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「HHKB 20周年記念ユーザーミートアップ」イベントレポート

HHKBのこれまでとこれからを開発者とヘビーユーザーがとことん語らう特濃イベント

 PFUは9月23日、小型キーボード「Happy Hacking Keyboard」(以下HHKB)のアニバーサリーイベント「HHKB 20周年記念ユーザーミートアップ ~これまでと今後を語り尽くそう!~」を開催した。会場は秋葉原UDXギャラリー NEXT2

 HHKB開発者や販売スタッフ、ユーザーが集い、HHKB20周年を祝う趣旨のイベント。事前申込制で定員100名のイベントだが、予約開始後すぐに満席になってしまったという。

 イベントは全3部構成で、主な内容は、HHKBの誕生から現在までを振り返る「HHKBのこれまで」、今後のHHKBが取りうる方向性を考える「HHKBのこれから」、ユーザー同士の交流とHHKBについての思い入れを語る「懇親会&ライトニングトーク」。当日の模様はYouTubeで生中継もされていた。

HHKBの歴史を振り返る

 第1部「HHKBのこれまで」では、HHKB開発秘話や販売時までのエピソード、そしてキーボード市場における立ち位置の確立にいたるまでを振り返った。

 登壇者はHHKBの企画開発に携わったテラテクノスの八幡勇一氏、富士通の白神一久氏、初期の販売を担当したぷらっとホームの後藤敏也氏、エンジニアの前田薫氏。進行はエンジニアの小山哲志氏。

ハッシュタグ「#HHKB20th」を見ると、来場者や関係者による当日の模様を見ることができる
第一部の始めには、HHKBの共同開発者で東京大学名誉教授の和田英一氏によるビデオレターが上映され、HHKBの開発と発売が始まった1990年代の思い出を語った。「HHKBも20年生き延びて、いよいよ完成した形になったのではないかと考えている」(和田氏)

 HHKBが誕生したのは、発売から遡ること4年、1992年のこと。1980年代にコンピュータの用途が多様化し、これに合わせてキーボードの規格が乱立していた時代、多くのキーボードでキー配列が共通化しておらず、熟達者ほどキーボードが使いにくい状況があったという。

 こうした状況の中、PFUが発行している技術情報誌「PFU TECHNICAL REVIEW」上に、和田氏の論文「けん盤配列にも大いなる関心を」(Please Pay Your Attention to the Keyboard Layout)が寄稿され、これをきっかけに最初のコンセプトが発案され、1995年にはHHKBの原型となる「Alephキーボード」が誕生した。

和田氏による寄稿がHHBK誕生の直接のきっかけになる
今も変わらない3つの開発コンセプト

 HHKBを製品化するにあたって取り決めたコンセプトは「基本的にASCII配列にする」、「十分な深さのストロークがある」、「持ち運びに適する小ささ・軽さ・強度」の3つ。Alephキーボードを元にした新しいキーボードの製品化にあたっては、和田氏の希望が強く反映される形になったという。


八幡勇一氏

[八幡氏]:ASCII配列にしたのは、JISキーボードで括弧の位置が違うのがいやだという和田先生のお考えを取り入れた結果です。また、小型でもノートPCのように浅いストロークにはしないという方向性にしました。大きさに関しては、「A4の半分」という、これまた和田先生の希望があったことによりますね。最終的には、極力Alephキーボードに近いイメージになりました。

 配列に関してもう少し詳しく話すと、Controlキーがこの位置(Aキーの左)にあるというのはまず必須でした。和田先生はEmacsをメインに使われていましたので、Emacsありきの配列になっています。

[小山氏]:ファンクションキーがあった上一段を取ってしまったというのも革新的でしたね。

[八幡氏]:まあ、(ファンクションキーは)使わないですよね。

HHKBのプロトタイプとも言えるAlephキーボード。「これは和田先生が自ら制作されて、PFUに持ち込んだ最初の模型ですね」(八幡)
1995年に完成したモックアップ。既存のキーボードを切り貼りして作った


 1995年秋には、製品モックアップが完成。翌96年12月、初代HHKB「KB01」を発売した。

記念すべき初代「KB01」


[八幡氏]:元になったのはNCD社のX端末に付いていたフルサイズのキーボードです。101キーボードと同じくらいの大きさでした。メンブレンではなく基盤の上にキーが並んでいる構造だったので、金ノコで切って作りました。

