特集、その他
ASRockに聞く「Haswellマザー、“欲しくなる独自機能”のポイントは?」
「外から電源ON」にHDMI入力、防水、SSD 22台まで… Text by 石川ひさよし
(2013/6/25 00:21)
2年ぶりのプラットフォーム刷新となったHaswellだが、その発売に合わせてマザーボードをフルリニューアル、独自機能を刷新したメーカーも多い。「変態」で知られる(?)ASRockもその一つ。そして、今回の同社製品は、外から電源ONできる「Home Cloud」やHDMI「入力」など、これまでの独自機能に輪をかけてユニークなものが多い。
そこで今回は、フルラインナップが公開されたCOMPUTEX TAIPEIのブースで、ブース担当者にお話をお伺いした。共通コンセプト「A-STYLE」や注目の新製品など、今回はブースレポートのかたちでお届けしよう。
「生活」をテーマに独自機能を充実
まずはじめに、今回の各シリーズで鍵になる機能について説明があった。
今回のHaswell向けマザーボードのリリースに合わせ、ASRockは「A-STYLE」と呼ぶ機能をマザーボードに実装していくという。A-STYLEは「生活をつなぐ」をコンセプトに、いくつかの機能で構成されたもの。
具体的には、電源オフのPCを外出先から起動できる「Home Cloud」や画面切り替え機能として使える「HDMI-IN」、高音質なオンボードオーディオ「Purity Sound」、無線LANやインターフェース追加機能「IEEE802.11ac WiFi + Wi-SD BOX」、そしてごく一部の限定モデルのみに実装される特殊なマザーボード向けコーティング「Conformal Coating」といったもの。
これらの機能は、ハイエンドでは復数、ミドルレンジ~ローコストマザーでもいくつか実装していくとされ、「XFast 555」に続くASRockマザーの看板機能になる。これらA-STYLEの機能は、マザーボード毎に対応が異なっている。使いたい機能があるのであれば、製品情報をチェックしたうえで購入しよう。
電源オフのPCを外出先からスマホでONする「Home Cloud」
まず、ユニークな機能と言えるのが「Home Cloud」。これは外出先からPCを起動、リモートデスクトップで利用できるというもの。
いわゆるWake on LANのようなイメージだが、Wake on LANと違い、PCがシャットダウンされていても、(主電源さえ入っていれば)スマートフォンの専用アプリを使ってPCを起動、リモートデスクトップ接続でそのまま利用できる。仕組みとしてはIntel製またはQualcomm製LANチップの特殊機能を利用しているそうで、Intelチップ搭載製品ならMeshCentral、QualcommチップならSunloginというソフトウェアを起動用として使うそう。
スタッフによると「Wake on LANを利用する場合はサスペンド状態にしなければならないが、Home Cloudでは電源オフにしてしまっても問題ない」そうで、Wake on LANをあまり意識せずに利用できるのがメリットと言えそう。なお、この機能はIntelあるいはQualcomm製LANチップの搭載が必須だが、日本向けに出荷されるモデルは全てどちらかを搭載しているそう。Haswell向けマザーでは「ASRockの標準機能」と考えていいだろう。
意外に便利?なHDMI入力
また、少し聞くと「謎機能」としか思えないものの、よくよく聞くと色々活用できそうなのが「HDMI-IN」。
これは、言葉の通りHDMIの入力機能。対応製品ではバックパネルに専用のHDMI入力端子があり、ここにゲーム機やスマートフォン、タブレット、別のPCなどを接続できる。入力したHDMI信号は、マザーボードのHDMI出力からスルー出力させることができ、マザーボード本来の出力とはホットキーで切り替えられる。
実際にデモンストレーションしていただいたが、入力端子の少ない液晶ディスプレイでの切り替え用や、デジカメなどを一時的に接続する場合などで便利に使えそう。また、ノートPCやセカンドPCなどと組み合わせれば、簡易的なディスプレイ切替器としても利用できる。ホットキーでの切り替えのため、急いで画面を切り替えたい場合にも便利そうだ。
