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スマートな筐体に狼の牙を隠し持つ「コンパクトでも強力なゲーミングPC」【最新自作計画 第77回】

DOS/V POWER REPORT 2023年秋号の記事を丸ごと掲載!

合計価格 226,000円前後 ※実売価格は9月上旬時点のもの。昨今の情勢から、調査時点以降の製品入荷時に実売価格が大きく変動する可能性があることをあらかじめご了承ください。

 「ゲーミングPC」を組むなら、無骨なデザインの大型タワーケースでないとダメだ、と考えているユーザーは多いだろう。もちろん強力なCPUやビデオカード、冷却パーツを組み込むなら、そうしたケースが最適解なのは確かだ。しかし、PCを置く場所やサイズの制限、デザインへのこだわりによっては、そうした大型のPCケースを選べないことだってある。

 そこで今回は、Fractal Designのスタイリッシュなスリムケース「Ridge PCIe 4.0」を使い、コンパクトなゲーミングPCを作ってみた。ホワイトを基調としたデザインは、よい意味でゲーミングPCらしさを感じさせず、置き場所を選ばず利用できそうだ。スリムでコンパクトなサイズながら、最新PCゲームを4K解像度でも楽しめるような強力なゲーミングPCに仕上がった。

全体的にすっきりとしたシンプルなデザインで、ファブリック素材を活用した前面パネルの質感からパワフルなゲーミングPCを想像する人は少ないだろう。しかし、大型サイズのGeForce RTX 4070搭載ビデオカードが入ることからも分かるように、ゲーミングへの適性はかなり高い

今回のコンセプト

コンパクトでも強力なゲーミングPC

スペースやデザインの問題で大型のミドルタワーケースは設置できないユーザー向けに、コンパクトで強力なゲーミングPCを作る

すっきりとした美しい小型ケース

スリムでスタイリッシュなデザインながら、長さ33.5cmまでのビデオカードを組み込めるコンパクトなPCケースを取り上げた

アッパーミドルのビデオカードとCore i5-13500の組み合わせ

GIGA-BYTE TECHNOLOGY GeForce RTX 4070 WINDFORCE OC 12G
GPUに「GeForce RTX 4070」を採用し、DLSS3のフレーム生成機能に対応。3基のファンでGPUをしっかり冷却できる

 Ridge PCIe 4.0では長さ33.5cmまでの大型カードに対応するため、ゲーミングPCで重要なビデオカードの選択肢は広い。ただケースファンの位置の関係で、拡張スロット3基分以上のスペースを占有するぶ厚いハイエンドカードは使いにくい。そこで今回は、厚みが5cm(約2.5スロット厚相当)のGIGA-BYTE製「GeForce RTX 4070 WINDFORCEOC 12G」をチョイスした。アッパーミドルのG e F o r c e R T X 4070をG P Uとして採用し、最新PCゲームも快適にプレイできる。

Intel Core i5-13500
Pコアを6基、Eコアを8基で合計20スレッドに対応するCo r e i5の中堅モデル。13400のほうが2,000円程度安いがEコアが半分の4基なので、この価格差なら性能面も考慮してこちらがオススメ

 同じように構造的な問題で、CPUクーラーは薄型の空冷タイプとなる。消費電力の大きい高性能モデルは冷やし切れない可能性があるため、今回はミドルレンジでPBPが65Wと控えめの「Core i5-13500」を選んだ。マザーボードはASRockの「B760M-ITX/D4 WiFi」で、シンプルな小型マザーだ。

ASRock B760M-ITX/D4 WiFi
DDR4メモリに対応するIntel B760搭載の小型マザーボード。PCI ExpressスロットやM.2スロットはPCI Express 4.0までの対応だが、今回の構成なら必要十分

メインパーツの配置は平面的ながら窮屈な場所もあるので注意

 外装部分や中央のプレート、電源ユニットを固定するマウンタなど各構造物はほぼ着脱可能な構造だ。また電源ユニット、マザーボード、ビデオカードをフラットに配置する構造なので分かりやすく、基本的には組み込み難易度は低い。

電源ケーブルの延長コネクタがCPUクーラーに干渉しやすい。9cm角ファンを利用する薄型のCPUクーラーがオススメ

 ただしいくつか難所はある。CPUソケットの位置と電源コンセントの延長ケーブルがかなり近いため、CPUクーラーを固定する向きによっては干渉が発生しやすい。今回のように、ヒートパイプの張り出した部分がPCI Express拡張スロット側に向く方向で固定すると、干渉をうまく避けられる。

