週刊3Dプリンタニュース

アビーが“格安”の光造形3Dプリンタを発表、100万円台から

~FDM方式の上位モデルも登場~

 今回の週刊3Dプリンタニュースは、アビーが発表した光造形方式およびFDM方式の3Dプリンタの新製品の話題と、3Dスキャンや3Dプリンタのワークショップが開催されるというニュースを紹介する。

アビーから光造形方式の「SCOOVO MA30/MA10」とFDM方式の「SCOOVO X9H」が登場

左がSCOOVO MA30、右がSCOOVO MA10。ともに光造形方式の3Dプリンタである

 9月1日、アビー株式会社が3Dプリンタの新製品「SCOOVO MA30」、「SCOOVO MA10」、「SCOOVO X9H」を発表した。アビーの子会社であるオープンキューブは、2013年7月にパーソナル3Dプリンタ「SCOOVO C170」の発売を開始したが、2014年6月に3Dプリンタ関連事業がアビーに統合されることになり、その後は、アビーの製品として販売が継続されている。報道関係者向けに発表会が開催されたので、その様子を紹介したい。

 今回発表された新製品のうち、SCOOVO MA30とSCOOVO MA10の2製品は、光造形方式を採用していることが特徴だ。

SCOOVO MA10とアビー株式会社代表取締役社長の坂口信貴氏

 これまでのSCOOVOシリーズは、FDM方式と呼ばれる、糸状の樹脂(フィラメント)を熱で融解して積層していく方式を採用していた。FDM方式は仕組みがシンプルで低価格化が容易なことが利点だが、積層跡が目立ちやすく、造形精度もそれほど高くないことが弱点だ。それに対し、光造形方式では、液状の光硬化樹脂に光をあてて硬化させて積層することで造形を行うため、FDM方式に比べて積層ピッチを小さくでき、積層跡が目立たないことや、造形精度が高いという利点がある。その反面、装置が複雑で大きくなりがちで、低価格化には向かない。

 これまでの光造形方式の3Dプリンタは、数百万円以上のものが主流であったが、SCOOVO MA30の本体価格は298万円(税抜)、SCOOVO MA10の本体価格は168万円(税抜)と、光造形方式の3Dプリンタとしてはかなり安い価格を実現していることが最大の魅力だ。本体サイズもかなり大きく、モノ作りを行うメーカーやデザイン事務所、大学の研究室などが主なターゲットとなる。

SCOOVO MA10の前面のフタを開けたところ
SCOOVO MA10の造形中の様子
左下のタンクを引き出して、液状の光硬化樹脂を入れる

 SCOOVO MA30の本体サイズは、684×554×1042mm(幅×奥行き×高さ)で、重量は約65kgである。ボディカラーはブラックとシルバーの2色が用意されている。SCOOVA MA30では、DLP方式のプロジェクターを利用して光硬化樹脂に光を当てる仕組みになっており、光源はLEDとレーザーのハイブリッドとなる。光源寿命も約2万時間と長い。

 最大造形サイズは96×54×150mm(幅×奥行き×高さ)で、積層ピッチは0.025mm/0.05mmである。積層ピッチ0.5mm時の造形速度は約20mm/時間である。XY解像度も0.05mmであり、精細な造形が可能だ。アクリル樹脂とゴムライク樹脂の2種類の造形材料を使えることも特徴だ。

 アクリル樹脂は固く半透明で、着色料を加えることで色調を自由に変更できる。ゴムライク樹脂を利用して造形したものは、ゴムのような弾力性があり、アクリル樹脂とゴムライク樹脂を混ぜることで、固さや弾力性を自由に調整できる。また、制御ソフトやスライスソフトがプリインストールされたノートPCが付属する。

 SCOOVO MA10はSCOOVO MA30の弟分にあたる製品で、本体サイズは684×554×922mm(幅×奥行き×高さ)と、高さが120mmほど低く、重量も約63kgと多少軽くなっている。ボディカラーはブラックとシルバーの2色が用意されている。

 こちらもMA30と同じELP方式のプロジェクターを利用した光造形方式の3Dプリンタであるが、こちらは積層ピッチが0.5mm固定、XY解像度は0.1mm、造形速度は約15mm/時間となる。積層ピッチとXY解像度については、MA30のほうが上だが、最大造形サイズは100×75×150mm(幅×奥行き×高さ)で、MA10のほうが大きい。利用できる造形材料やソフトなどについては、MA30と同じだ。

 SCOOVO MA10の動作デモが行われていたが、FDM方式の3Dプリンタでありがちな騒音や振動はほとんど感じられなかった。また、SCOOVO MA10での各種出力サンプルも展示されていが、表面の積層跡が目立たず、高精度な出力であった。やはり、FDM方式とは一線を画すクオリティである。

 造形前のキャリブレーションが不要なことも、SCOOVO MA30/MA10の利点であり、導入時にはセットアップ作業や基本操作や消耗品の交換方法まで丁寧に説明してくれるとのことなので、3Dプリンタを初めて利用するという人でも安心だ。

