「普及期のテラバイトSSD」活用術
XQDは300MB/s超、フルに活かすならSSD、安価な1TB SSDで編集・保管まで全部高速に
体感するとHDDに戻れない?カメラにこだわる人向けの写真用PCをSSDで構築 text by 坂本はじめ
2016年12月13日 08:00
写真や映像を撮影する機器の高解像度化が進む現在、大容量化著しいコンテンツの記録を担うメディアカードにも、数百MB/sec級のデータ転送速度を持つ高速な製品が登場している。
これらのメディアカードは、カメラやビデオカメラなどで使用した際に最大の速度を発揮するが、その高速性はPCにデータを取り込む際にも活かされる。ただし、高速性を十分に発揮するためには、PC側のストレージにも相応の速度が求められ、場合によってはPC側が足を引っ張ることさえあるのだ。
そこで、今回はこうした高速メディアのメリットを活かしつつ、「写真編集に快適なPC」をテーマに、手を出しやすくなったテラバイト級SSDの活用方法とその効果を紹介する。
「普及期のテラバイトSSD」活用術 |
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・第一回 1TB SSDがついに普及期に、「買える価格」になったテラバイトSSDの活用法を考えてみた |
HDDからSSDに変えるだけで待ち時間を大幅削減!カメラ用高速メディアの性能を活かせるSSD
UHS-II対応SDXC、XQD 2.0、CFast 2.0などのメディアカードは、それぞれの規格がサポートするデータ転送速度の高さから、4K動画や高解像度写真の連射に耐えられるメディアカードとして、今後の普及が期待されている高速メディアカードだ。これらのカードは、ハイエンドクラスのデジタル一眼を中心に普及が始まっている。
SDXCカードのUHS-II規格は、UHS-Iなど下位規格との互換性を維持しつつ、ピン数を増やすことでデータ転送速度を高めた規格であり、最大で312MB/secのデータ転送速度を実現。一方、XQD 2.0はPCI Express 2.0 x2とUSB 3.0、CFast 2.0はSATA 6Gbpsをインターフェースに採用することで、300MB/secを超えるデータ転送速度を実現している。
今回、Micronブランドの一つで、フラッシュメモリ製品を手掛けるLexarから、各メディアカードを借用することができた。借用したのは、2,000倍速のUHS-II対応SDXCカード「Professional 2000x SDHC/SDXC UHS-II」と、2,933倍速のXQD 2.0カード「Lexar Professional 2933x XQD 2.0カード」、3,500倍速のCFast 2.0 カード「Lexar Professional 3500x CFast 2.0カード」。
USB 3.0接続のカードリーダーを介してPCに接続した各メディアカードでは、公称値ほどの転送速度は出ていないが、それでも読出し速度は200MB/secを上回っていることが分かる。
ちなみに、各メディアカードの転送速度が公称値に届いていない要因としては、カードリーダーとPCを繋ぐインターフェースであるUSB 3.0の転送速度(5Gbps、500MB/sec)がボトルネックとなったことと、メディアカードのコントローラがPC向けに最適化されていない点が挙げられる。
メーカーによれば、メディアカードの性能が最大限に発揮されるのは撮影機器との接続時で、それはメディアカードと撮影機器の両面からデータ転送の最適化を行うことで実現したものだそうだ。つまり、メディアカードが公称する転送速度は最適化された環境下で発揮される数値であり、最適化されていないPCとの接続で、最適化されていないデータ転送を行うベンチマークソフトの検証では、速度が出にくいということのようだ。
さて、ここからが今回の本題となるわけだが、PCにメディアカードのデータを取り込む際、200MB/secを優に超える高速なメディアカードの転送速度を最大限に発揮するためには、PC側ではそれ以上に高速なストレージが必要になる。コンシューマー向けHDDの実転送速度は150~200MB/sec前後のモデルが多く、HDDでは転送速度がボトルネックとなってしまう。
そこで、高速なメディアカードからデータを受け取るPCのストレージとして、HDDより高速なSSDを活用するという訳だ。データ取り込み先のドライブにSSDを用いることがHDDに対してどれだけ有利になるのか、SATA 6Gbps対応の2.5インチSSDであるCrucial MX300シリーズを用いて検証してみよう。
