【 2008年7月5日号 】
オンボードグラフィックス+クアッドコア!
低予算で省電力地デジPCを作ろう!!(後編)
Text by 保坂 陽一
 
地デジ環境は現在進行中

 前編の原稿を書いてから、この続きを始めるまで1週間経っているのだが、その間にもダビング10の解禁決定や、Windows Vistaでの地デジ対応の発表といった動きがあり、まさしく過渡期真っ只中と言った感じだ。

 ダビング10に関してはPC向けの単体チューナーでも各メーカーの対応が予定されており、今回使用しているバッファローのDT-H50/PCIなどでは、解禁後、順次対応アップデータが用意される。この辺りのアップデート対応が素早く行えるというのは、PCで地デジ環境を扱う大きなメリットと言えるだろう。


□関連記事
【2008年7月3日】「ダビング10」開始目前。注意点を再チェック(AV Watch)
http://www.watch.impress.co.jp/av/docs/20080703/dub10.htm
【2008年2月7日】「ダビング10」対応状況リンク集(AV Watch)
http://www.watch.impress.co.jp/av/docs/20080207/dub10.htm


 さて、前編では省電力版Phenom/Athlon X2と780Gマザーボードを組み合わせたPCは、間違いなく省電力で、いずれも地デジPCとしてのスペックも備えている、というところまでチェックできた。

 これだけで一応本稿の目的は達成したとも言えるのだが、Phenom X4 9100eの定格1.8GHz→800MHz動作というダウンクロックを敢行したところトラブル発生。OSが起動しなくなってしまった。

 どうもダウンクロックでどうこうというわけではなく、HDD側のトラブルの可能性が高いように思えたため、DOS/V POWER REPORT編集部に転がっていた前回と同じWestern Digitalの省電力HDDシリーズの1TBモデル(WD Caviar GP WD10EACS)に変更しての再チャレンジ……と行こうと思ったのだが、さらにトラブル発生。1週間の間に、前回使っていたJetwayが別件のトラブルで修理行きになってしまっていたのだ。

 仕方ないのでマザーボードも変更となり、今回はGIGABYTEの780Gマザーボード「GA-MA78GM-S2H」で行なうこととした。同じmicroATXマザーボードということもあって、幸いにして消費電力はほぼ前回の環境と同じ(ワットチェッカーの値は動的なので細かな誤差は出しづらい)。このマザーボードはオンボードでビデオメモリを備えていないので、メインメモリからのシェアで256MBのみとなるが、1,900×1,200ドットでの地デジ視聴もとくに問題はなかった。この辺りの変更はご了承いただきたい。


●Jetway PA78M4-Hに変わって登板となったGIGABYTE GA-MA78GM-S2H。同じmicroATXの780Gマザーボードで、やはりお値段は1万円弱と安価。ディスプレイ出力はDsub 15ピン、DVI、HDMIと3系統をオンボードで備えている。

●前回の環境は前編を見ていただくとして、マザーボードとHDD以外のパーツは基本的に同じで、消費電力的にもほぼ同じということで進めさせていただく。なお、今回はCPUをPhenom X4 9100eに絞っている。

 

 
ソフトウェアでダウンクロックに再チャレンジ


http://game.amd.com/でダウンロードできる「AMD OverDrive」。「パフォーマンス制御」画面で、四つのコアをすべて1.8GHz→1GHz下げし、コア電圧は1.1V→1Vにセットした。なお、公式のオーバークロックツールではあるが、やはり保証対象外なので、自己責任で行うというのは変わらない。
 さて、Phenom X4 9100eの省電力地デジ環境をもう少し詰めてみるということで、今回はAMD純正のオーバークロックツール「AMD OverDrive」を使用してみた。このツールはクアッドコアの各コアごとに動作周波数を設定できたり、各電圧を調整できたりと、かなりおもしろい作りになっている。なお、Cool'n'Quietが有効になっていると、このツールでの変更が正しく行えないため、BIOSで無効設定に変更している。

 前回800MHz動作で地デジ視聴がギリギリという感じであったのを踏まえ、今回は切りのいいところで4コアとも1GHzにしてみた。コア電圧(CPU VID)はデフォルトの1.10Vから、こちらもひとまず0.1V下げて適用。

 CPU-Zなどのツールも使って確認を行ってみたが、すんなりと1GHz固定動作のクアッドコアとなった。消費電力はアイドル時で70W前後と変わらないが(Cool'n'Quiet動作時はアイドル時で900MHz動作/コア電圧1V前後となるため、それほど変わらないのだ)、地デジ視聴時の消費電力は80W前後と、1.8GHz動作時より10W以上下がった形になる。要するに、動的な省電力機能を切って、ムダなCPUパワーを使わないようにしたわけだ。