白神一久氏

[白神氏]:モックアップ作りにかかった期間は2~3カ月くらいでしょうか。このときは組織としても「研究所」という形だったので、実際に製品化するのかどうかも半信半疑でしたね。


 発売当初、PFUではコンシューマ向けの販売チャネルがなく、和田氏をはじめとした様々な人脈を使って販売店を探した結果、最初に手を挙げたのが「ぷらっとホーム」だったという。


後藤敏也氏

[後藤氏]:飛び込みで八幡さんが来店されて、「こんなキーボードを作ったんです」と仰るので見せていただいたのをよく憶えています。

 「まだ型(金型)を打つかわからないが、とにかく作れるだけ作ってしまったので、売りたい、ただし高くなる」という話と、「仕入れ値も高くなる」という話をしました。話を聞いた本多弘男(ぷらっとホーム創業者)は他人に先を越されるのが大嫌いな男だったので、一も二もなくうちで売りたい、利益がなくても売りたいというような話をした思い出があります。

 一番のお客はうちの店員とか社員でしたね。今でも半分くらいの社員のデスクにはHHKBが載っています。一般のお客さんとしては、当時出始めだったIT系のエンジニアさんとか、学生さんといったところでしょうか。


 1999年に「HHKB Lite」、2001年にはカーソルキーを追加した「HHKB Lite2」を発売。2002年にはシリーズ累計で10万台の出荷を達成した。HHKB Liteは、当初の商品企画では米国展開を念頭に販売計画を練っていたという。

二代目HHKB「Liteシリーズ」


[八幡氏]:初代も米国で展開していたのですが、高価すぎて売れないので、安価なモデルを用意してほしいというPFUアメリカからの要望を受けて作りました。PS/2専用モデルですね。

[小山氏]:アメリカでもミニキーボードの需要ってあったんでしょうか?

[後藤氏]:アメリカ人は小さなキーボードに興味がないです。もちろんノートPCなら使うんですが、あえて外付けでは使わないですね。小さいキーボードはやはりアジア圏の方が強いです。

[八幡氏]:元々、Liteを出したのは、製品の幅を拡げて数量を出したいという意図がありました。それによって、オリジナル(初代)を長く売りたいという思いもあったのです。

 Liteのアピールポイントは、キーボード手前の角部分に丸みがあるところと、カーソルキーの奥のところが傾斜しているところです。初代は手前部分が角張っていたのですが、手が当たると痛い、という意見を反映して丸めました。カーソルキーの傾斜は、爪の長い女性でも支障なく押せるように配慮しています。


 2003年に販売開始した「HHKB Professional」では、静電容量無接点方式を採用。同年、無刻印モデルもリリースしている。HHKBが家電量販店にも並ぶようになったのはこの時期だ。

2003年、東プレとの協力で、静電容量無接点方式の採用が決まった


[八幡氏]:HHKB Proで静電容量無接点方式を採用した背景には、当時ハイエンド側のHHKBを製造していた富士通高見沢(現富士通コンポーネント)がキーボードの生産をやめてしまうという事情がありました。代わりを探した結果、東プレさんにコンタクトを取って、一緒にやりましょう、ということになりました。

あまりの人気で初回限定からレギュラー入りした無刻印モデル

[小山氏]:無刻印モデルのアイディアは、どこから出たのでしょうか。

[八幡氏]:実は初代でも無刻印モデルは作ったことがあったんですよ。和田先生から無刻印が欲しいというご意見がありまして。キートップはレーザーで刻印しているので、その過程を省略すれば無刻印になります。これは売り物じゃなくて、確か差し上げたように記憶しています。HHKB Proで無刻印を売った経緯は(PFUドキュメントイメージビジネスユニット販売推進統括部の)松本さんが詳しいと思います。

ドキュメントイメージビジネスユニット 販売推進統括部 統括部長の松本秀樹氏

[松本氏]:無刻印のアイディアはプロモーション目的です。無刻印のキーボードを普通に売るというのはそれまでになかったことなので。八幡さんが仰った通り、初期の頃に無刻印のモデルを作ったという、いわば"伝説"を聞いたので、思い切ってやってみました。

