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最安の10TB HDDをガッチリ検証、SeagateのNAS向け新ブランド「IronWolf」はお買い得?

NAS搭載時の速度や使い勝手も調べてみた text by 石川ひさよし

NAS向けHDD「IronWolf」の10TBモデル「ST10000VN0004」
店頭価格は税込55,000円前後で、10TB HDD最安モデルだ。

 Seagateが同社のHDDブランドを一新、新たなイメージで製品ラインナップを整えたことをご存知だろうか。

 既に弊誌でも「リブランドモデル」発売記事を掲載しているが、その第一弾となるのが製品がNAS向けの「IronWolf」だ。

 前回、「Enterprise Capacity 3.5 HDD (Helium)」の10TBモデル「ST10000NM0016」のレビューを行っているが、今回登場したIronWolfの10TBモデル「ST10000VN0004」は、「ST10000NM0016」とは異なる位置づけにある製品だ。NAS向けという点に加え、店頭価格は税込55,000円前後と10TB HDDで最も購入しやすく、消費電力も若干低い。

 価格面だけでも注目できる製品だけに、気になる読者も多いと思う。そこで今回は、その特性や性能部分を掘り下げてレビューしてみた。

NAS向け新ブランド「IronWolf」の10TBモデル用途に合わせ低消費電力に、そしてNASに最適に

 まずは新ブランドについて説明しよう。

 製品ページに書かれているブランドを順に挙げると、旧Desktop HDD/Mobile HDDが「BarraCuda」(Cは大文字で書かれることが多いようだ)、7,200rpmで24時間365日運用対応の高パフォーマンス・長時間稼働向けDesktop HDDが「BarraCuda Pro」、NANDキャッシュを搭載したDesktop SSHDが「FireCuda」、監視システム向けのSurveillance HDDが「SkyHawk」、そして今回の「IronWolf」はNAS HDDとなる。

 さらに一部ブランドではマスコットキャラクターとイメージカラーも用意。

 Seagateでは、それぞれのイメージを「IronWolfはNASの俊敏さを表す赤目の狼、SkyHawkは空高くから鋭く監視(Surveillance)する青い目の鷹、そしてBarraCudaとFireCudaは広大な海(≒一般ストレージ)で他を圧倒する猛禽な魚(≒カマス)にそれぞれなぞらえた」と説明しており、「店頭で一目で違いがわかるようにイメージ付けした」という。

 ちなみに、10TBモデルとしては、今回のIronWolfのほか、SkyHawkとBarraCuda Proが発売済みだ。

 さて、まずは今回試すIronWolfのST10000VN0004と、前回検証した10TBモデルのST10000NM0016のスペックなどを比較、確認しておこう。

【Seagate製10TB HDDスペック比較】
シリーズIronWolfEnterprise Capacity
3.5 HDD (Helium)
型番ST10000VN0004ST10000NM0016
容量10TB10TB
キャッシュ256MB256MB
プラッタ枚数7枚7枚
回転数7,200rpm7,200rpm
最大転送速度(Sustain)210MB/s249MB/s
起動時電流(12V)1.8A以下2.6A
4Kリード時消費電力8.37W8.4W
アイドル時電力平均4.42W平均4.5W
平均故障間隔(MTBF)100万時間250万時間
作業負荷率制限 (WRL)180TB/年550TB/年

 2つのモデルは、似ているようで意外に異なる。

 スペック表上の主な違いは、最大転送速度、消費電力、そして平均故障間隔(MTBF)と作業負荷率制限 (WRL)だが、「NAS向け」という点で最初のポイントと言えるのが12Vの起動時電流。

 具体的には、ST10000NM0016で「2.6A」だった値が、IronWolfのST10000VN0004では「1.8A以下」に減っている。

 これは、「電源アダプター駆動の製品もあるNAS BOXで、確実にHDDをスピンアップさせるため」(Seagate)とのこと。電力消費については、IronWolfが備えるNAS向け機能「AgileArray」(後述)の1項目として、総合的に削減が図られており、リード時消費電力やアイドル時消費電力についても減少している。消費電力≒発熱だから、「発熱の低さ」についても期待できるだろう。