 800MHz動作時は地デジ視聴ソフトの「PCastTV for 地デジ」を起動すると、自動的に低解像度のLPモードになってしまったが、今回は地デジ標準のDPモードのまま問題なく起動。「ストリームテスト for 地デジ」では“DPモードで正常に視聴できません”と出て×マークが出るのだが、とくに不足は感じない。CPU使用率も20%前後で安定している。何かウィンドウ操作を行うと65%くらいまで上がってしまうが、800MHz動作時は90%を超えていたことを考えると、それなりに余裕ができたと見てよいだろう。現状ではこれくらいの環境が低クロックで安全に地デジ視聴が可能なラインなのではないだろうか。

 ちなみに、さらに省電力を目指してコア電圧を下げてみたが、-0.05V下げた0.95V設定で「PCastTV~」を起動すると、画面全体にチラチラとノイズが走るようになってアウトであった。


●1GHz/コア電圧1VでDPモードでの視聴は問題なし。地デジ視聴時のCPU使用率は20%程度で、ウィンドウをドラッグしたりすると65%程度まで上がるが、800MHz動作のときのように一気に90%オーバーになったりはしない。

●地デジ視聴時で80W程度に抑えることに成功。これがクアッドコア環境としていかに省電力なのかは、この後で思い知ることになる。


 

 
静音PCには気になる発熱


●「SpeedFan 4.34」による温度計測。地デジ視聴時のCPU温度は40℃前後と文句なく低いが、チップセットの温度と思われるTemp3の値は80℃を超えている。やはりケースファンによるエアフローが必須ということなのか。

●さすがに80℃オーバーはないだろうということで(実際に触れられないほど熱いのだが)、温度計でチップクーラーの表面を直接測ってみた。たとえチップの動作可能範囲だとしても、このままでは寿命が短くなるのは間違いない。
 最近のマザーボードの例に漏れず、今回試用している780Gマザーボードでも、CPU以上にチップセットの発熱は高いようだ。実際今回の環境でもチップクーラーに触れるとヤケドしそうである。地デジ環境として静音PCを目指すのはどうなのかということで、その温度を計測してみることにした。

 温度計測には「SpeedFan 4.34」を使用し、CPUとチップセットの値をチェック。CPUは「Core」の値だが、チップセットはもっとも温度が高く表示されている「Temp3」の値であるとは思うものの、実際にはマザーボード上のどの場所か特定できないため、サイズが発売しているコンパクトな汎用温度計「KAMA-Thermo どこでも温度計2(TM02-WH)」を使用し、チップクーラーの表面温度も同時に計測してみた。

 環境温度は27℃、基本的に無風である。最近のファンレスビデオカードやチップセットはケースファンによる冷却が前提となっているものがほとんどだが、そこに凝り始めると別企画になりかねないので、今回は割愛させていただいた。なお、DOS/V POWER REPORT9月号(7月末売り号)では、静音・冷却特集とのことなので、そちらにも期待していただきたい(宣伝!)。

 定格動作のPhenom X4 9100eにリテールCPUクーラーを使用した地デジ視聴時の温度は、SpeedFanによるとCPUは40℃前後、チップセットは80℃オーバー。どこでも温度計2の値は55~60℃といったところだ。CPUクーラーはリテールクーラーだが、ヒートシンクを触れてもほとんど熱さを感じない。これならファンの回転数をもっと下げても動作には支障はないだろう。さすがクアッドコアながらも低TDPを謳うだけのことはある。

 となると問題はやはりチップクーラー。これだけ熱いとケースファンなしの完全ファンレスマシンなどというのは考えないほうが無難である。何より安定動作しないのでは、地デジPCとする価値もないだろう。いろいろな780Gマザーボードを見てみたが、1万円前後の低価格マザーボードが多いこともあってか、チップクーラーは小型のファンレスヒートシンクだけのものが多い。もう少ししっかりとしたものが標準になってくれればよいのだが……。いずれにせよケースでのエアフローありきと言えるので、静音を目指す際も頭に入れておいておきたいところである。


 

 
780Gの動画再生支援機能はどうなのか


●Radeon HD 3450搭載のPowerColor「AX3450 256MD2-H」(左)と、GeForce 8400 GS搭載のZOTAC「ZT-84SEG2P-FSL」。最近は1万円以下の安価な製品でも、HDMI端子などは標準的。はたして780Gオンボード機能との差は?

