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NECアクセステクニカに聞く、
「ついに主流になる5GHz帯、11acルータの魅力とは?」

最新技術でサイズと性能を両立、ポイントは米粒アンテナと「なるとマーク」 Text by 平澤 寿康

今回、主に話を伺った最上位モデル「AtermWG1800HP」。規格上の最大速度は1,300Mbps、同社測定の公称値でも751Mbpsを記録したという。発売記事はこちら

 今年3月の法令改正、そしてドラフト規格の制定で、IEEE 802.11ac Draft(以下、11ac)準拠の無線LAN製品が続々登場している。中でも注目を集めているのが、アンテナを3本利用、最大1,300Mbpsで高速無線通信ができるという無線ルータ製品だ。

 各社が対応製品を発売する中、ひときわ目をひくのが、NECアクセステクニカのAtermシリーズ。無線ルータでは鉄板な人気を誇る同社だが、今回は他社製品よりも圧倒的にコンパクト。そしてその裏には、「μSRアンテナ」や「μEBG構造」といった独自の新技術があるという。

 そこで今回は、NECアクセステクニカで無線LANルータの開発を担当している開発者の方々に、製品の特徴や開発の経緯などをお伺いしてきた。

 今回お話しをお伺いしたのは、NECアクセステクニカ株式会社開発本部商品開発部リーダーの安藤 利和氏、開発本部商品開発部無線技術センター主任の長谷川 和彦氏、同じく無線技術センター主任の三浦 健氏、開発本部PWB設計部EMCセンターリーダーの小林 準人氏、マーケティング本部販売促進部主任の山本 進義氏の面々だ。

「5GHz帯」がついに主流に5GHzだからできる高速性と「電波の空き」

開発本部商品開発部リーダーの安藤 利和氏
開発本部商品開発部無線技術センター主任の長谷川 和彦氏
マーケティング本部販売促進部主任の山本 進義氏
11acの高速化をトラックに例えると……

−−まず、技術者から見た「11acの利点」を教えてください。

[安藤氏] 11acの利点はいくつかありますが、技術的に見た最大の利点は、「利用できる電波帯域が広がった」というところです。

 これまでの11nでは40MHzだった帯域幅が11acでは80MHzまで利用可能になり、一度により多くの情報をやりとりできるようになりました。道路に例えると、2車線が4車線に拡張されたようなイメージです。

 もう1つの特徴がMIMOです。こちらは、複数のアンテナで同時にデータ送受信を行うというもので、道路に例えると「道路の本数が増える」と考えればいいでしょう。帯域が広がり、なおかつMIMOが増えることで、速度が速くなるということになります。

[長谷川氏] このほか、11acでは新しい変調方式も採用しているので、その点も速度向上に寄与しますが、手っ取り早い高速化という意味では、「周波数帯域幅の拡大」と「アンテナ多重」が中心です。製品化した11ac機器では、3本のアンテナを利用した3×3 MIMO対応製品で最大1,300Mbpsの速度を実現しています。

−−「帯域を増やして本数も増やす」というのは、これまでの無線LAN規格でも実現されてきたことですが、11acでもそこは同じ、ということでしょうか?

[安藤氏] そうですね。ただ、11acでは80MHzという広帯域を使いますので、もし2.4GHz帯を使おうとすると、1台でチャネルのほぼ全てを占有してしまいます。そこで11acはチャネル数の多い5GHz帯のみの対応になっています。

[長谷川氏] また、空いている帯域に誘導したいということもあります。より快適に使うには、より空いているチャネルで使った方がいいですよ、ということですね。

[安藤氏] 2.4GHz帯は、コードレス電話や電子レンジなど、いろいろノイズ源が多いですからね。

−−2.4GHz帯が非常に混雑しているという意味でも、今後11acの必要性が高まっていく可能性は高いですか。

[安藤氏] 混雑しているのもありますが、2.4GHz帯はチャネル数が少なくて80MHzの帯域を確保できないという点がやはり大きいですね。

 結果として、2.4GHz帯は高速化も11nまでですし、そうすると、今後は(5GHz帯の)11acで高速化していくということになると思います。

−−5GHz帯は「壁などの障害物を超えて電波が届きにくい」という声もあるようですが、そういった点はいかがでしょうか?