 「初回限定100台」とプレスリリースに書いたのはいいものの、あっという間に売り切れてしまったので、初回限定といいつつ、定番にしてしまおうという流れになりました。結果的にHHKB Proの売上の3割くらいは無刻印が占めるという、当初予想していなかった成果を残すことになりました。

前田薫氏

[前田氏]:オペレーションセンターのキーボードを無刻印にすると、オペレーターがキーを憶えざるをえないので、すごく能率が上がったという話を聞いたことがあります。

[松本氏]:当時、NTTのコールセンターは、無刻印のキーボードを使っていると聞きました。一般向けプロダクトとしては、無刻印HHKBが初めてだったと思います。


 HHKB10周年にあたる2006年には、アルミ削り出しフレームの「HHKB HG」を当時25万円で発売。輪島塗による塗装を施した「HHKB Professional HG JAPAN」も約50万円で売り出した。

HHKB10周年記念の超高級モデル「HHKB Professional HG」。会場にも所有している人はいなかった


[松本氏]:これはほぼ私利私欲というか、こういうのが欲しかったんですよね。剛性感のあるフレームに東プレの静電容量無接点を乗せて打鍵したら気持ちいいだろうな、と思って企画しました。当社には500万円くらいまでの予算で新しいアイディアを試せる「Rising-V」という制度があるんですが、これを活用する形で取り組んだというのが経緯です。

 もちろん、作るからには売らなければならないので、話題を取ろうということで、当社の地元石川県の輪島塗工房「大徹漆器工房」と組んで、漆塗りにチャレンジしました。商品自体は赤字でしたが、おかげさまで話題にはなりまして、世の中に「HHKB」を知らしめる良いきっかけになったと思います。

輪島塗モデルの制作には、地元石川県の輪島塗工房が協力した

[前田氏]:製品名に輪島塗とついていないのは、何か理由があるのですか?

[松本氏]:“輪島塗”を名乗るにはいくつかの基準がありまして、その中に「木地に塗らないといけない」というものがありました。そのほかにもいくつかあるのですが、それらをすべて満たすことで、はじめて「輪島塗」ブランドを謳えるんです。

 HHKB Professional HGの場合はプラスチックのキートップに塗っているので、名乗れなかったんですよね。輪島塗組合に通って何度も説得したのですが、結局叶いませんでした。


 2011年、タイピング時の安定性を向上させる調整を加えた「HHKB Type-S」を発売。

フリーソフトウェア活動家のリチャード・ストールマン氏がHHKBを愛用しているところ。モバイル端末とHHKBを合わせて使っているところは「尊師スタイル」と呼ばれ親しまれているとかいないとか
打ち間違えを防ぐ調整が施された現行機種「HHKB Professional Type-S」

 2016年には「HHKB Professional BT」をリリースした。HHKBでは初代からキー配置を変えておらず、コンピュータの環境に対応した新しい技術を導入しつつも、入力デバイスとしての本質は変わっていない点を一貫して強調している。

HHBK史上初のBluetooth搭載無線モデル「HHKB Professional BT」
パッケージの「BT」は書道家の深谷勇介さんによるもの。数回書き直した中で最初のテイクが採用されたようだ
ちなみに深谷さんの兄はPFUの従業員だという


 第1部では最後に、キーボードに対する和田氏の言葉を引用し、セッションを締めくくった。

和田英一氏の言葉。「キーボード」というインターフェイスに対する氏の考え方を示している

 以下は第1部の質疑応答から抜粋。八幡氏から、「Hack」という名前にまつわるエピソードが披露された。

[来場者]:無刻印HHKBを愛用しています。モデルチェンジで「Happy Hacking Keyboard」のロゴがなくなって、後のモデルで新しいロゴになっていますよね。ロゴまわりの話を聞いてみたいです。

[八幡氏]:HHKB初代のロゴはプロが作ったわけではなくて、担当者が適当なソフトを使って斜めに配置したというだけのものだったのですが、その後、きちんとデザイナーに制作を依頼して、今使っているロゴになりました。確かに最初のロゴは評判も良くなかったので、いずれ変えたいなとずっと思っていたのを憶えています。

[小山氏]:我々エンジニア的に「Hack」という単語は「技術的な要求を満たす行為」ですけど、世間的にはコンピュータを攻撃するというイメージですよね。「Happy Hacking」と名付けるにあたって、そういう名前に対するプレッシャーは無かったのですか?

