週刊3Dプリンタニュース

「仮想3D空間作成ソフト」と、経産省による現状報告
(3D-GAN 2014春のセミナーレポート・後編)

~ローランドDGがパーソナル3Dプリンタを秋に発売~

 今回の週刊3Dプリンタニュースは、4月25日に開催された「3D-GAN 2014春のセミナー」レポートの後編として、「仮想3D空間の作成ソフト」と「経済産業省の考える3Dプリンタの未来」の2題を。

 そして、業界ネタとして「ローランドDG社が3Dプリンタ市場に参入する」というニュースを取り上げたい。

試作から本格的ものづくり装置へと進化する3Dプリンタ

株式会社AHS代表取締役の尾形友秀氏
株式会社AHSは、PC用ソフトウェア・ハードウェアの企画・輸入・開発・販売を行っており、世界の様々な会社と繋がることで、世界をさらに面白くしていくことをミッションとしている
シリアスファクトリー社は、最新3D技術をベースとしたソフトウェア&ソリューション開発を行っているフランスの企業である
今回のメインテーマである「3Dスペースコンフィギュレーター」は、3D空間をプラニングするためのソフトウェアであり、リアルタイム3Dで仮想空間をシミュレートできる

 4月25日(金)に、一般社団法人「3Dデータを活用する会」(3D-GAN)主催の「3D-GAN 2014春のセミナー」が開催された。

 前回は、国土交通省国土地理院空間情報部企画調査課の高桑紀之氏による講演の内容を紹介したが、今回は後編として、株式会社AHS代表取締役の尾形友秀氏による講演と、経済産業省製造産業局参事官室総括係長の高木聡氏による講演の内容を紹介する。

 株式会社AHS代表取締役の尾形友秀氏は「『3Dスペースコンフィギュレーター』の紹介」と題した講演を行った。

 AHSは、PC用ソフトウェア・ハードウェアの企画や輸入、開発、販売を行っている会社であり、今回のテーマである3Dスペースコンフィギュレーターは、フランスのシリアスファクトリー社が開発したソフトウェアである。その名の通り、3D空間をプランニングするソフトであり、リアルタイム3Dでその仮想空間をシミュレートし、その中を自由に歩き回ることができる。

 例えば、オフィスの引っ越しなどで、椅子や机をどう配置するかを検討する場合や、新しく開店する店舗の内装、什器などのシミュレーションをする場合などに便利だ。講演では、実際に3Dスペースコンフィギュレーターのデモが行われたほか、シリアスファクトリーの姉妹製品である、製品そのものをシミュレーションする「3Dプロダクトコンフィギュレーター」や仮想空間の中の人間と対面トレーニングを行える「バーチャルトレーニングスイート」、仮想空間でイベントを行える「3Dバーチャルトレードショー」の紹介も行われた。

姉妹製品に、リアルタイム3Dで製品をシミュレーションする「3Dプロダクトコンフィギュレーター」がある
「バーチャルトレーニングスイート」は、仮想空間の中の人間と対面トレーニングを行えるトレーニングソフトウェアである
「3Dバーチャルトレードショー」は、リアルタイム3Dで仮想イベントを作成するソフトウェアである
3Dスペースコンフィギュレーターのデモ。2Dの上面図に椅子や机などを配置していく
自動的に3D空間が作成され、自由にウォークスルーが可能
3Dスペースコンフィギュレーターを活用すれば、こうしたショップのシミュレーションが可能
経済産業省製造産業局参事官室総括係長の高木聡氏
3Dプリンタは、材料を付加していって立体物を造形することが特徴。付加製造は、除去加工、塑性加工に次ぐ、第3の工法である
第1のものづくりである切削加工は、材料を削ったり欠いたりしながら作る方法である
第2のものづくりである塑性加工は、金属を塑性変形させることで作る方法であり、プレス加工や射出成形がその代表だ

 経済産業省製造産業局参事管室総括係長の高木聡氏は「『経産省新ものづくり研究会』について」と題して、講演を行った。

 高木氏は、3Dプリンタに代表される付加製造技術を、切削加工、塑性加工に続く第3のものづくり方法と位置づけ、デジタル製造技術の発展の流れの中で捉えることが重要だとした。また、今3Dプリンタが注目を集めている理由は、3Dプリンタが進化し、価格が一気に低下し、使用できる材料が多様化したこと、米国をはじめ各国が積極的に取り組んでいること、「メーカーズ」への注目度の高まりが挙げられるとした。

 高木氏によると、3Dプリンタによって生まれる付加価値は、「精密なものづくりによる高付加価値化」、「ものづくりの裾野拡大」の2つの方向性があるという。前者については、「試作・設計の迅速化」や「生産性の向上」、「材料の無駄が出ないことによる省資源性」、「形状や内部構造の複雑性、材料の自由による高機能化」、「人体や自然物などとの親和性」、「少量生産品のコスト合理性」が挙げられ、3Dプリンタは試作の道具から本格的ものづくり装置へと進化しており、国際的には、RP(Rapid Prototyping)ではなくAM(Additive Manufacturing)になりつつあるとのことだ。裾野の拡大については、3Dプリンタは周辺設備が不要なため、手軽にデータを実体化でき、即興性を持った「アイデアの実体化」が可能である。

