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高性能×静音×小型PCが「ZBOX」、ZOTACが語るハイエンド小型PCへのこだわり

小型筐体にGeForce GTX 1080を搭載する計画も text by 鈴木雅暢

ZBOXシリーズ。

 ZOTACは、香港のPC Partner傘下で2006年に設立されたPCパーツブランドだ。

 近年の日本市場ではNVIDIA GPU搭載ビデオカードで知名度を上げているが、ミニサイズのPC/ベアボーンキット「ZBOX」シリーズにも力を入れている。

 特にゲーミングやVRをターゲットとした高性能モデルの開発では先行しており、早くもPascal世代のGPUを搭載した「ZBOX MAGNUS EN1070」などを発表しているほか、COMPUTEX TAIPEIでもユニークな製品を展示するなど、ミニPCのテクノロジーリーダーとしての存在感を高めつつある。

 前回はビデオカードについてのインタビューを行ったが、今回は香港本社でZBOXの製品企画のキーマンに、そのこだわりや今後の展望を聞いた。

・「ハイエンドカードも静音」に、GeForce GTX 1080のチューンモデル「AMP Extreme」のポイントを聞く(2016年9月12日)
http://akiba-pc.watch.impress.co.jp/docs/sp/1018928.html

「デスクトップPC同等の性能」がコンセプト、高性能GPU搭載の小型PC「ZBOX」Radeon RX 480搭載モデルも計画中

Director of Product Dept.Ⅱ Motherboard & Mini PCのJacky Huang氏
ZBOX MAGNUS EN1070のプロトタイプ。210×203×62.2mmのコンパクトなボディにクアッドコアCPU(Core i5-6400T)とGeForce GTX1070を内蔵している。ストレージは2.5インチのSerial ATA SSD/HDDのほか、M.2 SSD(PCI Express 3.0 x4/Serial ATA両対応)にも対応。前面にUSB 3.1 Type-Cポートを備えるなど、装備も先進的だ。
ZBOX MAGNUS EN1070(プロトタイプ)の背面。プロトタイプのためディスプレイ端子としてDisplayPortが6基も搭載されているが、製品版ではDisplayPort 1.3とHDMI 2.0を2基ずつ装備する。

――ZBOXシリーズの成り立ちを教えていただけないでしょうか。

[Huang氏]ZBOXがスタートしてから今年で8年目となりますが、最初はNVIDIAのIONプラットフォームではじめたものです。当時から小さなボディにデスクトップと同等の機能を搭載というコンセプトでした。

――ION、なつかしいですね。

[Huang氏]時代とともに省電力化高性能化が進み、CPUの選択肢が増え、いろいろな可能性を探りながらやってきて、スティックPCやファンレスなどラインナップも増えましたが、2年くらい前から小型のボディにハイエンドのGPUを搭載する取り組みをしてきました。

 今は似たような製品はあるかもしれませんが、このような取り組みを始めたのは我々が最初ではないかと思います。GeForce GTX 860Mを搭載したZBOX MAGNUS EN760をリリースした時にはかなり反響がありました。

――なぜミニPCにハイエンドGPUを搭載しようと思ったのですか?

[Huang氏]ゲーミングやVRを中心にコンパクトで高性能なPCの需要が強くあるためです。きっかけは、ゲーミングノートPCですね。ノートPCとは言いますが、かなり大きい製品もあり、中には外付けの大きなボックスがついた製品も存在します。

 こういうものが受け入れられるなら、多少大きくなっても作ってみようかと思って始めたわけです。それが大変好評をいただき、今ではZBOXの大きな柱の1つになっています。

――今年はPascal世代のGeForce GTX 1070/1060を搭載したモデルを発表されました。

[Huang氏]ZBOX MAGNUS EN1070とZBOX MAGNUS EN1060ですね。GPUが新世代となったことで性能が底上げされたのはもちろんですが、メモリーがDDR4対応となったほか、DisplayPort 1.3、HDMI 2.0、USB 3.1 Gen.2対応のUSB Type-Cポートも備えるなど、機能的にもかなり進化しています。

――GeForce GTX 1080を搭載するモデルの予定は?

[Huang氏]もちろんあります。水冷システムを採用したZBOX MAGNUS EN980の後継として考えていますが、現段階では具体的なことは控えさせてください。また、AMDのRadeon RX 480を搭載するモデルも予定があります。

――御社がAMDのGPUを採用するのは珍しいのでは?

