トピック

かつてないほどの“美しい内部構造の映えるPCが作れる”新コンセプト、ASUS「BTF」の魅力に迫る

BTF対応パーツで組むケーブルレスPCのスゴさ(と難しさ)の体験レポート text by 加藤 勝明

 自作PCはパーツの方向や組み込む手順を間違わなければ、組み立て難度はそれほど難しくないが、“キレイに組む”ことはなかなかにハードルが高い。マザーボードにはさまざまなケーブルが接続されるが、適当に装着しただけでは見苦しくなるだけだ。特に昨今の“中身を見せる”タイプのPCケースだと、適当に配線するとかなり悪目立ちしてしまう。余ったケーブル類をマザー裏面側に収める“裏面配線”が定石だが、太くてコシの強いケーブルをキレイにまとめるにはそれなりの経験とノウハウが必要だ。

 CPUやメモリの接続がキッチリと規格化されているのに、ケーブリングだけはユーザーのノウハウ依存というなんともアンバランスな状態を、仕様としてどうにかしようとしたのが、ASUSが打ち出した「BTF(Back-to-The-Future)」である。今回筆者は、いよいよ発売されるBTF版のマザー/ ビデオカード/ PCケースの3点を手にする機会に恵まれた。既存のATXベースの自作と比べ何が優れ、どんな点が美しく組むポイントになるのかをレポートしていく。

ASUSのBTFマザー第1弾に含まれるマザーボード「TUF GAMING Z790-BTF WIFI」(予想実売価格は47,000円前後)。一見普通の白いマザーに見えるがメモリスロット側の長辺〜マザー下部が白いカバーで完全に覆われている
NVIDIA GeForce RTX 4070 Ti SUPERを搭載した「TUF Gaming GeForce RTX 4070 Ti SUPER BTF White OC Edition 16GB GDDR6X(TUF-RTX4070TIS-O16G-BTF-WHITE)」(予想実売価格186,000円前後)。この写真からも分かるとおり、PCI Express x16スロットのさらに奥に、同社のBTFマザー専用のカードエッジが見える。ゆえにASUS製のBTFマザー以外では運用できないとがりまくったカードだ
BTF対応PCケース第1弾製品群の一つ「TUF GAMING GT302 ARGB White」(以下GT302、予想実売価格23,000円前後)に今回のパーツ一式を組み込んでみた

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“隠す配線”のための徹底されたコダワリ設計

 BTF自体は2023年に公開済なので、すでにご存じの読者もいると思う。

 BTF製品は、対応マザーと対応PCケースを組み合わせることで、既存のATXフォームファクターとの互換性をある程度保ちつつ、配線を極力表側に出さずに組めるようにしたもの。製品化にあたってASUSは、このコンセプトをさらにそこから一歩踏み込み、ビデオカードの配線すらも消すことを可能にした。従来の“魅せる配線”からミニマルな“隠す配線”へ、“配線の再定義”を目指す仕様と言っても過言ではないだろう。

BTFパーツ群で組んだ実動状態のCPU周辺。ビックリするほどスッキリしている。なにしろ、空間を横切るものは水冷のチューブしかないのだ

 改めて今回製品化されたパーツを眺めてみたい。

 まずマザーだが、サイズ感や基本的なパーツレイアウトはATXそのままである。ただATXとは決定的に異なるのがコネクターやヘッダーピンが(ほぼ)全部裏側に回っていることだ。従来のATXでも電源系のケーブルはスリーブケーブルを使ってまとめることはできても、フロントパネル系やARGB LEDなどの細いケーブルはマザーの周辺から雑然と接続されていた。BTFではそれらも裏面から出すことで、表側に一切ケーブルを出す必要がない。

BTFマザーの特徴は裏側にある。普通のマザーでは表面に実装されているコネクターやピンヘッダーが全部裏側に回っているのに加え、ビデオカード用の補助電源コネクターまでもが実装されているのだ
EPS12VやCPUクーラー用の電源、フロントUSB Type-A(5Gbps)やType-C(10Gbps)用のコネクターも裏側にある
フロントパネルのボタンやARGB LEDヘッダー、Serial ATAにいたるまで、あらゆるコネクターは全部裏側に出ているのがスゴい。ビデオカード用の補助電源コネクターも裏側に搭載しているのがASUSのこだわりだ
唯一CPUクーラー用のヘッダーピンのみ、マザーの表裏に二つ用意されている。空冷クーラーのファンだとケーブルを裏面に回せないことを想定しての設計とのこと。ちなみにこのヘッダーは裏面の「CPU OPT Fan」ヘッダーと同期している
EPS12Vのように表側からコネクターのハンダ部分が見える部分もある