 また、一般的な業務用光造形機では、高額なメーカー保守契約が必須であるが、SCOOVO MA30/MA10では、センドバック(3年で48万円)とオンサイト(3年で75万円)の2種類の保守契約プランが用意されており、予算に応じて選べる。また、光硬化樹脂の価格は1kgあたり3万円程度とのことだ。SCOOVO MA30/MA10は9月中旬出荷開始予定であり、販売受付はすでに開始されている。

SCOOVO MA10の出力サンプル。手前がアクリル樹脂での出力。奥側の黒いのがゴムライク樹脂での出力である
ゴムライク樹脂で出力したものは、ゴムのような弾力性を持つ
SCOOVO MA30/MA10には専用ソフトがプリインストールされたノートPCが付属する
SCOOVO MA30/MA10用制御ソフトの画面。日本語表記でわかりやすい
SCOOVO MA10の出力サンプル。アクリル樹脂に着色料を加えることで、色調を自由に変更できる
SCOOVO MA10の出力サンプル。FDM方式と違って積層跡がほとんど見えず、滑らかな仕上がりだ
【アビーの光造形式3Dプリンタ「SCOOVO MA10」で光造形中】
下からプロジェクターで光を照射している
こちらはFDM方式の新モデル「SCOOVO X9H」。ボディカラーはブラックとシルバーの2色が用意されている
SCOOVO X9Hは、液晶パネルと操作ボタン、SDカードスロットを備えており、SDカードからデータを読み込んで、出力することが可能だ

 同時に発表されたSCOOVO X9Hは、従来のSCOOVOシリーズと同じFDM方式のパーソナル3Dプリンタであり、2014年3月に登場したSCOOVO X9の上位にあたる製品だ。

 価格は27万7593円(税抜)で、ボディカラーはブラックとシルバーの2色が用意されている。本体サイズは、406×383×556mm(幅×奥行き×高さ)と縦長である。SCOOVO X9Hの最大造形サイズは、200×200×340mm(幅×奥行き×高さ)と、このクラスのパーソナル3Dプリンタとしてはかなり大きい。ベースとなったSCOOVO X9の最大造形サイズは、200×170×230mm(幅×奥行き×高さ)なので、容積は約1.7倍に増加している。かなり高さがあるものも出力できるようになったので、利用範囲が広がるだろう。最小積層ピッチは0.05mmで、フィラメントとしてはPLA樹脂またはABS樹脂を利用できる。

 SCOOVOシリーズで初めて、液晶パネルと操作ボタン、SDカードスロットを搭載していることもウリで、PCを接続せずに、スタンドアロンでSDカードスロットからデータを読み込んで造形ができるようになっている。付属のGコード作成ソフトも新設計の「SCOOVO Studio SE」に変更されており、操作性や機能が向上した。特にアドバンス設定では、詳細な出力条件を個別設定できるようになり、より3Dプリンタの性能を引き出すことが可能になった。SCOOVO X9Hの出力サンプルがいくつか展示されていたが、TreeFrogのお腹の部分もサポート材無しで綺麗に出力されており、造形能力はかなり高いようだ。

 SCOOVO X9Hの発売後も、従来販売されていたSCOOVO 170、SCOOVO X9、SCOOVO X4の3製品はそのまま併売されるため、予算や目的に応じて最適な製品を選べばよいだろう。

液晶は4行表示で、カタカナ表記である
SCOOVO X9Hのヘッド部分。上側は空いている
エクストルーダとホットエンドが独立しており、エクストルーダは背面にある。フィラメントも背面に装着される
SCOOVO X9Hの出力サンプル。入れ子構造になっており、中の構造は自由に動く
SCOOVO X9Hの出力サンプル。ThingiverseにあるTreefrogだと思われるが、サポート無しでもカエルの下側がきれいに出力されている
SCOOVO X9Hの出力サンプル。最大で高さ340mmのものまで出力できる
【アビーのFDM式3Dプリンタ「SCOOVO X9H」で出力中】
FDM方式としては騒音もかなり小さいほうだ

3Dスキャンと3Dプリントを体験できるワークショップが開催

回転アームにiPhoneを装着することで、被写体の360度回転画像を手軽に撮影できる「くるみる」

 9月27日、東京・渋谷にある株式会社ケイズデザインラボにおいて、3Dスキャンと3Dプリントを体験できるワークショップ「3D入門WS:くるみるでくるっと手軽に!3Dスキャン&3Dプリント」が開催される。

 このワークショップは、株式会社日本コンピュータ開発、株式会社ニットー、株式会社ケイズデザインラボの3社が共同で開催するもので、360度写真が誰でも手軽に綺麗に撮影できる「3D - 360° PhotoStyle くるみる」を用いて、被写体の3Dデータを作成し、さらにそのデータを元に3Dプリンタで造形を行うというものだ。
 ワークショップは、13時30分~17時30分の4時間の予定で、定員は15名(先着)となっており、下記のURLで参加受付中だ。参加費は3000円(懇親会費含む)で、必要な持ち物は、無線LAN対応ノートPCと3Dデータ化したいオブジェクトである。また、持参するノートPCには、「netfabb」と「Google Chrome」、「Shupapan」(Macのみ)をインストールしておく必要がある。

(石井 英男)