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早くも偽物SSDに新作?「T7 Shield」風の外付けSSDは性能偽装だらけの似て非なる物だった

より巧妙になる模造品、購入前にメーカーと販売店をしっかり確認 text by 坂本はじめ

 先日取り上げた16TB SSDをはじめ、スペックを詐称した偽装品や、有名メーカーのポータブルSSDの模造品や偽装品が跋扈しているネット上に、タフさが売りのポータブルSSD「Samsung T7 Shield」を模したとおぼしき製品が登場した。

 今回、容量1TBのUSB 3.1 Gen 1対応SSDであると主張するT7 Shieldの模造品を入手。Samsung T7 Shieldの製品サイトの画像を使用するなど“模造”では言い逃れできないレベルの状態で販売されていたもので、手を変え品を変えながら悪質化していく様を目の当たりにした。悪徳業者への対策がいたちごっこの様相を呈するなか、このような怪しい製品を選択すると一体どうなるのかをその目で確かめてもらいたい。

まずは本物の「Samsung T7 Shield」から確認タフさが売りのユニークなポータブルSSD

 今回入手したSSDを調査する前に、その模造元となったSamsung製ポータブルSSD「T7 Shield」について紹介しておこう。模造品と比較する前にだいたいの形状とスペックを覚えておいてもらいたい。

 Samsung T7 Shieldは、外装をエラストマー素材で覆うことで耐衝撃性を高めつつ、IP65に適応する防塵防水性能を備えたポータブルSSDだ。容量ラインナップは1~4TBで、インターフェイスにUSB 3.2 Gen 2(10Gbps)を採用。リード最大1,050MB/s、ライト最大1,000MB/sという高速性も兼ね備えている。

 タフさと速度と容量を兼ね備えたT7 Shieldは、屋外に持ち出す機会の多いユーザーや、カメラの外部収録デバイスとして活用するユーザーからの人気が高いポータブルSSDだ。

タフさが売りのポータブルSSD「Samsung T7 Shield」。
T7 Shield(1TB)のCrystalDiskMark実行結果。
エラストマーで覆われた外装は耐衝撃性に優れ、IP65相当の防塵防水性能も備えている。
CrystalDiskInfoのステータス。NVM Express 1.4対応の高速接続タイプの外付けSSDであることがわかる。

模造品SSDは単体で見るとかなりT7 Shield風、スペックもありえなくはない数値に製品紹介には堂々とT7 Shieldの画像を剽窃

 今回入手したT7 Shieldの模造品は、USB 3.1 Gen 1(5Gbps)対応に対応した1TB SSDを称するもの。購入時の価格は5,600円で、割安な1TB外付けSSDとしては現実味のある価格で販売されていた。

 以前紹介した16TB SSDを称する偽装SSDに比べると現実的なスペックを称しているが、外観デザインが印象的なT7 Shieldに似せるだけにとどまらず、販売ページではT7 Shieldの製品画像を剽窃してそのまま掲載するという無法ぶり。ある程度PCなどに詳しい人が見ればまともな製品ではないと気付くレベルではあるが、ありえなくはない現実的な部分も混ぜられているのはたちが悪い。

入手したT7 Shieldの模造品。凹凸が印象的な外装はT7 Shieldを模したものだ。単体で見ると一見T7 Shieldにかなり似ている印象だが……。細かく見ると作り込みが甘い部分などが散見される。
模造品の商品パッケージ。一見まともそうにも見えるが、左上には実態と異なる「M.2 SSD」と表記されている。右上にはUSB 3.1の表記も。

 外装の形状こそ真似ているものの、外装はエラストマーではなく硬質なプラスチック素材となっており、T7 Shieldのような耐衝撃性が期待できるものではない。

 また、インターフェイスはUSB 3.1 Gen 1対応としているが、付属しているUSBケーブルのType A端子は4ピンしか備えておらず、最大でもUSB 2.0での通信しかできない代物だった。念のため、USB 3.2 Gen 2対応のケーブルで模造品を接続してみたが、本体側もUSB 2.0でしかリンクすることはできなかったことから、USB 3.1 Gen 1対応というスペックは虚偽である。

本物のT7 Shield(左)と模造品(右)。凹凸が特徴的なT7 Shieldの外装を真似てはいるが、本体サイズは模造品の方がやや小さく、並べるとコピーしきれていないことがわかる。
模造品(右)の筐体はごく普通の硬いプラスチック素材で、筐体をエラストマー素材で覆うT7 Shield(左)とは全く質感が異なる。当然、本物並みの耐衝撃性が期待できる外装ではない。
付属のUSBケーブル。USB 3.1 Gen 1対応であるかのようにType A端子の樹脂部分が青色になっているが……、Type A端子にはピンが4本しか実装されておらず、最大でUSB 2.0までしかサポートできない構造だった。
模造品をPCに接続してモニタリングソフトの「HWiNFO」で確認してみたところ、インターフェイスはUSB 2.0であると認識された。
Samsungのユーティリティ「Magician」でステータスを確認にすると、模造品SSDはUSB 2.0接続のドライブとして認識された。これはケーブルをUSB 3.2 Gen 2対応品に交換しても同様だ。
ちなみにこちらは「T7 Shield」を「Magician」でステータスを確認したところ。USB 3.2 Gen2接続のドライブとしてしっかり認識され、本物のSamsung製品である「正規」の表示も確認できる。