●1.8GHz動作のPhenom X4 9100eでの「ストリームテスト for 地デジ」の結果。どちらのビデオカードを使用しても同じ結果なので、地デジ環境としては780Gチップセットのオンボード機能で十分ということになる。

●こちらはPhenom X4 9100e@1GHzでのテスト結果。ビデオカード搭載時でも同じ結果で、DPモードで正常に視聴できないと出る。実際はいずれも視聴できているのだが、やはりコマ落ちなどが起こっているのかもしれない

 最後に780Gチップセット内蔵のRadeon HD 3200での地デジ視聴(動画再生)が、ビデオカード装着時と差があるのかも見てみた。

 用意したのはエントリークラスのビデオカード2枚で、1枚は直接の上位モデルとも言えるRadeon HD 3450搭載ビデオカード、もう1枚は5千円以下と激安で購入可能なGeForce 8400 GS搭載ビデオカードである。いずれもHDMI端子を備え、ビデオメモリは256MB搭載している。

 判断材料としてCPU使用率などを見るだけでは曖昧なため、「ストリームテスト for 地デジ」を使用してみたが、1.8GHz動作時、1GHz動作時ともに結果は同じ。残念ながら(?)、GeForce 8400 GS搭載ビデオカードよりも780Gのオンボード機能のほうが優秀だぜ!と言い切れるようなことにはならず、いずれの環境でもDPモードでの視聴は×印付きながら、さほど問題なく地デジ視聴が可能であった。

 逆に言えば、780Gのオンボードグラフィックス機能が十分な機能を備えているということで、地デジPCとしてなら別途ビデオカードを購入する意味はないと言えるだろう。


 しかし、これは単なるコストだけの問題ではなかったのである。なんとPhenom X4 9100e@1GHzの環境で80W前後を達成していたにもかかわらず、ビデオカードを使用しただけで、地デジ視聴時の消費電力が130Wを突破! アイドル時でも100W弱と言ったところ。今回の企画ではここまで100W超えを見ていなかっただけに、なかなかショッキングだ。

 最近の標準的なシステムでは100Wオーバーが普通と知ってはいても、こう明確に差を見てしまうとオンボードグラフィックス機能の優位性を感じざるを得ない。地デジ視聴時にいたっては、同じCPU、同じレベルの視聴環境なのに、家庭用電球約1個分の電力を余計に使っていることになるのだから。

 GeForce 8400 GS搭載ビデオカードのほうが5W程度高い様子だが(ファンを搭載していることもあるだろう)、いずれにせよエントリークラスのビデオカードでこれとなると、上位モデルは考えるだに恐ろしい。そりゃ、ハイエンドのSLI環境ともなればアイドル時200Wオーバーになるのも納得である……。



●ビデオカードを搭載しただけでこの消費電力。エントリークラスのビデオカードでも、いかに電力を食うかというのを見せ付けられた気分。50Wも違うとさすがに考えさせられるというものだ。


 

 
省電力な地デジ環境に現状でPhenom X4+780Gは間違いなく有効

 Atomなどの省電力CPUも話題の昨今だが、やはりある程度のマシンパワーが欲しい地デジPCなどでは物足りないし、現状で発売されているIntel系のマザーボードではオンボードグラフィックス機能もやや貧弱だ。今回の結果を見ると、Phenom X4を含めたAMD環境を選ぶ価値として、780Gチップセットの価値はとても大きいと言えるだろう。

 自作PCに限らず、いかに低価格なPCでも、本当にコストと省電力・省エネを考えるなら、ビデオカード(専用グラフィックスチップ)の有無というのも一つのポイントとしてチェックしてみてもらいたいものである。

 いっそのこと、低クロックで低価格な超低電圧版Phenom X4/X3などが出てくるとおもしろそうだが、CPUに関してはいずれマルチコア化が進めば地デジ環境も恐れるに足りないものになっていくはず。その際も、やはりしっかりとしたチップセット内蔵グラフィックス機能が省電力に大きく貢献するに違いない。今回は結構な突発企画であったが、そんな内蔵グラフィックス機能に対する価値観を再認識できたことを喜びつつ、筆を置くこととしたい。

□PCで地デジ完璧ガイド
http://www.watch.impress.co.jp/headline/extra/2008/chidigi/

□関連記事
【2008年6月28日】低予算&省電力な地デジPCを作ろう!!(前編)
http://akiba-pc.watch.impress.co.jp/hotline/20080628/sp_fseg.html

 (AMD Phenom X4 9100e)

[機材協力:DOS/V POWER REPORT]

※特記無き価格データは税込み価格(税率=5%)です。

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