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ゲーム性能は小型PC最強、ZOTACの「MAGNUS EN1070」をテスト

VRにも最適なベアボーンキット、GeForce GTX 1070とCore i5-6400Tを搭載 text by 清水 貴裕

 ZOTACの小型ベアボーンPCである「ZBOX」は、省電力性に優れたモデルから、GPUを搭載した高性能モデルまで様々な用途に向けた製品がラインナップされている。

 今回とりあげるのは、ゲーム向けとなるMAGNUSシリーズの最新作「MAGNUS EN1070」だ。MAGNUS EN1070は、VR向けをうたうゲームパフォーマンスに特化したモデルで、NVIDIAの「VR Ready」認定も受けている。

 210×203×52.5mm(横幅、奥行き、高さ)というコンパクトな筐体に、モバイル版のGeForce GTX 1070とデスクトップ版のCore i5-6400Tを搭載する本機の性能がどれ程のものなのか、ベンチマークやVRゲームなどを使いチェックしていこう。

約20cm×20cmのサイズに高性能パーツをギュッと凝縮Core i5-6400T×GeFoce GTX 1070を搭載する内部もチェック

 まずは外観からチェックしていこう。筐体サイズは前モデルの「MAGNUS EN970」と同じで210×203×62.2mm(横幅、奥行き、高さ)という非常にコンパクトなサイズ。一見すると、デスクトップマシンレベルの高性能パーツがこの小型筐体に収められているとはにわかに信じがたい。

フロントパネル
リアパネル
電源投入時はフロントパネルの電源ボタン部分が光る
天面
裏面
側面

 筐体内部にアクセスするには、背面の手回しネジを2本取り外してから底面パネルを筐体前方にスライドさせるだけでOK。組み立てはとても簡単で、ツールレスでメモリやストレージの組み込みが行える。これは自作に不慣れな初心者にとってはありがたい仕様だ。

手回しネジを外し、パネルをスライドさせるだけで拡張インターフェイス部分にアクセス可能。
筐体内部。
付属品、ドライバが収録されたUSBメモリも付属している。

 搭載CPUは、Skylake世代のクアッドコアCPUであるCore i5-6400T。末尾のTは省電力モデルである事を意味し、単体でのTDPは35Wという仕様。動作クロックは定格が2.2GHzで、Turbo Boost時には最大で2.8GHzで動作する。

 ZBOXシリーズはモバイル向けCPUを採用することが多いが、今回のMAGNUS EN1070にはデスクトップ向けCPUが搭載されている。CPUの省電力性の向上、クーラーの性能向上などにより搭載可能になったと思われる。最大パフォーマンスはデスクトップ向けCPUの方が高いので、ゲーム向けモデルとしては歓迎すべき点と言えるだろう。

 GPUに採用されているのは、モバイル版のGeForce GTX 1070。デスクトップ版との違いは2点で、CUDAコア数が128基多い2,048基となっているほか、動作クロックが63MHz低い1,443MHzとなっている。メモリが8GHz動作のGDDR5 8GBという点はデスクトップ版GeForce GTX 1070と共通だ。

搭載CPUのCore i5-6400T
GPUはモバイル版のGeForce GTX 1070
基板表面
クーラー裏面、CPU/GPUを両方冷やせる一体タイプ
クーラーのファンを取り外した所
クーラー装着時の基板表面

 メモリスロットはDDR4 SO-DIMM×2本。DDR4-1866/2133に対応しており、最大で32GBまでの容量をサポート。ストレージインターフェイスは、M.2スロットと2.5インチSATA(6Gbps)ポートをそれぞれ1基ずつ搭載している。

 M.2スロットは2280サイズで、接続方式はPCI Express 3.0x4と6Gbps SATAの両方に対応。最近はNVMe規格のM.2 SSDの価格がこなれてきたので、高速なM.2 SSDを使って組むのも面白いかもしれない。

 SATAポートは電源とコネクタが一体化した状態で基板に実装されている。ストレージを取り付ける際は、標準搭載のマウンタを使用する。マウンタは手回しネジ1本で基板に固定可能なので、ドライバーなどを別途用意する必要はない。また、ストレージ本体もマウンタ側に設けられたのピンで固定するだけなので、取り付けは簡単だ。

メモリスロット、DDR4 SO-DIMM対応
M.2スロット
無線LANカードはIntelの3165NGWを採用
2.5インチSATAドライブ用ベイ
トレイタイプで、こちらもドライバレスで固定可能だ
今回の検証ではCrucial製のDDR4-2133 SO-DIMMと250GBのSATA SSDを使用した