なお、HDMI-INコネクタはPC電源がオフでも利用可能。Virtuを応用すればビデオカード利用時でもHDMI-INを活用できるという。
音質向上の「Purity Sound」は分離帯付き
Purity Soundは、オンボードサウンドの音質を向上させるという技術。単に「シールドした」というだけでなく、デジタル回路とアナログ回路が極力交差しないよう、分離した設計が特徴で、分離部分が分かりやすいよう「分離帯」が見えるようにも設計されているという。実際、マザーボード裏面から光を当てると、この「分離帯」だけ(配線がないので)光が透過する。
また、低ノイズなオーディオチップとしてRealtek ALC1150(S/N比115dB)を採用、これにTI製のアンプチップ「NE5532」を2基(ヘッドセット用とオンボード用)使った構成も特徴だ。
スタッフの説明によると、ALC1150からの音声信号にNE5532を組み合わせることで低音が豊かで、損失も少なく、ディテール豊かなサウンドが利用できるとのこと。さらに、オーディオ用によく用いられる電解コンデンサではなく固体コンデンサでも高品質なオーディオを実現できると言う。
無線LANは11ac対応
IEEE802.11ac WiFi + Wi-SD BOXの前者は説明するまでもなく、IEEE802.11ac無線LAN機能を搭載するモデルを指す。
IEEE802.11acでは、理論値867Mbpsという802.11nの300Mbpsを遥かに上回る高速なワイヤレス通信が可能だ。日本国内では既にルータ等で対応製品が登場しているが、そのクライアントとして利用できる。なお、ASRockのIEEE802.11ac搭載モデルには、型番末尾に「/ac」と付くのが命名ルールだそうだが、なかには「Z87E-ITX」のような例外もある。ちなみに、Z87E-ITXは「現在、Mini-ITXのIntel Z87マザーボードで唯一のIEEE802.11ac対応マザーボード」(スタッフ)とか。
一方、Wi-SD BOXとは、一部マザーボードにバンドルされる3.5インチベイ用インターフェース追加ボックス。USB 3.0ポート×4とともに、WiFiアンテナ機能も搭載しているとされ、Intel Z77マザーボードの世代から一部モデルでバンドルされていた。なお、現在発売されている製品で、このボックスが付属するのは今のところZ87 Extreme9/acのみとなる。
A-STYLE最後の機能「Conformal Coating」は次の「Z87 OC Formula」の項で説明しよう。
OC特化の「OC Formula」極冷のために防水機能まで
さて、マザーボード製品を紹介していただくにあたり、最初に「まずはこれ」と説明いただいたのはOC向けの最上位シリーズ「OC Formula」だ。
オーバークロッカーかつ同社プロダクトマネージャーのNick Shih氏が製品を監修、OCに特化しただけでなく、極冷向けの独自機能まで用意されているのが特徴だ。
具体的なシリーズ構成は、シリーズ中のスタンダードである「Z87 OC Formula」、microATX版の「Z87M OC Formula」、そしてIEEE802.11ac無線LAN搭載の「Z87 OC Formula/ac」。OC向けの特徴としては、まずATXモデルもマイクロATXモデルもともに12フェーズ回路を用いているとのこと。大きさは違えど電源回路は同スペックとのことだ。
ATXモデルは防水加工、極冷時の結露対策に
そして、ATXモデルにのみ採用されているのが「防水機能」だ。
思わず「マザーボードに防水?」と思ってしまう機能だが、これは液体窒素冷却などで冷却部周辺に結露が生じるような場合を想定したものだそう。このユニークな機能は、オーバークロッカーや高湿度地域からのフィードバックから得られたもので、高湿度地域などでももちろん効果があるのだとか。
とりわけ注目されそうなこの機能だが、ブースのなかでも目立つ場所でデモされていた。マザーボード上に水を流し、それでも動作し続けるというデモ内容だが、気になるのはどの程度防水できるのかという点だろう。この防水機能はマザーボード製造後、表面にConformal Coatingを行うことで実現しているそうだが、コネクタなどの金属接点は非コーティング。つまり、水没などは想定外とか。
1日に生産できるのは少量、希少価値も?
