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写真の明暗調整もダイヤル操作で一発、動画配信もDAW快適になる「Loupedeck CT/Live」

作業を快適にするダイヤル+液晶ボタン付きの左手デバイス text by 佐藤岳大

 PCを使って作業を行うとき、キーボードとマウスでの操作にやりにくさを感じたことは無いだろうか?

 例えば筆者の場合、画像編集作業の際に、スライダーの操作がキーボード&マウスでの直感的な操作が難しく、「ホイールで細かい調整ができれば……」と考えたことは多い。音響関連や動画編集関連のデバイスはある程度専用設計の物があるが、アプリケーションを選ばず使える汎用的な入力補助デバイスは中々見つからない。

 「Loupedeck CT」および「Loupedeck Live」は、そんな不満を解決してくれるデバイスの一つだ。今回は実機を使って、その機能や利便性を確認してみた。

「カスタム編集コントローラー」を手掛けるLoupedeck

クリエイター向け入力デバイスを販売するLoupedeck

 Loupedeckはフィンランド創業のハードウェアメーカーで、クリエイター向けの編集デバイスを設計/販売している。同社はプロから初心者まで幅広いユーザーに向けた製品開発を謳っており、Loupedeck CT(以下CT)およびLive(以下Live)を「カスタム編集コントローラー」として販売している。

 今回紹介するCTおよびLiveの2製品は、いわゆる“左手デバイス”と呼ばれているようなジャンルの製品で、ダイヤルや液晶付きボタンを複数備え、いずれも独自のユーティリティアプリ「Loupedeckソフトウェア」から自由にカスタムできる。

 実売価格は上位モデルのCTが69,980円、下位モデルのLiveが37,900円。PC周辺機器としては安い価格帯の製品ではないが、画面付きボタンとダイヤル搭載のデバイスという意味では、おそらく本製品が唯一の選択肢だろう。

液晶付きボタン+ダイヤルを搭載する「Loupedeck」、外観は高級感あり

Loupedeck CT
Loupedeck Live

 筐体色はブラックで、金属製のトップパネルと合わさり高級感のある見た目だ。

 両製品ともにタッチ操作に対応した液晶付きボタン12個と、ボタンとしても機能するノッチ付きダイヤル6個、クリック感のある丸ボタン8個が配置されている。

 加えて、CTは液晶付きジョグホイールと12個のボタンも備えている。ジョグホイールはダイヤルと違い、ノッチがなくスムーズに回転するタイプのため、操作感が異なる。

 CTとLiveの違いは、下部のジョグホイールとボタンの有無。基本的にLiveはCTの廉価版で「LiveにできてCTにできない」という機能や操作は無い。

 共通のタッチボタン部分は、タッチ対応液晶パネルを枠で区切ったような構造で、物理的なスイッチ機構は備えていない。本体内蔵のバイブレーターで触覚フィードバックが得られる設計だ(オン/オフが可能)。

CTとLiveの違いは下部ボタンとホイール。CTの場合、Liveと異なりキーボードボタンを押しながら数字ボタンを押すことで、修飾キーとしても動作する。
タッチボタン

 便宜上、本稿では左手デバイスと呼んでいるが、本製品は左右対称デザインのため、左利きのユーザーが右手で使う場合も使用感に影響はない。ジョイスティックなどを備えたゲーム向けの左手デバイスとは異なるポイントと言えるだろう。

 本体サイズと重量は、CTが150×160×30mm/365g、Liveが150×110×30mm/230g。パッケージには本体のほか、USB Type-Cケーブル、Type-C to Type-Aアダプタが同梱されている。

同梱品のType-Cケーブルとアダプタ
Liveのパッケージには角度をつけて設置するためのクリップ固定式スタンドも同梱されていたが、CTには付属していない。画面の視認性が良くなるため、CTへの同梱も期待したい

API連携アプリは16個だが、キーボードショートカット機能で対応アプリは実質無限大OS操作にも対応

Loupedeckソフトウェア

 専用ユーティリティのLoupedeckソフトウェアは常駐タイプのもので、UIも日本語化されている。

 Loupedeckソフトウェアでは、アプリごとに「プロファイル」と「ワークスペース」が設定できる。プロファイルの切り替えは手動でも可能だが、アプリがアクティブになると紐づけたプロファイルへ自動で切り替わる「ダイナミックモード」も備えている。