[安藤氏] 実際にそう言われる方がいらっしゃるのでいろいろと実験しているのですが、「5GHz帯だから電波が届きにくい」とか「5GHz帯だから遠距離で速度が落ちやすい」というのはほとんどなく、2.4GHz帯との差は実際にはほとんどないですね。

[長谷川氏] 補足すると、鉄筋や鉄骨が使われている住宅では多少差が出る可能性がありますが、同じフロアで使う場合にはほとんど差は出ないと思います。逆に、集合住宅では「余分な電波が届きにくくなる」ということが利点に働く点もあると思います。


無線LANの帯域の使い方

−−私は都内のマンションに住んでいますが、2.4GHz帯は周囲の無線LANの電波が多く、全く速度が出ません。一方、5GHz帯はそういうことがなく快適ですが、そういった意味でも11acの魅力がある、と思っています。

[長谷川氏] おっしゃる通りです。ただ、実は単に端末の数だけでなく、電波の利用方法にも違いがあり、2.4GHz帯のほうが混雑しやすいのです。

 具体的にいうと、2.4GHz帯の13チャネルは5MHz刻みになっています。1チャネル使うのに最小でも20MHzの帯域幅が必要になるので、実は全く干渉なく利用しようとすると、チャネルは3つだけになってしまいます。

 一方、5GHz帯は、19個のチャネルがすべて20MHz刻みで割り当てられており、すべて個別に利用できます。今使う限りでは、干渉を気にする必要は全くないですし、将来、徐々に混雑してきたとしても、チャネル数が多いので、速度は確保しやすいですね。

−−そうした事を考えると、将来は、11acなどの5GHz帯が主流になり、2.4GHz帯がサブ的な存在になっていくと思いますが、現在は2.4GHz帯と5GHz帯がちょうど横に並んだような感じでしょうか。

[長谷川氏] そうですね。(端末数なども含めた)利便性で2.4GHzと5GHzがようやく横に並んだ、という段階だと思います。

[山本氏] お客様の購入される比率でいうと、2.4GHz専用製品と5GHz対応製品が6対4ぐらいでしょうか。今、「安定して快適に使いたい」という方には、ぜひ5GHz対応製品をおすすめします。

独自技術「μSRアンテナ」でアンテナを極小化なんと米粒大?

無線技術センター主任の三浦 健氏
指で示しているのがμSRアンテナのパターン部分
米粒との比較写真。左の長四角が2.4GHz用、右の正方形が5GHz用。これが基板上に3組あり、3x3のアンテナを構成している
従来モデル(左)との基板比較。アンテナの1つをそれぞれ黄色く囲ってある。従来モデルは、アンテナの周囲を空きパターンにしなくてはならないのも制約点。従来モデルは別付けのアンテナ(左端)も併用していたが、今回は全て基板上にアンテナを用意している
パッケージでの解説。放射率の向上もうたわれている

−−では製品の詳細をお伺いさせてください。今回の製品のキモは「μSRアンテナ」と「μEBG構造」だとお伺いしたのですが、まず、「μSRアンテナ」についてお聞かせください。

[三浦氏] これは簡単に言うと「極限まで小型化に挑戦したアンテナ」です。アンテナの占有面積は当社従来機種比で88%削減しており、結果として製品そのもののサイズを従来モデルと同じ大きさに収めることができました。

 アンテナというのは周波数帯で大きさが決まり、それを無視して小さくすると特性が劣化してしまうのですが、今回、NEC中央研究所が開発した独自技術「スプリットリング共振器」を使いましたので、そうした問題ももちろんありません。