 さらにASUSの場合ビデオカード用に16ピン(いわゆる12V-2x6)もしくは8ピン×3のコネクターすらもマザー裏から供給できる独自の「Graphics Card High-Powerスロット」を備えている。このスロットに対応した「GC-HPWR Gold Finger」を備えたビデオカードであれば、補助電源ケーブルを表側に出すことなくビデオカードが運用できる。ただ現状ASUS製BTF対応ビデオカードしか対応しない。他社製カードを使う場合は、マザー裏面の補助電源コネクターは使わずに普通に補助電源ケーブルを接続することになる。

ASUSのBTFマザー最大の特徴はこの「Graphics Card High-Powerスロット」。このスロットがそのまま16ピン補助電源(12V-2x6)の役割を果たす。ここに(規格上)最大600Wの電力が流れるわけだ。白い部分はビデオカードをワンタッチで外すためのレバーで、同社製マザーのボタンよりも使い勝手は向上している
BTF対応ビデオカードの上部。補助電源コネクターがないのが最大の特徴だが、それゆえにGraphics Card High-Powerスロットを持たないマザーでは運用できない
Graphics Card High-Powerスロットに接続するための「GC-HPWR Gold Finger」。このカードエッジが16ピン(12V-2x6)の役割を果たす。最大600Wの電力を通すために電力を供給する側のカードエッジは幅の広い銅箔のベタ×2で構成されている

 BTF対応PCケースはATXとどこが違うかと言えば、マザーを固定するシャーシにBTFのためのカットアウトがあるかどうか、という点だけだ。BTF対応だからと言って特別な機構があるわけではない。つまりBTF対応PCケースなら、ATXマザーも普通に組み込める。その場合カットアウトが使われないだけなのだ。ただ今回試したGT302の場合、BTFマザーを組み込んだときのケーブリングの難しさ、というものも発生するのだが、それは後ほど解説するとしよう。

 そのほかのパーツ、すなわちメモリやストレージ、CPUクーラーや電源ユニットといった要素に関してはBTFと関係なくそのまま利用できる。

BTF対応ケースのGT302。左側面はPC内部が見えるガラスパネルで、それ以外の各部はメッシュ構造を多用。“見せる”と“冷却”を重視した設計
GT302にはCPU裏の大きなカットアウトを囲むようにBTF用のカットアウトが設けられている。言い換えればカットアウトを設けるだけでBTF対応になるのだから将来的に増えそうなものだが、カットの行程が増える(=コスト)ので全PCケースがBTF対応になるとは“安易には”考えにくい。また、カットアウト位置が決まっているのでMini-ITXやExtendedATX版のBTFマザーは難しいか……?

確かに接続作業はとても簡単。だがやってみると意外な難点も……

 BTFといっても組み立ての手順は既存のATXベースの自作PCとなんら変わらない。マザーにCPUやメモリを装着し、PCケースに組み込み……と、既存のノウハウをそのまま使える。ただBTFマザーはマザー裏面にさまざまなコネクターやヘッダーピンが“生えて”いるため、マザーの梱包に使われているウレタンシートを使わないとマザーを傷めてしまう可能性がある、という点だけに注意したい(普通のマザーも直置きは避けたほうがよいが、BTFマザーはより注意が必要)。

 普通のATXベースの自作だと電源ケーブルなどをどう引き回すかを、少し先を読みながら作業する必要があるが、BTFでは最高に楽だ。だが楽だからと言って、すべてが簡単というわけではないことにこの後気付くのである……。

BTFマザーは裏面にコネクターが出ているため、PCケースに組み込む前の作業は裏面を保護する必要がある。マザーの梱包に使われているウレタンシートを使うとよいだろう
簡易水冷CPUクーラーの足場を組み、CPUやメモリモジュールを装着するといった手順自体は普通の自作PCとなんら変わらない。マザーの下にいつもよりも分厚く、独特の溝が掘られたウレタンシートが常にあることを除けば、だが
普通のATXマザーだとPCケースに入れるときにEPS12Vのケーブルを先に通しておくか悩む(後から入れるのが大変な場合もかなり多いからだ)。しかしBTFなら何も考えずに装着できる。マザーを装着する前に天井部分に簡易水冷のラジエーターを組み込んでも干渉したり手が入らなくなったりすることもなさそう。これだけでも相当楽だ
簡易水冷のヘッドをCPUにかぶせて固定。このヘッドの制御用USBケーブルは天井側から裏面に回してもUSBピンヘッダーに余裕を持って届く