ビデオカードと14cm角ファンの隙間は、実測値で約6mmしかなかった
側板や天板、前面や中央のプレート部分などほとんどの部品が外せる構造になっている。組み込み前には一通り外しておこう

 もう一つ、ビデオカードとケースファンの隙間は非常に狭かった。ケースファンを外せばもっと厚みのあるカードも組み込めるが、冷却を考えるなら外すのは避けたい。また発熱の大きなSSDであり、安価なものでも効果はあるのでヒートシンクを追加したい。

電源ユニット付近でケーブルが大混雑

 構造上、前面から伸びる各種ピンヘッダケーブルを、電源ユニットの電源コネクタ前で引き回す必要がある。スペース自体が狭い上、ここには電源コンセントの延長ケーブルを引き込まなければならないこともあって、かなり窮屈だった。

電源ユニット前面近くに、各種ピンヘッダケーブルが集まる構造
PCI Express補助電源コネクタ近くのスペースは狭く、ケーブルコネクタまわりにも余裕がない

 またビデオカードのPCI Express補助電源コネクタ用のスペースも狭い。しっかり挿した上でケーブルが折れ曲がらないようにしたい12VHPWR電源ケーブルを使うビデオカードは、ちょっと難しそうだ。

重量級の最新PCゲームもDLSS 3対応なら4K解像度もOK

 まずは、実際のPCゲームをベースとしたベンチマークテストをフルHD、WQHD、4K解像度の3パターンで実行し、どの解像度でプレイするのが適正なのかを検証してみた。

 トップバッターの「ファイナルファンタジーXIV:暁月のフィナーレ ベンチマーク」は、テスト後に表示されるレポートから、最低fpsと平均fpsを比較した。このゲームでは4Kでも最低fpsが60を超えており、快適にプレイできそうだ。

 「ウォッチドッグス レギオン」は描画負荷の高いタイトルの一つで、高性能なCPUやGPUが必要になる。今回はレイトレーシングも有効にして、より負荷の高い状況を再現している。この設定だとテスト中の最低fpsが60を超えるのはフルHDまでだが、WQHDでもベンチマークの動きが鈍くなる場面はほぼなく、快適にプレイできそうだった。4Kではコマ落ちする場面が増えてくるため、プレイ感はやや厳しくなる。

 同じく描画負荷の高い「サイバーパンク2077」でも、ウォッチドッグス レギオンと同じような傾向が見られる。適正と言えるのはWQHDまでだが、このタイトルではDLSS 3が利用できる。DLSS 3を有効にすると、4Kでも普通にプレイできるようになった。GeForce RTX 40シリーズを選ぶメリットの一つがこれだ。

 各部の温度も問題はない。長時間のゲームプレイを想定した3DMark時でもGPU温度は63℃と、筆者が今まで使ってきた高冷却ミドルタワーケースとほぼ同等の温度だ。ケースファンが取り込む外気がビデオカードに直接当たる構造になっているため、こうした結果になったのだろう。CINEBENCH時のCPU温度は91℃だが、これは最初の10秒程度であり、以降は70℃前後で推移した。

制作後記

 ゲーミングPCらしくないデザインのケースに惹かれて提案した今回の作例だが、ゲーミングPCとしての適性は十分で、しかもGPU温度はかなり低い。薄型デザインのPCでは性能や冷却性能が犠牲になってしまうことが多いだけに、なかなかの驚きはあった。無骨なデザインばかりではおもしろくないので、こうした作例はこれからももっと試してみたい。

【検証環境】
室温24.8℃
ファイナルファンタジーXIV:暁月のフィナーレ ベンチマークグラフィックス設定は[最高品質]
ウォッチドッグス レギオングラフィックス設定は[最大]でレイトレーシング設定は[高]
サイバーパンク2077グラフィックス設定は[レイトレーシング:ウルトラ]
アイドル時OS起動10分後の値
動画再生時解像度が1,920×1,080ドットで12Mbps(H.264/AVC形式)の動画を1時間再生したときの平均的な温度
3DMark時3DMarkのStressTest(Time Spy)を実行したときの最大値
CINEBENCH時CINEBENCH R23実行時の最大値
各部の温度使用したソフトはOCCT12.0.13でCPUはCPU Package、GPUはGPU Temperature

[TEXT:竹内亮介]

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