−−従来のアンテナと比べて、μSRアンテナはどの程度小さいものですか。

[三浦氏] これは見ていただいたほうが早いと思います。従来の製品では、基板端にグランドプレーンを避けるようにアンテナを配置していましたが、今回採用したμSRアンテナは、グランドプレーンに埋め込まれた小さい四角形が「アンテナ」です。

[長谷川氏] アンテナ自体の大きさもありますが、実装という点でも大きな違いがあります。従来のアンテナは、性能確保のために全くパターンのない空間を周囲に用意しなければなりません。それに対してμSRアンテナは、グランドプレーンに埋め込めますので、こうした点でも小型化に有利です。

[安藤氏] 見た目の存在感は従来のアンテナの方が大きいですが(笑、この小ささでも従来と同等以上の性能が出ることを確認しています。

−−この小さなアンテナで同等以上の性能が発揮できるのは何故でしょうか。

[三浦氏] 実は、μSRアンテナの四角いパターン部分だけでなく、基板の板端部分にもアンテナの電流が流れるような構造で、それによって特性が取れるようになっています。実際、μSRアンテナのパターン部分だけを切り取ってアンテナとして使っても、特性が大きく劣化したものになってしまいます。そういう意味では、アンテナとして働いている面積は実は大きいのです。

 少し突っ込んでお話しすると、従来のアンテナの周囲では、基板のグランドプレーンにアンテナの電流を打ち消すような電流が流れ、アンテナの性能が落ちてしまいます。そうならないよう、実際の製品ではアンテナ周辺にパターンを作らないようにしたり、基板外にアンテナを置いたりします。

 しかし、μSRアンテナでは、基板のグランドプレーン端に沿ってアンテナ電流を流す構造となっています。つまり、グランドプレーンの電流を味方にしているのです。従来のアンテナにあった、アンテナ電流を打ち消すように流れる「敵の電流」がなくなるので、きちんと特性が得られます。

−−ということは、μSRアンテナは基板自体をアンテナにするような技術ですか?

[安藤氏] アンテナとして働いているのは基板の板端のみですが、板端のグランドプレーンにアンテナの電流を流すという意味では、「基板自体をアンテナにする」というのは間違いではないでしょう。

[三浦氏] μSRアンテナでは、従来のアンテナのパターンを無くして、アンテナパターンに相当する部分をグランドプレーンに埋め込んだ、といった感じです。これまでのアンテナ技術とは全く違うものなので、なかなか理解するのが難しいかもしれません。

−−μSRアンテナは、基板のグランドプレーンを使うということですが、同じ基板上に複数のμSRアンテナを置いて、それぞれが干渉することはありませんか?

[三浦氏] 厳密には、アンテナごとの電流が重なる部分もあるにはあるのですが、影響しないような場所に置いていますので、問題はありません。

[安藤氏] μSRアンテナを使うと考えていた時から、事前評価をいろいろとやりました。そのうえで、この距離関係で置けば問題が無いことを確認して搭載位置を決めています。

−−μSRアンテナの実装で苦労した部分はありますか?

[三浦氏] 基板に見えるリング状の部分で周波数を決めていますので、調整がシビアという点は苦労しました。0.1mm単位ぐらいのステップで調整しつつ検討しました。0.1mmステップでの調整のため、実際に実物を作りつつ、という調整はできませんので、基本的にはシミュレーションでの調整を行っています。実機とシミュレーションの相関を1回とったあとは、ほぼシミュレーションのみで調整を行いました。

[長谷川氏] 最初に実物を作る部分では、シミュレーションとの合わせ込みが必要ですので、比較的苦労がありました。ただ、それ以降はシミュレーションのみで精度が高く調整が行えました。

−−ということは、従来のアンテナと比べると扱いやすかったですか?