 速度については、最大転送速度が249MB/s→210MB/sに減っているが、NASの接続インターフェイス(1000Base-T程度までが一般的)を考えると、重視すべきは消費電力、という判断だと思われる。

 また、平均故障間隔(MTBF)と作業負荷率制限 (WRL)はそれぞれ大きく減っているが、これは、エンタープライズ向けのST10000NM0016が飛び抜けて高い値を誇っていたから。MTBFの「100万時間」、WRLの「180TB/年」というのは同社従来のNAS向けHDDと同じ値で、十分高い値と言える。また、同社によると「競合製品よりも良い値と考えている」という。

 ちなみに、この「作業負荷率制限(WRL)」という言葉を聞き慣れない読者も多いと思うが、これは作業負荷から故障率を推測するのに使うSeagate独自の指標。「作業負荷がこの値を超えると、ドライブが想定する許容負荷を上回るため、故障率に影響を及ぼすようになる」(Seagate)という。別な言い方をすると、この値が大きければ大きいほど、過酷に使っても製品本来の信頼性に影響がでない設計になっている、ということになる。なお、同社のデスクトップHDDは「55TB/年」というWRL値になっており、これだけ見ても「作りの違い」を判断できると言えそうだ。

 最後に、先ほど触れた「AgileArray」についても触れておこう。

 AgileArrayとは、NAS全体の性能と信頼性を高めるために用意されたハードウェア、ファームウェア、ソフトウェアの総称。先ほど触れた電力消費削減機能「NAS Power Management」のほか、RAIDのドロップオフを防止し、データの再トライを高速化する「Error Recovery Control」、マルチベイ環境での耐振性を強化する「AccuTrack」、振動を削減することで静音動作を実現する「デュアル・プレーン・バランス」、ビデオストリーミングを改善する「Streaming Support」、RAIDシステム全体の性能を向上させる「RAID Optimization Firmware」などといった機能がある。

 以上、スペック的な面を見てきたが、容量やプラッタ枚数、回転数は同じでも、用途に合わせてカスタマイズされているのがわかると思う。

ST10000VN0004(左)とST10000NM0016(右)の表面。造形は同じだが、ST10000NM0016のシンプルな表面シールに対し、ST10000VN0004にはIronWolfロゴが付いた。
ST10000VN0004(左)とST10000NM0016(右)の底面
側面のネジ穴の位置などは3.5インチHDDの規格に沿ったもの

 次に外見も確認しておきたい。

 まずは表面だが、IronWolfのST10000VN0004も、エンタープライズ向けのST10000NM0016同様、ヘリウム充填技術が採用されており、従来型のHDDとは外観からして異なる。

 表面にネジのようなものが見られないし、底面も従来のHDDのように黒いダイキャスト製のものではなく、シルバーで梨地の、加工精度の高いものを採用している。

 ST10000NM0016と異なるのはシールだ。IronWolfのロゴが外観の大きな違いとなっている。IronWolfロゴは、赤を基調に、緑、黒、白の計4色で構成されており、従来の白黒2色から比べるとかなりカラフルになった。

NAS向けモデルとしては十分な性能、リードの実測値は最高218.2MB/s

OS上からは10,000,695,029,760バイト(9.09TB)と認識

 それではST10000VN0004を実際に動かして、動作を見てみよう。

 まずは容量。ST10000VN0004をフォーマットした後の容量は、10,000,695,029,760バイト(9.09TB)で、これはST10000NM0016の時と全く同じだ。つまり、プラッタ技術に関しては同等と見ることができるだろう。