 1つのプロファイルに対してワークスペースは複数保持でき、タッチボタンとダイヤル、ホイールについてはフリック操作によるページングに対応している(ワークスペースと別枠)ため、任意の数だけ機能を追加できる。なお、今回の検証はLoupedeckソフトウェアver.5.1でのものとなっている。

 記事執筆時点での公式なAPI連携アプリは以下の通り。API連携のアプリは、状態や画面に応じたボタン表示の変化など高度な連携が可能だ。

 ・Ableton® Live (v.10.0)
 ・Adobe After Effects
 ・Adobe Audition
 ・Adobe Lightroom Classic
 ・Adobe Illustrator
 ・Adobe Photoshop with Camera Raw
 ・Adobe Premiere Pro
 ・Capture One Pro
 ・Final Cut Pro X (v. 10.0) (macOS)
 ・OBS Studio
 ・Philips Hue Bridge
 ・Spotify Premium
 ・Streamlabs OBS (Windows)
 ・Twitch
 ・macOS X 10.14(およびそれ以降)
 ・Windows 10

 写真/映像編集や配信アプリを中心とした対応だが、これはAPIを介した対応アプリ一覧で、キーボードショートカットを割り当てての操作も可能。そのため、上記リストに無いアプリでも、キーボード操作に対応していれば可能であればLoupedeckで操作できる。Loupedeckソフトウェア内のマーケットプレイスでは、非API連携アプリのプロファイルも配布されている。

マーケットプレイスで非API連携アプリ用のプロファイルも配布されている
アイコンパックも配布されており、アニメーションGIFも設定できる

 余談となるが、Loupedeckにはゲーミングデバイスで知られるRazer(同社CVCであるzVentures)が出資しており、将来的にはRazer製ゲーミングデバイスやRazer Chromaとの連携といった可能性にも期待したい。

Windowsのデスクトップ操作も可能Alt+Tabから仮想デスクトップ、音量ミキサーまで操作がわかりやすく

仮想デスクトップ

 ここからはLoupedeckソフトウェアとアプリとの連携を見ていこう。まず初めはWindowsとの連携だ。

 Windowsとの連携機能はいくつかあるが、筆者が有用性を感じた機能の1つ目が仮想デスクトップの操作だ。

 仮想デスクトップは、複数のデスクトップを使い分けられるWindows標準の機能だが、Loupedeckでは仮想デスクトップをダイヤルで順次切り替えたり、追加する/閉じるといった操作が行える。

 Windows標準のキーボードショートカットでも同じ操作が可能ではあるものの、「集中したい作業用に仮想デスクトップを開いたあと、メインデスクトップのSNSを一瞬見たい」といったとき、ダイヤルを回すだけでマウスやペンなどから手を離さずに素早く切り替えられるため、より直感的な操作感が得られる。

 そのほか、Alt+Tabのようなウィンドウ切り替えもLoupedeck上で行える。

Loupedeckソフトウェアでの仮想デスクトップ操作割り当て
ウィンドウ切り替えもLoupedeck上で可能

 もう1つの機能は音量ミキサーで、こちらはWindows標準の「音量ミキサー」と同様に、Loupedeck本体のタッチボタンにシステム音声とアプリが一覧で表示され、ミュートや音量調整が可能。ちょっとした音量調整を素早く手元で行える。

出力音声ミキサー

Adobe Photoshop/Lightroom Classicとの連携より直感的な操作が可能に

Photoshop

 Adobe製品との連携では、筆者の環境上、今回は写真編集関連についてのみ検証を行った。Adobe製品では各アプリにプラグインを導入することでLoupedeckとの連携が可能になる。

 Lightroomでは、ライブラリ画面でのフラグ/レーティング操作、現像画面における各種パラメーターの調整などが可能。明暗の調整や彩度や色味など、直感的な操作が可能になる。写真編集を良く行う人であれば便利に感じる部分が多いはずだ。

