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最新ハイエンドGPUのRadeon RX 6950 XTとRyzen 7 5800X3Dで作ったAMD最強ゲーミング環境を徹底テスト!

WQHD/4Kで輝くRX 6950 XTの実力を引き出す大型クーラーを搭載したMSI「Radeon RX 6950XT GAMING X TRIO 16G」 text by 加藤 勝明

RDNA 2リフレッシュと言うべきRadeon RX 6950 XTを搭載したファクトリーOCモデル「Radeon RX 6950 XT GAMING X TRIO 16G」。原稿執筆時点での実売価格は19万5800円

 AMDが5月にリリースした「Radeon RX 6950 XT」は、Radeon RX 6000シリーズの新たなフラグシップモデルだ。GPUの詳細はこちらの記事で詳しく解説されているが、既存のRX 6900 XTの回路規模や設計は一切変更せずにGPUとメモリのクロックを引き上げた“クロック向上版”という位置付けになる。クロックが上昇したぶん消費電力も増えているが、Radeonで最高のゲーミング環境を作りたい人にはこれが現状での最高の選択肢だ。

 現在国内に流通しているRX 6x50 XT番台のRadeonはすべてAICパートナー製、つまりオリジナルクーラー搭載の製品のみ。いわゆるリファレンス仕様の製品が欲しい人は残念かもしれないが、高クロック化して発熱量も増えたRX 6950 XTを使うなら、各社が力を入れて作り込んだ大型クーラーを搭載したカードのほうが確実に有利だ。そこで今回はMSI製のRX 6950 XT搭載カード「Radeon RX 6950 XT GAMING X TRIO 16G」を紹介しよう。

最大規模の大型クーラーで最上位Radeon&高めのOC設定に対応

 “GAMING X”シリーズと言えばMSI製品の中でもコストよりも性能を重視した製品であることを示している。今回のモデルもハイエンドGPUを搭載し、かつパフォーマンス重視のチューニングを施したファクトリーOCモデルだけに値段も税込み20万円近いが、RTX 3090 Ti搭載カードなどの価格を考えると“妙に安い”感覚に襲われる。

 近年のエンスージアスト向けGPUを搭載したビデオカードの例にもれず、Radeon RX 6950 XT GAMING X TRIO 16Gも、長くて厚く、そして重い。カードの全長は32.5cm、3スロット分を占有するため購入前には十分なスペースがあるかを確認してからにしたい。RX 6950 XTのBoard Powerはリファレンス仕様では335Wだが、本機では340Wとさらに電力消費の上積みを許容。これにより性能の上限引き上げを狙っている。

GPUクーラーは口径9cmのファンを3基搭載する「TRI FROZR 2」サーマルシステムを採用。ブラケット上端からカード上端までは約3.6cmあるが、補助電源ケーブルが出るスペース(使用するケーブルにもよる)は最低限確保しておく必要がある
裏面はほぼ全面がアルミ製のプレートで覆われている。補助電源コネクタ(レセプタクル)はカード上端からやや引っ込んだ場所に実装されており、ケーブルを装着するとケーブル側のコネクタ上端とカード上端がほぼ“ツライチ”になる

 本機のブーストクロックは2,454MHz。リファレンスよりも144MHz“も”高く設定されているが、これに伴う発熱に対抗するためにMSI製品ではおなじみの「TORX FAN 4.0」を3基搭載した「TRI FROZR 2」クーラーを採用。冷却力と静音性を高いレベルでバランスしつつ、RX 6950 XTのパフォーマンスを最大限に引き出すよう配慮されている。

「GPU-Z」でカードの情報をチェック。ブーストクロック2,454MHz設定はかなりよくばった設定だが、4Kでも快適に遊べるゲーミング環境を作りたいと考えているなら、ぜひとも欲しいスペックだ
本機のBoard Powerは340W設定となっているが、補助電源は8ピン×3仕様だ。TBP(Total Board Power:カード全体の消費電力)の実測値については後ほど検証するが、本機のTBPは450Wを軽く超えるため、8ピン×3構成は妥当と言える
RGB LEDは中央の冷却ファンの周辺とカード上部にそれぞれ仕込まれている。バックプレートはカード上部にも折り込まれている点から分かるとおり、自重による歪みを極力抑制するように形状が工夫されている
映像出力はDisplayPort×3+HDMI×1の定番中の定番構成。リファレンス仕様のRX 6950 XTカードにはUSB Type-C出力も存在するが、本機を含めAICパートナー製のカードでは基本的に実装されないようだ
本機は重量およそ1.6kgと重いため、ビデオカード用のステイが同梱される。空きスロットの目隠し板と一緒にネジ止めするタイプなのでケース底部にファンを仕込んでいても設置できるタイプだ