[Huang氏]そうですね。SoCはありましたが、GPUを搭載するのは初めてです。ZBOXはいいものを選択していくというスタンスです。AMDのPolaris世代のGPUはとても性能が良いですので、期待できると思いますよ。

「使用した際の快適さ」を突き詰めた結果生まれた水冷モデルハイエンド小型PCは静音性やコストも重要

COMPUTEXでも展示されていたZBOX MAGNUS EN980は、Core i5-6400とGeForce GTX 980を搭載する。高性能と静音性を両立するため、水冷システムを採用したという。後継となるGeForce GTX 1080搭載モデルも準備中ということだ。
ベアボーンPCでは、メンテナンス性もこだわりの1つ。ZBOX MAGNUS EN1070(プロトタイプ)は、手回しネジ2本で底面のカバーを外すことができ、メモリソケットと2.5インチベイ、M.2ソケットにすぐにアクセスできる。

――水冷モデルのZBOX MAGNUS EN980はCOMPUTEX TAIPEIでも展示されていましたが、これはなぜ水冷システムを採用したのでしょうか?

[Huang氏]クアッドコアのCPUとGeForce GTX 980(新モデルではGeForce GTX 1080)を搭載しつつ、静音性も確保しようとした結果ですね。ボディが大型になったのもその影響です。空冷ではどうしても高速でファンを回す必要があり、空冷ではユーザーが使用した際に良い体験ができないと判断しました。

――MAGNUS EN980はCore i5-6400を採用していますが、CPUの基準は?

[Huang氏]ゲーミングでもVRでも、このクラスのGPUでプレイするコンテンツは、クアッドコアCPUでないと性能がたりなくなる場面があります。クアッドコアであることは必須条件ですね。EN980はコストとのバランスを考えてCore i5を選択しましたが、後継はCore i7を採用できるかもしれません。

――必ずしも最速であることのみを優先しているわけではないのですね。

[Huang氏]その通りです。部材のコストは販売価格に直結するので重要です。ほかにも、静音性、デザイン、インターフェイスの種類や配置、あらゆる要素を考慮し、最適な大きさ、性能、機能を模索しつつ、製品に落とし込んでいきます。

――なるほど。そういう地道な積み重ねから決定されているのですね。

[Huang氏]運用を想定した内部の構造にもこだわっていますよ。たとえば、これはMAGNUS EN970(MAGNUS EN1070/1060と同構造)ですが、構造は手回しネジ2つで簡単に底面のカバーが外せて、メモリーとストレージベイにすぐアクセスできます。一方、CPUやCPUクーラーなどは。つまり、作業が必要な部分は簡単にアクセスできて、触れてほしくない部分は隠すようになっています。

――大きさについてですが、この水冷モデルなどはかなり大きくなりました(225×203×128mm)。さきほどゲーミングノートPCのお話がありましたが、ZBOXはどこまで大きくなるでしょう?

[Huang氏]私自身も、当初はここまで大きくなるとはまったく想像していませんでした(笑)。多少大きくとも高性能を求めるニーズが強くあり、そうした需要に応えてきた結果こうなったわけですが、私の個人的な意見では、大きさはここまで、これを超えたらミニPCとは言えないのではないかと考えてはいます。もっとも、それもマーケットのニーズ次第ですね。ニーズがあればそれに応えていきます。

VR用の「背負えるPC」は11月発売を目指し改良中、VRの発展はZOTACにとってビッグチャンス

COMPUTEX TAIPEI 2016で展示されていたバックパックスタイルのZBOX。背負うことで、HTC Viveのケーブルを気にすることなく、VRコンテンツのプレイに没頭できる。
HTC Viveのゴーグル。3~4本のケーブルを接続する必要がある。実際に試用して際にこのケーブルが気になったことからバックパックスタイルのアイデアが生まれたという。
ソフトタイプのバックバックにミニPCを収納したスタイルだが、これはあくまでもCOMPUTEX時点のプロトタイプで、まったく違うスタイルになる可能性があるという。11月をメドに予定している製品化に向けて全面的にブラッシュアップが進行しているという。

――COMPUTEX TAIPEIでは、VR用ということで、バックパックタイプの背負えるZBOXも展示されていました。この背負うという発想はどこから来たのでしょうか?

