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16TBが1万円台!?謎の激安外付けSSDは何もかもが嘘ばかりの偽装品だった

異様に安いSSDは購入前によく下調べを text by 坂本はじめ

 近年、通販サイトやオークションサイトなどで、8~16TBという超大容量ポータブルSSDが数千円から1万円前後で販売されている。大手メーカー品の場合、1TB品が1万円前後で販売されているものも増えてきたが、それと比べても10数分の1程度というとてつもない価格だ。

 もしこの価格と記憶容量が事実ならポータブルSSDに価格破壊をもたらす超コスパ製品なのだが、販売されているのはネット上のみで、同様の製品が秋葉原の店頭で扱われている様子もないなど、なんともいかがわしい。今回、1万円前後で販売されていた16TBのポータブルSSDを入手したので、ネット上で売買されている激安SSDの実態を調査する。

1万円前後という超低価格で「容量16TB」と「USB 3.2 Gen 1対応」をうたうポータブルSSD

 今回入手した激安SSDは、記憶容量16TBをうたうポータブルSSDで、インターフェイスはUSB 3.2 Gen 1(5Gbps)に対応しているとしており、USB Type-C to Type-Aケーブルが同梱されている。

 記憶容量16TBというと、NANDフラッシュメモリを製造する大手メーカーですら、一般ユーザー向けSSDとしては製品化していないほどの超大容量であり、これが1万円前後で販売されているのであれば、その容量単価はSSDはおろかHDDすら圧倒する安さということになる。現在の技術でそこまで超高コスパな製品を製造できるのか非常に気になるところだ。

入手した激安SSD。1万円前後という価格でありながら、16TBの記憶容量とUSB 3.2 Gen 1対応をうたっている。正常に使用できればとてつもないコストパフォーマンスの高さだ。

 また、このポータブルSSDの外観は、Samsung製のポータブルSSDに似たデザインになっている。道義上、直接販売ページを紹介はしないが、販売ページにはSamsungの製品に似せた商品写真が複数使用されていた。

 外観はSamsung製ポータブルSSDの旧モデル「T5」に酷似しているが、今回は現行モデルの「T7」と比較してみた。本体に刻印された商標などは異なるものに置き換えられており、形状も細部は異なっていることから完全なコピー品ではなく模倣品といった方が正確だろうが、大手メーカーであるSamsungのポータブルSSDと同等レベルの製品と誤認させようとする意図は感じる。

16TBポータブルSSD(左)とSamsung T7(右)。本体カラーは異なるが、形状的にはSamsungのデザインを模している様子がみてとれる。
16TBポータブルSSD(左)の本体には「Portable SSD」等の文字が刻印されており、商標を剽窃した偽造品とまでは言えないが、文字の配置などを似せているように見える。

何から何まで偽装だらけ、16TBポータブルSSDの実態

 ここからは、「1万円前後で16TBの超大容量を実現するUSB 3.2 Gen 1対応ポータブルSSD」とされるSSDの実態を調査していく。

 まず、このポータブルSSDをPCに接続した場合、どのように認識されるのかをチェックしてみたところ、Windows上では「15.2TB」の記憶容量を持っていると認識された。Windowsはストレージの記憶容量を1KB=1,024Bで認識するため、1kB=1,000Bで数えるのが一般的なストレージデバイスとしては「16.7TB」に相当する容量を備えているという認識だ。

SSDを接続したWindows PCでは、exFATでフォーマットされた15.2TBの記憶容量が認識された。

 認識上の容量が16TBと称するに不足していない一方で、PCとSSD間を接続するインターフェイスについては「USB 2.0」であると認識された。

 付属のケーブルをよくよく見てみると、Type-A端子がUSB 3.2相当の実装になっていない偽装ケーブルであることが判明した。これを受けて、Samsung T7に付属するUSB 3.2 Gen 2対応ケーブルを使って16TBポータブルSSDを接続してみたのだが、接続インターフェイスは「USB 2.0」のままだった。

 つまり、USB 3.2 Gen 1対応と謳っていた接続インターフェイスの仕様は偽装であり、SSD本体と付属ケーブルのいずれもUSB 2.0対応であるということだ。

