【 2011年2月26日号 】
Sandy BridgeでOCテスト、空冷でも5.5GHz達成
                Text by duck

duck氏

 日本が世界に誇るOverClocker。

 2004年にOCのWRを塗り替えて以来、P4の8.2GHz駆動など数え切れない程の世界記録を樹立し、今もなおトップランカーとして走り続ける。この地球上で最高のレコードを出す事をライフワークとしており、日々液体窒素をぶちまけている。オーバークロッカー向けオンラインショップ「Japan Cooling Artist」もプロデュース中。

ブログ:PCracer duck Official Blog

 ただいまチップセットトラブル中のSandy Bridge版Core i5/i7だが、その本来の性能はなかなかのもの。「K型番」に人気が集まっていたことからも判るように、そのオーバークロック性能に関しても注目されている。

 そこで今回、液体窒素でOCを行う極冷オーバークロッカー、duck氏に極冷オーバークロックを依頼。極限への挑戦をお願いしてみた。

 ………でも、ちょっと大変だったみたいです(編集部)

- おことわり -
 このテストはチップセット不具合発覚前に実施したものですが、その後のIntelの対応から、「3Gbps SATAポートを使用していない(たまたまMarvellチップの6Gbps SATAポートを使用)ため、オーバークロックのテスト結果としては信頼できる」と判断、ひとつの結果として掲載いたします。
 なお、2月23日現在、Sandy Bridge搭載PCは一部のショップブランドPCなどが販売されているのみで、マザーボードの単品販売は中断されています。不具合解消版チップセットを搭載したマザーボードの販売再開は3〜4月になる見込みです。


●実は極冷に向かなかったSandy Bridge………
 しかし空冷なら5,570MHzを達成!


5,570MHz……ただし空冷で

Core i7-2600K

GA-P67A-UD7

液体窒素で冷却中

液体窒素のタンク
 ということで依頼を頂いたExtreme Coolingだが、実は今回のSandy Bridge、液体窒素冷却による恩恵は現時点ではあまりなかった。

 毎回、極冷の前に空冷でテストするのだが、これでひとまず5,570MHzを達成。それを踏まえて、液体窒素冷却による極冷に移ったが、これが「アレ?」という展開に。

 まず、温度を零下に落としたが、上限はやっぱり5,570MHzのまま。この時点で数十℃は下げてるわけで、相当おかしいと思ったが、それでも「念のため」とマイナス100℃に落としてみると、今度は5GHzも行かないハメに。………冷えすぎたらしい。

 さすがに「何か間違っているんじゃないか?」と自問自答しつつ、朝までやってみたが、結果はやっぱり同じ。電圧を変えても、極冷セッティングの状態をチェックしても、温度を変えても、やっぱり同じ。そのうち「下げすぎて電源が入らない」なんてことまで起きる始末。

 結局判ったのが、「室温よりちょっと低いぐらい」がベストだということ。CPUの表面温度で、だいたい10〜20℃ぐらいを保つのがいいようだ。

 極冷は「発熱による弊害を強制冷却で抑え、コアのマージンを使いきる」のがポイントだ。だが今回は、その『発熱による弊害』が起こる随分前にピタッと頭打ちしているような感覚を覚える。

 これについて、私は(コア的には楽な筈のクロックでも)倍率などによるOC上限が設定されているのではないか?と推定している。実際、世界中のOC記録を見渡しても57倍以上での動作報告は今のところほとんど見当たらない。

 もっとも、マージン的には随分楽な状況で動いてるといえるし、空冷でも「かなりいいセン」に到達できるともいえる。後述するが、「近い将来」に関しては、いろいろ期待できるCPUだとは思っている。



●実はOCでも重要な「安定性」

- 今回の構成 -
CPU:Core i7-2600K
マザーボード: GIGABYTEGA-P67A-UD7
CPUクーラー: IntelXTS100H
メモリ: KingstonKHX2133 CL8
ビデオカード:GIGABYTEGV-N460OC-1GI
SSD: IntelX25-M
電源:SilverStoneSST-ST1200G
OS:Windows 7 Ultimate(64bit)/ Windows XP SP3

空冷でテスト中
 いきなり結果から出してしまったが、その過程を解説しよう。

 まず、我が家にやってきたのはGIGABYTEの上位モデル、GA-P67A-UD7

 24フェーズVRMや2オンス銅箔層など、GIGABYTEお得意の贅沢な作りこみ。極冷時にも多少は効果が見られたが、空冷OCがメインとなるなら絶大な効果が期待できそう。

 先に「頭打ち」と書いたが、全般的に見て、Sandy BridgeのOCはCPUへの依存率が高い印象。「OCでの限界クロック」という点ではどこのマザーボードを使っても大差は出ないようだ。だから、どうしても『限界』を見たいなら、CPUを交換した方が近道だろう。

 だが、重要なのは限界性能だけではない。個人的に重要だと思ってるのは安定性と再現性であり、このあたりはOCに限ったことじゃない筈だ。

 それでこのマザーボードを試したのだが、結果から言うと狙いはビンゴ!であった。

 実は他社のマザーボードもいくつか試したのだが、結局はCPU依存で限界値はどれも同じ。しかし、マザーボードによって大きく変わったのが再現性だ。

 いくら「CPU次第なOC」でも、限界に近づくと不安定になったり、一度大丈夫だったクロックでも動作しなくなるなど、再現性が乏しくなる。しかし、今回のマザーボードではそれは見られず、同じ限界域での動作が何度も出来た。これは、VRMまわりなどの恩恵が出ていると考えるのが的確だろう。

