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“SSD最古参”の「サンディスク」がついにリテール品発売、
「なぜ今なのか?」を聞いてみた

~実は「創業からSSDの会社」、目指すはシェアナンバー1~ text by 平澤寿康

 SDカードやコンパクトフラッシュなど、高品質メモリカードメーカーとしておなじみのサンディスクから、SATA接続のハイエンドSSD「Extreme Pro SSD」が発売された。

 同社は、メモリカードでは大きなシェアを獲得しているが、日本国内でリテール向けSSDを本格販売するのは今回が初めて。「サンディスクのSSDってどんな製品だろう」と思っている読者も多いだろう。

 そんな同社だが、実はOEM市場では黎明期からのSSDメーカー……というのは知っている人もいると思うが、その「黎明期」はなんと1991年、Windows 3.1よりもさらに前。しかも、その製品は世界で初めてフラッシュメモリベースで作られたSSDという。

 その「超老舗」が、なぜこのタイミングでリテール向けSSDを日本で販売することになったのか。またExtreme Pro SSDはどういった特徴のある製品なのか。サンディスクのプロダクトマーケティングマネージャーの長谷川史子氏に、その理由を聞いてきた。

実は「SSDの会社」として創立されたサンディスク「最高峰の製品」で国内リテール市場に参入

プロダクトマーケティングマネージャーの長谷川史子氏
1991年、フラッシュベースとしては世界初はSSDを発売したのがサンディスク
PCメーカー向けSSDでは非常に多くの実績があるという
フラッシュメモリの「信頼のブランド」と言えば同社を挙げる利用者が多いという

――フラッシュメモリの著名メーカーとして知られている御社ですが、なぜ今、日本市場でSSDのリテール販売に参入したのでしょうか?

[長谷川氏] 我々サンディスクは、世界トップ10のPCメーカーに対してOEMで数多くのSSD製品を提供してきた実績があります。

 日本ではSSD製品のリテール販売をしていなかったので、あまりイメージがないかと思いますが、OEMの分野では世界ナンバー2のシェアを獲得しています。

 そういった中、今回、「最高峰の新製品」と言える「Extreme Pro SSD」を世の中にお送りできるタイミングが整いましたので、満を持しての参入となりました。

――なるほど、メーカー製PCに御社のSSDが入っている、というのは昔から確かに多いですが、いつ頃からSSDに取り組まれているんでしょうか?

[長谷川氏] 実は、1988年の会社設立から「SSDに取り組む会社」だったりします。

 今でこそ我々は「メモリカードメーカー」というイメージが強いと思いますが、そもそもサンディスクが創業されたのは、創設者のひとりであるEli Harariが持っていた「HDDにとってかわる機器“システムフラッシュ”」を実現するためです。

 その後、1989年にリムーバブルフラッシュメモリストレージで磁気ディスクをエミュレートする特許を出願、1991年にIBMのThinkPad penの20MB 2.5インチHDDを置き換える世界初のフラッシュベースSSDを出荷しました。

 出荷したSSDは容量20MBで1,000ドル、という非常に高価なものでしたが、優れた信頼性を備えており、その後スペースシャトルのフライトレコーダーなど、高い信頼性が求められる用途にも利用されていました。また、フラッシュメモリチップには現在のSSDで主流のNAND型ではなくNOR型を採用していました。

 その後、カメラメーカーなどとも提携し、コンパクトフラッシュやSDカードなどのメモリカードにも注力。みなさんに知られている「サンディスク」のイメージができあがってきたと思っています。

 また、こうした進化にはNANDフラッシュメモリが大きなキーになっていますが、そうした進化も我々が主導してたという自負があります。

 例えば、NANDフラッシュメモリは低コスト化と大容量化を実現するために、SLCからMLC、TLCへと進化してきましたが、それらの開発は我々が主導しています。SSDやメモリカードなどのインターフェイスの標準化にも我々がリーダー的なポジションで関わっています。

――ということは、フラッシュメモリ自体の進化はもちろん、SSD、メモリカードなどフラッシュメモリを採用する製品の進化の節目には必ずサンディスクが存在していた、ということですね。

[長谷川氏] はい、そのとおりです。それだけの歴史がありますので、SSD製品についても強い自信を持っています。

 そして、2017年にはエンタープライズ向けSSDでシェア1位を獲得すべく、強い意志を持って取り組んでいます。もちろん、日本でのリテール向けSSD製品についても、同様に強い意志を持って取り組んでいく予定です。

――御社の、SSDでの、そしてフラッシュメモリ業界での(製品の)強みを教えてください

[長谷川氏] それはやはり、フラッシュメモリのメーカーとして非常に有利なポジションにいるという点です。

 フラッシュメモリに関する新しい技術の多くを我々が牽引して開発してきましたし、特許も多数保有しています。フラッシュメモリ、そしてSSDに関しては、どこよりも理解があると考えています。

 「フラッシュメモリ」という素材を良く知っていなければ良いSSDは作れません。我々は、非常に深い知識と経験があるからこそ、信頼性や性能に優れるSSD製品を送り出せる、と考えています。これが非常に大きな強みと言えるでしょう。

「長く使っても速度が落ちない」速度の速さと「+α」がウリ

Extreme Pro SSD(表)
Extreme Pro SSD(裏)
SSD最長の10年保証もウリとしている

――今回発売されたExtreme Pro SSDは、どういう特徴を持った製品でしょうか?