[八幡氏]:ありましたね。最初、「Happy Hacking」で商標登録をしようとしたら、特許庁から「公序良俗に反する」と言われて拒絶されてしまったんですよ。そのときは、スティーブン・レビーの「ハッカーズ」を引き合いに出して「本当はこういう意味なんですよ」と説明したら、納得してもらえました。悪い方は「クラッカー」なんですよと言っても、なかなかご理解いただけない時代でしたね。

将来のHHKBについて様々なテーマを語り合った第2部

 第2部「HHKBのこれから」では、ユーザー視点から見たHHKBに対する要望や、将来の有りようについての議論がなされた。主なトピックは「配列に関して」、「どこまでカスタマイズを許すか」、「周辺アクセサリー」、「キーボードインターフェイスの未来」の4つ。

 登壇者はアプリ開発者の有山圭二氏、UI研究家の増井俊之氏、競技タイピストの栗間友章氏に加え、第1部でも登場した松本秀樹氏。第2部では先述の4つのテーマについて、登壇者が対談する形式で進行した。

配列に関して

[松本氏]:Windowsの開発環境を持っている方からは、「矢印キーが欲しい」というお声をよくいただきます。会場に来ているWindowsユーザーの方的には、実際のところ、どうなのでしょう?

[来場者]:仕事ではWindowsで開発をすることが多いのですが、HHKBを使うときは「AutoHotKey」などでキーカスタマイズをして作業をしているので、それほど問題はないです。

[小山氏]:なるほど。栗間さんはいかがです?

栗間友章氏

[栗間氏]:私は基本Windowsしか使っていませんが、競技タイピングばかりやっているので矢印キーは要らないですし、もっと言えばBackSpaceやDeleteも要らないです。ミスなく打てばいいわけですからね。これは自分への戒めも入っていますが、一つくらいはDelete無しキーボードがあってもいいのかな、と思います。

[増井氏]:去年くらいに、SurfaceBookでHHKBを使おうとして挫折しました。Macだと「Command+C」でコピーですよね。僕はMacとかでUNIXターミナルを開くと「Control+C」でキャンセル操作をするんですが、Windowsだとコピーが「Control+C」じゃないですか。「Control+C」って何かと使うコマンドなんですけれども、結局「コピー」という操作をするための統一されたキーというのは無くて、仮にコピーが「Control+C」なら、全部「Control+C」で済ませたいんですが、それが結局できなかった。

 同じWindowsでもウィンドウごとにホットキー操作が異なることがありうるわけで、これがどうしても耐えられなくてその時は諦めちゃったのですが、その辺をどうやって解決しているのか、Windowsの人にお聞きしたいです。

[来場者]:僕も同じことで悩んでいたことがありましたので、僕のときはAutoHotKeyを使って、特定のキーに別の働きを持たせる方法を使いました。例えばWindowsで「Command+C」の操作をしたいとき、「無変換+C」のような形でCommandキーに相当するキーを割り当てるような形です。

 そしてこの操作が有効になるのはEmacsのウィンドウが手前にある場合だけ、とすることで、異なるホットキーの操作を共通化させていました。これってキーボード側では解決不能な問題なので、Windowsの常駐ソフトウェアでなんとかするしかないのかな、と思っています。

[八幡氏]:そういった情報を提供するサイトというか、コミュニティがあると、色々と助かる人は多いんじゃないかなとは思いますね。

[小山氏]:PFUさん、やりません?