[三浦氏] シミュレーションの精度が上がったという点が大きかったですね。そういう意味では扱いやすかったかもしれません。

[山本氏] 製造面でいうと、μSRアンテナは基板上に実装されますので、外付けアンテナのように製造の手間もなく、製造に起因する問題も発生しづらい、というのもメリットでした。

−−ちなみに、μSRアンテナは、今回11ac対応製品を小型化するために開発されたものなのか、それとも先に存在していたものなのか、どちらでしょうか。

[安藤氏] アンテナの方が先です。もともとは、NEC中央研究所(グリーンプラットフォーム研究所)が開発したものです、製品への採用は今回が初めてではないですが、無線LANルータへの適用は今回が初めてです。

ノイズをカットする「μEBG」はまるで「なると」?見えないところにも………

開発本部PWB設計部EMCセンターリーダーの小林 準人氏
μEBGのパターン(資料より)。「なると」のように見えなくもない
矢印部分が基板に実装されたμEBG
NEC中央研究所によるμEBGの解説。ちなみに「μEBG」の「μ」は小型なのでマイクロとついたそう

−−では次に、もう1つの特徴である「μEBG構造」についても教えてください。

[小林氏] 私は、EMCセンターという、製品のノイズを対策する部門にいます。

 ノイズ対策というと一般的にはコンデンサを使用しますが、ギガヘルツ以上になるとなかなか有効な手段がないのが現状です。これを「渦巻き状の配線パターン」だけで対策してしまうのが「μEBG構造」です。

 これもNEC中央研究所が開発したもので、今回はじめて製品に採用しました。

−−特殊な素材でできている、というわけでなく、本当に「単なるパターン」なんですね?。なぜ、それでノイズ対策ができるんでしょうか?

[小林氏] はい、パターンそのものは普通の素材です。

 μEBGで遮断できるノイズは、基板の電源層とグランドプレーンの間で発生する”プレーン共振ノイズ”と呼ばれるものです。このプレーン共振ノイズは、基板端や”スリット”と呼ばれる基板内部のすき間からから漏れてアンテナ等に悪影響を与えます。

 μEBGはビアとパターンから構成された共振回路なので、こういった箇所に周期的に配置することでノイズを遮断することができます。また、μEBGの渦巻きのパターンを見ると、2つのパターンが組み合わさっていることがわかりますが、長い方が2.4GHz帯、短い方が5GHz帯のノイズを抑える役割となっています。

−−基板内部のノイズが漏れ出す部分に蓋をして、ノイズが基板外に出ないようにしている、といった感じでしょうか。

[長谷川氏] そうですね。様々なパーツから発生するノイズがアンテナに回り込んでしまうと、通信性能が落ちてしまいます。ですので、ノイズ源となるパーツからアンテナまでの経路にμEBGを置くことで、ノイズが漏れないようにしているわけです。

[安藤氏] 例えばCPUでは、ノイズが発生するために「無線LANに悪影響を与える場合がある動作周波数」というものが存在します。しかし、μEBGならノイズが外に漏れなくなりますので、そういった制約がなくなります。

−−ノイズ対策が重要になるのは、無線機器ならではといった感じですね。

[長谷川氏] 高周波ノイズにも色々あるのですが、CPUなどの動作クロックの倍数で影響を及ぼす場合があり、これが2.4GHzや5GHzの帯域内に存在すると、どうしても通信性能に影響が出てきます。

 パーツによっては動作クロックをずらすことで対策できるものもありますが、クロック周波数を下げた場合にはシステム全体の性能が落ちてしまう恐れがあります。μEBGがあればそのような対策も不要となり、製品の持っている性能を最大限に引き出せることになります。


基板表面に見えるμEBGは表裏合わせて20個もないが、多層基板の内側にある「見えないμEBG」と合わせるとかなりの数があるという
μEBGによる漏えい磁界の軽減効果(NEC中央研究所によるテスト基板の計測データ)

