワーアップすることも比較的容易。

発熱対策のヒートシンクが大型化
高グレードほど制御できるファンが多い

デザイン性も求められる時代

 近年はデザイン、ビジュアルにこだわったマザーボード製品も多数登場している。細かい制御が可能なアドレサブルRGB LEDよる光る演出は定番だが、ミラーや半透明パーツを活用するなど発光ギミックも凝ったものになってきているほか、高級モデルではLEDでメッセージやロゴなどを表示できる製品もある。

 ブラックやホワイトといったコーディネイトしやすいカラーリングで統一したり、ミリタリー調のデザインにこだわるなど、光る以外にも良質なデザインの製品も増加中。組み合わせるCPUクーラー、ビデオカード、PCケースとの連携で「見映え」、「写真映え」する自作PCを作る、というのも最近のトレンドの一つになっている。

“光る”マザーはトレンド
“光らない”のもカッコよさの一つ

設定画面・アプリケーションも進化中

 マザーボードおよびPCのもっとも基本的な動作制御・設定を行なうUEFI。以前のBIOSに比べると、グラフィカルな操作画面になったことで操作性は大幅に向上したが、マザーボード自体の機能が増えているので、扱いには多少慣れも必要だ。

MSIのマザーボードのUEFI画面の例。以前のBIOSは文字情報だけだったが、現在はグラフィカルになり、マウスでの操作も可能になった

 また、最近のマザーボードには、Windows用のマザーボード管理アプリケーションも提供されており、各社ともその改善に余念がない。設定の変更やマザーボードのモニタリングなどが可能になっている。UEFIに比べると設定できる項目は限られているが使い勝手はかなりよい。とくにミドル~ハイエンドユーザーには、CPUを含む動作温度・クロックのモニタリングや、パフォーマンスと静音性を細かくカスタマイズできるファン制御機能の導入は欠かせないだろう。

MSIの管理ツール「MSI Center」。現在のバージョンでは、マザーボードに限らず、同社製品を中心に幅広く統合的にPCの制御・管理が可能になっている
モニタリング機能の画面。各部の温度やクロック、設定内容を一望できる
多機能なMSI Centerだが、必要な機能だけを選んで導入することが可能

PCの物理的サイズを決定付ける“フォームファクター”

 PCケース/マザーボードのサイズの基準がフォームファクターだ。上限サイズに加え、拡張スロットの配置やネジの位置が規格化されているため、ユーザーはメーカーの垣根を超え、マザーボードとPCケース、電源などを気軽に組み合わせ可能になっている。もっともメジャーな規格はATXで、それから派生した一回り小さいmicroATX、さらに小さいMini-ITXの3種類が自作PCでは一般的。

左から、ATX、microATX、Mini-ITXのマザーボード。端子やスロット類の数=拡張性に違いが出る。収納できるPCケースの大きさも異なる

 種類が多くて製品のバラエティがもっとも豊富なのはスタンダードなATX。一般的に工業製品は「小さいものほど高い」傾向が強いが、microATXのマザーボード(やPCケース)は価格重視の製品が多い。一方、Mini-ITXのラインナップは数こそ限られているが特徴豊かで、高性能・高耐久・多機能なハイグレード製品も登場しているので、小型で高性能なPC自作にも挑戦できる。

 このほか、超ハイエンドクラスの製品では、ExtendedATX(E-ATX、最大305×330mm)やCEB(同305×267mm)に対応する製品もあるが、設置できるPCケースは限られてくるので注意が必要。マザーボードだけではなく、組み合わせるCPUやPCケースもスペシャルなスペックになることがほとんどだ。

PCケースもATX/microATX/Mini-ITXの各仕様に適合した設計になっており、サイズも異なる。大は小も兼ねるが、小さい規格のケースに大きい規格のマザーを収納することは原則としてできない