[Huang氏]これは私自身が実際にHTC Viveを試用した時の経験から来ています。というのもHTC Vineはケーブルが4本出ている(電源、USB、HDMI、ヘッドフォン用USB)のですが、これがどうしても気になります。仮に1本であっても気になるでしょう。このケーブルが邪魔にならないように、こうしたものがあればいいのではないかとひらめいたわけです。

――実際にHTC Viveを使ってみるとわかりますね。使う前は、ケーブルに余裕を持たせておけば邪魔にならないかと思ったのですが、実際に使うと足元にあるケーブルが気になります。

[Huang氏]やはり同じように感じていた方が多いようで、反響はかなりありました。すぐに扱いたいというオファーもいただいたのですが、これはあくまでもCOMPUTEXの時点でのプロトタイプで、クリアすべき課題もありました。

――具体的にはどのような課題があるのでしょうか?

[Huang氏]一番大きな問題はバッテリーですね。大容量のバッテリーパックを搭載しますので、運送するには免許を取得しなければならなくなりました。10月か11月あたりには新しい形でお伝えできるかと思いますが、それまでの間に、その他の部分でも完成度を高めるため、全面的に見直しています。

――カジュアルなバックパックの中にミニPCを入れるというスタイルですが、どうしてこのようなスタイルになったのでしょうか?

[Huang氏]これもあくまでもCOMPUTEX直前段階でのアイデアを形にしたもので、特にこのスタイルにこだわってはいません。今の構想では違ったスタイルが頭にあります。

――どんな構想が今あるのでしょう?

[Huang氏]COMPUTEXでのフィードバックを受けて、新たなアイデアがどんどんと沸いてきています。どうしたら熱さを感じにくいか、放熱方向やIO配置の最適化のほか、長くてかさばるHTC Viveのケーブルの取り回しについても、解決できる手段を考えています。いろいろ進行しているのですが、現時点ではまだ好評できないので、続報をお待ちいただければと思います。

――COMPUTEX TAIPEIでは、他社も同様の発想の製品を展示していました。

[Huang氏]もちろんそれも意識しています。正直なところ、当時のプロトタイプ同士の比較では、我々より完成度は上かなというモデルもありました。だだし、これはあくまでも当時の段階です。このジャンルはまだこれだという標準がなく、これから決めていく部分も多いですので、いいところは取り入れていきたいですね。

VRの可能性、そしてVRエコシステムにおけるZOTACの強みを熱弁するHuang氏。

――御社が考えるVRの将来の見通しや期待について教えてください。

[Huang氏]VRにはゲームはもちろんですが、それ以外にも大きな可能性があります。たとえば、オリンピックにカメラを設置してリアルタイムでVR観戦する。実際に危険を冒さずにテーマパークのジェットコースターのような体験もできます。インテリアをデザインのために部屋に家具などのイメージを投影するなど、応用はさまざま考えられます。応用が広がれば広がるほど、ハイパフォーマンスなPCのハードウェアの需要も高まり、大きなチャンスが出てきます。すでに現在進行形でビジネスチャンスは拡大中です。

 もっとも、チャンスといっても、VRゴーグルを作ろうとか、コンテンツを作ろうというわけではありません。我々が関わるのは、あくまでもPCのハードウェアの部分です。VRコンテンツをプレイするには高性能なCPU、GPUを搭載し、要件を満たしたPCが必要になります。カメラで撮影した映像のスティッチング(さまざまな角度で撮影した映像をつなぎあわせ360°映像やパノラマ映像を作成すること)や編集、配信にもやはりそれに適したPCが必要になります。性能だけでなく、POE(Power On Ethernet)が必要ですとか、セキュリティの問題など、分野ごとに求められる要素は変わってきます。

 我々にはこれまで医療機器や映像配信用、サイネージなど、さまざまな分野でミニPCを提供してきた実績とノウハウがあり、それを強みとして生かすことができます。VRのエコシステムの中で、我々のポジションはあくまでもPCのプロバイダーです。PCのプロフェッショナルとして、VRの発展に貢献していきたいと考えています。

――ありがとうございました。

【Zotac MASTER v8 Japanese4K UHD HD】

※9/28 訂正 記事初出時にDisplayPortのバージョン表記、一部製品リンクなどに誤りがありましたため、該当部分を修正いたしました。関係者ならびに読者の皆さまにはお詫び申し上げます。

[制作協力:ZOTAC]