−−基板を見ると、μEBGのパターンは数えられる程度のようですが、数は少なくてもよいんでしょうか。

[小林氏] 表面に見えるμEBGはそれほど多くないですが、μEBGはパターンなので、実は多層基板の内層に置くことができます。

 実際、大部分は見えない部分に入っているのですが、今回の製品では多くのμEBGパターンを置きました。

[安藤氏] 技術的には、置けるだけ置いても悪くはならないし、追加コストもかかりませんが、他のパターンもありますので、しっかりと事前評価をした上で、ピンポイントで置いて効果を出すようにしています。μSRアンテナ含めて新しい技術ですので、事前に評価して効果を確認、ノウハウを蓄積した上で採用しています。

−−実装で苦労とかはありませんでしたか?

[小林氏] 中央研究所の実験基板と比較して、製品基板はかなり小型で高密度設計になっているので、μEBGをいかに多く、効率的に配置するか苦労しました。

 そのため、実際にパターン設計を行う担当者の意見を聞きながら、複数パターンのμEBGを作成し、設計中はその中から配置しやすい形状をパターン設計者が選択できるようにしています。

 これに加え、効果検証はシミュレーションでも行いますが、なにせ初めての技術なので、そうしたシミュレーションを実測のデータと合わせて精度を上げるのにも苦労しました。

−−なかなか理解するのが難しい技術ですけど、非常に面白いものですね。

[安藤氏] μSRアンテナとμEBGのいずれも、回路図には出てこないものですしね。

−−回路図に出ないものなんですか?

[長谷川氏] μSRアンテナを回路図で表現すると単なるグランドです。なので実装上のミスが出ないように、μSRアンテナやμEBGの渦巻きマークなどを用意して回路図上に置いています。

[安藤氏] 私のような古い人間にとっては、「回路図に出てこないじゃないか、なんなんだよこれは!」といったようなものなんですよ(笑)。とにかく、回路図に出ないものなので、どう置くかというのは苦労しましたね。

「11acだからって、本体サイズを大きくしたくなかった」

サイズは同社従来機種並み。このサイズにするのには苦労があったという
横置きもできるユニークなデザイン
筐体の一部を付け替えると縦置き/横置きを変更できる
壁掛けにも対応

−−そのほかにこだわった点はありますでしょうか?

[安藤氏] はい、11ac以外で最もこだわったのは、「小型化」に尽きます。

 これまでのAtermはだいたいこのサイズでしたが、この大きさは絶対に変えたくないということしか頭にありませんでした。

 新製品を開発する時には、製品ごとに何を大事にするのかという点を(開発陣に)しっかり伝えるようにしています。今回の製品については、「絶対にこのサイズでやる」ということを伝えました。

 今回の製品は価格も高くなりますし、最新技術に興味のある方が買われるものだと思います。そして、11nからのリプレースになるはずです。そうした場合、我々がこれまで販売している製品よりもサイズが大きくなってしまうと、置き場所を変える必要が出てきてしまい、買いづらくなってしまうかも知れません。そうしたことを考慮して、サイズにはとにかくこだわりました。

−−11acに対応させるとすると、本体の小型化は難しいものなのですか?

[長谷川氏] 難しいですね。まず、2.4GHzと5GHz同時に使えますので、チップや回路が2つ必要ですし、11ac対応ということで部品も変わり、発熱も大きくなります。

[安藤氏] 小型化に関しては「μSRアンテナあってこそ」という面がとても大きくて、もしこれが使えなかったら、他社さん並みの大きなサイズの製品になっていたと思います。

 それ以外では熱対策で苦労しました。

−−熱に対する基準は結構厳しいのですか?

