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ASUSに聞く「USB 3.1、そのこだわりと設計ポイント」

「USB 3.1はとてもシビア、OCノウハウも活かして設計」 text by 石川ひさよし

 COMPUTEX TAIPEI 2015のASUSブース、マザーボード関連で特に力が入っていた展示の一つが「USB 3.1」だ。

 利用者の視点で見ると、つい「当たり前」のように考えてしまうUSB 3.1だが、設計/製造者の視点で見ると「10Gbps」という高速化で様々な課題が出てきており、それをユーザーに感じさせないよう、同社独自の様々な工夫を行っているという。

 そこで、USB 3.1に対する同社の考え方と、回路設計のこだわりをお聞きしてきた。お話をお伺いしたのは、マザーボードを担当するDavid Yao氏だ。

10GbpsのUSB 3.1信号は「とてもシビア」オーバークロックマザーのノウハウも活かす


David Yao氏
ASUSではすでにIntel X99、Z97チップセット搭載マザーボードでUSB 3.1対応モデルを展開中

――ASUSは、USB 3.0の際も新しいインターフェースを積極的に採用しており、今回のUSB 3.1も同じ姿勢に思えます。

[David氏]はい、現在Intel X99およびIntel Z97マザーボードでUSB 3.1対応モデルを展開していますが、姿勢として、やはり新しいインターフェイスは積極的に採用していきたい、と考えています。

 高速なデジタル信号についてはオーバークロックで得たノウハウもあるので、技術的な意味でも、他社に比べてアドバンテージがある、と思っています。

――採用されているるUSB 3.1チップはどちらのメーカーでしょうか?

[David氏]チップはASMediaの「ASM1142」です。このチップはPCI Express Gen2 x2で接続されており、USB 3.1の転送速度をカバーできることに加え、最大2ポート実装することが可能です。

写真は次世代チップセット搭載のUSB 3.1対応マザー「Z170-PRO」
Intel X99チップセットを搭載する「X99-PRO/USB 3.1」も、バックパネルのUSB 3.1ポートはType-Aのみ

ハイエンドマザーにはUSB 3.1 Type-Cを2ポート搭載した5インチベイアクセサリ「USB 3.1 UPD PANEL」をバンドル。Power Delivery 2.0対応で100Wまでの給電が可能だ

――USB 3.1コネクタはどのように実装していますか?

[David氏]USB 3.1コネクタは、背面バックパネルでのType-Aコネクタを中心に搭載し、ハイエンドモデルではType-Cコネクタをケース前面から利用できるベイアクセサリをバンドルいたします。

 こうした方針は、まず現状、Type-C直結のデバイスよりもType-A直結のデバイスの方が多いことと、PCケースのUSBコネクタがUSB 3.0対応ばかりのため、PCケースにつける(=ベイアクセサリ)のであればType-Cがいいだろう、という判断です。

 なお、こちらのベイアクセサリは、マザーボードのSATA Expressに接続する方法を採用しています。SATA ExpressにはPCI Express信号が流せますので、ベイアクセサリ上のUSB 3.1チップまではPCI Express接続を利用しています。


USB 3.1対応PCI Expressカードとしても展開している
mSATA SSD×2基を内蔵し、USB 3.1に変換、接続できるストレージケース。


ボード上には「USB 3.1用」のピンヘッダは存在しない。後ろのSATA ExpressにUSB 3.1 Type-Cベイアクセサリを接続する
USB 3.1ケーブルをケース内部で取り回すと、その分、ケース外で利用できるケーブル長が短くなってしまう。そこで、SATA Express接続で、フロントベイまでPCI Express接続するという方法がベストというわけだ
会場ではType-Cを背面に搭載したモデルも展示されていた

――回りくどいやり方に見えますが、どうしてこのような手法をとられたのでしょうか。従来同様にピンヘッダでの対応や、延長ケーブルで前部に引き回すようなことはできなかったのでしょうか。

[David氏]USB 3.1は、マザーボード上のピンヘッダから引き回すようなことができません。「10Gbps」という高速な転送速度に対応するピンヘッダがまだ存在しないためです。

