特集、その他
QNAPの熱血社長に聞く、NASの現在、そして未来
「PCよりもセキュアで堅牢」「重要なのはアプリ」 Text by 石川ひさよし
(2014/6/24 12:05)
一般家庭内にも普及した「NAS」。以前は、家庭内のどのPCからもアクセスできる「データの保存箱」としての使い方がメインだったが、各社機能を充実させ、プリンタを共有したり、PC要らずでカメラのデータをコピーできたりと進化してきた。
最近では、スマホやタブレットといった身近なネットワーク端末も増え、そうした機器のデータ保管場所として、家庭内、そして家庭外からもアクセスできる「個人で使えるクラウドサービス」としての機能も登場してきた。
使い方の実例は、僚誌INTERNET Watchの連載で紹介しているが、今回は、そうした高性能NASの先端を行く「QNAP」の最新事情と、同社が描く未来をCOMPUTEX Taipeiで伺った。
なお、お話をお伺いした同社社長のRichard氏は、非常に「アツい」人だった。話が盛り上がってくると、展示品のNASを自ら分解して熱心に解説。詳しい分野も利用法から技術まで幅広く、QNAP製品の多機能さ、進化の早さのキーになっていることは間違いなさそうだ。
家庭向けNASに新モデル2.4GHz Celeron搭載、6TB HDDも動作OK
まずブースで紹介されたのが、家庭向けの高性能NAS「51シリーズ」。
TS-x51という型番で、xの部分は2/4/6/8と、それぞれベイ数を表している。かなりハイスペックなNASであり、最新の6TBのHDDまで動作確認がとれており、また、家庭内でも仮想マシンを動作させるというマニアックな用途を求めるユーザーに対しても、「メモリ増設可能」とすることで、負荷を下げる設計であるという。
家庭向けらしい機能と言えるのは「HDMI端子」を搭載するところ。
テレビにそのまま接続し、「HD Station」というアプリを介し51シリーズ内のメディアファイルが閲覧できる。51シリーズのCPUは2.4GHz動作のCeleronで、他の組み込み向けCPUを用いた製品と比べ、高い処理能力を持つのがウリ。ファイルのダウンロード速度も速く、メディアの再生も速いと言う。
スタイリッシュNAS「HS-251」登場、ハイレゾオーディオ「DSD」もサポート予定
次に紹介されたのが今季イチオシという家庭向けNAS「HS-251」だ。
同社が「スペシャルデザイン」と言うスタイリッシュなデザインはリビング空間やDVDプレーヤーなどのAV機器との相性が考えられたものという。
ファンレス設計なのでほとんど動作音がなく、オーディオ向けとしても良さそう。また、「オーディオ向け」という点では、ハイレゾオーディオで使われるDSDファイルの再生が6月公開予定の新ファームウェアでサポートされる予定。外付けUSB DACが必要になるが、ハイレゾ音源再生用NASとしても魅力的になりそうだ。
ちなみに、よく考えられていると思うのが、ベイの設計だ。HS-251は2ベイモデルで、ドライブ交換はフロントから行なう。フロントパネルはマグネットで簡単に着脱でき、その内部のドライブベイもレバー式の簡単に着脱できる仕組みを備えている。
こちらもHDMI端子を備え、主な用途として、家庭内のメディアセンターを想定した設計。
メモリ増設は非対応とのことで、仮想化用途であれば先のTS-x51シリーズの方がよいとのことだが、仮想化自体はOSでサポートされており、小規模なら試せる。操作にはリモコンを用いるため、ほぼAV機器と言える。さらにAndroid/iOS用のアプリ「Q-Remote」もあるので、スマホやタブレットから操作することもできる。
モバイルNAS「Q Genie」も新登場
また、少し毛色の違うNASが「Q Genie」。
いわゆるモバイルNASで、本体内に32GBのNANDフラッシュメモリを搭載するほか、最大256GBまでサポートするSDカードスロットやUSBストレージによって、データを交換したり容量を追加したりすることができる。
無線側の仕様はIEEE802.11n対応。ルーティング機能もあり、インターネットに接続したままファイルのシェアが可能だ。また、無線接続に加えてUSB接続でも利用できる、PCとつなげばアクセスポイントとしても利用できるとのこと。有線LANポートも搭載している。
バッテリーは3000mAhで、モバイル機器のポータブルバッテリーとしても活用可能。担当者によるとiPhone 5sを1.5回充電できるくらいの容量と言う。通常の用途では、待受けが15時間、ビデオ再生やMP3再生が9時間程度とされる。価格は129米ドル程度になる見込み。
デジタルサイネージの裏側はNAS+制御ソフト?