[安藤氏] これはかなり厳しいと思います。他社さんがどういった基準なのかは把握していませんが、他社さんの製品を実際に使ってみると、熱いと思うことが多々あります。また、表面に出る熱も厳しいですけど、熱が出ることを前提に使う部品も厳選する必要があり、これもかなり厳しいです。

[長谷川氏] 使用条件の設定環境が厳しいということもあると思います。例えば、夏場でクーラーを使っていない締め切った部屋の窓際というような、普段の生活の中でもワーストに近い条件に設定していますので。

−−ちなみに、そのワーストに近い高温な環境で使った場合は、性能は低下するんですか?

[長谷川氏] ミクロな点で考えると、高温になるとチップなどデバイスの性能に影響が出ますので、変わるとは思います。しかし、実際には通信距離がわずかに短くなるといった程度の影響で、スループットが大きく低下するといったようなことは全くありません。

−−本体デザインが従来から大きく変わりましたが、これはどのように出てきたのですか。

[安藤氏] 社内のデザイナーが考えました。こちらからコンセプトを伝えて出てきた4枚のデザインスケッチを社内投票したのですが、ダントツだったのがこのデザインです。

[安藤氏] デザイナーが言うには、「すこし遊び心を入れたデザイン」ということで、なかなかいいデザインになったなと思っています。また、このデザインを採用するからこそ、サイズも小さくなければならない、ということにもなりました(笑

有線LANも実は強化「ハイパーロングレンジ」な機能も搭載

CPUはデュアルCPU構成
高速中継機能も搭載する

−−筐体以外の点はいかがでしょう?

[安藤氏] 今回は、ソフトウェアの開発にもこだわっていて、有線スループットもかなり高いレベルになるようチューニングしています。

 従来モデルのAtermWR9500Nの872Mbpsに対して、AtermWG1800HPでは940Mbpsに向上していますし、こういった部分も強く訴求したい部分です。ただ、当社の製品は、従来から十分速かったので、ユーザー層によってはあまり訴求に繋がっていないかもしれません(苦笑

[山本氏] もともと、有線は速くてあたりまえ、というのがありましたので。当然ということもありましたね。

−−各種付加機能についてはいかがでしょうか。

[山本氏] 大きなものとしては、市販の無線LANルータとして初めてIPv6に対応したという点ですね。ISPがIPv6に対応しつつありますが、これまではIPv6接続サービスを利用するにはルータに加えて「IPv6トンネル対応アダプタ」と呼ばれる機器を利用する必要がありました。

 しかし、AtermWG1800HPなら単体でIPv6接続サービスに対応できます。現時点では、IPv6対応だからという理由で購入される方は少ないかもしれませんが、今後ISPがIPv6化していくことを考えて、先陣を切って対応させたという感じです。

 「ゲストSSID」という機能の搭載も特徴のひとつですね。友人などが遊びに来た時に無線LANを開放した場合、LANに繋がっている機器の情報も見えてしまうということがありますが、ゲストSSIDはLANへの接続を遮断してWANにのみ接続されますので、安心です。

 また、最上位のAtermWG1800HPのみに搭載される機能ですが、中継機能もひとつポイントとなる付加機能です。我々の製品では、”ハイパーロングレンジ”と呼んでいますが、木造3階建ての住宅であればほぼまんべんなくカバーできるようになってはいます。しかし、遮蔽物などで電波が届きにくい場所があるので中継したい、という声もありますので、AtermWG1800HPに盛り込んでいます。親機と中継器は5GHz帯で接続してスループットを確保して、中継器からは2.4GHz帯で接続する、といったこともできるようになっています。

−−11acのオプション規格として用意されている、ビームフォーミングへの対応はどうでしょうか?

