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最強にして最大、空冷GPUのトップを狙うMSI「LIGHTNING」に待望のGeForce GTX 1080 Ti搭載モデル
text by 石川ひさよし
2017年8月10日 12:11
MSIのLIGHTNINGビデオカードは、オーバークロック(以下、OC)に特化した設計の大型ビデオカードだ。伝統的にGPUの各世代の最上位で作られており、この度、GeForce GTX 1080 Tiを搭載した「MSI GeForce GTX 1080 Ti LIGHTNING X(以下、LIGHTNING)」が登場した。
前モデルのLIGHTNINGはGeForce GTX 980 Ti世代で、販売開始が2015年後半。2年近くの間に、GPU性能は当然、クーラーや基板設計技術にも大きな進化が見られる。順を追って解説していこう。
大型クーラー搭載のプレミアムなビデオカード、性能を引き出すのはユーザーだ
GeForce GTX 1080 Tiを搭載するLIGHTNINGには、3つのラインナップが存在するが、日本国内に投入されるのは中間ポジションの「X」である。LIGHTNINGは高クロック耐性にすぐれた選別品GPUを採用するため、世界ランクを競うオーバークロッカー向けのイメージだが、今回日本市場に投入されるのは最上位モデルでは無い。
とはいえまずまずの高クロックであり、その上で最強のクーラーが搭載されたGeForce GTX 1080 Ti搭載ビデオカードが実売価格で115,000円前後。人とは違う1段上のプレミアムを現実的な価格で手に入れたいユーザー向けといったところだろう。
まずはLIGHTNINGの動作クロックを確認しよう。
動作モード | GPUクロック | ブーストクロック | メモリクロック |
Lightningモード | 1,569MHz | 1,683MHz | 11,124MHz |
ゲーミングモード | 1,544MHz | 1,657MHz | 11,124MHz |
サイレントモード | 1,480MHz | 1,582MHz | 11,016MHz |
LIGHTNINGで利用できるもっとも高クロックなモードがLightningモードだ。ブーストクロックは1.683GHzとまずまず高い。市場を見渡せば、ブーストクロックが1,700MHz超のモデルも存在するわけで、ただ性能のみを追求するのであれば選びづらいことは事実だ。が……そこはLIGHTNING。これをベースにクロックをチューニングしていく楽しみがあると考えればよい。そのためのクーラーであり、そのための基板設計なのだ。
位置づけが難しいのがゲーミングモード。とはいえ上下のモードだけでは極端すぎるので、ワンクッション置いたと思えばよいだろう。後ほど紹介するが、性能的に見てディスプレイ解像度が1920×1080ドットあたりの環境では、LIGHTNINGのパフォーマンスは持て余す。そうした場合に、ゲーミングモードやサイレントモードを活用すればよい。
一方、サイレントモードは、GeForce GTX 1080 Tiのリファレンス相当になる。非ゲーム時にサイレントモードに設定しておけば、発熱や消費電力を抑えられる。
これらのモードは、MSI「GAMING APP」ユーティリティから切り替える。デフォルトはゲーミングモードであるようなので、これを導入しないと本来のパフォーマンスを引き出せないこともある点に注意したい。
自身の手でOCしたい場合は、同社のOCツールである「Afterburner(アフターバーナー)」を導入する。クロックや電圧、パワーリミットなど、GPUをOCする上で必要なパラメータを変更できることに加え、その目安となるGPU温度やファンの回転数といったモニタリング機能を備えている。また、OSD機能によってゲーム中にGPU温度や使用率といった情報を表示させることも可能だ。
サイズ、機能、LED! 見た目のインパクトがハンパない
続いてさまざまな角度から外観をチェックしていきたい。とくにLIGHTNINGは大型ビデオカードであるため、ケースとの相性も気になるところだ。リファレンスカード「GeForce GTX 1080 Ti Founders Edition(以下、FE)」と比較することで、LIGHTNINGを搭載するために必要となるパーツ構成が見えてくるはずだ。
LIGHTNINGのカードの長さは32cm、FEの長さは26.7cm。その差は5.3cmある。高さはLIGHTNINGが14cm、FEが11.1cmで、2.9cmの差がある。厚みは先に述べたとおり、3スロット厚と2スロット厚だ。LIGHTNINGの導入には、まず長さに注意する必要があり、実質的に搭載可能なのはミドルタワー以上のATXケースで、かつケースの幅についてもゆとりのあるものを選ぶ必要がある。
側面から背面にかけて見ると、乳白色のLIGHTNINGのLED発光部分が確認できる。導光板を用いているため、LEDほどギラギラしないマイルドな発光である。ユーティリティを用いれば消灯も可能だ。
LED機能の制御方法について説明しておこう。RGB LEDを採用しているので、発光色は自在。デフォルトでは自動的に色が切り替わるが、「Mystic Light」ユーティリティを用いれば、側面、背面それぞれ設定ができる。加えて、MSIのマザーボードと組み合わせれば、同ツールで一括管理でき、同期させることも可能だ。