また、デジタルサイネージなどに向けた産業向けモデル「iSシリーズ」も展開。
今年のハイエンドモデルでは4K出力やフルHD×4面出力などがサポートされる。また、こうしたミッションクリティカルな用途に向け、ブースではサイネージの制作・管理ソフト「iSignager」アプリがデモされていた。
なお、ヒートシンク型の完全ファンレスケースを採用した「IS-460 Pro」は、防塵、耐圧、耐震機能を備え、動作環境も-25℃~50℃に耐えるという。
QNAPの社長はアツかった!「アプリが重要」なQNAPのNAS、今後も続々と機能強化予定
このように、今年のQNAPブースは、個人・家庭向け製品や特定分野向けのストレージ新製品が展示されていた。
QNAPと言えばビジネス向けNASというイメージが強かったところだが、個人・家庭向け製品が意外に多いのがやや意外。そこで、同社の社長であるRichard氏に話を伺った。
それにしてもこのRichard氏、かなりアグレッシブな方で、情熱的、かつ、話出したら止まらない(笑、相当に「アツい」方だった。QNAPの製品開発には、ほとんど同社長が関与しているという。
――QNAPとはどのような製品を開発する会社なのでしょうか
[Richard氏]QNAPが目指すところは「アジア的な発想から生まれるオールマイティなNAS」です。
設立当初より技術中心で市場を開拓しており、まずはスモールビジネス向け、そしてハイエンドへと展開してきました。今では、スモールビジネス分野で市場のリーダー的存在になれたと自負しております。
――今年のテーマはコンシューマ向け製品にあるようですがいかがでしょうか
[Richard氏]我々は過去2年間をかけ、コンシューマ向け機能を強化してきました。そして完成した新ファームウェア「QTS」によって、その利便性でコンシューマ市場でもシェアを取りたいと考えています。
QTSは「シンプルで直感的」をコンセプトに、NASという比較的設定の難しい機器を簡単に管理できることを目的とし開発してまいりましたが、さらに発展させ、DLNAやDSD、今後はDTCP-IP機能などを取り込んでいこうと考えています。
――コンシューマでマーケットのリーダーとなるには何が必要とお考えでしょうか
[Richard氏]機能面では「ファンレス」であったり「高性能」であったり、そしてNASとしての基本要素である「速さ」だと考えています。
――老舗・新参含めNAS専業メーカーもかなり増えてきましたが、QNAPの強みは何でしょうか
[Richard氏]ハードウェアでは、長年培ってきた信頼性、そして基本デザインがあると思います。また、今後重要になるソフトウェアでは、業界をリードしてきたアプリの豊富さにあると思います。
Richard氏が考える「これからのNAS」「アプリが重要」「PCを使うより、セキュアで堅牢」
――「これからのNAS」について、どのようなビジョンをお持ちでしょうか
[Richard氏]これからのNASはソフトウェアにあると思います。マルチウィンドウやマルチタスクはもちろん、PCからもスマホからも操作できることも重要です。そしてマルチアプリケーション。
アプリケーションを簡単に管理できる仕組みとしてQTSとその下部レイヤーに「App Center」を開発しました。これからのNASにおけるアプリは、ファームウェアで提供するのではなく、ユーザーが欲しい機能をApp Centerからインストールするようになります。
App Centerは、Android/iOSのアプリケーションストア同様の仕組みと捉えて下さい。現在では120以上の様々なアプリがカテゴライズされており、簡単に目的のアプリを探せ、操作についても同様の簡潔さを提供しています。
――QTSについて詳しく教えてください
[Richard氏]QTSは軽量なシステムで、カーネルとアプリを繋ぐサービスレイヤー、そしてアプリとして機能を追加するアプリケーションレイヤーから構成されています。