[長谷川氏] 「速度の限界に挑戦したこと」と、「長く使っても性能が落ちないこと」の2つが大きな特徴です。

 まず、最も大きな特徴と言えるのが、「長く使っても性能が落ちないこと」を実現する独自技術「nCache Pro」の採用です。

 SSDは長期間利用すると速度が低下していきますが、Extreme Pro SSDではnCache Proによって高速性能を長期間維持できます。「長期間一貫した高速性能を提供できる」というのが、弊社従来の製品はもちろん、競合製品に対する最大の優位点です。

 また、速度についてもSATA IIIのスピードの上限である600MB/sに限りなく限界に挑戦して、シーケンシャル、ランダムともにトップクラスの速度を実現しました。インターフェイス速度のほぼ上限ですので、「数字の大小」という点では他社との差は大きくないですが、nCache Proにより、高速な速度が長期間維持されますので、ユーザーに日々実感してもらえるのが大きいだろう、と考えています。

 とにかく今回、最もこだわったのが「nCache Pro」ですね。

 このほか、240GB、480GB、960GBと大容量の製品をラインナップしているという点や、10年間というSSD最長の保証期間、そしてその裏打ちとなる信頼性の高さ、というのも特徴です。


内部の基板を開けてみた
基板裏面
搭載しているNANDフラッシュメモリ。ウエハ製造は四日市で、チップのパッケージングは上海で行っているという
メモリーカードなどでも「四日市製造」をアピールしている

――Extreme Pro SSDに採用されているフラッシュメモリは、四日市工場で製造されたものとのことですが、このフラッシュメモリの特徴はどういった部分でしょうか。

[長谷川氏] 我々は常に最先端の技術を駆使してフラッシュメモリの開発や製造を行っています。

 現時点ではまだSSD製品に投入してはいませんが、3次元NANDも当然開発しています。「最先端の技術で開発、製造されている」という点が、四日市工場で製造されたフラッシュメモリの最大の特徴と言えます。

 ちなみに、四日市工場ではフラッシュメモリのウエハ製造までを行い、それ以降の工程は上海の自社工場で行っています。自社工場での厳しい品質検査や最終の製品に至る組立の工程も非常に重要で、これらトータルが我々のフラッシュメモリの大きなアピールポイントと考えています。

――コントローラとしてMarvell 9187を採用した理由を教えてください。

[長谷川氏] Marvell製コントローラは当社のSSD製品も含めて非常に多くの実績がありますので採用しました。

 実際の製品では、Marvell製コントローラに弊社が開発したファームウェアを搭載、そのファームウェアの力で最大のパフォーマンスを発揮する、という設計になっています。

 選択肢としては、コントローラの自社開発というのもありえますが、そこに注力するよりもファームウェアの改良に力を注いだ方がシステム全体のパフォーマンスを最大化できる、と考えています。

 「コントローラ上にどのようなファームウェアを搭載し、どのようなアルゴリズムで制御するか」という部分が重要なのです。

――消費電力の低さも特徴とのことですが。

[長谷川氏] 動作時の消費電力は、240GBモデルが0.13W、480GBと960GBモデルが0.15Wと非常に低くなっています。また、DEVSLPモードに対応しているという点も大きな特徴で、DEVSLPモードに移行すると5.5mWと非常に低い消費電力となります。

 当社のリテール向けSSD製品でDEVSLPモードに対応するのは、Extreme Pro SSDが初めてとなります。


――付属のソフトウェアに関して、何か特徴的なものはありますか。

[長谷川氏] Extreme Pro SSDでは、「サンディスク SSD Dashboard」というソフトウェアが利用できます。

 こちらはSSDのステータスをモニターするソフトウェアで、S.M.A.R.T.の情報をやSSDの寿命などを表示したり、TRIMの設定、ファームウェアの更新などが行えます。また、ディスククローンの作成やウイルススキャン、セフトリカバリーなど、サードパーティのソフトメーカーとの協業による機能も備えています。言語は17言語に対応しており、もちろん日本語も選択できます。