こんなシステムにはこんなマザーボード! 自作PCプランを検討してみよう

 マザーボード選びの近道はシステムの構成をイメージすること。ここではMSIのマザーボードを例に、用途/テーマ別の自作プランを考えてみた。

見た目も主張する“映える”ゲーミングPC

 今ゲーミングPCを作るならCPUはやはり最新のAlder Lakeこと第12世代Coreプロセッサーの上位モデルであるCore i9-12900KやCore i7-12700Kを使いたい。その性能を極限まで引き出せる高耐久設計のVRM、ハデなアドレサブルRGB LED演出、DDR5メモリや高速インターフェース、Wi-Fi 6などの先進機能を兼ね備えたアッパーミドルクラス以上のマザーボードがオススメ。最新CPUによる性能の高さはもちろんだが、CPUクーラー、ビデオカード、PCケースまでLEDコーディネイトしたビジュアルでバシッと決めるのが最近のゲーミングPCのトレンドだ。

光るPCパーツの制御はマザーが担う。あとは光らせ方のセンスを磨け!
「MPG Z690 CARBON WiFi」をはじめとして、最近のマザーボードはRGB LEDの制御機能に加え、自身も主張の強いLEDを搭載してビジュアル面の押しも強い。骨太の高耐久設計、先進のDDR5、PCI Express 5.0、Wi-Fi 6E、5基のM.2スロットなど基本機能も充実

超メニーコアで最強クリエイター環境を

 大規模な映像コンテンツの制作など、圧倒的なPCの処理能力が必要なクリエイティブワークを行なうなら、超高性能CPUに大容量メモリ、用途で使い分ける複数ストレージなどが欲しくなる。そんな環境向けにはAMDの超ハイエンドCPU、Ryzen Threadripperを中心とした環境が最適だ。CPUソケットはAM4ではなく大型のsTRX4を用い、対応マザーボードのほとんどが機能・耐久性・拡張性などに優れたスペシャル仕様で、最強のシステムを具現化できるベースとなる。

コンシューマー向けとしては破格の性能を持つ超メニーコアCPU、Ryzen Threadripper。支えるマザーボードも大型で多機能、高性能かつ高耐久。性能は断トツだが、高価で扱いは難しい
Threadripper環境ではマザーもスペシャル。「Creator TRX40」は、Ryzen Threadripper 3000シリーズに対応するモンスターマザーだ。CPUは最大64コア128スレッド、メモリは最大256GB、トリプルM.2、10GBASE-Tなどまさに最強の装備を誇る

シンプル&コスパ重視のミドルレンジPC

 ハデさよりも実用性重視、コスパ重視のミドルレンジユーザーには、IntelならCore i5-12400、AMDならRyzen 5 5600Xに、GeForce GTX 1660シリーズあたりのGPUを組み合わせるのが人気。マザーボードはハデな装飾を抑えつつ必要十分な高耐久設計を備えた「MAG B660 TOMAHAWK WIFI DDR4」や「MAG B550 TOMAHAWK」あたりはどうだろう。高品質な6層基板に大型ヒートシンク、2.5GBASE-Tの有線LANなど、シンプルながら侮れない仕上がりだ。ミリタリーテイストのデザインとともにクールにまとめてみよう。

ミドルレンジのCPU+ビデオカードにはコスパ重視のマザーがベスト。必要な機能に絞りつつ高品質なパートナーを選びたいところ
コスパ重視のマザーとしては、MSIなら「MAG B660 TOMAHAWK WIFI DDR4」あたりがオススメ。抜群の安定性からド定番となっているTOMAHAWKシリーズのDNAを受け継ぐ堅実設計のミドルレンジ製品だ

内蔵GPU活用で省電力&コンパクト

 小型PCを自作するなら、Mini-ITXフォームファクターの活用が最適解。CPU内蔵GPUの性能が高く、モバイルCPU並みの電力効率を持つRyzen 5 5600Gなどと組み合わせるなら、「MPG B550I GAMING EDGE MAX WIFI」はいい選択肢の一つ。小型ながら8コアCPUを不安なく使えるVRM構成と冷却性能で、拡張性も十分。PCケースしだいでは小型ビデオカードを組み込んだ構成もイケる。コンパクトで十分遊べるゲーミングPC、小さくてもパワフルなクリエイターPCを目指すのもおもしろい。