 ちなみに、このマザーボードの設定画面は他社が採用するUEFIではなく、従来からのBIOSベース。

 これについては様々な意見があるようだが、私の個人的な感覚としては、「初モノを複数同時に試す」状態にならなくてよかったと思っている。基本設計が大きく変わってしまった「初モノSandy」を迎え撃つにあたり、ベーシックで枯れた設計で出してきたことはむしろ評価したい。

 まぁ、褒めてばかりじゃアレなので(笑)難点も挙げていくと、やはりBIOSは重要で、今回も最初は泣かされた。変なクロック域で倍率制限がかかったり、すぐメインBIOSがトンでしまったり散々だった。が………BIOSアップデートの対応も早かったお陰で、BIOS更新と共に安定するようになった。やはり、BIOSは最新に保つことをお勧めしたい。



●あまり電圧を上げずとも高クロックが達成可能?
 電圧を上げるとさらに安定


BIOS画面1:Vcore1.65vを超えるとCPUの死亡例が多い。電圧の入れすぎに注意!

BIOS画面2:やはり今回もOCの得意なコアはあるようだ

Super PIも完走
 さて、実際やってみた感覚だが、空冷フルスロットル状態でのベンチマークでも大きな発熱もなく、拍子抜けしたくらい。

 達成クロックは先述したように5,570MHzだったが、驚いたのがその限界値でもベンチマークが走ること。今までの感覚だと、限界値は「起動するだけ」。ベンチマークを走らせるためには、設定限界より100MHzくらいダウンクロックさせる必要があるのが普通だった。

 また、個体差はあると思うが、今回も電圧設定によってOCに影響が出た。

 まず、基本のVcoreだが、限界値に最接近する時こそ1.5v以上が必要だったが、限界付近でいいならほぼ定格電圧でも到達可能。よほどのOC目的じゃない限り1.4v未満でも十分使えるだろう。

 System Agent VoltageはGIGABYTEだけの設定項目だが、これを1.1v以上に持ち上げてやると高倍率でもOS起動が可能となった。

 Load-Line Calibration項目は4段階から選択可能だが、最大値のLevel 2は極冷用なのか?上がり幅が大きすぎてかえって頭打ちしてしまった。私の環境ではLevel 1 が一番安定していた。

 BIOS項目で言うならば、BIOS-f6x以降に追加されたinternal CPU PLL Overvoltage項目も重要だった。これをEnabledにすることで、飛躍的にクロックが伸びだした。

 また、ベースクロック(BCLK)の設定は、これまでと感覚が変わった印象だ。BCLKを上げる場合、これまでは低いBCLKでOSを起動、ソフトを使って上昇させる方が成功率が高かった。しかし、今回試した環境では、BIOSでBCLKを上げたままOS起動させた方が安定してOCが出来た。ソフトの完成度にもよるかもしれないが、今までなら考えにくい事例である。

 なお、今回使用したCPUは、限界域では「2コア2スレッド」が得意なよう。クロックを上げるため、そうなるように設定している。

 以上のとおり、Sandy Bridgeはあまり電圧を上げずとも、高クロック化ができる性質がある。

 今までのCPUのように「無理やり高電圧をかけ、一瞬だけでも限界に到達する」というOCではなく、定格、あるいはそれに近い電圧でも限界付近で動作する。そのため、電圧を上げるのは「限界域でより安定させる」といった目的がメインになる感覚だ。

 そしてそのようにOCすると、限界域でも比較的高い安定度。限界付近でも、そのままスーパーPiが完走出来た。

 なお、いくら「Sandy Bridgeに温度は関係ない……」と言ってはいても、空冷で1.55v以上に設定した場合、限界域では発熱や温度が関係してくる。実際、CPU温度を20℃以下に保ってみると、そうした領域でも確実に安定動作するようになる。極冷までは行かずとも、水冷システムなどを導入するメリットはありそうだ。



●今後の「成長」に期待

 「Core i7-2600Kは極冷OCや限界OCを狙うユーザーにはつまらないCPUなんじゃないの?」という質問、実はよくいただいている。そして、実際、現時点ではそうかもしれない。

 しかし過去、こうしたことは何度もあった。

 たとえばYonahコアのCore Duo T2600も、極冷でのOC耐性はほぼ横並び。何かの制限があると噂され、極冷OC的には非常に暗い時期だった(笑)。が、すぐ後に出てきたCore 2 Duo E6x00でやや緩和。そして強烈なOC耐性を誇ったE8x00に引き継がれた。

 そしてOC界に残る名CPU「Core 2 Duo E8500」がほどなく登場。このCPUは不思議な変化を遂げたCPUで、アーキテクチャはもちろん、ステッピングさえ変わっていない筈なのに、後期製造週のモノは明らかに別物に豹変、強烈なOC耐性が見られるようになっていた。

 OC耐性、というのはまったく想像しえなかったことが起こることも常なので、あいかわらずIntel CPUから目は離せない。

 海外サイトの情報によると、どうやら数ヵ月後にも次のSandy Bridgeは出てくるようだ。私は、次期チップセット、そしてマザーボードと合わせて楽しみに待ちたい。


□Core i7-2600K
http://ark.intel.com/Product.aspx?id=52214
□GA-P67A-UD7
http://www.gigabyte.co.jp/products/product-page.aspx?pid=3646#ov

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※特記無き価格データは税込み価格(税率=5%)です。