まず、前提となるSSDとHDDのデータ転送速度の違いを、CrystalDiskMarkで測定してみた。SSDはCrucial MX300シリーズの1TBモデル、HDDは回転数5,900rpmの4TB HDDを使用している。
結果は一目瞭然で、シーケンシャルアクセスではリード・ライトともに500MB/secを超えるSSDに対して、HDDのリード・ライトは200MB/sec弱と、2倍以上の差が存在している。
システム用ストレージとして用いられる際のSSDは、HDDに対して圧倒的に高速なランダムアクセス性能の高さが注目されるが、メディアカードからのデータ取り込みのような大容量データの転送を行うデータ用ストレージとしては、シーケンシャルアクセス速度が大きなメリットとなってくるわけだ。
さて、このシーケンシャルアクセス性能の違いが、メディアカードからのデータ取り込み時間にどの程度の差をもたらすのかを見てみよう。
チェック方法は、2,000万画素クラスのデジタル一眼カメラで撮影したRAWファイル1,000個(合計31.4GB)をメディアカードに収め、これをHDDとSSDへコピーするのに要した時間を比較するというもの。なお、転送開始から終了までの時間については、モニタリングソフトのHWiNFOを用いてPC側ストレージへの書き込み状況をチェックし、書き込み開始から完了までの時間を測定した。
各メディアカードからPCへのデータコピー完了までに要した時間をまとめたものが上のグラフだ。
メディアカードより書き込み速度の遅いHDDでは、データ書き込み開始から完了までに234~239秒の時間を要しているが、SSDへのデータコピーは140~192秒で完了している。最も高速なCFast 2.0 カードからのデータコピーではSSDとHDDで94秒もの差がついており、その差は歴然だ。
データコピー中のストレージへの書き込みレートをまとめたものが上のグラフだ。CFast 2.0 カードからデータ転送中の書き込みレートを見てみると、HDDが150MB/sec前後で推移しているのに対し、SSDは240~360MB/sec前後で推移している。SSDの優れたシーケンシャルアクセス性能が、高速なメディアカードからデータを取り込む時間の短縮に役立つことは一目瞭然である。
大容量のコンテンツになればなるほど、メディアカードからPCにデータを取り込むのにかかる時間は増加する。この待ち時間はクリエイティブなものではなく、まったくの無駄な時間である。メディアカードの容量を開放して次の撮影に取り掛かるにせよ、PCに取り込んだデータの編集作業を開始するにせよ、この無駄な待ち時間が短縮されるに越したことはない。
データの保管に用いるストレージにSSDを利用することは、ムダな時間を短縮し、より多くの時間をクリエイティブに費やす助けとなるはずだ。
体感すると戻れない?テラバイト級SSDだからできる快適な写真用PCを構築写真データの保管もSSDに
SSDの優位性は紹介したとおりだが、続いて、このSSDの特性を活かした写真編集用PCの構築にも挑戦してみた。
今回使用しているCrucial MX300シリーズは、速度もさることながら、耐久性の高さも特徴となっている。搭載されているMicron製の3D TLC NANDフラッシュは、従来のMLC NANDフラッシュ採用SSDに勝るとも劣らない書き換え耐久性を実現しており、総書き込みバイト数(TBW)は1TBモデルで360TB、2TBでは400TBに達する。テラバイト級の容量を持つMX300製品なら、メディアカードの撮影データをどんどん転送しても安心だ。
SSDは作業スペースとして使用すればレスポンスが向上するが、容量や耐久性、コストの面でデータの保管場所として使うのが難しかった。しかし、MX300シリーズであれば、おおむねこれらの面をクリア可能な条件が整っており、フルSSDのPCが現実的になる。
MX300シリーズのテラバイト級SSDを使えば、高速なメディアカードから撮影データを円滑に転送できるだけでなく、写真編集の作業スペースとしても撮影データの保管場所としても快適に使えるというわけだ。
それでは実際にPCの構築に入ろう。最近のハイエンド一眼レフカメラは高性能デジタルカメラは、高解像度動画の撮影機能を持つモデルも増えている。ユーザーによっては動画から写真を切り出したり、動画の方が使用する割合が多いというユーザーも居るだろう。
そこで、今回は高解像度の写真はもちろん、動画も扱えるPCを目指した。以下が今回構築したPCに使用しているPCパーツだ。