[松本氏]:確かに、PFUとしてそういったポータルを用意して、そこにみなさんが知見を投稿できるような環境があったらいいな、という話があるようなら、考えたいところですね。個人的には、今回のミートアップを通して、ユーザー同士のコミュニティが自然発生するというのが美しい形だなって思っています。

どこまでカスタマイズを許すか

[小山氏]:「HHKBは完成されたものだ」という見方もありますが、とはいえユーザーとしては「ちょっと気になる」ポイントを各々お持ちだと思うんですよね。そのときに、「どこまでカスタマイズできるか」という枠組みをキーボードのプラットフォームとして用意するかを考えることは、今後のキーボードが進むうえでの道標になると思うのです。PFUさん的には、カスタマイズをどこまで許すか、というポリシーは持っているんですか?

[松本氏]:特にないです。やってる人は勝手にやってますし(笑)。ただ品質保証外というだけで、あまりそこに対してあれこれ言う気はないです。やっぱり濃い方が多いので、色々なことを試されてるとは思うのですが、それはそれでよろしいのではないかなと。

[小山氏]:有山さんは、今のHHKBに対する不満みたいなものってありますか?

有山圭二氏

[有山氏]:不満というよりは要望なのですが、ファームの書き換えでキーマップを変更できるようにしてほしいですね。というのも、「無刻印」のモデルがラインナップされているからです。マーケティング的なお話はさておき、「無刻印」であることの意味は「キーマップを書き換えても、キートップの位置を入れ替えなくて済むこと」だと解釈していました。

 でも、実際には書き換えはできないという。OSの方で設定して書き換えてください、ということなのですが、OSのキーボードにはすでにキートップがプリンティングされているんですね。僕はキートップのプリンティングと違うキーコードを出すのはたまらなく嫌なので、キーボードの方を書き替えたいという要望を持っています。それを実現するのに無刻印というのは理にかなっているのではないでしょうか。

[増井氏]:どんな風に書き換えたいんですか?

[有山氏]:配列自体を書き換えたいと思っています。いま興味があって練習しているのは「Norman配列」ですね。今は別のキーボードでやっていますが、それを無刻印のHHKBでもやりたいなと思っています。

[小山氏]:会場で挙手を募った感じだと、カスタマイズの需要は結構ありそうですね。カスタマイズのためのツール経由でならできる、とかいかがでしょう。

[松本氏]:検討します。(会場から拍手)

[有山氏]:それともう一つ。BluetoothモデルのUSB端子は給電専用とお聞きしているんですが、そこをなんとか、各種機器にUSB接続すれば、USBキーボードとしても使えるようにしていただきたいです。

[増井氏]:カスタマイズについてなんですが、僕がどんなキーボードでも必ずやるカスタマイズが「右手の小指でリターンを押せるようにする」というものです。ホームポジションだと右手の小指って「セミコロン」(;)じゃないですか。でも日本語じゃセミコロンなんてめったに使わないですよね。にもかかわらず、ホームポジションにおける右手の小指という重大な資源がセミコロンに使われていて、リターンを打つためには少し右に移動しなければならない。無駄な動きが発生するわけですよ。これがセミコロンをリターンにするだけで、ほとんど手を移動させずによくなるんです。

 ちなみに、カスタマイズがしたいという方は、何をカスタマイズされたいのでしょうか?

[来場者]:「Dvorak配列」にします。

[来場者]:キーボードを2台置いて、使わないキーを動作しないようにする、といったことができるといいなと思います。

[小山氏]Ergodoxぽいことを、HHKB2台でやりたいということですね。なんだか面白いですよね。お話をお聞きしていると、ツールを提供するだけで、新しい世界が見えてくるような気がしたんですけど。

[松本氏]:さらに尖れということですね。

周辺アクセサリー

[小山氏]:私の友達はアップルのトラックパッドを使っているのですが、HHKBと一緒に使うときに、つら(表面の高さ)が合わないのが不便だと言っていたんですね。なので、HHKBに合うようなトラックパッドの台が欲しい、という要望がありました。これってPFUが対応するべきことではないのかもしれないけれど、ユーザー目線で見た時に、いろんなものと組み合わせて便利なものってあると思うんですよ。

[松本氏]:ちょうど、バード電子の斉藤安則社長がみえているので、代わりましょう。

斉藤安則氏

[斉藤氏]:ぼくらは元々アップル製品の周辺機器を作っていたのですが、ここ5年くらいでPFUさんの周辺機器も手がけるようになりました。トラックパッドの台もすぐ作れますよ!