低電圧モードでも検証

 今回Radeon RX 6950 XT GAMING X TRIO 16Gのパフォーマンスを検証するにあたり用意した検証環境は以下のとおりだ。今回は本機のデフォルト設定のほかに、ドライバ(Radeon Software:Adrenalin Edition)上で「低電圧モード」に設定したときのパフォーマンスも見てみたい。RX 6950 XTはクロック引き上げの代償として消費電力がかなり高くなったが、これは低電圧モードでどう変化するかをチェックすためだ。比較対象としては、AMD製のRX 6900 XTのリファレンスカードを準備した。

 OSはWindows 11とし、HDR(Windows HD Color)やセキュアブート、Resizable BARにコア分離といった要素はすべて有効とした。ドライバーはRX 6950 XTの情報解禁に合わせて投入されたWQHLドライバーの最新版(22.5.1)を使用している。

Radeonドライバ上で設定できる“低電圧モード”でのパフォーマンスも検証した
【検証環境】
AMDRyzen 7 5800X3D(8コア16スレッド、最大4.5GHz)
マザーボードAMD B550チップセット搭載マザーボード
メモリDDR4-3200 32GB(PC4-25600 DDR4 SDRAM 16GB×2)
ストレージM.2 NVMe SSD(PCI Express 4.0 x4、2TB、システム用)+
M.2 NVMe SSD(PCI Express 3.0 x4、2TB、ゲーム用)
CPUクーラー36cmクラスラジエータ搭載簡易水冷クーラー
電源ユニット1,000W ATX電源(80PLUS Platinum)
OSWindows 11 Pro

基本的な性能チェックでは低電圧モードでも性能を維持

 まずは「3DMark」のスコア比べから検証をスタートしよう。負荷の重いFire Strike〜Port Royalまでのテストを一通り実施する。

3DMarkの計測結果

 RX 6900 XTよりもクロックが大幅に上がったRadeon RX 6950 XT GAMING X TRIO 16Gのスコアが高いのは当たり前だが、低電圧モードにするとスコアが大きく下がるかと言うとそうでもない。定格のほうが僅差で負けている場合もあるなど、本機に関して言えば低電圧モードは性能に大差は出ないと評価すべきだろう。

 ここでシステム全体の消費電力も検証する。電力計測にはラトックシステム「WF-WFWATTCH1」を使用し、アイドル時(システム起動10分後の安定値)と高負荷時(Time Spyデモ実行中のピーク値)を比較した。

システム全体の消費電力

 ただでさえクロックが全体に引き上げられ、さらにBoard Powerも増えたRX 6950 XTをさらにOCしているのだから、高負荷時の消費電力は今回の検証環境で600Wにかなり近付いた。ここでの検証では定格と低電圧モードの差がないが、本当にカード単体レベルで差がないのかどうかは後ほど改めて検証するとしよう。

実ゲームではWQHD以上の高解像度プレイで威力を発揮

 ここからは実ゲームを使った検証となる。最初に「レインボーシックス シージ」で試すが、APIはVulkanを選択。画質は“最高”にレンダースケール100%を追加した。ゲーム内ベンチマーク機能を利用してフレームレートを計測した。ここから先はフルHD/WQHD/4Kの3通りの解像度でフレームレートを比較するが、このゲームに限り4Kに解像度を変更すると画面がブラックアウトしてデバイスが落ちてしまう(ドライバの不具合だと思われる)ため、4Kのデータはなしとした。

「レインボーシックス シージ」Vulkan API、1,920×1,080ドット時のフレームレート
「レインボーシックス シージ」Vulkan API、2,560×1,440ドット時のフレームレート