ヒートパイプは総数8本! ヒートシンクも超巨大でファンにも独自技術を採用
続いてクーラー部分を見ていこう。LIGHTNINGの特徴でもある3連ファンは、3つ同じというわけではなく、左右が10cm径、中央は9.2cm径を組み合わせている。その上でユニークなのがブレード部分だ。トルクスファン2.0と呼ばれる設計で、ブレードの枚数が多く、大きくカーブしたデザインと、よく見るとブレードのねじれ方が2タイプ組み合わされていることが分かる。この形状により、初代トルクスファンと比べても風量や風圧を向上させているという。
また、モーター軸は鉄製ダブルボールベアリング仕様で、スムーズな回転、ひいては静音動作を実現する。
それではクーラーを分解していこう。一般的なビデオカードは、クーラーと基板のみ、あるいはこれにバックプレートを加えた程度だが、MSIのハイエンドビデオカードはメモリやVRMを冷却するためのヒートシンクを加えた4ピース構造を採用している。LIGHTNINGも同様だ。
クーラー部では、ヒートシンクの大きさがまず目をひくが、ヒートパイプもベースプレートの全幅を使い切るほどに採用されている。MSIでは伝統的にダイレクトタッチは採用せず、ベースプレート内部にヒートパイプを引き込んでいる。その上でニッケルコーティングが施されている。
次に現れるのがメモリとVRMを冷やすダイキャスト製ヒートシンクだ。ビデオカード全体をカバーするほどの面積で、VRM部分にヒートパイプを採用していることに加え、放熱性能を高めるためか、3次元的な構造が確認できる。
そしてバックプレートにもヒートパイプが1本装着されている。クーラー部に6本、ヒートシンク部に1本、バックプレートの1本で計8本だ。ここまで徹底した作りのクーラーは他に類を見ない。
怒涛の18フェーズ基板は見た目にも整ったデザイン
次は基板をチェックしていこう。まずデザイン的に目を引くのが縦に14基並んだ電源フェーズ。これはすべてGPU用で、メモリ用には基板後部に3フェーズ用意されている。そしてもう1フェーズ、OC専用にも電源回路を備え、計18フェーズ構成とされている。
基板上のコンポーネントは、同社独自の品質基準「ミリタリークラス4」に準拠し、Hi-C CAPやスーパーフェライトチョーク(SFC)、日本メーカー製固体コンデンサ、DrMOSといった、これまで同社が度々アピールしてきた高性能部品がすべて採用されている。
そのほか、基板上各部に温度センサーチップを搭載している点もユニークだ。基板やVRM、MOSFET、そしてGPUチップの外部にも搭載しているようで、HWiNFOのようなモニタリングソフトを用いれば、GPUだけでなくビデオカードの各部の状態を把握することができる。
電圧計用の接点やLN2スイッチ、基板上には追加の温度センサーも搭載
LIGHTNINGは、超強力なクーラーや高耐久設計基板を、安定性重視のビデオカードとして選択するのもアリだが、ストレートにOCを追求する方も多い。そこでOC向けの特殊な機能についても言及しておこう。
まずビデオカード上の各部の電圧を計測できるテスター用の端子「V-Check Point」がある。この機能はLIGHTNINGシリーズではお馴染みだろう。今回のLIGHTNINGでは、PLL、メモリ、GPUの3つに対応している。
続いては空冷を超え、極冷を試す方のための機能「LN2スイッチ」。こちらはSLI端子の横に搭載されている。機能としては、OCP(過電流保護機能)の無効化、Temperature Limitの無効化だ。なお、LN2オフの状態(デフォルト)では保護のためにPower Limitが最大20%に制限されている。
OC効果で間違いなくリファレンスを超える性能
それでは実際のパフォーマンスを確認していこう。LightningモードでもOC幅がそこまで大きくないため、結論から先に言えばFEとの差は数fps程度だ。ただし、間違いなくFEよりも高いフレームレートが得られる。とくに、メモリクロックもOCされるため、3840×2160ドットのようなテクスチャが増大するシーンで、コンスタントに高いフレームレートが出るところは注目だ。
【検証環境】
CPU:Intel Core i7-7820X(3.6GHz)
マザーボード:MSI X299 GAMING PRO CARBON AC(Intel X299)
メモリ:Corsair Vengeance RGB CMR32GX4M4A2666C16(PC4-21300 DDR4 SDRAM 8GB×4)
ビデオカード:MSI GeForce GTX 1080 Ti LIGHTNING X、NVIDIA GeForce GTX 1080 Ti Founders Edition(どちらもNVIDIA GeForce GTX 1080 Ti)
SSD:Western Digital WD Green SSD WDS240G1G0B(Serial ATA 3.0、TLC、240GB)
OS:Windows 10 Pro 64bit版
まずは3DMark。Fire Strike以上のテストを実施したが、LIGHTNINGはそれぞれFEよりも数百ポイント高いスコアで推移している。
Fallout 4をウルトラ画質で試したテストでは、1920×1080ドットで3fps程度、3840×2160ドットで1fps程度の差だった。