 また、USB 3.1ケーブルはとてもシビアで、最高の転送速度を利用したい場合、ケーブル長は最大1m程度までなのですが、「ピンヘッダからケース前面まで」でも、1mのうちある程度を使ってしまいます。ピンヘッダ経由、あるいは延長ケーブル的な手法を使うと、フロントパネルから先で利用できるケーブル長が短くなってしまいますし、利用出来たとしても十分な速度が出なくなってしまいます。

 特にバックパネルからですと、さらに長いケーブルが必要となり、信号品質はさらに悪化してしまいます。

 結局、高速転送できる信号品質を維持し、かつフロントパネルで利便性を向上させようとすれば、可能な限りPCI Express信号を利用するのが、理にかなっているわけです。

――フロントアクセサリベイの設計だけでこれだけ大変ですと、マザーボード上のUSB 3.1チップの実装についても苦労されたのではないでしょうか。

[David氏]USB 3.1は速度重視の規格です。USB 3.1対応マザーボードの設計に際し、まず第一にUSB 3.1まわりを設計することから始めました。そのほかの回路は、USB 3.1の回路が完成してからレイアウトしていく形式をとっています。

 われわれが独自に検証したところ、チップとバックパネルのコネクタはおよそ2インチ以内にしないと速度が落ちたり信号エラーが生じてしまうことが分かりました。また、チップ周辺もきれいに設計しないと、ノイズが乗ってしまい、動作の安定性に影響を与えることが分かりました。

 この「きれい」というところがまさにノウハウで、オーバークロック製品を含む、様々な製品を設計してきたノウハウが活かせている、と思っています。

USB 3.1のチップメーカー、デバイスメーカー各社と密に連係

ASUSブースに展示されていたADATAのUSB 3.1 Type-C対応SSD。USB 3.1対応デバイスメーカーと共同で検証を重ねているとのこと
PQIのUSB 3.1 Type-C対応アクセサリ。USBハブやUSBメモリといった機器でも接続確認をしているという
USB 3.1対応マザーボードの例。型番に「/U3.1」とついている

――ASUSブースにはASUS製品とともに各社のUSB 3.1デバイスが展示されておりましたが、こちらはどのような意図がおありでしょうか。

[David氏]ASUSでは、ASMediaと協業し、ハードウェアでのアドバンテージを積み重ね、そしてソフトウェアでもチューニングを行なっています。また、USB 3.1対応デバイスを製造するメーカー各社とも連携し、互換性テストを実施しています。

 そうした検証の上で、マザーボードにはUSB 3.1 Certifiedロゴを付して展開します。ASUSでは、USB 3.1に際し「完璧な備え」を整え、最高のパフォーマンスで安心して使えるマザーボードをユーザーのみなさまにご提供いたします。

――USB 3.1が乗るマザーの見分け方はありますか。

[David氏]USB 3.1対応モデルは、パッケージのUSB 3.1シールに加え、製品型番にも「/U3.1」を付けることで分かりやすくしております。

 およそハイエンドモデルにはすべて、一方でローエンドセグメントにも搭載するモデルを今後展開することになるでしょう。チップセットでは、Zには確実に、BやHのチップセットについてもハイエンドモデルを中心に搭載することになると思います。Qチップセットはチームが異なるために私からはお答えできませんが、基本的に各チップセットで1モデルは必ず搭載することになると思います。

今後は「外部デバイス」も高速化日本国内でも「USB 3.1連動キャンペーン」を実施

――USB 3.1の普及についてはいかがお考えでしょうか。

[David氏]USB 3.1の「10Gbps」という速度は、従来「PCケース内」で使われてきた速度ですが、USB 3.1が出たことで、こうした速度が「PCケース外」にも広がっていくことになります。

 しかし我々には、オーバークロックでの豊富なノウハウがあり、そうした時代にも十分対応できるのが強みです。設計のまずいUSB 3.1では信号品質の低下で速度が落ちる、といったことがおきやすくなるはずですが、我々はベストの設計、ベストの製造で信号品質の良いUSB 3.1環境を提供していきます。

 また、マーケティング面でも「USB 3.1」をキーに弊社製品の魅力を伝えて参ります。日本では、7月からマザーボード購入で、USB 3.1のHDDケースが当たるキャンペーン(*1)を行うと聞いています。ぜひこの機会に、USB 3.1対応の弊社製品の魅力に触れていただきたいですね。

*1 7月1日から7月31日までの応募期間で開始されている

[制作協力:ASUS]

石川 ひさよし