 フルHDではRX 6900 XTとまったく差が出ないが、WQHDにするとクロックの差がフレームレートに現われてくる。フルHDで差が出ないのはCPU側のボトルネックではないかと推察している。

 次は「Apex Legends」で検証しよう。射撃訓練場における一定の行動をとった際のフレームレートを「CapFrameX」で計測する。画質は最高設定とし、起動オプションで144fps制限を解除(+fps_max unlimited)済みだ。

「Apex Legends」1,920×1,080ドット時のフレームレート
「Apex Legends」2,560×1,440ドット時のフレームレート
「Apex Legends」3,840×2,160ドット時のフレームレート

 ここでもフルHDではRX 6900 XTと差がないことが確認できたが、解像度が上がることでRadeon RX 6950 XT GAMING X TRIO 16Gの強さが見えてくる。この理由はRX 6950 XTの動作クロックにあることは明確だが、解像度と連動することから、GDDR6のクロックがとくに影響していると考えられる。

 新しめのFPS系として「Tiny Tina's Wonderlands」も検証しよう。APIにDirectX 12、画質は“バッドアス”を選択した。ゲーム内ベンチマーク機能を利用してフレームレートを計測した。最低フレームレート(の1パーセンタイル点)は出力されたcsvファイルから直接算出した。

「Tiny Tina's Wonderlands」DirectX 12 API、1,920×1,080ドット時のフレームレート
「Tiny Tina's Wonderlands」DirectX 12 API、2,560×1,440ドット時のフレームレート
「Tiny Tina's Wonderlands」DirectX 12 API、3,840×2,160ドット時のフレームレート

 このゲームではRadeon RX 6950 XT GAMING X TRIO 16GがフルHDの段階からRX 6900 XTに対し高いフレームレートを示している。とくに4K設定ではRadeon RX 6950 XT GAMING X TRIO 16Gでないと60fps以上キープできないことを示しており、4K&最高画質プレイをしたい人は本機の購入を検討すべきと言える。また低電圧モードでは微妙に定格時よりもフレームレートが下がっているような印象を受けるが、実際のところ低電圧モードにしても誤差レベルの違いしか生まないようだ。

 続く「Forza Horizon 5」では画質は“エクストリーム”に設定した。ゲーム内ベンチマーク機能を起動し、GOサインが出てからリザルトが出る瞬間までのフレームレートを「CapFrameX」で計測する。

「Forza Horizon 5」1,920×1,080ドット時のフレームレート
「Forza Horizon 5」2,560×1,440ドット時のフレームレート
「Forza Horizon 5」3,840×2,160ドット時のフレームレート

 これも傾向としてはTiny Tina's Wonderlandsと同じ。フルHDでもRX 6900 XTに対し(わずかだが)アドバンテージは出せるが、本領を発揮させるには解像度を上げていく必要がある。とくに4Kでは高クロックモデルならではのパフォーマンスが味わえるだろう。

 DXR(DirectX Raytracing)対応ゲームも試すことにしよう。まず「ファークライ6」では画質は“最高”に設定し、レイトレーシングは影・シャドウともに有効に。さらにVRS(FidelityFX Variable Rate Shading)や高解像度テクスチャも有効とした。ゲーム内ベンチマーク機能を利用してフレームレートを計測する。

「ファークライ6」1,920×1,080ドット時のフレームレート
「ファークライ6」2,560×1,440ドット時のフレームレート
「ファークライ6」3,840×2,160ドット時のフレームレート

 フルHDではRX 6900 XTと差が出ず、WQHDで辛勝、4KでようやくRadeon RX 6950 XT GAMING X TRIO 16Gの実力が発揮される印象だ。ファークライ6はDXR対応ゲームではあるが、比較的Radeonでも回るゲームでもある。とくに高解像度テクスチャを有効化してプレイしたい場合は、ビデオメモリ16GB環境のRX 6950 XTはよい選択肢となるだろう。

 最後に試すのは「Ghostwire:Tokyo」である。画質は全項目を最高(スライダ右端)とし、レイトレーシングも有効化したが、レベルストリーミング距離だけは最低設定とした。マップ内の一定のコースを移動したときのフレームレートを「CapFrameX」で計測する。

