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OCZに聞く「東芝グループとしてのSSD」とは?
「ハイエンドのOCZ」が作るメインストリーム&バリュー向け戦略も聞いてきた!

「ハイエンドのOCZ」が作るメインストリーム&バリュー向け戦略も聞いてきた! text by 石川ひさよし

COMPUTEX TAIPEI 2015のOCZブース。昨年一昨年は会場近くのホテルの一室を借りたプライベートショーケースだったが、東芝グループとなって2年、製品も充実し満を持して南港展覧館にブース出展。
コンパニオンのおねーさんも帰ってきた!

 OCZと言えば、SSD黎明期に一世風靡したVertexシリーズで知られ、最近ではAMDとのコラボモデル「AMD Radeon R7 SSD」などでも注目を集めているメーカーだ。

 そして、今いちばん気になるのは2013年に東芝に買収され、東芝グループの一員となったこと。

 これによりOCZがどのように変わったのか、そして現在のOCZが何を目指しているのか、そうしたところを同社マーケティング最高責任者であるAlex Mei氏にCOMPUTEX TAIPEI 2015で直撃した。

東芝グループ入りで「NANDチップの開発段階から立ち会うメーカー」に

米OCZのマーケティング最高責任者(CMO)であるAlex Mei氏
OCZと言えば、その最上位はエンタープライズ向けSSDの「Z-Drive」シリーズ

――OCZが東芝グループの一員となったことのメリットはどのようなところでしょうか

[Alex氏]一つ目は2社のロードマップが合わさり、製品をタイムリーに市場投入可能となったこと。二つ目はNANDチップの入手性が向上したことです。

 特に最新のNANDチップを使うことが可能になったところは大きいと思います。

 以前のOCZは、様々なメーカーからチップの供給を受けていました。もちろん東芝製チップを使うこともありましたが、東芝製NANDチップは高性能であるゆえに高価でした。そのため、東芝製NANDチップを用いるのは主にエンタープライズ向け製品でした。

 コンシューマー向け製品となると、以前はMicron製など低コストのNANDチップを用いていましたが、現在は100%東芝製NANDチップを使うことができるようになりました。

 また、使用するNANDチップが100%東芝製になったことで、ファームウェアの信頼性を向上させることもできました。リソースを集中できることはもちろん、東芝グループの一員となったことで、NANDチップの開発段階から立ち会うことができるようになったのは大きなメリットと言えます。

――日本国内においては、まだ東芝グループの一員であることが、一般のコンシューマーまで浸透していないように感じられますが、どのような戦略をお考えでしょうか

[Alex氏]同じグループに属していても、OCZと東芝は別会社になります。例えば、OCZは東芝ロゴで製品を販売することはできません。

 ですので、「Powerd by TOSHIBA premium NAND」というロゴによって東芝グループの一員であることをアピールしていきます。

 東芝のお膝元である日本では、こうした戦略がOCZの認知度向上に効果的だと思います。逆に、日本国外では東芝よりもOCZのブランドバリューのほうが高いので、ここまでの苦労はないのですが(笑)。

――東芝もSSDを販売していますが、OCZと東芝のSSDの「ここが違う」というところはどこでしょうか

[Alex氏]まずSSDの販売形態が異なります。東芝はSSDというハードを売る会社です。OCZはハードを販売しつつサービスも提供する会社です。単に販売するだけではないところが異なります。

 また、OCZのブランドバリューはエンスージアスト、ハイエンドに浸透しており、メインストリーム中心に展開している東芝とはフォーカスするセグメントも異なります。

 もちろん、SSDというジャンルが円熟期に達した現在、メインストリーム向けのARC 100や、今回発表したTrion 100のようなバリュー向け製品も必要です。全てのセグメントにSSDを提供していくことになります。ハイエンド志向ではあるが、どちらか一方ではなく両方共に重要なのです。そのうえで、全てのセグメントに高性能で信頼性の高いSSDを提供していきます。

満を持して投入するTLCの普及モデル「Trion 100」人気のメインストリーム「ARC 100」、上位の「Vector 180」と合わせた3シリーズ体制に

メインストリーム向けの「ARC 100」。日本市場でもコストパフォーマンスがウケて順調に販売を伸ばしているとか
OCZ Barefoot 3 M10(上位モデルはM00)を搭載し、東芝A19nm MLC NANDチップを組み合わせている。コントローラが若干異なるものの、基本的な構成はハイエンドモデルと同じOCZ+東芝の組み合わせ

――現在最も売れている製品はどちらになりますか?

[Alex氏]普及価格帯でもある、ARC 100がやはり売れますね。

 ARC 100は我々のBarefoot 3 M10コントローラを採用しており、かつ信頼性の高い東芝製A19nm MLC NANDチップを組み合わせています。メインストリームからゲーマーまで、幅広いユーザーに優れたパフォーマンスを提供します。

 価格も抑えるように努力していまして、その結果であるコストパフォーマンスが評価され、順調に販売数が伸びています。

――一方、新製品としてTrion 100が発表されました。こちらはどのような製品ですか?