実は難易度が高い小型PC自作。必要なスペックを小型ケースに収めるプランニングと組み立て作業はチャレンジしがいがある。小型ケースではビデオカードや大型のCPUクーラーが使いにくいため、GPU内蔵のミドルレンジCPUをチョイスするプランも悪くない
Mini-ITXケースを使うならマザーボードは必然的にMini-ITXのものを選ぶ。「MPG B550I GAMING EDGE MAX WIFI」は、60A/8+2+1フェーズのVRM、高品質8層基板、バックパネル一体型ヒートシンクなど本格装備。在宅ワークやオンライン学習、動画鑑賞などをメインにする省電力PCからゲーミングPCまで幅広い用途に対応できる

覚えておきたい「マザーボード」関連用語

ATX(Advanced Technologies eXtended)
Intelが1995年に提唱したPC用のフォームファクター。従来のATよりもサイズや電源の仕様などが細かく決められている。最大サイズは305×244mm。より小型の規格として、microATXやFlexATXがある。
CPU(Central Processing Unit)
中央演算処理装置。コンピュータにおいて頭脳となる部分。メモリとの間で数値の演算処理を行なう。現在のPC市場ではIntel(Coreシリーズ)とAMD(Ryzenシリーズ)が2強。
DrMOS
基板上に実装された電源回路(VRM)は、パーツが必要とする電圧を生成するためのもの。多くはスイッチング式で、Power MOSFETと呼ばれるチップがスイッチの役割をする。このPower MOSFETを駆動するのがドライバIC、ドライバICと2種類のPower MOSFETを1チップにまとめたものがDrMOSで、Intelがサイズなどを規格化している。基板上の実装面積を節約できるが高コストで、ハイエンドクラスのマザーボードを中心に採用されている。
MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)
シリコンの酸化膜に金属の電極を付けた構造の半導体をMOSと言い、MOSFETはこのMOS構造を持ったトランジスタ。今日の集積回路で広く用いられている。
OC(Over Clock)
オーバークロック。CPUやGPU、メモリなどを定格を超える高いクロックで動作させること。CPUだけでなく、チップセットのグレードやマザーボードの品質によってもOCの可否や限界は左右される。
UEFI(Unified Extensible Firmware Interface)
BIOS(Basic Input/Output System)に代わるマザーボードの基本プログラム。OSとハードウェア(のファームウェア)の橋渡しをするソフトウェア。16bitのリアルモード(1MBのメモリ空間)、アセンブラでのプログラミングといったIBM PC(IBM 5150)から引きずる制限を抱えるBIOSに対し、UEFIではプロセッサのメモリ空間に直接アクセスできる上、C言語ベースで記述できる開発環境やモジュール型の実装システムを確立しているため、プログラミングが容易で自由度も高くなっている。2.2TBを超えるドライブからの起動が可能になっているほか、幅広いデバイスサポート、セットアップ画面のGUI化やOSロード前のネットワークアクセスなどの機能拡張を可能にしている。
アドレサブルRGB(Addressable RGB)
複数のLEDを搭載した発光パーツのうち、任意のLEDの発光を行なえるようにしたもの。発光コントロールには複数の方式があり、実際にコントロールするには発光デバイス、コントロールデバイス(マザーボード、LEDコントローラなど)の両方が同じ方式に対応している必要がある。
チップセット(Chipset)
広義では、複数のチップを組み合わせてまとまった機能を提供するものを指すが、PCでは、マザーボードに必要な機能を1〜数個のチップにまとめたものを、とくにチップセットと呼んでいる。古くは、汎用チップの組み合わせで個々の機能を実装していたが、近年はチップセットの主要機能の一部はCPUに内蔵され、残った機能が集約された結果1チップ構成となっている。
ヒートシンク(Heat Sink)
CPUをはじめ、発熱量の多いチップに取り付けられる、アルミなどで作られた金属板。空気中に効率よく熱を逃がすため、表面にフィンと呼ばれる多数の薄い板を持たせて表面積を大きく取るものが多い。CPUに取り付けるタイプはCPUクーラーとも呼ばれ、ヒートシンクとファンを併用したものが一般的。
フォームファクター(Form Factor)
1981年にIBMがリリースしたPC/ATベースのPCをリファレンスに多くのベンダーが製品を提供したことに始まり、マザーボードやケースなどの規格を指すときによく使われる。1990年代半ば以降はIntelのデザインがリファレンスとなる。