 PCに接続したさいの記憶容量は1TBであると認識されるのだが、当然ながらこの記憶容量も偽りである。

 ストレージが認識通りの記憶容量を備えているのかをチェックできる「H2testw」で64GB(64,000MB)のデータを書き込んでテストしたところ、正常に書き込めたのは58.2GBまでで、それ以上のデータは失われてしまった。

Windows上では1TBの記憶容量を備えたストレージであると認識された模造品だが……
H2testwのテストでは、正常に書き込めたのは58.2GBまでだった。

 模造品でCrystalDiskMarkを実行した結果が以下のスクリーンショットで、データ転送速度は最大でもリード約21.4MB/s、ライト約12.6MB/sだった。

 インターフェイスがUSB 2.0である時点で分かりきった話ではあるが、データ転送速度についても酷いものだ。1GB/s前後の転送速度を実現している本物のT7 Shieldと比べると、おおよそ50~75倍もの速度差がついている。

模造品SSDを分解、中身は案の定「microSDカード」簡単に分解可能で、防水/防塵機能も期待できない構造

 一通りのテストを完了し、模造品が悪質な模造品であることを確認できたところで、その中身を確認してみた。筐体は樹脂パーツのツメと接着剤で固定されているだけなので分解は容易。パッキンなどによる封止もされていないので、防塵防水性能を備えていようはずもない。

分解自体は容易で、中身はやはりというかmicroSDカードを使用したものだった。

 模造品の中身は、microSDカードスロットを備えた本体基板と、そこに接続されたmicroSDカードだった。記憶容量のテスト結果から、64GBのmicroSDXCカードの容量を1TBに偽装しているものであることが窺える。

分解した模造品。筐体は部分的に接着剤で固定されていたが、防塵防水性能が得られるような封止はされていなかった。
模造品の本体基板。SDカードスロットとmicroSDカードと、それをUSBに変換する本体基板が確認できる。
Chipsbank CBM2199Sと記載されたチップ。刻印を信じるならUSB 2.0対応のNANDフラッシュコントローラだ。
microSDカード。型番らしきものは刻印されていなかった。

メーカーもただ見ているわけではない、模造品への対応いたちごっこではあるものの、大手通販サイトも対策を講じる

 模造品に対してメーカーも静観しているわけではなく、ユーティリティで真贋が判別できるようにするなどの対策を行っている。模造品が次から次へと出てくるためきりが無かったり、いたちごっこになってしまう部分はあるが、野放しにしているわけではない。

Amazonでは権利者向けのフォームが用意されており、権利が侵害された場合は販売を止めることができる。
楽天も模倣品対策はしっかり行っており、楽天はユーザーが模倣品を購入してしまった場合のサポートも用意されている。

 今回入手したT7 Shieldを模したと思われる外付けSSDは6月に購入したものだが、現在大手通販サイトなどではこの模造品は見かけない。購入時はかなりの数が販売されていたが、現在の様子を見るとメーカーや販売サイト側で然るべき対応が取られたことが窺える。

 メーカーだけでなく大手通販サイト側でも偽物対策は行われており、Amazonは権利者向けに販売差し止めに関しての専用フォームが用意されていたり、楽天も模倣品に関しての連絡先が用意されている。楽天に関しては模倣品を購入してしまったユーザーに対してのサポートも用意されているので、偽物対策にかなり力を入れていることがわかる。

 メーカー側も定期的に状況を確認して対応しているが、ユーザー側も悪質な偽物を発見した時は購入しないのはもちろん、販売サイトのサポート窓口に連絡を入れるなどすれば、結果的に市場の偽物を減らしていくことに繋がるのではないだろうか。

偽SSDを売る悪質業者への対策はいたちごっこ悪質業者の被害に合わないためには購入者側の自衛も必要

 今回確認したT7 Shieldの模造品は、以前の「1万円前後で買える16TB SSD」のように現実離れしたスペックとは違い、実際にありそうなスペックを詐称していた。実物をみれば模造品であることを判別するのは容易だが、無法にもT7 Shieldの製品画像を盗用して商品ページに掲載している場合もあるので、通販サイトでの購入には注意を要する。

 当然、このように悪質な模造品が許されるべきではなく、通販サイトやメーカーもその排除に取り組んではいるが、悪徳業者も一定期間で商品ページや出品者情報を削除するなどして売り抜けようとするため、いたちごっこの様相を呈している。腹立たしい話ではあるが、悪徳業者の被害を避けるためには購入者側でも自衛が必要だ。

 悪徳業者は通販サイトの他にも、フリマサイトやオークションサイトの出品者として模造品を紛れ込ませている。悪徳業者が存在することを念頭に、検討している製品が本当に信頼のおけるメーカーの正規品であるのか、その商品情報を掲載したショップが信用に値するのかなど、価格やスペック以外の要素も十分に検討した上で購入の判断をしてもらいたい。

[制作協力:Samsung]