Samsungのユーティリティソフト「Magician」のドライブ詳細では、SSDのインターフェイスが「USB 2.0」と認識された。なお、このSSDはSMART非対応のようで、CrystalDiskInfoなどのアプリでは情報が取得できなかった。
「HWINFO」でも接続状態を確認してみたが、こちらも「USB 2.0」で認識された。
SSDに付属していたUSBケーブル。USB Type-A端子には4ピンしか実装されておらず、USB 3.2 Gen 1の要件を満たさない偽装ケーブルだ。
Samsung T7に付属するUSB Type-C to AケーブルのType-A端子。手前の4ピンの奥に、USB 3.0規格で追加された5ピンが実装されている。

 ベンチマークソフトの「CrystalDiskMark」を実行した結果が以下のスクリーンショット。

 転送速度はシーケンシャルリードが最大15.71MB/s、同ライト最大18.62MB/sとなっており、実際のインターフェイスが480MbpsのUSB 2.0であったことを考慮してもSSDとは思えないほど遅い。筆者の感覚的には格安のUSBメモリやSDカードの速度といった印象だ。

 また、テスト後半に実行される4KBランダムライトテストについては表示上の数値が0.00MB/sになっている。これは低速なフラッシュメモリ製品で見られる結果でもあるのだが、今回のSSDはRND4K Q32T1実行中にSSDの接続が切断されて認識されなくなっておりテストを完走できていない。高負荷がかかり続けると止まってしまうようだ。

CrystalDiskMarkの実行結果。ポータブルSSDというにはあまりにも低速だ。

 最後にテストするのは、ストレージが認識通りの記憶容量を備えているのかをチェックする「H2testw」。16TBポータブルSSDはWindowsによって15.2TBの容量を備えていると認識されているが、これが実際に利用可能であるのかをチェックしようと言う訳だ。

 とはいえ、USB 2.0接続にしても遅い転送速度で15.2TB全域をテストすると数日を要してしまうので、今回は64GB(64,000MB)の書き込みテストを行ってデータが正常に記録されるのかをテストしたのだが、結果として正常にデータが書き込めたのは57.6GBまでで、これを超えたデータは損なわれた。

 つまり、このポータブルSSDに実装されている本当の容量は57.6GBしかなく、Windowsが15.2TBと認識した容量は偽装されたものであるということだ。

H2testwで64,000MBの書き込みテストを実行した結果。正常に書き込めたのは57.6GBで、残りのデータが失われたことから、15.2TBという認識上の記憶容量が偽装されたものであることが判明した。

 16TBをうたう記憶容量は260分の1未満の57.6GBしかなく、USB 3.2 Gen 1対応とされていたインターフェイスやケーブルはUSB 2.0対応。転送速度も低廉なUSBメモリやSDカード並みという酷い有様で、今回入手したSSDは何から何まで嘘ばかりの偽装品だった。

 なお、57.6GBの範囲であれば画像データやテキストデータを書き込んでファイルも開けるが、連続して負荷がかかると異常終了してWindowsからデバイスが認識されなくなるため、まともに使うことはできない。数GBを超える動画ファイルは書き込むことができなかった。今回は実態を調査するために購入したが、外付けSSDとして利用を考えているユーザーは手を出せば損をするだけなので、購入は見合わせた方が良さそうだ。

分解してみると中身はmicroSDカード、本当の容量は64GBクラス?

 なにからなにまで嘘だらけだった偽装SSD、その内部がどうなっているのか分解して確かめてみた。

 偽装SSDの内部に搭載されていたのは、microSDカードスロットが実装された基板だった。スロットにはmicroSDカードが搭載されており、基板上には詳細不明のチップが実装されていた。先のテストで実際に書き込めた容量がmicroSDカード本来の記憶容量で、詳細不明のチップが容量偽装などを担っているのだろう。

分解した偽装SSD。内部にはmicroSDカードスロットを備える基板が搭載されていた。
microSDカードスロットには詳細不明のmicroSDカードを搭載。基板上には詳細不明のチップ(U1)が実装されている。

 実際、接着剤を除去してmicroSDカードを取り外してみたところ、カード裏面には型番らしき文字やMADE IN TAIWANといった文字が印字されていた。あらゆる点が偽装されているので印字された内容も偽装の可能性は十分にある。