 また、3Dプリンタは、趣味でのものづくり程度にとどまり、産業としての発展可能性は小さいのではないかという疑問には、製品ライフサイクルの短命化やソーシャルメディアの発達といった3Dプリンタでのものづくりに対する追い風があり、市場としても有望であるとした。

 付加製造技術は、今後大きく発展し、経済波及効果は大きいと予測されているが、日本は欧米に比べて立ち遅れていることが問題だと指摘した。3Dプリンタの発展は、日本のものづくりの脅威になるのではなく、従来のものづくりのノウハウを活かす視点が重要であり、今後は、政府の役割も重要になるとした。具体的には、ファイナンスを味方につけたり、限界地域、中小町工場の活力といったシナリオと繋げることが、政府の役割として考えられるという。

第3のものづくりが付加製造であり、積み上げ型の加工法である。この付加製造を行う装置が3Dプリンタである
付加製造の登場は、デジタル製造技術の流れの中で捉えるべきであり、製造プロセスのデジタル化が加速される
3Dプリンタが今注目を集めている理由は、価格が一気に低下し、使用できる材料が多様化するなど、3Dプリンタが進化したことと、米国はじめ各国が積極的に取り組みを始めたこと、「メイカーズ」への注目度の高まりの3点が挙げられる
一言で3Dプリンタといっても、方式は様々で、価格もプロ用の数億円のものから、10万円以下のものまで極めて多様である
3Dプリンタによる付加価値は「精密なものづくりによる高付加価値化」、「ものづくりの裾野拡大」の2つの方向性がある
3Dプリンタによるものづくりプロセスの革新の一つが、試作・設計の迅速化である
3Dプリンタによって、従来の金型では不可能な複雑な3次元構造を実現でき、生産性が向上する
また、切削加工と違って材料の無駄が出ず、省資源性が高いことも3Dプリンタの利点だ
3Dプリンタによるプロダクトの革新としては、まず、形状や内部構造の複雑性、材料の自由による高機能化が挙げられる
形状や内部構造の複雑性、材料の自由による高機能化によるプロダクトの革新の例。医療産業や航空宇宙産業、自動車産業などで革新が進んでいる
プロダクトの革新の2つ目としては、一点物が作れるため、人体や自然物との親和性が高いことが挙げられる
プロダクトの革新の3つ目として、小ロットの製品もコスト合理性を持って製造できる可能性が挙げられる
新たな材料開発によって、さらに3Dプリンタの活用範囲は広がる。例えば、生きた細胞や導電性のある材料、食べられる材料などが開発されている
3Dプリンタの進化により、試作の道具から本格的ものづくり装置へと位置付けが変化している。国際的には、RP(Rapid Prototyping)ではなくAM(Additive Manufacturing)になりつつある
3Dプリンタによるもうひとつの付加価値が手軽なデータの実体化によるものづくりの裾野拡大である
3Dプリンタによって、即興性を持った「アイデアの実体化」ができるようになった
3Dプリンタでよくある疑問が、趣味でのものづくり程度にとどまり、産業としての発展可能性は小さいのではないかというものだが、製品ライフサイクルの短命化やソーシャルメディアの発達といった追い風があり、市場としても有望である
3Dプリンタを含む付加製造技術は、今後大きく発展し、経済波及効果は大きいと予測されている
その一方で、現状では欧米が先行しており、日本は立ち遅れているという問題がある
3Dプリンタの発展は日本のものづくりにとって脅威になるのではという意見があるが、従来のものづくりのノウハウを活かすことが重要であり、ものづくりの強さが消えるわけではない
ファイナンスを味方につけられるか、限界地域、中小町工場の活力といったシナリオと繋がらないかということが、政府の役割として考えられる

ローランドDGが2014年秋に同社初のパーソナル3Dプリンタを発売

ローランドDGが2011年11月に発売した超小型3次元切削加工機「iModela iM-01」

 ローランド ディー.ジー.株式会社(以下、ローランドDG)は、小型3次元積層造形機(3Dプリンタ)と小型3次元切削加工機を開発中であり、2014年秋に発売予定であることを表明した。ローランドDGは、以前からさまざまな3次元切削加工機を開発・販売しており、2011年11月には、超小型3次元切削加工機「iModela iM-01」を発売していた。

 ローランドDGが3Dプリンタを開発するのは、これが初めてであり、造形方式としては光造形方式を採用する。詳しい仕様や価格などは、現時点では明らかにされていないが、3Dプリンタは個人をターゲットとしているが、小型3次元切削加工機は個人向けではないとのことだ。前回の週刊3Dプリンタニュースで紹介したオートデスクの3Dプリンタも、光造形方式を採用しており、今年後半から来年は、光造形方式を採用したパーソナル3Dプリンタが増えてきそうだ。

 ローランドDGが開発中の3Dプリンタと小型3次元切削加工機は、2014年秋頃の同時発売を目指しているが、発売に先駆け市場リサーチを目的として、開発中のサンプル機を関連の展示会で展示する予定だという。

(石井 英男)