FF14やOverwatchを最高画質/60fps以上で、ゲーミングPCとして高い性能を発揮

 それでは、「ZBOX MAGNUS EN1070」の性能面をチェックしていこう。まずは、CPUのマルチスレッド性能とシングルスレッド性能を計測可能なCINEBECH R15の結果からだ。

CINEBECH R15

 実は筆者は前モデルの「MAGNUS EN970」をDOS/V POWERREPORT誌の連載(2015年12月号)でテストした事がある。MAGNAS EN970の搭載CPUはCore i5-5200Uで、CINEBECH R15のマルチコアのスコアが260cb、シングルコアのスコアが108cbだった。

 今回登場したMAGNUS EN1070は、マルチコアのスコアが424cb、シングルコアのスコアが109cbを記録しており、マルチコア性能の大幅な向上が見られる。

 モバイル向けのデュアルコアCPUであるCore i5-5200Uから、デスクトップ向けのクアッドコアCPUであるCore i5-6400Tへと強化された事と、アーキテクチャが最新のSkylakeへとアップデートされた事がマルチコア性能の大幅な向上に寄与しているとみていいだろう。

 次に3Dベンチマークののスコアをチェック。使用したのは定番ベンチマークソフトの3DMark Fire Strike(1,920×1,080ドット)と、ファイナルファンタジーXIV: 蒼天のイシュガルド ベンチマーク(1,920×1,080ドット/DirectX 11)の2つ。

3DMark Fire Strike(1,920×1,080ドット)のトータルスコア
グラフィックスコアは14,903だった
ファイナルファンタジーXIV: 蒼天のイシュガルド ベンチマーク(1,920×1,080ドット/DirectX 11)

 スコアは、3DMark Fire Strike(1,920×1,080ドット)が10,140ポイント、ファイナルファンタジーXIV: 蒼天のイシュガルド ベンチマーク(1,920×1,080ドット/DirectX 11)が13,326ポイント。小型筐体であることを考慮するとなかなか高性能だと言えるだろう。

 ベンチマーク中のGPUブーストクロックの実測値は、GPU-Z読みで1,683MHzを記録。モバイル版のGeForce GTX 1070の公称ブーストクロック値である1,645MHzよりは高い値となっており、小型筐体ゆえに性能が発揮されていないといったことも無いようだ。

 また、ゲーム向けのマシンとなると気になるのが安定性。試しにファイナルファンタジーXIV: 蒼天のイシュガルド ベンチマークを連続で30分実行して発熱などの影響で性能が落ちないかチェックしてみたが、GPU-Zで確認する限りではブーストクロックが低下する事もなく安定しており、ゲームを長時間プレイする場合も安心できそうだ。

 ベンチマークではゲーミングPCらしい性能が発揮されているが、実際にゲームでもパフォーマンスが発揮されるのか、人気FPSタイトルのOverwatchを用いて検証してみた。

 eSportsの大会で採用される競技性の高いタイトルだけに、ゲーマー諸氏が気になるのは“どの画質設定でどれだけフレームレートが出るか”という点だろう。今回は解像度フルHDで、NORMALからエピックまでの4つの画質設定ごとにフレームレートを計測してみた。

現在人気を集めているFPSゲーム「Overwatch」
Overwatchの画質設定別平均フレームレート(1,920×1,080ドット)

 競技で勝つことにこだわるのであれば、120~144Hz高リフレッシュレート環境でしっかり使える性能を発揮してもらいたいところ。

 NORMAL設定時には平均フレームレットが175fps出ているので、144Hz対応ディスプレイなどを使用しても十分な性能と言える。120Hzターゲットであれば若干画質を上げることが可能で、画質高設定(平均フレームレート144fps)が良いだろう。NORMALや高の画質設定であれば、高リフレッシュレートディスプレイを使ってプレイしてもストレスを感じることは無いはずだ。

 また、ウルトラ設定時の平均フレームレットは115fps、エピック設定時の設定時の平均フレームは77fpsとなった。60fpsターゲットであれば、最高画質のエピックでも十分に遊べる性能をMAGNUS EN1070は持っている。

 動作中の温度やファン回転数、消費電力もベンチマークに合わせ計測を行った。アイドル時、中程度の負荷を想定した値としてPCMark 8 Home Accelerated実行時、最高負荷時を想定してファイナルファンタジーXIV: 蒼天のイシュガルド ベンチマーク実行時の値を計測している。

ベンチマーク中の動作温度
ベンチマーク中のファン回転速度
ベンチマーク中の消費電力

 アイドル時のCPU温度は52℃で、GPU温度は54℃を記録。ファン制御の味付けが低負荷時にファンの回転数を絞る方向だからか、少し高めになっている。体感上は動作音を感じないレベルなので低負荷時の静音性は優れいているといえる。

