特集、その他
「Windowsタブレットの自作」もOK?
大容量版のスティック型PCをチェックしてみた
マウスコンピューター「MS-NH1-64G」レビュー text by 石川ひさよし
(2015/4/13 00:00)
2014年、新たなPCジャンルとして登場したスティック型PC。
その先駆けとして登場したのがマウスコンピューターの「m-Stick」シリーズで、最近は他社からもスティック型PCが登場、同社も冷却ファン付きの新モデルを出すなど盛り上がってきているが、実はストレージ容量64GBの「大容量品」は今のところ同社が3月に発売した「MS-NH1-64G」だけだ。
今回、その「MS-NH1-64G」をお借りすることが出来たので、その使い勝手や可能性を検証してみた。
ちなみに、こうした製品は、その活用法を考えてみるのも楽しいもの。今回は、タッチ液晶とモバイルバッテリーを組み合わせた「タブレット要素を集めたPC」としての検証もやってみた。筐体までは組み上げていないが、果たしてその使い勝手はどうなるか、気になる方は是非ご覧頂きたい。
「容量2倍」のスティック型PCHDMIに直挿し、USB給電で動作可能
そもそものおさらいをしておくと「スティック型PC」とは、「ディスプレイやテレビのHDMI入力端子に本体を直接挿して利用できるWindows PC」だ。
似たようなコンセプトのAndroid搭載品は既にあったので、使い方のイメージはできると思うが、従来は、ARM系CPUを搭載したAndroid製品が中心だったものが、最新世代のAtomにより、Windows 8.1のPCでも可能になった、というわけだ。
今回のMS-NH1-64Gは、マウスコンピューターの初代モデル「MS-NH1」(ストレージ32GB)のストレージ容量を倍増させた製品で、そのほかの仕様は従来同様。そのため仕様についてはざっと紹介しよう。
CPUはAtom Z3735F(クアッドコア、1.33GHz)で、GPUはCPUに統合されたIntel HD Graphicsを利用する。いわゆるBay Trailタブレットと同じスペックであり、そうした製品に触れたことがある方なら、使用感や用途についても想像できるだろう。メモリは2GB(PC3-10600、DDR3L SDRAM)、ストレージはeMMC接続となる。こうした部分もタブレット製品に準ずる。このほか、無線機能としてIEEE802.11b/g/n及びBluetooth 4.0に対応している。
インターフェースは、電源ボタンとHDMI、USB 2.0、電源としてのmicro USB、microSDXCカードリーダーを搭載している。USB 2.0端子は一般的なA端子であるため、OTGケーブルを必要とせず、様々な機器が接続できる。
サイズは100×38×9.8mm(端子部分を含まず)で、重量は約44g。
言ってみれば「ディスプレイパネルやバッテリーを排したタブレット」で、「究極の小型PC」とも言える。
普通に使うなら、ディスプレイや入力デバイスは別途必要になるが、ここまで小さいと、従来の概念を超えた様々な用途が検討できるようになる。出先にHDMI入力に対応したテレビやディスプレイがあれば、そこに自分のPC環境を構築できるため、ビジネスはもちろん、出張用のPC、実家に帰省した際のPCといった具合で活用できる。
なお、製品にはUSB電源アダプタとmicroUSBケーブル、長さ20cm程度のHDMI延長ケーブルなどが付属する。このほかに必要となるのは、テレビやディスプレイなどのHDMI端子を備えた表示機器、キーボードやマウスなどの入力デバイスなどとなる。
基本的な使い方は、ディスプレイ側のHDMI端子に本製品を接続し、micro USBケーブルで電源を供給するというもの。ネットワークは基本的に無線LANを使うことになり、キーボードやマウスもBluetooth接続がメインだろう。
USB端子が1基あるが、LANやキーボード、マウスでこれを塞いでしまうのはキビシイ。実用性重視ならUSBハブを用意するのが良いだろう。キーボードやマウス程度であればバスパワータイプも可能と考えられるが、本体のUSB電力もハブから供給できると考えれば、セルフパワーUSBハブのほうが適していると言えるかもしれない。
性能はBayTrailタブレットとほぼ同じウェブや映像視聴といった用途を限定した使い方がベスト
さて、それでは簡単なベンチマークを計測しておこう。
性能面はこのようなところ。
Bay Trailタブレットとほぼ同じ仕様なので、スコアの低さは予想されたことだ。よって、ガンガン使い倒すPCというよりは、ウェブやメール、映像視聴などに用途を限定し、プライベートルームでのセカンドPCやリビングでのテレビ接続用PCとして活用するのがベストだと思われる。
実際に試用してみて、まずまず好感触だったのは映像視聴だ。フルHDのmp4ファイルなどはコマ落ちせず再生できるので、YouTubeなどの動画サイトの視聴マシンとしては存分に活用できる。