 パフォーマンスについてはまずCrystalDiskMark 5.1.2 x64で確認しよう。前回同様、連続で5回計測した結果をこちらに示す。

1回目
2回目
3回目
4回目
5回目

 CrystalDiskMark 5.1.2 x64の1GiBテストを5回連続で計測した結果。おおよそのパフォーマンスはシーケンシャルが190MB/s前後、4Kが2MB/s台でブレ幅は小さい

 ST10000VN0004の計測結果は、多少のブレはあるものの大きな変動ではないので、パフォーマンスは一定と見ることができる。シーケンシャルQ32T1リードでの転送速度は190MB/s前後で、同ライトも同じくらいだ。4K Q32T1については、2MB/s台だ。

 ST10000NM0016と比べるとシーケンシャル転送速度で10~20MB/sほど遅く、4K転送速度は同じくらい。ST10000VN0004はNAS用を主眼としており、一般的なNASボックス製品のインターフェースがギガビットイーサ接続であることを考えれば、十分なパフォーマンスと言える。その上で、例えばデスクトップ向けHDDよりも高い信頼性を求めてNAS向けHDDをデスクトップ用途で用いるユーザーであっても、このパフォーマンスならば不満は少ないだろう。

同、50MiB時(左)と32GiB時(右)の結果。50MiB時はキャッシュが効くのかリード時のパフォーマンスが向上する一方、ライト時のパフォーマンスは若干低下した。32GiB時は全体的にパフォーマンスの低下が見られた。

 50MiB時と32GiB時についても、ST10000NM0016と似た傾向が見られる。50MiB時はキャッシュメモリにヒットするようでシーケンシャルリードや4Kが伸び、32GiB時は全体的にパフォーマンスが低下する傾向が見られた。

 HD Tune Pro 5.60のベンチマーク結果も見ておこう。

HD Tune Pro 5.60のBenchmarkの結果。左がリード、右がライト時のもの。

 これはプラッタの外周から内周へ、データの読み書きの位置を変えて計測した結果となる。外周が高速、内周は速度が落ちる傾向にあるのはHDDの特徴だ。その上で、外周ではリードが最大218.2MB/s、ライトが207.7MB/sとこちらは200MB/sを超えている。また、内周ではリードが最小87.8MB/s、ライトが最小77.2MB/sとなっており、転送速度は落ちるものの、まずまず性能を維持できていると言えそうだ。

 なお、HDDのクセと思われるが、ST10000VN0004は通電中、常にカッコン、カッコン……と、アクセスしているかのような音が聞こえる(もちろんシーク時にはシーク音に変わる)。そこまで大きな音ではないので、環境音が大きめな空間で使用したり、あるいは神経質でなければ気にならなかったりするかもしれないが、特筆すべき特徴だろう。

NASで使用してもパフォーマンスは良好冗長化された超大容量環境が構築可能に

NAS用HDD本来の使い方として、ST10000VN0004を2台用意しNAS構築にチャレンジしてみた。

 IronWolfはNAS向けモデルなので、2台をNASに入れて試してみた。

 今回用意したNASは、SynologyのDiskStation「DS916+」。4-bay NASに2基のHDDを搭載する形となる。

 DS916+は中小規模企業向けの製品で、個人向けモデルと比べると高機能。個人向けモデルでは下手をすると1-bayあたり1万円前後の製品もあるが、DS916+はおよそ1-bayあたり2万円強といったところ。CPUにはクアッドコアのPentium N3710を用いて高いパフォーマンスを実現していたり、別売の拡張ユニット「DX513」を繋げばさらにベイ数を増やせたりといったところが特徴である。

今回用いたDS916+のHDD互換性リストから「ST10000VN0004」を参照してみると、ちゃんと記載があった。

 NASボックスメーカーは、製品サイト上で各社のHDD製品の互換性状況を公表している。Synologyも同じで、実際DS916+の対応HDDリストからST10000VN0004を確認してみると、確かにサポートされている。比較的新しいHDDでも検証結果が公表されるので安心だ。