Lightroomプロファイル

 Photoshopでは、ツールの切り替えやレイヤー操作、Camera RawにおけるLightroom同様のパラメーター調整などに対応している。API連携のため、Camera Raw起動時には自動でCamera Rawワークスペースに切り替わる。

Photoshopプロファイル

 キーボードやマウスと比較した、Loupedeckによる操作の利点としては、スライダーをダイヤルに割り振ることでスムーズに調整できる点が挙げられる。冒頭にも挙げたように、キーボード&マウス操作での「カーソル位置がズレて違うパラメーターを操作してしまい、イラッとしながらCtrl+Zを押す」といった小さな不満から開放されるのは、思っていたよりも快適だ。

 また、ダイヤルに個別の調整が割り振られているため、同時に2つの調整が行える。例えば「露出を上げつつハイライトを下げる」、「かすみの除去とコントラストを同時に調整する」といった操作は、本製品ならではと言える。

OBS Studioではスムーズなシーン切り替えや音量調整が可能

OBS Studio

 続いては、オープンソースのストリーミング配信用人気アプリ「OBS Studio」との連携だが、こちらもOBS側にプラグインを導入することでLoupedeckとの連携が可能。

 プラグイン連携によって可能な操作としては、配信/録画/仮想カメラの切り替え、シーン/シーンコレクションの切り替え、映像ソースの表示/非表示切り替え、オーディオミキサーのソース別ミュート/調整など。

OBS Studioプロファイル(設定例)

 アイコンにステータスも反映されるため、「マイクのミュート状態」などをひと目で確認できる。ストリーマーなどにとって、ゲーム中に画面から目を離さずに音量調整などが可能となるのは、こういったデバイスならではの利点と言えるだろう。

 Twitchと連携して事前設定したチャットの投稿、チャット設定の変更、クリップの作成なども行える。

キーボードショートカット連携でも実用性アリDAW(音楽制作アプリ)と組み合わせればフィジカルコントローラーに早変わり

Studio One 5

 最後に、API連携のないキーボードショートカットによるアプリの操作についても紹介しよう。

 前述の通り、API対応していないアプリの一部についてもキーボードショートカットを割り当てたプロファイルが配布されている。

 そんなショートカットプロファイルが配布されているアプリの1つである、音楽制作アプリ「Studio One 5」では、再生/停止やループのオン/オフ、ズームなどタイムラインの各種操作、マーカー操作などが設定されていた。

Studio Oneプロファイル

 Loupedeckではキーボードショートカットのほか、MIDI信号の送信も可能なため、DAW側のMIDI割り当て機能と組み合わせて、VSTシンセサイザーのパラメーター調整なども実現できるのは面白いポイントだ。

高価なデバイスではあるが価値を感じる機能性、作業の効率を高めてくれる1台

小型モデルとなるLoupedeck Live Sは現在クラウドファンディングが行われている。

 ここまで紹介してきたように、Loupedeck CTおよびLiveは様々なアプリの操作を拡張してくれるデバイスだ。

 正直なところ、この種の周辺機器における評価は、ハードウェア本体の完成度はさほど問題にならず、8割方はユーティリティアプリの完成度によって決まると言っても過言ではない。

 Loupedeck CT/Liveの場合、Loupedeckソフトウェアが継続してアップデートされており、メジャーバージョンアップでプロファイルカスタム画面の操作性が大きく改善されるなど、かなり「しっかりしている」という印象を受けた。

 開発者向けにSDKも公開されており、GitHubで自作プラグインを公開している開発者もいるようだ。

 あくまでカスタマイズが前提のデバイスとなるため、箱から出してすぐ便利に使えるというものではない。筆者としては、ある程度「Loupedeckシリーズで出来ること」を想定した上で購入することを推奨する。

 現在Loupedeckは、クラウドファンディングサイトのIndiegogoにて、Liveからダイヤルとボタン数を減らした「Loupedeck Live S」のクラウドファンディングも実施。

 プロジェクトは目標額の調達を達成済みで、Live Sの市販価格はLiveよりも安価となる予定だという。こちらの国内発売については不明だが、競争力のある価格で投入されることを期待したい。