[安藤氏] 現時点では対応していません。実は開発当初、リファレンスボードなどを利用して評価してみましたが、現時点では必要がないという結論でした。端的に言うと、効果がほとんど見られなかった、ということです。

[長谷川氏] 中長距離での通信性能が安定する面もありますが、劇的に効果があるというエビデンスを得ることができませんでした。

 ビームフォーミングは「マルチユーザーMIMO」と呼ばれる技術を実現するための要素技術であり、まだまだ開発途上にあると思います。将来は今ある課題を解決して性能も上がってくると思いますので、そうした時期に発売する製品は対応を検討することになる
んじゃないでしょうか。

−−過去に、VPNサーバ機能を盛り込んだ製品の投入を検討している、という話があったと思いますが、VPNサーバ機能の搭載についてはどうでしょう。

[安藤氏] 検討事項には載っています。特に、今回の最上位機種については、マーケティング部門からも強い要望があったのですが、様々な事情があって搭載には至りませんでした。ただ、常に検討事項には上がっていますので、近々実現したいと思っています。ユーザーからの声も聞こえてはいますので、やらないといけないとは思っています。

使い方のコツも聞いてみた

使いこなしを語る安藤氏。氏の自宅では800Mbps出ているそう

−−公称速度が速くなった11acですが、実際には家庭でどの程度の速度が出るものなのですか?

[安藤氏] 距離によるので一概には言えませんが、私の家では実際に800Mbpsで通信できています。

[長谷川氏] PCの能力によっても違ってきますけど、実験結果では800Mbpsを超えています。見通しが良ければ、多少距離が離れても700〜800Mbpsは十分に出ます。

−−本体の置き方や向きで感度が変わるといったことはありますか?

[三浦氏] そういった部分はきちんと考慮してアンテナを配置しています。全く同じということはありませんが、ほぼ全方位ほとんど変わらないと考えて問題ありません。

[長谷川氏] 1本のアンテナだけでいうなら、電波が出るところと出ないところはどうしても出てきてしまいますが、それを補完するために複数のアンテナを配置してます。

−−無線LANの電波は、水平方向に飛びやすいのに対し、垂直方向に飛びづらいというイメージがありますが。

[長谷川氏] 厳密に言えばそれはあります。アンテナ1本で見ると、飛びやすい方向と飛びにくい方向があります。しかし、基板の2辺を使ってアンテナを配置していますので、まんべんなく電波が飛ぶようになっています。

[三浦氏] 私たちが評価する電波暗室のような、電波の障害物が何もない環境では差が出てくると思います。しかし、実際に使用する環境ではいろいろな場所で電波が反射して飛んでくることもありますので、ほとんど差は見えないと思います。

−−AtermWG1800HPを2台使って、一方を親機、もう一方を子機として使う場合の、おすすめの置き方はありますか?

[三浦氏] 全方位型のアンテナを搭載していますし、性能的には普通に置いていただいて問題はありません。ただ、今回はデザインにもこだわったので、壁掛けをお勧めしたいです。壁掛けにすると見通しが良くなりますし。

 ただ、実際にはやられる方は少ないようですが(笑)。

−−壁掛けの場合には、なるべく高い場所においた方がいいですか?

[三浦氏] それはあまり関係ないですね。例えば2階など上の階のスループットを上げたいとしても、それほど高い位置に設置する必要はないです。例えば、電話線が来ている場所で、電話台の少し上に来るような位置に壁掛けしてもらえればいいと思います。

−−2台を親機と子機として使う場合の、それぞれの本体の向きはどうでしょう。

[長谷川氏] それも、あまり気にする必要はありません。双方を無造作に置いたとしても、壁などで電波が反射して届いたりしますので、大きな影響はないでしょう。

 ただ、厳密に言うと、ケーブルを刺す面は(ケーブルが障害になって)電波が出にくいので、双方の背面が向き合うように置くのは避けた方がいいでしょう。

[三浦氏] 極限までこだわるというのであれば、縦置きなら正面(ロゴの書かれている面)が向き合うように、横置きならコネクタない面が向き合うように置くのがいいと思います。

[長谷川氏] 縦置きなら双方縦置き、横置きなら双方横置きがいいと思います。

−−ほとんどの人が初めて11ac対応ルータを使うことになると思いますが、使う場合の設定などで気を付ける点などは何かありますか?