PLAYERUNKNOWN'S BATTLEGROUNDS(以下、PUBG)もウルトラ画質で検証したが、こちらもFallout 4と同じような結果で、各解像度1~2fps程度の向上だった。
次に試したTom Clancy's Ghost Recon Wildlands(以下、Wildlands)では、若干違いが見られた。
ここでは1920×1080ドットと3840×2160ドット双方で、画質オプションを変更しながらテストしている。すると、ウルトラ画質のようにGPU負荷が高い場合は3~4fps、画質を落としていくと、それよりも若干差が開いてくるようだ。とくに3840×2160ドットでは、実際にプレイするだろう設定の「画質:高」や「画質:中」で、5~6fpsの差が生まれている。このくらいだと、ある程度体感できるようになり、とくにV-SYNCを有効にした場合で、一瞬30fpsに落ちる回数が減少する。
ベンチマークテストの最後にVRMarkを試してみた。VRMarkも、LIGHTNINGのほうが若干よいスコアを出すようだ。VRでは、2画面同時に描画するため、デスクトップの1920×1080ドットを1画面表示するよりも場合によっては高い解像度の描画処理が求められる。同時に60Hzでは足らず、75Hzやそれ以上の高いリフレッシュレートが求められるため、性能は少しでも高いほうがよいだろう。
定格での冷却性能は抜群。かなりの負荷までファンが回転を始めない
パフォーマンスが明らかになったところで、カードの設計面での性能も検証しておこう。計測はGPU温度とファンの回転数、そして動作音、消費電力だ。
まずGPU温度とファン回転数。本製品では、GPU温度が低い場合にファンの回転を停止する「ZERO FROZR」機能を搭載しており、そのしきい値は60℃に設定されている。グラフを見て分かるとおり、このテスト中にファンが回転することは無かった。
同じく3DMark実行中のGPU温度のグラフを見ると、ファンが回転していないのにも関わらず、温度上昇は非常に緩やか。ファンが回転しているFEと比較しても段違いで、最大16℃の差がついている。
実際のところ、ファンは60℃よりももう少し高いGPU温度になってから回転を開始しているようだった。Wildlandsを3840×2160ドット、ウルトラ画質で実行した際のGPU温度とファンの回転数を示したのが次のグラフだ。ここではLIGHTNINGの特徴的なファン回転数制御が見られた。LIGHTNINGのファン回転数制御はねばり、GPU温度が65℃になってようやく回転を開始した。その際一時的に回転数が2,284rpmまで上昇したがすぐに回転数が落ち、以降は1,200rpm程度で推移している。回転を始める時にやや強めにスタートするようである。
なお、GPU BoostのトリガーになるのはGPU温度だが、グラフを見てわかる通り、ファン回転数を抑えつつGPU温度を上昇させない……、となるように、このLIGHTNINGの冷却システムは調整されている。高性能な冷却機構を備えていることで、例えば長時間ゲームをするような場合でも、安定した高クロック動作が期待できるはずだ。
動作音について最初に言及しておくと、LIGHTNINGのファン回転スタート時は45~50dB(バラック状態でファン面から20cmの位置で計測)程度まで上昇した。ただしこれは先のグラフのとおり一瞬(一瞬でも気になる方は気になるかもしれないが……)。そこでグラフではこれを除き、落ち着いたところを数値化した。
そうなると、アイドル時はファンが停止するのでLIGHTNINGが発する動作音はゼロ、CPUクーラーや電源、ケースファンの音のみとなり、高負荷時はそれらを含めて40.6dBとなり、FEの45.4dBと比べてもかなり静かというデータになる。暗騒音という点で、CPUにCore i7-7820Xを用いているため高めの値が出ているが、LIGHTNINGに耳を近づければ、ビデオカードのファンノイズは大きくないことが分かる。
消費電力については、アイドル時はFEよりも1.6W高いものの、ほぼ同等の値となった。一方で高負荷時については、OCモデルであるぶんFEよりも31W高い。組み合わせる電源の出力は、FEを想定する際よりも50~100W大きなものを組み合わせるのがよいだろう。今回の構成で言えば850W前後が理想だ。
基本的には極冷向け設計だが、LIGHTNINGとMSIマザーで「MSI遊園地」PCもいいかもしれない
このLIGHTNINGは、基本的にオーバークロッカーに向けた製品である。クーラーや基板の設計はもちろんOC向けであり、V-Check PointやLN2スイッチといった機能は、定格で運用する場合はもちろんライトなOCでも使うことはないだろう。そして、本製品の真のパフォーマンスは、おそらくオーバークロッカーによるランキングという形で知ることができるだろう。もちろん、自身がオーバークロックの世界に飛び込むための1枚とするならば、有力な選択肢であると言っておこう。
一方で超高性能クーラーと信頼性も高い設計基板を見れば、ド安定ゲーミングPC用の選び方もありだ。LIGHTNINGにはLEDも付いているので、魅せるPCという用途にもマッチする。LIGHTNINGで最新版の「MSI 遊園地」を構築するのもよいだろう。この点で、1枚で様々なニーズに応えられる製品であるということが言える。
[制作協力:MSI]