こうしたレイヤーで分離した設計のため、例えばコンシューマ向けモデルには、基本的なアプリを導入済みの形で出荷したり、スモールビジネス向けモデルにはSMB向けのアプリを導入済みの形で出荷したりといったように、柔軟な製品設計が可能となりました。
その上で、App Cnterによって可能性は無限大になります。Evernote的なアプリ「Notes Station」やプレゼンテーションやサイネージ管理に使える「Signage Station」など、アプリ次第で様々な用途に利用可能になります。また、ストレージだけではなく、今後はデータの分析や管理もNASが活用されるようになるかもしれません。
IoTというキーワードが盛んに叫ばれていますが、例えばライフログ機能を持つ端末を装着した状態でランニングマシンに乗り、その心拍数や消費カロリーといったデータをNASに蓄積する。そして分析アプリを加えれば、健康管理などで生活に活かせるようになるでしょう。
ほかにもWi-Fiを通じてGPSのデータを逐次NASに転送するアプリができれば、子どもや老人が今どこにいるのかが地図上で把握できるようになるでしょう。QNAPではサードパーティ向けにSDKも公開しておりますので、他社が独自のソリューションを築くことが可能です。
――QTSへの顧客からのフィードバックはいかがでしょうか
[Richard氏]QTSに対してはかなりポジティブな意見が多いです。
特にネットワークマネジメント機能は好評でして、社内にプライベートクラウドを構築する際、ネットワーク構成によってはDDNSの設定が難しいのですが、QNAPではDDNSの先にフレームリレーサーバを置き、高確率で「繋がる」DDNSを提供できています。この点がSMBのお客さんから好評ですね。
――QTSはどのような背景から生まれたのでしょうか
[Richard氏]元々、カーネルとアプリケーションを分離することは業界のトレンドではありました。QNAPのQTSではネットワークとApp Centerという概念がコアを担っています。ただ、実際には作りこんでいくなかでカーネルコア、アプリレイヤーといった現在の形が生まれてきたといった方が正しいでしょう。
――なぜNASなのでしょうか。PCやスマホでもこうしたアプリによる機能追加は可能かと思いますがいかがでしょう
[Richard氏]PCで同様の機能を実現しようとした場合、まずOS・アプリがそれぞれ有料でコストがかかります。NASの場合はOSが含まれておりますし、アプリも無料のものが多く揃っています。こうしたコスト面がまずNAS向きと言えるでしょう。
次に、NASがそもそもストレージ用途に開発されているため、よりセキュアである点もメリットであると思います。外部から接続する際には暗号化処理を施しておりますし、LDAPやRadiusといった認証サーバを組み合わせることも可能です。
また、データの冗長性という点もNASの強みです。NASと言えばRAIDを構成でき、ホットスワップ機能で故障したHDDのみを簡単に交換し、復旧することができます。また、より信頼性を求める方には、拠点間バックアップや、サードパーティのクラウドサービスにバックアップすることも可能です。
信頼性という点ではほかにもあります。
(……と言いかけ、Richard氏は展示品のラックマウント型ストレージを持ち出し、分解し始める)
[Richard氏]このラックマウントタイプのNASは、ケーブルレスで設計されています。
サーバではHDDとポートをSATAケーブルで接続するのが一般的ですが、我々の製品はバスコネクタを用いることで、より簡単に管理することができます。ラックマウント用のラッチも特徴です。通常ならネジで固定するところですが、我々の製品はラッチ一発で簡単に引き出し、内部のメンテナンスができるよう設計されています。
TS-851も内部はケーブルマネジメントを徹底しています……
(……とこちらも分解が始まった)