 ではここから裏配線タイムだ。今回使用したGT302の場合、マザー裏にあるコネクターにケーブルを挿すだけ……というのは不正確な表現だ。なぜならケーブルを全部装着しても、それを覆い隠す右側面パネルを閉じるためには、少していねいにケーブリングする必要があったからだ。

PCケースに簡易水冷/マザー/電源ユニットの3点を組み込んだら裏面配線を行う。配線スペースには余裕があるように見えるが、要所要所をキッチリまとめないとパネルが閉まらない! となりやすい

 特にフロントUSBポート用のケーブル(Type-CとType-A用)は要注意。ケーブル密度が高い場所に配線する関係で曲げるべき部分でキッチリと曲げないと、それだけで側面パネルがきちんと閉まらなくなってしまう。

 さらに今回使用した簡易水冷クーラー(ROG Strix LC III 360)の場合、電源系とARGB LED系に分かれているファンの配線量も多いため、しっかりまとめないとこれも側面パネル装着のジャマになり得る。ROG Strix LC III 360はBTFとは関係ない、これまでどおりの普通のパーツだから仕方のないことだ。しかしGT302の裏配線スペースがあと5〜10mm深ければケーブリングの問題も楽になったのではないだろうか。簡易水冷に関してはファンの電源とARGB LEDがデイジーチェーンできるもの(ASUSであれば「ROG RYUJIN III 360 ARGB」など)を使うのがオススメだ。

電源や各種ヘッダーピンの接続はコネクターが出ている場所がマザー裏に回っているだけで、特別難しい部分はない。ATXだとマザー表面に引き出す穴の位置や引き出してから反転させる方向などを考える必要があるが、BTFだとその行程が完全に不要となるのは素晴らしい
ATXメインパワーなどの太いケーブルは面ファスナーが通してあるレーンに収める。こういった地道な作業をサボると完成がどんどん遠のく
ビデオカード用電源は電源ユニット側に16ピンがあればそれを使うのが楽だが、なければ8ピン×3で代用することもできる。各コネクターの根元にはASUS製ビデオカードと同じようにLEDが組み込まれており、装着していないコネクターはスタンバイ電源で赤く点灯する(注:写真は撮影のためにわざと点灯させている。実際に組み込む時は電源ケーブルは外してからにしよう)
EPS12Vやファン/水冷ヘッド系の配線。EPS12Vの配線に散々苦労させられてきた筆者としては、この配線の楽さだけでも十分に価値がある
フロントパネルは端子が合体したタイプなので挿す場所さえ間違わなければ一発装着できる。USBヘッダーやHDオーディオも結束バンドを利用してうまく固定しよう。裏面にコネクターが出ているのでこうしたこまごまとした部分の配線は非常に簡単だ
ATXメインパワーから12V-2x6コネクターの辺りの処理が今回の最難関ポイント。コネクターに装着するのは簡単だが、側面パネルが収まるようにまとめ上げるには焦らずていねいにケーブリングをする必要がある。今回使った電源ユニット「TUF GAMING 850W Gold」のケーブルが割としなやかなものだったのは助かった
裏配線の完成。裏面にケーブルだけでなくコネクターの根元も裏配線スペースに全部収容する必要があるため、配線するのは簡単だが完成まで持ち込むには焦らずていねいに作業する必要がある。ただこれはBTFではなくGT302の設計上の問題というべきだ
裏配線が終わったら最後にビデオカードを装着するだけだ。カードのPCI Express x16スロットとGraphics Card High-Powerスロットの両方がしっかり根元まで収まるように装着する
電源ケーブルが必要ないため、カードをスロットに装着した後、ブラケットをネジで固定すれば作業終了だ。カードの電力はマザーから得られるので表側にケーブルは出ない。裏配線はちょっと骨が折れたが、表がここまでスッキリするのは素晴らしい
あとは定石どおりOSやドライバーを導入すればよい。白系のパーツでまとめたのでRGB LEDの光らせ方で雰囲気が一変する

 参考までに、手近なパーツで組んだ既存の自作PCのスタイルもお見せしておこう。ATXベースの自作だとこんな感じだな……というイメージでご覧いただきたい。

ASUS「TUF GAMING GT301」に36cmの簡易水冷やTUF Gaming GeForce RTX 4070 Ti SUPER 16GB GDDR6X OC Editionを組み込んでみた
ビデオカードとラジエーターがギリギリ入り、ケーブルも表面からはよい塩梅で収まった。簡易水冷のケーブルをもう少しまとめておくべきだったかと反省している
問題は裏面。GT301は裏配線スペースがより狭い設計なのでATXメインパワーやEPS12Vの処理がもう大変。これを考えるとGT302は後発の製品だけある
ビデオカードやATXメインパワーの配線はマザー表側に露出。こんな感じでキレイにまとめられればこれで不満はなかったが、BTFで組んだPCを見てしまうと古さを感じてしまう。それほどにBTFのPCは仕上がりは先進的で美しい

