今年も早いもので、もう4月も後半。4月といえば、やはりどうしても意識されるのが新入学・新社会人などの新生活。
今回は、そうした新生活を迎える読者の方――とくに以前PC自作を経験していたが、ここ2~3年は離れてしまった方――に向けて「PC自作の再入門」をオススメすべく、イマドキの自作PCの楽しさを味わえるような自作例(パーツの選び方)2点を紹介しよう。
今回の作例自体はすべてのパーツを購入する(OSは除く)ことを想定しているが、自作PCゆえ、アップグレードプランの参考にもなるはずだ。
| 最先端に思えるPC+大画面テレビだが ……稼働率を考えるともったいない? |
さてまずは、今回紹介する自作例2つの簡単な内容を紹介したい。
まずは、イマドキの自作PC(しかも本誌で紹介する)として、おそらく多くのユーザーが連想するであろう、スタンダードな高性能なPCだ。ゲームからデジカメ写真の現像、HD(高解像度)ビデオ編集まで様々な用途に対応できるように、クアッドコアCPUや高性能ビデオカードを搭載する。
そしてもう1つは、3年前では難しかった使い方を可能とするような、「尖った」自作PCである。今回作例を紹介するのは、こちらのPCだ。コンセプトは、「自室とリビング兼用で使える、小型の室内モバイルPC」である。
このコンセプトは、ここ3年ほどでテレビとPCとの親和性が高くなったことを考えて出てきたもの。
(1)液晶テレビに「HDMI」と呼ばれる端子が普及し、PCと接続しやすくなったこと
(2)PCの映像コンテンツに「大型テレビに接続した方が面白いもの」が出てきたこと
(YouTubeのHD[1280×720ドット]動画が代表的だろう)
――という2点により、テレビにPCを繋ぐことが実用的になってきたことによる。
しかし、こう聞くと、こんな疑問が沸く読者諸兄も多いだろう。「PCをテレビに接続したら、テレビを見ているときに使えない。せっかく高いお金と手間でPCを自作したのに、稼働率が低いのはもったいなさすぎではないか?」と。
こうした無駄を防ぐためには、いくつかの方法がある。
メーカー製PCで多いのは地上デジタルチューナーを搭載して、テレビ録画PC仕様にする手段だが、HDDレコーダーを持っているユーザーにとっては訴求力が薄い。そこで発想を転換して、「普段は自室でディスプレイに接続して使い、テレビで見たいものがある時だけ持ち運んで使えば、無駄をなくせるのではないか」と。そう、これが今回のPCの狙いなのだ。
今回のPCをDOS/V POWER REPORT誌(A4変形版)と比較。これぐらい小型であれば、十分持ち運べるだろう |
こうしたコンセプトを実現するための条件は、以下の3点。
(1)そもそもテレビに接続するため、HDMI端子がないとダメ
(2)持ち運べる大きさ・重さでないとダメ
(ACアダプタなど、持ち運ぶときにかったるいものもできれば避けたい)
(3)ノートPCにコストパフォーマンスが負けるようではダメ
(HDMI端子の付いたノートPCも増加してきているので)
実はこの条件を満たすPCを自作するのは、ごく最近までかなり難しかった……というより、奇しくもごく最近低価格でできるようになったのである。
というのも、(2)の条件を満たすためには、実質的にMini-ITXフォームファクタのマザーボードやケースを使って自作しなければならないのだが、昨年半ばまでMini-ITXのマザーボードは製品種類が少なく、しかも比較的高価だったからだ。
しかし都合がよいことに、昨年の中頃にIntelが本格的に製品を発売したことなどで、急速に低価格化し、同時に製品数が増加。高機能な製品も選べるようになったのだ。
ということで今回は、Mini-ITXをベースにしたPCを作成することにした。
では、こうしたコンセプトのシステムで使えるパーツを考えてみよう。
今回はコストパフォーマンスも考えて、単体パーツとしても非常に人気の高いものを中心に選んでみた。
●CPU
Intel Core 2 Duo E8500 (実売価格 19,000円前後) |
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まずはCPU。今回は上述した条件の(3)から、ノートPCでは実現不可能な強力CPUをと考えて、デュアルコアCPUの中でも人気の高いこの製品を選んた。
価格と性能、そして発熱や消費電力の少なさといった、最近のCPUで求められる性能に対するバランスがよいCPUだ。
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●マザーボード
Intel DG45FC (実売価格 15,000円前後) |
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今回の自作例ではある意味で最重要パーツとなるのがマザーボードだ。今回は、インテル純正のMini-ITXマザーボードであるこの製品を選んでいる。
Intel最新のグラフィックス機能内蔵チップセット「G45」を搭載した製品で、今回重要なHDMI端子も搭載する。また、HD動画の動画再生支援機能(CPUに代わって動画再生時のデータ処理を実行する機能)を搭載するため、Blu-ray Discをはじめとする、各種HD動画再生時のCPU負荷が低い点が魅力だ。今回のPCのコンセプトにはぴったりの製品である。
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●メインメモリ
CFD Elixir W2U800CQ-2GL5J (実売価格 4,000円前後) |