 PCMark 8 Home Accelerated実行中は、最も負荷の高いGPUテスト中にGPUが62℃まで上昇し、CPUもつられて61℃まで上昇したが、他のテスト中は60℃以下に収まっていた。

 GPUテスト中は動作音を感じるものの、その他のテストでは耳を澄まさねば聞こえないレベルだった。また、ブラウジングなどの軽作業レベルでは温度もファンの回転数も上がらなかったので、普段使いは動作音を気にする事なく快適にできるだろう。

 ファイナルファンタジーXIV: 蒼天のイシュガルド ベンチマーク中はCPU温度が74℃、GPU温度が76℃まで上昇したからか、CPUファンの回転数が2,347回転、GPUファンの回転数が3,245回転まで上昇。スピーカーやヘッドセットからゲームの音が流れていれば気にならないレベルだが、静かな部屋だとファンの回転数なりの動作音は感じる。

VRマシンとしても最高クラスの性能、高画質VRゲームを高フレームレートで堪能

EVEREST VR

 VR環境での検証はHTC VIVEを使用して行った。

 検証に使ったのは、Steamで配信されている「Everest VR」というコンテンツで、エベレストへの疑似登頂を体験することができる。販売価格は24.99ドルとなっている。

 特筆すべきはUnreal Engine4をベースに作られている美しいグラフィックで、約30万枚という膨大な数のエベレストの写真から作られているというのだから驚きだ。

ゲーム画面
プレイ中の様子

 実際にプレイしてみると、映像はとても綺麗で、室内にいながらもエベレストにいるかのような没入感を体験できるのはなかなかもの。

 VRコンテンツの中では動作が重いという事前情報があったので、フレームレートの低下が心配ではあったが、プレイ中は終始描画が滑らかで、高画質な雪山の美しさや迫力を存分に堪能できた。

 筆者は乗り物酔いしやすいタイプなので、VRを使用する際はシビアに見る部分もあるのだが、今回の環境では検証中にVR酔いする事も無く存分に楽しむことができた。高フレームレートをしっかり維持できるかどうかといった部分は、VR用マシンを選ぶ上で重要なポイントになるだろう。

 「MAGNUS EN1070」は、小型ベアボーンPCながらVR Ready認証を受けている製品だけあり、快適にVRコンテンツを楽しめるだけのパフォーマンスを持っている。

VRベンチ結果

 最後にSteam VR パフォーマンステストを実行し、「MAGNUS EN1070」のVRマシンとしての性能を評価した。

 VR Ready認証を受けているだけあり、テスト結果は「VR レディ」という最高の評価。テスト中に90FPS以下に落ち込んだ割り合いが0%、CPUパワー不足が原因でフレームレートが落ちた割合も0%という結果だったので、ベンチマークでもVRマシンとしての性能がかなり高いことが証明された。

小型PCキット最高峰の性能、コンパクトなゲーミングPCの決定版?

 Core i5-6400Tとモバイル版のGeForce GTX 1070を搭載する本製品は、市販されている小型ベアボーンPCキットの中では最高クラスの性能を誇る。

 2.5インチドライブベイ×1基とPCI Express 3.0x4接続対応のM.2スロットを備えおり、小型機ながら拡張性は高く、速度の面でも容量の面でも満足のいくストレージ構成が実現できるだろう。

 検証結果からも分かるように、ただ高性能なコンポーネントを搭載しただけでなく、それらが安定して動作するようにチューニングされているので信頼性も高く、ゲームだけでなく様々な用途に高次元で対応可能な素質を本製品は持っている。

 価格が税込163,000円前後と、高価である点が唯一のネックの本機だが、家庭用ゲーム機よりもコンパクトなサイズでこの性能を実現している製品はこのカテゴリには存在しない。

 コンパクトかつ高性能という部分ではゲーミングノートPCがライバルになりそうだが、ゲーミングノートPCにはゲーマーにとって重要な液晶モニタやキーボードが選べないというデメリットがある。

 ゲーミングノートPCに好みの液晶モニタやキーボードを繋いで使う事はできるが、それだとコンパクトなノートPCを選んだメリットが希薄になってしまうはずだ。

 そう考えると、Mini-ITXサイズのマシンや家庭用ゲーム機よりもコンパクトで、周辺機器を自由に選べる本製品は、コンパクトかつ高性能なゲームPCを探しているゲーマーにとってかなり魅力の高い製品と言えるのではないだろうか。