 さっそく、DS916+にST10000VN0004を組み込んでいこう。DS916+のHDDトレイは手間がかからないのが特徴だ。前面カバーを外し、ワンプッシュでトレイを引き出し、トレイの左右にある樹脂プレートを取り外し、トレイにST10000VN0004を収め、再びプレートを戻し、ベイに挿し込み、カバーを戻す。これだけだ。全工程、ドライバーのような工具は必要ない。

今回用いたSynologyの中小企業向け4-bay NASボックス「DS916+」
最新NASならツールレスでHDDの着脱ができる

 このような具合でDS916+に2基のST10000VN0004を装着し、DS916+をネットワークに接続、電源を投入すれば、あとはソフトウェアセットアップを行う工程だ。

 ソフトウェアセットアップは、基本的に全てデフォルトの設定で行った。RAIDレベルは、Synology Hybrid RAID。これはSynologyのRAID自動管理システムである。HDDを何台搭載しても、冗長化された最適な構成を自動的に構築してくれる。

互換性確認済みHDDだけあって、認識はまったく問題なかった

 さて、ボリュームを作成する際の注意点が、初期化に要する時間だ。容量が大きくなればなるほど、初期化に要する時間も伸びる。

 今回の場合は、RAID 1相当の構成となるので、10TBぶんを初期化することになる。要した時間は20時間超。ほぼ1日だ。当然、3台、4台と増やした場合は、それだけ時間が伸びる。ここは気長に待つ必要があるだろう。いちおう、初期化中にも共有フォルダの作成や、そこのデータの読み書きは可能なようだが、裏で初期化処理が実行されているのでパフォーマンスは落ちるようだ。

初期化に要する時間は、ドライブの容量に比例する。10TBドライブともなるとほぼ1日かかり、これが20TB、30TBとなると数日間ほったらかす覚悟が必要だ。
共有フォルダを作成後、その容量を確認すると空き容量8.73TBと認識された。

 ではパフォーマンスを見てみよう。今回のNAS構築は、専用のLANを用いるわけではなく、筆者の宅内LANで行ったため、少しネットワークが混雑していた可能性があるが、実運用でのパフォーマンスの目安にはなるだろう。そういう視点でご覧頂きたい。

共有フォルダをネットワークドライブ(Z:)として認識させた後、CrystalDiskMark 5.1.2 x64の1GiBテストを行った。

 結果は、NASとして見るとかなり良好であると言える。シーケンシャル性能は100MB/sを超え、4K性能もリードは100MB/s目前、ライトが75MB/s近く出ている。ST10000VN0004単体の時と異なるのは、NAS側のメインメモリなどがキャッシュとなるためだ。DS916+自体が個人向け製品よりもやや高性能であることも、よい結果を出した理由になるだろう。

 よいHDDとよいNASを組み合わせればかなり快適なパフォーマンスが得られる。

コスパに優れる10TB HDDNASだけでなくデスクトップ用HDDとしても魅力の高い製品

 IronWolfの10TBモデル「ST10000VN0004」は、ヘリウム充填技術を用いて「10TB」を実現しつつ、「NAS向け」としてオーバースペックな部分を最適化、より購入しやすくなった製品と言える。

 エンタープライズ向けの「ST10000NM0016」と比べてパフォーマンス低下もそこまで大きくなく、「NAS用」という本来の用途ではもちろん、「デスクトップ用HDDよりも信頼性の高いデスクトップ用ドライブ」、というニーズにも十分に応えてくれるだろう。

 PCはユーザーの人生とともにその用途が変わるもの。アクションカムやハイエンドデジタルカメラなどにふれることで4K映像編集に目覚めたり、家族をもってそのライフログを管理することになったりと、そうした変化はいきなりやってきたりする。そして、それをできるだけコンパクトにまとめたいといったニーズも生まれるだろう。そういった状況になった時、10TBのNAS用HDDである「ST10000VN0004」は有力な候補のひとつとなるだろう。

[制作協力:Seagate]

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