もちろんテレビにもYouTube視聴機能のついた製品が多くあるが、スティック型PCのメリットは、買い換えコストが抑えられる点や、全般的なレスポンスがテレビ用SoCよりも良い点、さらに汎用PCであるため閲覧できるWebサイトに制限がなく、ブラウザ以外のアプリケーションも活用できる点などがある。サイト側さえ対応していれば、ダウンロードしてから後でゆっくり楽しむといったことができる。
また、操作系がリモコン対キーボードという違いも、スティック型PCのキーボードのほうが目的のサイトに素早く、入力ミスが少なくアクセスできる点で優れていると言えるだろう。
高負荷時の温度は高め、USB扇風機などを併用するのも一つの手
なお、ベンチマークのテスト中に気になった点がある。それは本体の温度だ。MS-NH1-64Gはスティックサイズの大きさに全てを詰め込み、さらにファンレスを実現しているため、高負荷時はかなり温度が上昇する傾向にある。
PCMark 8のログを見ると、ウェブブラウジングやビジネスソフトといった処理中はGPUが65℃、CPUは70℃前後となり、さらにグラフィックステスト中はGPUが75℃近く、CPUが80℃近くに達し、パフォーマンスが制限されている節も見られる。
今回のように、ベンチマークなどで長時間の高負荷をかけなければここまで高くはならない(とはいえそこそこ熱い!)ので、一般的な運用範囲に留めれば心配ない。ただ、テレビの裏のように狭く、エアフローの悪い場所に挿す場合、特にこれから夏を迎える時期は、それなりに気を使う必要があるだろう。USBハブを用いるのであれば、USB扇風機、USB対応のPC用ファンなどを併用するのもよい。
こうした点を考慮してか、先日、ファン付きのスティック型PC「MS-PS01F」が同社からリリースされた。小さなファンであるが、安心をとるならこちらの選択肢もよいだろう。ただ、テレビの裏にはホコリがたまりやすいので、ファンにホコリがつまらないよう、こまめな掃除を推奨する。
「64GB」なら安心感アリ
このほか、MS-NH1-64Gならではの点で気づくのは、ベンチマークする際にストレージの空き容量が気にならなかったことがある。
ストレージが32GBのBay Trailタブレットなどの検証では、ベンチマークプログラムをインストールする際に空き容量を常に気にする必要があった。32GBモデルでは、インストールファイルをNASに置いたまま、そこからインストールするといった状況もあったが、64GBあれば一度コピーした後にローカルでインストールするだけの余裕がある。
これは一般用途でも重要なところだろう。microSDカードなどにデータファイルを逃がすことができるとはいえ、アプリケーションはシステムドライブ側にインストールするであろう。また、データファイルのなかでも重要なファイルはシステムドライブ側に保存したいというニーズもあると思う。もちろん64GBというのは一般的なPCとして見れば少ないが、それでも32GBと比べればずいぶん余裕が生まれるものである。
スティック型PCには「HDMI中継アダプタ」が便利
ここからはMS-NH1-64Gを使っていて気づいた点をいくつか紹介していこう。まずはHDMI端子とのフィッティングについてだ。
MS-NH1-64Gをテレビに繋いで感じたのは、「L型HDMI中継アダプタ」を活用すると便利という点。まずスペースの問題から説明しよう。液晶テレビでは、HDMI端子をパネルに対し垂直向きにレイアウトしているものが多い。ここにスティック型PCを挿すと、後ろに大きく突き出る格好となるのだ。
リビング置きのテレビなどでは、スペースを広く取るために「壁寄せ」が好まれる。小型とはいえ長さ10cm程度あるスティック型PCは、この壁寄せの際の大きな障害となりうる。L型HDMI中継アダプタは、HDMI端子の向きを90度曲げることができるので、これを利用して上下、つまりパネルと水平にスティック型PCをレイアウトできれば、かなり壁に寄せることができる。
また、L型HDMI中継アダプタは、スティック型PCが隣接する端子まで塞いでしまう問題の解決にもなる。スティック型PCは、小さいとはいえ4cm程度の幅があり、そのためHDMI端子が2つ、横並びに並んでいる場合に、隣接する端子を塞いでしまうのだ。L型HDMI中継アダプタは、角度を曲げるとともに、HDMI入力端子の位置が1cm程度シフトする。そのため、隣接する端子を塞がずに済むわけだ。
ただし、これがPC向けの液晶ディスプレイとなると話が変わる。パネルに対し垂直型のHDMI端子が多いテレビに対し、ディスプレイはこれが水平、とくにパネル下部にレイアウトされる製品が多い。
まず直挿しの場合に問題になるのは、ディスプレイ下部から机面とのスペースだ。ディスプレイ下部と机の間に10~15cm程度のスペースがあれば、挿すことは可能だ。しかし、そこまでパネル位置を上げてしまうと、上向きにパネルを見なければならなくなって首に負担がかかることもある。
また、液晶ディスプレイでも隣接端子を塞いでしまう問題は変わらない。とくに、メインとなるPCがある上で、スティック型PCをHDMI端子に挿そうという際は深刻だ。ディスプレイの映像入力端子は、複数種が横並びにレイアウトされることが多いためだ。