システムの詳細情報を表示
パフォーマンス変化の状況をモニタできる

nCacne ProはDRAMキャッシュとSLCキャッシュを上手に活用「ノウハウの固まりなんです」

nCache Proの解説
nCache Proの動作の模式図
他社製品の速度が落ちてしまうような長期テストでもほぼ変わらない速度を維持できるという

――nCache Proとはどのような技術なのでしょうか。

[長谷川氏] Extreme Pro SSDでは、データを書き込む場合、インターフェイスからDRAMキャッシュ、「SLCキャッシュ」を経て、最終的にMLC NANDフラッシュメモリに保存されます。このDRAMキャッシュ、SLCキャッシュ、MLCの3層構造になっているという点がExtreme Pro SSDの大きな特徴となります。

 PCでは、4KB以下の少容量のデータが多数書き込まれます。そういった小容量のデータをいかに効率良く、どのようなタイミングでMLCに転送し記録していくのか、という点がSSDにとって重要なキモでして、そのアルゴリズムやノウハウの固まりが「nCacne Pro」というわけです。

――nCacne Proでは、どのような流れでデータが書き込まれるのでしょうか?

[長谷川氏] ガベージコレクションやウェアレベリングを無駄が発生しないように効率良く実行しつつMLCに記録していく、という点が非常に大きな要素となります。

 具体的な仕組みはノウハウの固まりですので、データの判断方法やSLCキャッシュの容量など、細かい点は公開できないのですが、NANDフラッシュメモリの仕組みを知り尽くした我々だからこそ、と自負しています。我々は、NANDフラッシュメモリに関する特許を多数持っていますし、NANDフラッシュメモリの構造も知り尽くしていますので、効率のよいアルゴリズムが作り出せる、というわけです。

――では、なぜnCacne Proの採用によって、長期間速度が維持できるのですか。

[長谷川氏] これについては、テスト結果をごらん頂ければと思います。

 例えば、PCMark 8のストレージテストに「Consistency Test」というものがあります。このテストは、ストレージに長期間負荷を加えた場合の速度の変化を計測するテストです。

 テスト結果を見ますと、当社の従来製品や他社製品と比べて、長期間利用しても速度が低下せずに一貫したスピードが維持されていることがわかります。技術の詳細をご説明できれば良かったのですが、公開できない技術が多々ありますので、実際の結果を見て判断していただくのがいちばんわかりやすいと思います。

――書き込まれるデータは、全てSLCキャッシュを経由して書き込まれることになるのですか。

[長谷川氏]  nCache Proは、Windowsなどで使われる小容量データを効率よく書き込むための技術ですので、データによっては、DRAMキャッシュからSLCキャッシュを経由せず直接MLCに書き込まれます。

――採用しているNANDフラッシュメモリは、nCacne Proを実現するための特殊なものなのでしょうか。

[長谷川氏] SSDの性能を実現するために最適な仕様のものを選りすぐって利用しています。

「やるからにはナンバー1を」店頭キャンペーンなども計画中

――今回、Extreme Pro SSDはSATAインターフェイスの製品として発売されましたが、今後mSATAやM.2など、その他のインターフェイスを採用するSSD製品を投入する予定はありますか。

[長谷川氏] mSATAやM.2の製品は、既にOEM向けで色々出荷していますし、エンタープライズ向けでは、SASインターフェイス対応製品やPCI Express拡張カード型、容量4TBの製品などを供給しています。

 ただ、「リテール向け」という意味では、まだまだSATAに比べて市場規模が小さいので、市場の動向を見極めつつ、適切な時期を検討していきたいと思っています。

――エンタープライズ向けで展開している、Ultra DIMM対応製品やPCI Express拡張カード製品をコンシューマ向けとして販売する可能性はありますか?

[長谷川氏] Ultra DIMMについては、さすがにコンシューマ向けとして発売する予定はありません。PCI Expressは今後の市場動向にもよりますが、現時点では予定はありません。

――今回は、フラッグシップモデルの投入となりましたが、今後より安価な下位グレードの製品を投入する予定はありますか。

[長谷川氏] 北米市場では、すでに安価な下位製品を展開しています。具体的なスケジュールについてはまだ決まっていませんが、今後適切なタイミングでそれら下位の製品も日本に投入する可能性は十分にあると思います。今後の発表をお待ちいただければと思います。

――最後に、日本市場でのSSD製品の取り組みについての意気込みを教えてください。

[長谷川氏] せっかく参入したのですから、当然ナンバー1を目指してやっていく意気込みです。

 OEM市場ではいいポジションを確保しているので、リテールでもその位置を確保するというのが直近の目標です。

 そのために、まずは販売店様に対してSSD製品をしっかり説明していく予定です。また、それを皮切りに、店頭キャンペーンなど一般ユーザー様向けのイベントも多数考えていますので、楽しみにお待ちいただければと思います。

平澤 寿康