今回のパーツ構成で大きなポイントと言えるのが、PCケースのSilverStone SST-KL06B。microATX対応のミニタワーケースであるKL06は、マザーボードを倒立配置するレイアウトを採用するユニークな内部レイアウトのケースだが、最大の注目ポイントは2.5インチシャドウベイを8スロットも備えている点だ。
今回のPCでは、システム用とデータ保管用にそれぞれ1TB SSDを搭載している。1台はOSやアプリケーションのインストールディスクや作業スペースとして使用するため。もう一台は完全に写真データ保管用と切り分けた。
高解像度の写真データを補完するのに1TB以上の容量が欲しいというユーザーもいると思うが、その場合はさらにデータ用のSSDを増設したり、2TB SSDの導入を検討してみても良いだろう。microATXマザーボードのオンボードSATAポートでは使いきれないほど潤沢な2.5インチシャドウべイの存在は、テラバイト級SSDをデータ用ストレージにも活用するというコンセプトにぴったりだ。
また、このケースはHDDの搭載も可能な3.5インチベイも1スロット備えているので、SSDのデータを二重化するためのバックアップ用ストレージとして、大容量HDDを一台組み込んでみるのも面白いだろう。
CPUは定番のIntelのメインストリーム向けCPU最上位Intel Core i7-6700Kを搭載。4GHzを超える動作クロックを実現する4コア8スレッドCPUは、マルチスレッド処理となるRAW現像や動画変換でも高いパフォーマンスを発揮する。
GPUに採用したのはGeForce GTX 1060 6GB。動画や画像を扱うアプリケーションにはCUDAをサポートしているものが多く、H.264やH.265形式の動画を高速に変換できるNVENCが利用できる。写真も動画も楽しみたいユーザーには好適なビデオカードの一つだ。
全てのストレージをSSDにしたPCを使ってみると、先に紹介したようにメディアカードからのデータ転送時間が短縮されることの他、Adobe Lightroomなどで大量のRAWファイルのライブラリを閲覧する際や、エクスプローラで画像や映像のサムネイルが表示される時間が短縮されることで、全体的にPCの動作が軽快になったように感じられる。
また、SSDを利用することで、データ取り込み中のレスポンスが向上する点も見逃せない。今回テストしたような高速メディアカードからデータの取り込みを行っているような状況では、HDD内に収められた写真や動画ファイルを開く時間が大幅に増加し、エクスプローラでフォルダ間を移動するだけでもレスポンスの低下が感じられる場合さえあるが、SSDならHDDよりファイルへアクセスすることができる。
ストレージにSSDを用いたからと言って、動画変換やRAW現像などのCPUでの処理がメインとなる部分が目に見えて速くなるということは無いが、そうした処理にたどり着くまでの待ち時間が削減され、結果としてPCとしての快適性が一段向上しているように感じられる。HDDの容量単価が魅力的であることは変わりないが、あらゆるファイルアクセスが軽快になるSSDマシンのパフォーマンスを体感すると、HDDの用途はバックアップなどのアクセス機会の少ないファイルを保存する用途に限定したくなるほどだ。
大容量の撮影データを扱うPCこそ“SSD”テラバイト級SSDの普及で変わる写真・動画データの運用
ランダムアクセス性能でHDDを圧倒しているSSDは、OSやアプリケーションの起動スピードを短縮出来るという点で、システム用のストレージとして活用されてきたわけだが、SSDはシーケンシャルアクセス性能でもHDDを凌駕している。この特性は、高解像度化により大容量化していく写真や映像を扱うカメラマン向けのPCに適したものだ。
Crucial MX300シリーズのように、テラバイト級の容量を実現した現代のSSDであれば、大容量化する撮影データの保管場所として十分な容量とパフォーマンスが得られる。メディアカードからのデータ取り込み先として、あるいは頻繁にアクセスする撮影データの保管場所として、SSDは魅力的なストレージデバイスへと進化した。
写真や動画編集向けのPCといえば、CPU性能やメモリ容量に注目しがちだが、テラバイト級のSSDを利用することで短縮される取り込み時間やファイルアクセスのレスポンス向上は、処理性能向上で得られる恩恵に見劣りしないものだ。PCで写真や映像を主に扱うのであれば、データ保管用のストレージにおけるSSDという選択肢について、真剣に検討してみる価値がありそうだ。
[制作協力:Crucial]