[長谷川氏] 11ac対応だからといって、基本的に変わる部分はありません。強いて挙げれば、チャネルの選択ぐらいでしょうか。速度を最大限引き出そうとするなら、他のユーザーが使っている帯域を避けて設定するという感じですね。ただ、初期値(自動設定)のまま使っても混雑の無いチャネルを選択するため全く問題ないです。

 また、周波数が高ければ高いほど、直進性が高まって遮蔽物の透過率も下がりますが、5GHz帯の上と下で差が出るかと言われると、全くないですね。そこをこだわるぐらいなら、空いている帯域を使った方がいいでしょう。

11acドラフトはほぼ最終版今後は11acが標準に

−−では、ここからは先のことをお伺いします。まず、現在発売されている11acはドラフト規格準拠ですが、これについてはいかがでしょうか?

[長谷川氏] 11nの時は、最初に出た1.0とそれ以降で大きく変わりました。しかし11acのドラフトはほぼ最終版で、ほぼ変わらないはずです。おそらく正式勧告は来年の春になると思いますが、ごくわずかなソフトウェアの変更で対応できると思います。

−−11ac対応ルータは他社も含めて充実してきましたが、子機などクライアント側はこれからという状況です。この点についてどのようにお考えでしょうか。

[安藤氏] 11acの普及を進めていくには子機がカギになると思っています。ノートPCやスマートフォンなどは、夏以降、徐々に11acに標準対応する製品が増えてきますし、当社としても、これに遅れないことが重要と思っています。

 普及のメインは2×2(最大867Mbps)になると思いますが、技術に詳しい方は是非、現在最高速の3×3(1,300Mbps)を試していただきたいと思っています。

−−3×3対応子機の投入はありますか?

[安藤氏] 検討はしていますが、3×3では消費電力が厳しくなる可能性があります。また、サイズが大きくなっていいのか、という点もあります。継続検討していきます。

[長谷川氏] 電力の問題については、デバイスの進化で省電力化が進むと思いますので、将来は十分に対応可能になると思います。

−−11acでは、理論上、最大6.9Gbpsまで対応できるとされていますが、そこまで実際に実現できるものなのでしょうか。

[長谷川氏] 11acの規格上の最大速度は6.9Gbpsで、この違いはアンテナ数の違いになります。

 チップベンダがどこまで対応してくるのかというのもありますし、当然アンテナをたくさん実装すればするほど実装面積も増えますので、サイズが大きくなってしまいます。現状の技術から考えると、もう1本アンテナを増やすという程度ならすぐ実現できると思いますが、最大の8×8まで一気に実現されるかというと、それは難しいと思います。

[山本氏] マーケットニーズが重要ですね。11nも規格上は4×4MIMOに対応していましたが、結局国内では3×3の製品にとどまりました。そういった意味でも、やはりマーケットニーズという部分が大きなカギを握っていると言っていいでしょう。

[安藤氏] 今、チップベンダが8×8対応のチップを出してきたとしても、それを使った製品にニーズがあるかというと難しいですよね。価格もそうですし、本体がものすごく大きくなって、冷却も水冷、ということになるかもしれません。面白そうなので、やってはみたいですが(笑

 先ほどの3×3対応の子機も同じですが、マーケットニーズを考えて、慎重に検討していきたいと思います。

−−最後に今後の製品でやりたいことなどがあれば教えてください。

[安藤氏] 具体的に考えていることはいろいろとあります。

 今回は、なんと言ってもμSRアンテナとμEBGで、11acという新しい技術が登場する時に、こちらも新しい技術があって、双方を合わせてよい製品を作ることができたと思います。

 これに味をしめたというわけではないですが、日ごろからアンテナを高くして、常に新しいものを取り入れていきたいと思っています。

 今後ともよろしくお願いいたします。

−−ありがとうございました。

[協力:NECアクセステクニカ]

NEC AtermWG1800HP