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「スマホで真剣勝負」は成立するか?
Vainglory 世界大会会場レポート

text by スイニャン

マウスやキーボードは不要?eスポーツ界に吹く新しい風

今回取材した「Vainglory International Premier League」の様子。一般的なeスポーツ大会と何ら変わりはない。むしろ平日の夜にもかかわらず多くの観客が集まり、椅子を追加するほどだった

 手ぶらで会場にやってきた青年がおもむろにポケットからスマホを取り出し真剣勝負を繰り広げる―――。しかもそこが世界の頂点を決める国際大会のステージだと言ったらちょっと驚きではないだろうか。

 このところ電子ゲーム競技の総称として用いられる「eスポーツ」という言葉が日本にも徐々に浸透してきているが、大部分PCゲームもしくはアーケードゲームで行われる競技大会のことを指すと認識されている。eスポーツの発展において他国に遅れを取っているとの指摘がたびたび起こるのも、コンソールゲームが主流の日本ならではだ。

Vaingloryは1人1体のヒーローを選択し3人1組のチームで戦うMOBAと呼ばれるジャンルのゲームだ。敵陣のクリスタル破壊を目標に敵チームと戦っていく。写真はチュートリアルのプレイの様子

 ところがここへきて、eスポーツ界に新しい風が吹こうとしている。「タッチデバイスに最適なMOBA」と称してSuper Evil Megacorp社が2014年11月(日本国内では2015年4月10日)より配信しているモバイルゲーム「Vainglory」で、eスポーツの世界大会が続々と開催されているのだ。

 Vainglory初の世界大会となった「Vainglory World Invitational」は今年7月に韓国で開催され、世界各地(北米・欧州・東南アジア・韓国・中国・日本)から選抜された計8チームが出場し賞金総額3,100万ウォン(約330万円)をかけて対戦した。この大会で日本代表チームのDivine Brothersは、決勝戦で韓国のInvincible Armadaに敗れたものの見事準優勝を果たしている。

世界各地から強豪チームが集結!初の公式リーグ開催

 前置きが長くなったが、今回筆者はVainglory初の公式リーグである「Vainglory International Premier League」を現地で観戦してきた。この大会は韓国をはじめ北米・欧州・中国など計12チームが参加しており、約1ヶ月に渡って開催される予定だ。ちなみに日本チームは、諸事情により残念ながら参加を見合わせている。

eスポーツスタジアムの外観。東京で言うところの上野のようなターミナル駅「龍山(ヨンサン)」の駅ビルの最上階にある

 試合会場は韓国ソウルにある龍山(ヨンサン)eスポーツスタジアム」。ケーブルテレビのゲームチャンネルOGNが所有するeスポーツ専用競技場だ。設立10年目を迎えるこの競技場ではかつてStarcraftをはじめとするeスポーツ大会がほぼ毎日行われてきたが、現在は「League of Legends Championship Koera(LCK)」が行われる会場としてよく知られている。

1戦目には前回大会優勝の韓国チームInvincible Armadaが登場。ピックしたヒーローが競技席の下に映し出されている。このときは一般的ではない構成であったため注目を集めた

 8月16日に開幕した「Vainglory International Premier League」は、3つのグループに分かれてグループステージを戦い1位通過の3チームがベスト4へ進出。残り1枠はグループステージ2位の3チームの中からワイルドカード戦を勝ちぬいたチームが獲得する。そしてベスト4を勝ち抜いた2チームが9月20日(日)に決勝戦を戦う予定だ。

会場、競技性、選手、観客…すべてが正真正銘のeスポーツ

この日の試合ではタブレットを使用する選手が若干多かったものの、スマホで試合に臨む選手も決して少なくはない。写真は韓国チームHACKのPlex選手

 筆者が現地を訪れたのは8月27日(木)、グループステージの3日目だ。会場には50席ほどの観客席が用意されており、試合開始前にすでにほぼ満席。試合開始後に会場を訪れた観客のために席を追加していた。観客は若い男性が多かったが、女性ファンの姿もちらほら。その他、白人系の外国人の姿も見られた。

 会場はステージ中央に巨大スクリーン、その真下には韓国語と英語の実況解説席、そして両側に競技席といった一般的な構造だ。これまでPCゲームのeスポーツ界で人気を博してきた女性インタビュアーのナレーションで大会がスタートする。

Vaingloryの観戦画面。MOBAを知っている人であれば観戦はさほど難しくない。プレイ画面では右上にあるミニマップが中央下に表示されているなど、観戦のしやすさを考慮した画面になっている

 日本から配信で観戦していたときから分かっていたことではあるが、競技性はPCゲームと比べて何の遜色もない。そして会場に来て初めて分かる試合の迫力や観客の盛り上がりも、従来のPCゲームと何ら変わりがないのである。しかも長年eスポーツ中継を行っているベテランキャスターによる迫力あふれる実況と2名のStarcraftプロゲーマー出身の解説者の掛け合いが非常に面白い。

 試合開始前の選手紹介では、選手たちはさまざまなアクションで自身をアピールする。しかし一度試合が始まればすぐさま真剣な表情となり、声を掛け合いながらチームプレイを進めていくのである。勝利したチームはハイタッチをしながら喜び合い、敗北したチームは頭を抱えてうなだれる。そして試合終了後には、必ず握手をしてお互いのプレイを称え合うのである。それはまさにPCゲームに引けを取らない正真正銘のeスポーツの世界であった。

モバイルゲームで世界の頂点を目指す情熱あふれる選手たち

試合終了後のMVPインタビューに答える北米のGankStars所属IraqiZorro選手。海外チームには大会専属の通訳がついているので意思の疎通も問題ない

 この日の対戦では強豪チームとして知られる北米のGankStars、中国のHuntersが順当に勝利を重ねたが、初の世界大会となった「Vainglory World Invitational」の優勝チームである韓国のInvincible Armadaが敗北するという波乱があり、会場でも一番の盛り上がりを見せていた。

 試合終了後には勝利チームから1名のMVPを選定。会場の左後方に設置されたスペースにて簡単な勝利インタビューが行われる。選手の生の声が聞ける唯一の場所であり、非常に有意義な時間であると言える。

中国チームHuntersのQueen選手。この大会でもまさに紅一点の美人プレイヤーだが、その実力は相当レベル。Huntersは前回大会でベスト4まで進出している

 それにしてもこの突如現れたモバイルゲームによるeスポーツの世界大会に出場しているのはいったいどんな選手たちなのだろうか。特に海外チームはわざわざ自費で韓国までやってきて約1ヶ月にも及ぶ大会に参加していると聞いた。このゲームに相当な情熱を注いでいることが想像できる。

 そこで筆者は北米のGankStars、中国のHunters、そして韓国のInvincible Armadaにインタビューを行ってきた。彼らから「この大会に向けて練習を始めてからは朝日が昇る前に寝たことがない」というエピソードや、「スポンサーも支援してくれているのでこれからもトップチームとして君臨し続けられるよう頑張りたい」といった真剣な声も聞くことができたので、次回はその「真剣さ」が伝わるインタビューをお届けしたい。


(スイニャン)