また、コーティングという工程を追加するため、「1日5枚しか作れない」という噂を耳にしていたので伺ってみたところ、「1日に5枚しか作れないというわけではないですが、コーティングをし、乾燥させ、動作テストを行うという工程があるため、生産量は限られます」という回答だった。Intel Z87マザーボードとして見ても高価な部類だが、これら豊富なOC機能、そしてコーティングにより、究極のOCを実現するための製品に仕上がっているようだ。同社によるテストでは、Haswellを7GHz駆動、メモリは4.3GHz駆動をマークしたとされる。
豊富なOC機能はユーザーからのフィードバック
また、基本機能に目を向けると、各種OCボタンに加え、チップセットヒートシンク下に専用表示パネルの「OC Formula モニターキット」を搭載しているのが特徴的。
これは、CPUやメモリ、拡張スロットなどのステータス、そして6地点の温度などがパネルに表示できるパネルで、表示内容は+/-ボタンで随時変更可能。このほかのOC向け機能としてはPCI Express x16スロットのオン/オフを行うディップスイッチや、極冷向けの「LN2スイッチ」も搭載している。この「極冷向けスイッチ」はオンにすると安全にOSを起動できる低速モードになり、起動後にオフにすることでOC設定を反映させられるとか。
主力の「Extreme」シリーズもやっぱりヘン?ストレージ22台接続の最上位モデルまで…
さて、ASRockの主力であるExtremeシリーズは、スタンダードなモデルが中心。
しかしブースに大きく展示されていたシリーズ最上位モデル「Z87 Extreme 11/ac」は、「変態ASRock」の本領発揮といえるヘンな仕様だ。
そのデモ機は、SSDがずらっと22基並ぶ異様な光景。もちろんその全てが接続されているが、拡張スロットは4本のビデオカードに占領されており、ケーブルの行き着く先はマザーボード上。つまり、22基のストレージを接続できるマザーボードというのがZ87 Extreme 11/ACだ。
2つのチップで16ポートのSASを、PCIeスイッチで4-wayマルチGPUを実現
この22ポートの実装方法を詳しく聞いたところ、まずCPUから出ているPCI Expressのうち8レーンを使ってSASチップに接続し、ここからエキスパンダを介して16ポートのSAS 12Gbpsを実現しているとのこと。
これにチップセットの機能であるSATA 6Gbps×6ポートを加えて22ポートとなる。さらに、4本のビデオカードを搭載するためにPLXのPCI Expressスイッチングチップを搭載し8レーン×4本を実現、ほかThunderboltも対応していると言う。全部入り+豪華すぎるαな、どんなニーズでも叶えてくれそうな構成である。なお、テストでは8台のSSDを組み合わせ、RAID 0構成で4.8GB/secを記録したとのこと。
一体幾ら?化け物マザーは販売予定アリ
スタッフに「どうしたらこんな発想が生まれたのか」という素朴な疑問もぶつけてみた。
曰く、「そもそもIntel X79でも作った(X79 Extreme11ではLSIのSASチップで8ポートを追加していた)が、もっとたくさんのSSDを積みたいという要望があった」(恐ろしくニッチな要望に思えるが……)、「こうした製品はサーバ向け製品にはあるものの、帯域が足りていない」(これもCPUからのPCI Expressレーンが足りているのか心配になるところだが……)、「こうした点を両立するものを作りたかった」と言う回答。
とにかく、「作ってしまう」ところがASRockのすごいところだ。
なお、製品化予定について伺ったところ、「7月くらい」で「価格は未定」とのこと。誰もが「本当に売るのかよ!」と突っ込みたい気持ちだろう。なお、市販のSAS RAIDカードは8ポートで8万円前後、16ポートは10万円を超える。それを考えると恐ろしい価格になりそうだが、もしかしたら個別に購入するよりはお買い得になるかもしれないので、そこに期待しよう。