「Ghostwire:Tokyo」1,920×1,080ドット時のフレームレート
「Ghostwire:Tokyo」2,560×1,440ドット時のフレームレート
「Ghostwire:Tokyo」3,840×2,160ドット時のフレームレート

 Ghostwire:Tokyoのような描写の濃いゲームでのレイトレーシングはかなりつらい。幸い本作はFidelityFX Super Resolution(FSR) 2.0に近い処理を行なうTemporal Super Resolution(TSR)に対応しているため、4KならTSRのバランス設定を利用することでかなり快適に楽しむことができるだろう。

低電圧モードのほうがクロックの安定感が出る

 一通りゲームの検証が終わったところで、今度はRadeon RX 6950 XT GAMING X TRIO 16Gの消費電力や発熱の検証に入る。前述の検証では本機の消費電力がRX 6900 XTリファレンスカードに対して大幅に増加し、低電圧モードでも大差ないことが示されていたが、ここではNVIDIAの電力測定用デバイス「PCAT」を利用し、検証に使用したビデオカードのTBP(Total Board Power)を正確に測定することにする。CapFrameXでもTBPの推測は可能だが、誤差が大きいためPCATで正確に読み取ってみたい。

 ここでの検証はGhostwire:Tokyoを利用する。解像度はフルHD、画質は前述の検証と同じ設定を使用し、同じセーブデータをロードして約10分放置した際、各カードのTBPにどう違いが出るか検証する。

ゲーム中のTBPの推移を比較したもの。1秒ごとの移動平均でプロットした。比較用にRX 6900 XTリファレンスカードのTBPも追加している。横軸は時間軸を示す

 同じシーン、同じような描画負荷をかけたときのTBPを見ると、スタート直後こそ低電圧モードのほうが若干高いが、1分もしないうちに上昇し、最終的に定格モードとのTBPはほとんど変化ない状態となった。定格モードでのTBPは最大471W、平均434Wなのに対し、低電圧モードでは最大462W、平均429Wとなった。Radeon RX 6950 XT GAMING X TRIO 16Gの場合、消費電力を抑えるためにはAfterburnerなどを使いPower Limitを抑え込むほうが有効かもしれない。

 続いては同じGhostwire:Tokyoプレイ中のGPU温度やクロックを「HWiNFO Pro」を利用して追跡する。検証機材はバラック組み、室温は27℃前後である。

ゲーム中のGPU温度推移
ゲーム中のGPUクロック推移

 まずGPU温度は低電圧モードのほうが低いが、徐々にクロックが上昇し最終的には定格モードとまったく同じ温度(75℃前後)に収束した。同動作クロックは2,400〜2,550GHzの辺りが多いが、Ghostwire:Tokyoのプレイ中は突然2,000MHzくらいまで下がってまた上がるような挙動を見せた。

 動作クロックのピークは定格のほうが高いが、グラフの安定値を見ると低電圧モードのほうが微妙に高い位置にあるように見える。コア電圧(VDDCR_GFX)は定格で1,107〜1,109mV、低電圧モードで1,104〜1,109mVで推移しており、より低電圧で動作しているのは間違いない。今後のドライバのアップデートにより挙動が変わってくる可能性はあるが、今回観測されたデータで判断するなら、Radeon RX 6950 XT GAMING X TRIO 16Gはあえて低電圧モードで運用するのがよいように思える。

消費電力は大きいが、Radeonで最高のゲーミング環境が作れる

 ワットパフォーマンスだけで見ると、RX 6950 XTはRX 6900 XTには及ばないと考える人も多そうだが、RX 6900 XTでは伸びきらなかった4Kでのパフォーマンスを補っている。Radeon RX 6950 XT GAMING X TRIO 16GはそのRX 6950 XTを強めにOCしているため消費電力がかなり多く、RTX 3090を笑えないレベルの電力を消費するようになったが、Radeonの強さを引き出すためにあらゆる手段を尽くしたカードという感がある。そろそろ次世代Radeonの声も聞こえてきそうだが、今あるRadeonで最高のゲーミング環境を作りたければ購入を検討してみてはどうだろうか。

[制作協力:MSI]