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メインメモリは現在主流のPC2-6400(DDR2-800とも呼ばれる)タイプ。動作クロック800MHz相当の高速メモリだ。
容量は、2GB×2枚=4GBのセット品を選択している。現在はメモリの価格が非常に下がっており、安価なショップでは4,000円前後で購入できてしまうからだ。
従来の32bit版Windowsでは、OS側の制限で使用できる容量が3.4GBほどにまで減少してしまうが、この価格であれば0.6GBほど減少したところで、5~600円分の損にしかならない。ということで、メモリを多くした際の快適度を優先している。
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●HDD
Western Digital WD10EADS (実売価格 8,000円前後) |
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HDDはメモリと同様、ここ2~3年で、非常にコストパフォーマンスが高くなったパーツだ。今回は、現在コストパフォーマンスが最も高い点と、動画の視聴を使用目的の1つとしており大容量を優先したいという点で、1TB版の製品を選んだ。 WD10AECSは、1TB版HDDの中では速度はそこそこだが、発熱や消費電力が非常に低いため、Mini-ITXのPCとは非常に相性がよい。
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●DVDドライブ
パイオニア DVR-216SV (実売価格 6,000円前後) |
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最近のDVDドライブはいい意味で性能が接近しているが、今回はDVDレコーダーで録画したディスクなどの視聴も考え、DVD-RAMに対応し、動作音が静かなこの製品を選択。少々高価だが、品質的には申し分のない製品だ。
また、トレイを開けた状態の色にも気を使いたかったので、鏡張りのケース(後述)に合うシルバーパネルのモデルを選んだ。
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●PCケース
ユニットコム ITX-200 (実売価格 9,000円前後) |
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今回の選択で、もう1つ重要度が高いのがPCケースだ。Mini-ITXのケースは、ここ1年で製品数が大きく増えたのだが、それだけに製品選びが難しい側面もある。
今回は、小型である点を優先しつつ、十分な出力の電源を搭載していることや3.5インチHDDの搭載が可能な点、さらに大画面テレビと組み合わせても負けしないデザインを備える点などを重視した。
横幅22cm×奥行き30cm×高さ12.9cmなので、十分家庭内モバイルが可能なサイズと、本体前面が鏡張りとなっているデザインのこの製品は、かなり妥当な選択肢だろう。
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これらのパーツを組み合わせて、想定実売での合計価格は、62,000円前後(ただしOSは含まず)。安価なパーツショップで購入すれば、なんとか5万円台も狙えそうなレベルに収まった。
このように電源をいったん外し、電源関係の配線をした後に取り付ける必要がある
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CPUクーラーの天面の保護パーツと、電源の底面がほぼくっついてしまっている。ホントにギリギリだ
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最近のCPUクーラーは装着しにくいため、先に取り付けておくのが基本となる。メモリも同時に取り付けておこう
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今回は自作例(つまりパーツ選び)の紹介が中心だが、組み立て作業に関しても、ポイントを絞って簡単に紹介しておこう。
基本的なところは2~3年前の自作PCとほぼ同じと考えてよいのだが、なにしろケースが小さいため、配線の手順が重要になる。とくに重要な点は、マザーボードの組み込み時に電源ユニットを外す必要があること。ITX-200は電源ユニットが装着済みなのだが、いったんすっぱりと外す必要がある。
また、Mini-ITXケースの場合、大きさを優先した結果、CPUクーラーが入らない場合もある。これを防ぐには、店頭で購入時に店員に尋ねたり、Webの情報などを収集するなど、事前調査しておくことが重要となる。
今回の組み合わせ(Core 2 Duo純正CPUクーラー+DG45LF+ITX-200)は「ギリギリで収まる」という情報を得ていたのだが、ホントにギリギリとなってしまった。
もう一つ大きなポイントとなるのは、CPUクーラーの取り付け手順。以前のCPUクーラーは、「マザーボードをケースに装着→CPUクーラーをマザーに装着」といった手順が基本だったが、最近のCPUクーラーでは、「CPUクーラーをマザーに装着→マザーボードをCPUクーラーに装着」といったように、手順を反対にした方が組み立てやすくなっている。
これらのポイントに注意ば、基本的には自作PC経験者であれば、大きな問題なく組み立てられると思われる。焦らず、じっくりと作業していこう。
パーツを組み込み終えた状態の「超小型室内モバイルPC」。カバーを取り付ければ無事完成だ |
さて、このようにして完成した「超小型室内モバイルPC」だが、果たして実力はどのようなものだろうか?