[Alex氏]Trion 100はバリュー向けの新製品です。ARC 100よりもさらにコストパフォーマンスを重視し、「True Value Market」を意識しています。

 優れたコストパフォーマンスを実現するために、MLCではなく東芝製の第2世代A19nm TLC NANDチップを採用、魅力的な容量単価を実現しているのが特徴です。

 東芝製コントローラチップを採用しており、バリュー向けであっても、ハイエンド製品に迫るパフォーマンスを実現しているところも大きなウリです。

TLCを採用したバリュー向けSSD「Trion 100」はシルバーの外装
CrystalDiskMark v3.0.3のスコアが示すとおり、シーケンシャル性能はハイエンドに迫るほど高く、また512Kや4K=QD32の性能も十分に高い

 異なる見方としては、コストパフォーマンス重視のお客さんに加え、モバイル向けとしてもベストな製品と言えるでしょう。

 我々の製品は、元々エンタープライズ向け製品を意識していたために重厚な外装を採用しており、放熱という点では優れているのですが、モバイル用として購入された方からは重いと言われることもよくありました。

 こうした声に応えるため、Trion 100では外装を軽くしました。合わせて東芝製コントローラによって低消費電力化も実現しており、この点でもバッテリー駆動時間を伸ばしたいモバイル向けのニーズにフィットするでしょう。

――TLCを採用した製品なのですね。

 はい。技術的にこなれてきたこともあって採用しました。もちろん、信頼性についてはコントローラでの制御の工夫やチップの選別などで十分確保できることを確認しています。

――Trion 100は東芝製コントローラを搭載していますが、OCZコントローラではないのはなぜでしょうか?

[Alex氏]バリュー製品向けのコントローラ開発は、今回は見送りました。

 これは、我々がハイエンドにリソースを割り当てているからです。その代わり、既存の東芝製バリューセグメント向けコントローラを採用し、その上で、我々のカスタムファームウェアを開発、採用しています。ソフトウェアは完全に独自のものです。

 なお、先に説明した「東芝とどのように関わっているのか」に関連しますが、こうした開発では、我々のファームウェア開発のノウハウが、東芝に還元されることにもなり、グループとしての実力が上がることになります。

――放熱効率のよい外装というお話がありましたが、SSDは冷やしたほうがよいのでしょうか?

[Alex氏]SSDはHDDと比べれば発熱が少ない。通常の用途において冷却が必要となることはありません。ただ、複数枚を組み合わせて使用したり、ケース内の温度が高いような場合には冷却を検討したほうがよいでしょう。冗長性のためには、冷却することはよいことです。

「円熟」にフォーカスして製品を投入

コンシューマ向けのフラグシップ「Vector 180」
ゲーマー向けSSDをうたう「AMD Radeon R7 SSD」

 OCZと東芝の融合は、NANDチップの入手性や開発リソースの選択と集中といった点で、うまく歯車が噛み合い始めたように感じられる。

 TLC NANDについては、やはりOCZでもかなり慎重に開発を進めたようだ。TLCの信頼性はMLCに対して劣る。そこをコントローラとファームウェアで解決するのだが、そこに自社開発のコントローラではなく、既に利用可能な東芝のコントローラを採用したあたり、OCZと東芝双方のリソースをうまく使い分ける姿勢が見られる。

 Alex氏はたびたび「マチュア」という言葉を用いた。つまり、市場や技術が「円熟する」頃合いを注視しているということだ。OCZは新技術をいたずらに素早く採用するのではなく、「信頼性とパフォーマンスの両面で円熟した製品」をリリースしていきたいという。M.2はPCI Express Gen3 x4を待ったという。PCWatchのレポートにあるとおり、コンシューマ向けのM.2 SSDも開発されている。Gen3 x4のM.2スロットがマチュアになった段階を見計らって投入されるだろう。

 ARC 100やTrion 100の展開を見ると、OCZが本気でVertexの頃のシェア、認知度を取り戻しにかかっているように感じられた。

【会場に展示されていたエンタープライズ製品の数々】
Serial ATA接続で2.5インチの「Intrepid 3000」シリーズ。エンタープライズ向けでも、高性能・高信頼を求めるニーズと、コストを求めるニーズが分かれ、後者に向けて展開される製品(もちろん信頼性はコンシューマ向けモデルより上となる)
エンタープライズ向け新製品では「Z-Drive 6000」シリーズを展示。なかでも上位モデルのZ-Drive 6300は、世界初のSFF-6839インターフェースをデュアルで搭載する製品になる
Z-Drive 6300のデモ機も展示。1台のSSDに対し確かに2本のMini-SASケーブルが装着されている

[制作協力:OCZ]

石川 ひさよし