ゲーマー向けの「Fatal1tyシリーズ」は廉価帯にも
また、ゲーマー向けのFatal1tyシリーズもアピールいただいた。
「ゲーマー向けのハイエンドモデル」というイメージが強い同製品だが、今回の目玉として紹介されたのはH87を搭載した比較的安価なゲーミングマザー「Fatal1ty H87 Performance」だ。およそ120ドル帯との説明だったが、実際国内での流通価格も13,000円前後となっており、Intel 8シリーズのゲーミングマザーとしては破格と言える。Z87搭載の「Fatal1ty Z87 Professional」も展開されており、Z87が良ければもちろんこちらも選択できる。
設計は「OCよりも安定性重視」
スタッフによると、ゲーマーにヒアリングをした結果、ゲーミングPCでは「スピードより安定性」が重視されるとのことで、その「安定性」にフォーカスして開発したと言う。そもそもIntel H87チップセットであるためCPUのOCは目的とされていない。しかし、電源回路は8フェーズで、余裕を持った構成だ。
安定性のキーフィーチャとなるのが「高密度コネクタ」「15μゴールドフィンガー」「Intel製LANチップ」とされる。高密度コネクタは、電源端子に採用されているもので、その名のとおりだが電力損失を抑制する効果があると言う。15μゴールドフィンガーも、同様の思想のもので、拡張スロット内のコンタクトを金メッキしてあるとのこと。Intel製LANチップは安定性という面で、ゲーマーに熱望された仕様であると言う。
ゲーマーニーズを汲むバンドルソフト
また、ゲーマー向けのソフトウェア機能では、「スナイパーキー」と呼ぶFPSゲームにおける照準状態でマウスカーソルのふらつきを抑える機能や、「マクロキー」機能、そしてゲームプレイ画面をストリーミング配信できる「XSplit Broadcaster」の3ヶ月プレミアライセンス(約25ドル相当)が付属するとされる。
BMWデザインのゲーマー向けキット「M8」を披露
ASRockと言えば、これまでもモバイル向けCPUを利用したミニPCシリーズを展開してきたが、今回はBMWデザインのケースとMini-ITXマザーを組み合わせた「M8」シリーズを披露。自作キットとして販売する予定とされる。
ミニPCシリーズが旧Mac miniサイズだったのに対し、M8シリーズはスリムタワーという表現が似合う若干大きめなサイズ。内部はMini-ITXマザーボードにSFX電源、そして特徴的なのが2スロットサイズのビデオカードを搭載可能なユニットだ。
ASRockが考える「デザインと機能性に妥協のないコンパクトキット」
まずデザインは、スタッフによると「マイクロなケースはコストが重視されがちだった」が、こうした状況を打破するため「ASRockがBMWとコラボレーションした製品」とのこと。「高品質で、持ち歩けることをコンセプトにデザインを依頼した」とされ、一方「ファン等のこちら(ASRock)からの要望を満たす形でデザインされた」と話している。
特徴的なのがフロント部にある丸い「つまみ」。これはBMWの自動車に搭載されているコントローラを模したもので、操作することで各種のステータスを表示したり、もちろん電源ボタンの役割も果たすと言う。また、Gセンサーも内蔵し、縦置き、横置きで表示を切り替えられるとのこと。
ゲーマー向けのこだわり仕様は細部まで
マザーボードはM8シリーズ専用設計で、IEEE802.11acに対応する点は「Z87E-ITX」と同様だが、オーディオ機能にCreative Sound CORE 3Dを採用している。
メモリは実装面積の小さいSO-DIMMに改められ、ビデオカード用のPCI Express x16スロットは、ライザーカードを介してビデオカード用スペースに導かれている。比較的長さのあるビデオカードにまで対応しており、デュアルGPUカードはムリだとしてもGeForce GTX 680リファレンスカードクラスの搭載は可能とされる。光学ドライブはスロットイン。電源ケーブルは裏面配線されている。