まずは、Windows Vista Ultimate SP1をインストールして、エクスペリエンスインデックスを測定してみた。さすがにCPUが高速だけあって、最低のゲーム用グラフィックスでも「4.0」。他は5ポイント台後半と悪くない。また、Futuremark社の総合ベンチマークソフト「PCMark05」の総合スコアも「6541」と、かなりのものとなった。
目標としたノートPC以上の性能という点では、かなりのレベルで達成できていると考えられる。
エクスペリエンスインデックスはご覧の通り、かなり高レベル。Windows 7でも十分戦闘力のあるレベルだろう |
PCMark05の総合スコアは「6541」。こちらもかなり悪くないレベルである |
DPモード(一番左)の結果でも、余裕で再生可能なレベルだ |
さて、もう1つ気になるのが、動画の再生性能だ。今回は、バッファローの「ストリームテスト for 地デジ Ver1.03」で、動画再生性能を簡単に測定してみたが、MPEG-2で最も負荷の高い「DPモード」でも、コマ落ちはほぼ皆無、CPU負荷も平均40%台と、十分に使えるレベルだ。もちろん実際にYouTubeなどのHD動画を見ても、余裕で再生可能である。
また、AV再生の用途で考えると、実はきになるのが静音性だが、実はここもかなり優秀。ITX-200の電源ユニットは実はかなり静かであり、動画再生程度の負荷ではCPUクーラーの回転数も低いためだ。実は静音性では不利な点が多いMini-ITXのPCとしては、非常に優秀なレベルと言える。
また、一般的なPCで弱点となるDVDドライブの動作時でも、DVR-216の威力でかなり静か。Windowsのインストール時でも動作音を気にすることなく進められる。個人的には、これは非常に嬉しいところだ。
OCZ Core V2。低価格SSDとしては大定番となった製品だ。 |
HDDの代わりに、持ち運ぶ際の安全性と速度を重視した設定で、SSDを組み込んだシステムも考えてみた。今回は、OCZのCore V2 60GB版(OCZSSD2-2C60G:実売価格14,000円前後)を使用した。
ITX-200のHDDベイは専用のレールを使って装着するタイプなので、2.5インチのドライブは装着が至難の業(※1)なのだが、SSDは物理的な耐久性が高いため、ケースに直接ねじ1本だけで留めるという乱暴な方法で解決した。
気になるのはいわゆる「プチフリ」だが、今回はVistaを使っている点や、筆者がある程度プチフリ慣れしていることもあり、あまり気にならなかった(VistaはHDDフォーマットの性格上、プチフリはXPに比べると少ない)。
そしてOSやアプリケーションの起動など、SSDに向いた処理は高速なので、操作感はかなり良好になる。またなんといっても、やはりHDDを持ち運ぶ必要がないという(とくに心理的な)メリットは抜群に素晴らしい。
コスト的には不利になってしまうのだが、動画データの置き場としてネットワーク接続HDDを使っている場合などは、検討してほしい組み合わせだ。
※1:6月発売のマイナーチェンジ版で改良される予定。
| 大満足!! と思いきや、 実は1点失敗したところも…… |
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▼特集
「この春始めるPC自作」
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このように、今回の自作例は大成功!! ……と言いたいところなのだが、実はテストを重ねるうち、1つ問題が発生した。それが、高負荷時の発熱の問題だ。CPUのストレステスト(負荷試験)プログラムを実行していると、熱によってCPUの速度が低下してしまったのである。
この原因は、前述したようにCPUクーラーの周辺に隙間がなく、エアフロー(空気の流れ)が不足している点にある。実際にケースのふたを外すと解決されたところを見ると、間違いないだろう。また、HDDの装着位置を専用ベイからDVDドライブ下の3.5インチベイに変更しても、若干の改善が見られる。
実際に読者が自作される場合は、CPUの動作クロックをもう少し低いものにするか、あるいはケースを加工してファンを装着するなどの工夫を盛り込むことをおすすめしたい。
ということで、若干改良を必要とする点が出てしまったものの、この「超小型室内モバイルPC」、システムのコンセプト的には悪くないPCではないだろうかと思う。
イマドキの自作PCの面白さを感じられるこの一品、読者の方々もご興味があればぜひとも(熱対策を講じた上で)試してみて欲しい。
(後編に続く/来週掲載予定)