 一般的なカードリーダーを使用してPCに接続してみたところ、利用可能な記憶容量は58.2GBと認識された。この容量は偽装SSDに正常にデータを書き込めた57.6GBとほぼ一致している。

接着剤で固定されていたmicroSDカードを取り外してみた。
カード裏面には型番らしき文字や「MADE IN TAIWAN」といった文字が印字されている。印字の真偽については定かではないので、信用できるものではない。

本物のSamsung製ポータブルSSDは模倣品とは当然段違いの性能高耐久モデルも選べるSamsungのポータブルSSD

 ここで、悪質な偽装品であったSSDに外観を模倣されていた、Samsung T7の性能やスペックを確認しておこう。

 インターフェイスにUSB 3.2 Gen 2(10Gbps)を採用するSamsung T7は、500GB~2TBの容量をラインナップしており、最大容量の2TBモデルはCrystalDiskMarkによる実測でもシーケンシャルリード約1,057MB/s、同ライト約811MB/sという、偽装SSDとは文字通り桁違いの速度を実現している。

 Samsung T7は性能と携帯性に優れたポータブルSSDであり、これと誤認して今回入手したポータブルSSDのような偽装品を購入してしまったなら、それは悲惨と言うほかない。

USB 3.2 Gen 2対応ポータブルSSD「Samsung T7」。
T7(2TB)のCrystalDiskMark実行結果。偽装品とは桁違いの速度を実現している。
薄型軽量で携帯性に優れた筐体を採用しており、500GB~2TBの容量をラインナップしている。
SMARTに対応しており、Samsung Magicianなどのユーティリティでドライブのステータスを確認できる。

 また、SamsungはT7の派生モデルとして、筐体を耐衝撃性に優れたエラストマーで覆うことでIP65相当の防塵防水性能を備えつつ、最大で4TB(1~4TB)の大容量モデルを用意したポータブルSSD「T7 Shield」もラインアップされている。

 こちらもUSB 3.2 Gen 2に対応しており、4TBモデルはCrystalDiskMarkでシーケンシャルリード約1,057MB/s、同ライト約953MB/sを実現している。屋外に持ち出す機会の多いヘビーユーザーには、性能と耐久性、大容量の3拍子揃った魅力的なSSD。こうした高耐久モデルは特に信頼性の高いメーカーから選びたい。

耐久性を強化したポータブルSSD「Samsung T7 Shield」。
T7 Shield(4TB)のCrystalDiskMark実行結果。
IP65相当の防塵防水性能も備えた筐体は、耐衝撃性に優れたエラストマーで覆われている。容量ラインナップは1TB~4TB。
こちらもSMARTに対応しており、Samsung Magicianでステータスを確認できる。

 NANDフラッシュメモリを製造する世界有数のメーカーであるSamsungが、自社のポータブルSSDであるT7で最大2TB、その派生モデルにしてタフさと大容量を特徴とするT7 Shieldでも最大4TBまでのラインナップとなっていることを知っていれば、偽装品がうたう16TBのポータブルSSDというものが現実味のないスペックで、少なくとも1万円前後で実現できるものでは無いことには気づけるはずだ。

SSDは“信頼のおけるメーカー”の製品を“信頼のおけるショップ”で購入することが重要

 今回の偽装品は16TBという超大容量を1万円前後という、あまりにも現実離れした製品であることから、偽装品であることは容易に見抜けるだろう。しかし、より現実味のあるスペックと価格設定の偽装品が現れれば、本物のスペックや価格を知っているだけでは偽装品を避けるのは困難になるかもしれない。

 悪質な偽装品と業者は通販サイトなどから排除されるべきではあるが、このような偽装品は手を変え品を変え我々の前に現れる。悪質な偽装品から自らを守るためには、価格とスペックだけで製品を判断して購入するのではなく、信頼できるメーカーの製品なのかはもちろん、大手メーカーの製品であれば正規品を扱っていると信頼できるショップで購入することが重要だ。

 Samsungのような大手メーカーのSSDは、偽装品が外観を似せるだけあって製品としてのグレードは高い。今回テスト結果を紹介したT7やT7 Shieldは、優れた性能や信頼性を実現したポータブルSSDだ。安物買いの銭失いにならないよう、ポータブルSSDの購入にさいしては価格以外の要素もよく検討してもらいたい。

[制作協力:Samsung]