[小山氏]:アクセサリーのアイディアをお持ちの方って、いらっしゃいますか?

[来場者]:私はMacbookと一緒にHHKBを使っているのですが、Macbookのキーボードの上にHHKBを載せると、端子が画面に当たったり、ケーブルが長すぎたりして、なんだかしっくりこないんです。でもアクセサリーなら、Macbookにビシっと合うようなものが作れると思うので、是非ご検討いただきたいです。

[斉藤氏]:それもわりとすぐ作れますね。


 会場からはこのほか、HHKB裏面の爪を立てたときにファンクションキーを押してしまう干渉の問題を解決するアタッチメントや、掃除を楽にできるキット、キャリングケースのデザインにバリエーションが欲しい、などの要望があった。


キーボードインターフェイスの未来

増井俊之氏

[増井氏]:そもそもキーボードは、キーボードを打つこと自体を目的に存在しているわけではないですよね。文章やプログラムを打ち込むことが目的なので、キーボード"だけ"で解決することはないんです。

 僕は昔「Dynamic Macro」というシステムを作ったことがあって、一度打ったものをもう一度入力するというものなのですが、別にその機能はキーボードでやってしまってもいいわけです。今はその繰り返し動作をプログラムで解決していますが、例えばキーボードの「繰り返しキー」を押せば、今まで打ったものをもう一度繰り返し入力するようにできる。

 要は目的を達成するのにベストなキーボード的なものがあれば用が足りるわけです。例えば「Amazon Dash Button」も押せば商品が発送される、極端にカスタマイズされたキーボードと言うことができます。

 今は漢字変換のたぐいもコンピュータ側でやってますが、これだってキーボードの側でできてしまってもいいんです。OSが違っても、自分の変換の癖を知っている「マイキーボード」として使えるし、実際できるようになりつつあります。

 例えば今申し上げたようなことを「Arduino」にプログラムしておいて、それをPCとキーボードの間に噛ませれば、今より断然すごいことができてしまうんです。これは配列がどうこうというレベルの話より断然面白くなるので、そういうことがHHKBでできたらもっと面白くなるんじゃないかなって思います。

 ハードウェアとしてのキーボードだけを見るのではダメで、「やりたいこと」と「キーボード色々なの性能」を合わせて、どうすればより快適になるかを考えて、製品が出てくるようになったらいいなと思っています。

[前田氏]:キーボード側に出力装置があると面白い気がします。例えばタイプミスをすると振動して教えてくれたりとか。

[増井氏]:ネタ研究で、ピアノを引き間違えると鍵盤がすごく熱くなるといったものを昔見たことがありますね、そういえば。

[前田氏]:音とか、温度とか、振動とか、そういう出力装置が手に近いところにあると、色々使いみちがあって面白いと思います。

第3部はHHKBユーザーの思い入れが感じられた懇親会 & ライトニングトーク

第3部、懇親会の様子。自信が所有するHHKBを持ち込む来場者も多かった
キートップを独自に替えた、来場者所有のHHKB
ライトニングトークでは、HHKBにまつわるエピソードや思い入れを熱く語るヘビーユーザーが集った
中にはキーボードを自作する強者も
自作キーボードのコミュニティイベントも存在する
こちらはHHKB用アクセサリーの自作をしているユーザーの発表
強いDIY精神を感じるポインティングデバイス&パームレスト付きHHKB
KINESISなどの特徴的な機種も持ち込まれ、来場者同士のキーボード談義にも花が咲いていた

当日は社員割引よりも安く買える物販スペースも

会場では特別価格での製品販売が行なわれた

 なお、会場ではこの日限定の物販も行なわれており、HHKBの現行機種「HHKB Professional BT」および「同Type-S」が29%引きで購入できたほか、通常は割引を行なっていないアクセサリー類も16~18%の割引価格で販売されていた。

現行機種が直販価格の29%オフで購入できた。会場のPFUスタッフによれば「社割よりも安い」とのこと
アクセサリー類も特別に値引き販売された
キーボード本体はもちろん、バード電子の吸振マットやキャリングケース、カラーキートップなども人気だった
中にはキーボード2台とアクセサリー類をどっさり買い込む猛者も
「せっかくの機会なので買い増しました」とのことだ