加えて、液晶ディスプレイの場合には、L型HDMI中継アダプタでパネルに対し垂直方向に逃がそうとしても、今度はスタンドと干渉することがある。いろいろと試した結果、液晶ディスプレイにスティック型PCを接続する場合は、HDMI延長ケーブルを用いるのが最適だろうという結論になった。ただ、製品付属のHDMI延長ケーブルは20cm程度しかなく、実際に使うとやや短いため、0.5~1m程度のHDMI延長ケーブルを用意するとよいだろう。
「自作タブレット」の可能性(?)も検証してみた
さて、最後に検証してみたのが「自作タブレット」(の可能性)だ。
そもそも、USB駆動ができるMS-NH1-64Gは、モバイルバッテリー駆動も可能そうだ。試しにUSB用電力計で電流を計測してみたところ、電圧5V弱で最大1.4A程度。最近のモバイルバッテリーは、5V2Aの出力に対応してるものもあり、電力的には十分間に合う。
また、ディスプレイもUSBバスパワーで動くタッチパネル付き液晶を使えば良いだろう。
そこで今回は、モバイルバッテリーに容量16,000mAhのAnker「Astro E5」を、ディスプレイにGechic「On-Lap 1002」を用意。
このモバイルバッテリーならば容量的にも問題ないはず(実際、ベンチマークテストで負荷をかけても問題なかった)だし、このモバイルディスプレイなら、microUSB駆動とともに、10点マルチタッチも利用でき、MS-NH1-64Gと組み合わせることで「限りなくタブレットの仕様に近いゴテゴテしたPC」が実現するはずだ。
……そんな具合でこれらを繋いでみたのが次の写真。
ちなみに、Astro E5側にはUSB A端子が2つあり、供給可能な電力は合わせて3Aだ。
先の電力測定から、1.5A程度必要と分かっていたため、ディスプレイ側も1.5A程度に収まれば十分だ。都合のよいことに、Astro E5にはPowerIQテクノロジが搭載されており、自動的に最適な電力を供給できる。
ただし、興味深いことに、Astro E5にMS-NH1-64Gを接続し電力計で測ったところ、5V強で0.75A程度が最大だった。つまり、テレビ接続時の計測よりも低く出たのである。使用したケーブルの品質や、5Vラインの電圧の強弱が影響したのではと思うのだが、ここまで低ければモバイルディスプレイ側の電力も十分に余裕があると考えられる。
上記の配線に要したケーブルについてだが、USB A端子オス→micro USBケーブルが3本、そしてHDMIメス→microHDMIケーブルが1本となっている。USBケーブルの配線がやや煩雑となるので詳しく説明していこう。
まず、Astro E5の一つ目のUSB A端子からは、MS-NH1-64Gへと接続する。これは本体の駆動のためだ。二つ目のA端子からは、On-Lap 1002へと接続する。こちらはディスプレイに電力を供給している。そして3本目のUSBケーブルは、MS-NH1-64GとOn-Lap 1002間をつなぎ、タッチ機能を有効化するためのものだ。
いちおう、Astro E5からOn-Lap 1002へのUSBケーブルは省略しても構わない。MS-NH1-64GからOn-Lap 1002へのタッチ用USBケーブルからでも給電が間に合うようだ。ただし、動作検証中、タッチ操作が時折やや不安定になるようだったので、そのような心配がある場合は繋いでおくのが無難だろう。
「ガワ」を自作すれば可能性は無限大?
さて、ほぼタブレットと同機能のPCが実現したわけだが、どうしても同等といかないところはある。
まずはOS側でのバッテリー残量表示だ。タブレットでは、OSとバッテリー間で通信し、残量を確認できるのだが、個別の部品で構成した今回のPCではそうもいかない。ただし、モバイルバッテリーには一般的に残量のインジケータが付いているので、気休め程度の目安にはなる。
もうひとつはディスプレイの輝度調節だ。ここもタブレットではOSとディスプレイパネルが通信し、調節を可能としているのだが、個別の製品で組み上げる場合は、ディスプレイ側で調節するしかない。ただし、ディスプレイをハードウェア制御するほうが、都合のよい場合もあるだろう。例えば、OS側で制御するとかなりおおまかに10段階程度で輝度調節することになるが、ディスプレイ側での調節はもっと柔軟に行える。
なお、Windowsエクスペリエンスインデックスを計測する場合、バッテリー駆動ではWinSAT.exeを実行できないのだが、今回の構成では実行できてしまう。要はPC側としてはデスクトップPC同様、電源に接続している認識なのだ。
こうしたモバイルバッテリー駆動は、デメリットもありメリットもある。まあ、ここまでゴテゴテした擬似タブレットを持ち運ぶメリットは「まったく」ないのだが、ガワさえ自作すれば恐るべき「タブレット」ができてしまう可能性もある。ネタを追い求める方は、こんなものも動いた、こんなことも実現したといった具合で、果敢にチャレンジしていただきたい。