1999年4月17日号

Tom's Hardware GuideプレジデントLarry Barber氏インタビュー
「規模という意味ではライバルはいない」

Larry Barber氏(右)と天野尚己氏(左) THGロゴ
 Tom's Hardware GuideのPresident、Larry Barber氏(写真右)とゴールデン・マイクロ・システムズ(株) 取締役の天野尚己氏(写真左)。

 「Tom's Hardware Guide」と言えば、CPUやビデオカードなどPCパーツに関する最新情報やレビューを掲載する老舗のPC情報Webサイトとして日本でも有名。最近では日本語版の運営も始まり、日本のPCユーザーにとってはより身近な存在になった。

 そのTom's Hardware Guideを運営するTomことThomas Pabst氏とLarry Barber氏が4月上旬に来日し、スポンサーが実施するイベントへの参加やミーティングなどをこなした。スケジュールの都合でThomas Pabst氏はすでに台湾へ向けて出国した後だったが、帰国直前のLarry Barber氏に短時間のインタビューを行うことができたので、ここにその内容を掲載することにする。

 なお、このインタビューは日本語版Tom's Hardware Guideを運営するゴールデン・マイクロ・システムズ(株)の協力のもと、4月9日(金)に行われた。

聞き手:石橋 文健、鈴木 光太郎
協力:ゴールデン・マイクロ・システムズ(株)


■最初は「ホビー」だった

[編集部] まず自己紹介とTom's Hardware Guideの概要を教えてください。

[Larry] 私は一月で1,600万ページビュー、200万人以上がアクセスするTom's Hardware Guideを運営しています。Tom's Hardware Guideは3年前にできたサイトで、Thomas Pabstがチーフエディターを務め、私がプレジデントを務めています。

[編集部] ほかにも運営しているWebサイトはありますか。

[Larry] Sharky Extremeと関係を持っています。ゴールデン・マイクロ・システムズ(株)が両方に資本を入れている関係で、日本国内では同じところがやっていると思ってもらって結構です。Tom's Hardware Guideはすでに日本語サイトがありますが、Sharky Extremeも近いうちに日本語サイトを立ち上げる予定です。

[編集部] Tom's Hardware Guideのビジネスモデルを教えてください。

[Larry] 広告と単行本の売上げによって運営しています。現在発行している単行本は9月に内容を大きく刷新する予定です。

[編集部] Thomas氏はどんな人で、どのような経緯で今のサイト運営にまでいたったのでしょうか。

[Larry] Thomasは30代のドイツ人男性です。イギリスで手術医を務めている間にコンピューターに興味を持ち、ホビーとしてWebサイトを立ち上げたのがTom's Hardware Guideの始まりです。2年半前に私とThomasが出会い、よりサイトを大きくしようということで話がまとまりました。Thomasは編集に専念し、私はTyanやMicronicsといったマザーボードメーカーの経営に携わっていた経験を活かし、ビジネス面でバックアップするという役割分担をすることにしました。Thomasは今では医師との兼業ではなく、このWebの仕事に専念し、配下には複数の編集スタッフがついています。


■情報の扱いについて

[編集部] 外から見ていると、Webサイトが急激に大きくなり始めると同時にメーカーとのつながりが強くなったようなイメージがあります。情報はメーカー側から持ちこまれるのですか。

[Larry] 情報の入手経路はさまざまです。メーカーからくることもあれば、OEM先やディストリビューター、エンドユーザーなどいろいろなところからやってきます。

[編集部] 情報の管理についてはどのような考えをお持ちですか。正式には公開されていない製品や、発表される前の製品の情報が掲載されることがよくあり、過去にはPentium IIの情報公開に関してIntelとトラブルになったこともありました。意図的にリスキーなところに踏み込もうとしているのですか。

[Larry] Intelとの争いは大きな事件だったね(笑)。まず、持ちこまれる情報が機密保持契約(NDA)付きならば、それは原則的に受けとりません。よって、それを破るかたちで情報を公開したことは一度もありません。今はWebサイトが有名なので、いろいろなメーカーから発売前の製品が持ちこまれたり、発表前の情報が持ちこまれたりしますが、これは製品のテスト期間を十分にとるために受け取るもので、そのときに「いつまで秘密にするのか」についてサインすることはあります。読者に情報を伝える場合にはその確度には非常に気を配っており、製品のテストであれば提供してくれたメーカー側が何と言おうと我々自身がテストして判断した内容で載せますし、テストできないものであれば、あくまでも「メーカー側のアナウンス」であることを必ず明示して掲載します。ルールを破ったり誤ったことをしていないからこそ、過去にいろいろ争いになっても我々は一度も負けていないのです。