PCとしての実力は期待どおり

 BTFは配線の再定義であって性能に直接関係するメリットはない。だが今回組んだPCがどんな性能だったのかを示しておく必要はあるだろう。なにかと比較するわけではないが、定番ベンチマークを一通り実施した結果を以下に示しておく。パーツ構成は以下のとおりだ。

【検証環境】
CPUIntel Core i9-14900K(24コア32スレッド)
マザーASUS TUF GAMING Z790-BTF WIFI(Intel Z790)
メモリDDR5-5600 32GB(PC5-44800 DDR5 SDRAM16GB×2)
ビデオカードASUS TUF-RTX4070TIS-O16G-BTF-WHITE
(NVIDIA GeForce RTX 4070 Ti SUPER)
システムSSDM.2 SSD(PCI Express Gen4 x4) 1TB
CPUクーラーASUS ROG Strix LC III 360
(簡易水冷、36cmクラス)
PCケースTUF GAMING GT302 ARGB White(ATX)
電源ユニットASUS TUF Gaming 850W Gold
(850W、80PLUS Gold)
OSWindows 11 Pro(23H2)
「GPU-Z」でTUF-RTX4070TIS-O16G-BTF-WHITEの情報を読み取った。BTFだからと言って特別な仕様ではない。デフォルトのBoard Powerは285W設定である
Cinebench 2024の計測結果
3DMark Fire Strikeの計測結果
3DMark Time Spyの計測結果
3DMark Speed Wayの計測結果

 最後にCPUとGPUの温度推移をチェックした。ゲーム「HELLDIVERS 2」を約10分プレイしつつ、その模様を「OBS Studio」上で録画した際の温度推移を「HWiNFO」で追跡した。ゲームの解像度は1,920×1,080ドット、最高画質設定とし、OBSの録画設定はAV1(NVEnc)10000Kbps、1,920×1,080ドットの120fps設定とした。

ゲーム+OBS録画中のCPUパッケージ温度およびGPU温度の推移

 Core i9-14900Kは特にPower Limit関連の設定をしていないが、ゲーム+OBSの処理程度なら特にサーマルスロットリングに入るまでもなく冷却できている。GPUに関してもRTX 4070 Ti SUPERに大型クーラーを組み合わせたことで、ゲームとNVEncによる録画を並行で処理させても70℃未満に抑え込めている。

 同じような構成でATXマザーとビデオカードを用いて比較してみないと本当のところは分からないが、マザーの表側にケーブルがないから通気性がよいから冷えている、という理由もあるかもしれない。少なくともBTFのシステムはしっかり冷えて使えるとは言えるだろう。

今後選択肢が増えていくかどうかに注目

 以上でBTF自作のレポートは終了だ。GT302の裏配線スペースにどうケーブルをまとめるかにいささか苦労した以外、ケーブルの装着は楽だし表面からの見栄えは、今までにない水準での素晴らしさだ。

 裏配線システムで最後に残るビデオカードの補助電源ケーブルも独自仕様で解決されているBTFだが、BTF対応ビデオカードはBTFマザーでしか使えないため“ツブシ”は効かない。その点は考えどころではあるが、一度組んだらしばらくパーツ構成は変えないスタイルの人(少なくとも筆者のように常軌を逸したペースでパーツを交換しない人)ならあまり問題はないだろうし、何と言っても補助電源ケーブルがスッキリなくなるのは大きなメリットでもある。

 ただBTFはまだ手探りでスタートしたばかりの仕様であるため、パーツの選択肢がごく限られてしまっている。今回ASUSでもマザーはZ790とB760のみ、ビデオカードはRTX 4070 Ti SUPERとRTX 4090のみという制限がある。ゆえにRyzen+RadeonでBTFという組み合わせは現状では不可能な構成だ。CORSAIRやIn Win Developmentなどがアライアンスパートナーに名を連ねていることから、将来的にBTFの価値や認知度が高まれば、ケースやクーラーの選択肢が増えさらに洗練されていくのではないだろうか。

 動けばよいという人はATXでよいのでは?と感じるかもしれないが、“好きなパーツが使える”と“魅力的なPCが作れる”という自作PCの最大の魅力をさらに進化させていくためにも、BTFのような試みはしっかり応援していきたいところだ。