[編集部] 最近ではTom's Hardware Guideに対して、メーカーが意図的に情報をリークしてくることの方が多いのではないですか。

[Larry] (笑顔を見せて)もう答えました。


■「ライバルはいない」

[編集部] 韓国語やドイツ語などの各国語サイトがすでにできていますが、今後もこうした国際的な展開を行うのですか。

[Larry] はい。英語圏のアメリカやヨーロッパのほかに、日本や中国、ドイツ、フランス、スペインなども大きなマーケットだと考えています。

[編集部] 現在運営している日本語版Webサイトはテスト運用ですか。それとも完全にもうビジネスとしてやっているのですか。

[Larry] 各国語に展開したあとは、おのおの独立採算でやっていくのが基本です。日本語のサイトに関してはゴールデン・マイクロ・システムズ(株)と8ヶ月も交渉したうえで協定を結んで運営してもらっています。その協定には中国語の展開に関する内容も含まれています。

[編集部] Tom's Hardware Guideのライバルはどこだと考えていますか。ZDNetやcnetついてはどう思いますか。

[Larry] すでに各国語版への展開を始めていますし、規模という意味では敵やライバルはいないですね。つまり一番ということです。Tom's Hardware Guideはマザーボードのテストであるとか、CPUのオーバークロッキングや質の高い分析であるとか、狭く深く情報を追いかけています。ZDNetやcnetはマウスやスキャナなどの製品紹介など広く浅い内容なので、比べることはできません。彼らはコンシューマーに寄っているけれども、我々は技術者などテクノロジーに興味のある人間にターゲットを絞っています。

[編集部] ライバルという意味では、最近は毎日のようにニュースやレビューを掲載するSharky Extremeのほうに注目度が高まっていて、Tom's Hardware Guideはあまり目立たなくなっているように思えますが。

[Larry] まず、Tom's Hardware Guideはどちらかというと月刊や週刊の雑誌のようなスタイルをとっています。一つの情報や製品についての記事は、長いテストや分析の期間を置いて掲載しますので、そう頻繁に新しい内容が載るわけではありません。また、スタッフが書いた記事もThomasが全部ボツにすることもあります。ただし、最近はニーズもあるので日刊に近いニュースのコーナーも設けましたし、実際にアクセスの数も多いですね。刊行ペースを長く取って質の高いものを掲載するほうがいいのか、内容が短く薄くてもリアルタイムにどんどんニュースを掲載していくほうがいいのかは、今後いずれ選択肢として考える時期がくると思います。それから、ここ最近記事があがらないのは、今まさに日本など各国に旅行している最中だからです。

[編集部] Tom's Hardware Guideの目指す目標とは?

[Larry] 読者に常に正しい技術情報を伝えていくこと。製品を買うときの判断材料になること。そして多くの人たちに知識を提供していくこと。例えば、組み合わせによって製品がうまく動作しないときにPCの世界では「相性」と言われて片付けられることがありますが、そんなことは本来ありえないはずです。きちんとした技術的な理由が必ずあります。「相性」で済まされてしまうのは、判断材料となる技術情報が伝わっていないからです。そうしたことはなくしていきたい。


■秋葉原について

[編集部] 秋葉原に行かれたそうですが、感想を聞かせてください。

[Larry] 秋葉原は街全体がアメリカのFly'sのようなスーパーストアになっていますね。ただ、昔は秋葉原と言えば安いというイメージがありましたが、今はアメリカの方が安いし、目新しいものもあまりない感じがします。秋葉原にまず新製品が出てから、いずれ世界に出ていくというケースも昔はあったけれども、今はそれもほとんどないように思います。店員の質が昔からずっと高いままなのは感心しますけどね。それと、製品はブランド品ばかりがあふれていて、小さな企業の製品がないのには驚きました。

[編集部] それは我々編集部が追いかけている秋葉原とは全然違う秋葉原ですね。秋葉原はジャングルのような場所なので、ナビゲーター次第で全然見え方が違います。

[Larry] Sharky Extremeの人間も連れて来るので、次に来日したときはぜひ案内してくれると嬉しいですね。

[編集部] ぜひそうしたいですね。


□Tom's Hardware Guide
http://www.tomshardware.com/
□Tom's Hardware Guide(日本語サイト)
http://tom.g-micro.co.jp/

□Sharky Extreme
http://www.sharkyextreme.com/


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