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NASに新風? 5年目を迎えるASUSTOR NASの「オリジナリティ」を聞く
全てIntel CPU搭載、「DSD USB DAC対応」のいきさつも… text by 石川ひさよし
(2015/8/4 12:15)
「NAS」と言うと、ネットワーク接続型HDDとも訳されるように、HDDを既に搭載した状態で販売されているものを想像する人も多いだろう。
しかし、海外メーカーによる「NAS」は、「容量や使い方を自由に選べる」というコンセプトのもと、HDDが別売になっているものがほとんどだ。現在の有名どころとしてはQNAPやSynologyがあるが、今回紹介するASUSTORは、「ASUSTeKのNAS」として、急速に存在感を増しつつあるメーカー。
今回、ASUSTORの営業部リーダーであるAllen Yen氏(以下、Allen氏)、ASUSTOR製品を扱う国内代理店ユニスターの第2営業部課長 NASサーバー統括である越沼哲史氏にお話をうかがった。
ASUSTOR = ASUS+Storage
――ASUSTORの歴史について教えてください
[Allen氏]ASUSTORのチェアマンはASUSTeKの会長であるJonny Shih氏、CEOはShawn Shu氏が務めており、社名そのものも「ASUS Storage」から来たネーミングです。設立は2011年8月1日で、まだ若いメーカーです。
Shawn Shu氏はもともとASUSTeKのサーバ部門のセールスリーダーでして、その後SynologyやQNAPといった現在名だたるNASメーカーを経て、ASUSTORのCEOとなりました。ほか、社員もASUSTeKはもちろん、QNAPやSynology、InfortrendといったNASメーカーの出身者を多く集めています。
ちなみに、ASUS(ASUSTeK)は「エイスース」という呼び名になりましたが、ASUSTORは「アサスター」と読んでいます。以前はASUSも呼び名を統一おらず、アサスやアスースといったように自由に呼んでいました。しかし2012年にASUSが呼び名を統一したわけです。エイスースという呼び名は、ASUSグループで現在製品の製造を手がける「Pegatron」がペガサス(英語読みではペガスス)からもじった名前であるため、ASUSの「SUS」の部分は「スス」と読み、そこに「A」(エイ)を付けたわけです。一方、ASUSTORの場合、エイスースターでは欧米でもまどろっこしいため、従来どおり「アサスター」と呼んでいます。
――なぜASUSTeKがNASを作ろうということになったのでしょうか
[Allen氏]親会社であるASUSTeKは、マザーボードやビデオカード、ノートPCやモバイルデバイスなど幅広い製品を扱っています。こうしたデバイスを繋ぐ役割を担うのがデータストレージです。また、ASUSTeKの製品、サービスのほとんどはWindows向けに展開されています。NASは、さらに多くのOSからアクセスできるデバイスです。ASUSTORのNASはASUSTeKの製品を幅広くサポートできる製品なのです。
――5年目を迎えたASUSTORですが、この間、変わったこと、変わらなかったことなどお聞かせください
[Allen氏]「NASメーカー」というという点では変わりありません。ただし、製品レベルで見ればハードウェア、ソフトウェアともに当初から比べ進化し続けています。
とくにソフトウェアでは、4年前ですと「まずNASとしての基本、Sambaで接続できること」が第一に求められていました。しかし、今では家庭に1台NASが浸透してきたような時代です。より簡単に管理、接続できること、さらにスマートホンやタブレットなど様々なデバイスが接続できることが求められる時代になりました。
そして、製品ラインナップも、エントリーレベルからハイエンドまで揃いました。
現ラインナップの全てがIntel CPU搭載パワーを活かしたマルチメディア機能やメタルケース、HDMIなどもウリ
――ASUSTORの最も得意とするセグメントはどのあたりになるのでしょうか
[Allen氏]ターゲットセグメントは国や地域毎に異なります。例えば、新興国ではまだネットワークが安定しているとは言えませんので、個人やSOHOなどはまだ難しい。大企業向け製品が中心になります。
一方、先進国ではネットワーク帯域も安定していて太い。そしてモバイルデバイスも浸透していることから、個人、SOHO向け製品のパイも大きいわけです。ただし、日本に関して言えば、日本国内の周辺機器メーカーのシェアが大きいことが特徴です。ASUSTORとしては、マルチメディアや音楽など、アプリケーション面で差別化を図っていきたいと考えています。
――シェアという言葉が出ましたが、ASUSTORは世界的に見てどのようなポジションにあるのでしょうか
[Allen氏]ASUSTORは設立間もないメーカーですので、グローバルで見ればまだ小さな存在です。SANやDASのようなエンタープライズセグメントには製品を展開していませんので、シェアを測るのは難しいのですが、ミドルセグメントに限ってみれば、QNAPやSynologyといったNAS専業メーカーに次ぐナンバー3のポジションに成長いたしました。
また、世界で見ると、いくつかの地域ではナンバー2にかぎりなく近いところまで健闘しています。
――ASUSTORのNASの特徴について教えてください
[Allen氏]ASUSTORのNASは、今のところ、全てIntel製CPUを搭載した製品です。これはパフォーマンスという点で大きなアドバンテージになります。
例えば、より低コストな製品を作ろうとした場合、多くのNASメーカーではARMやMIPSなどのCPUを使います。我々はそれと同じ価格帯の製品を、Intel CPUを搭載して提供することができます。
また、HDMIをNASに搭載したのはおそらく我々が初めてだと思います。ほかにもUSB 3.0やUSB 2.0、eSATAといったストレージ機器を接続できるインターフェースや、「AS 5シリーズ」や「AS 7シリーズ」ではS/PDIFインターフェースも搭載しております。こうした多種多様なインターフェースを搭載することで、NASのできることを拡大することができます。
ハードウェア面ではメタルケースの採用も特徴です。樹脂筐体と比べ、コストは増えてしまいますが、放熱効果が高く、2基のファンが必要なところを1基のファンで賄うことができます。また、そのファンも、大口径のものを搭載できるので、回転数を抑えることで、動作音を抑えることができます。冷却という点では、安定性の向上にもつながります。
ソフトウェア面では、先にアプリケーションで差別化を図ると紹介しましたが、その核となる技術として「ASUSTOR Data Master(ADM)」を採用しています。ADMは、NASのOSです。グラフィカルでマルチタスクで、ユーザーが自由にアプリケーションを追加することが可能となっています。
NAS管理OS「ADM」でNASを様々にカスタマイズ、スマホだけでも初期設定可DSD対応のオーディオプレイヤーからメディアサーバ、eコマース、掲示板まで……
――ADMについて少し詳しく教えて下さい
[Allen氏]ADMは、Webブラウザ上、あるいはHDMI接続されたローカル環境から操作できるOSで、操作方法はiPadのような感覚をイメージして作りました。
NASの各種設定をグラフィカルなUI上から直感的に操作できるとともに、ASUSTORのNASで動作するアプリを、「App Central」いうカタログアプリから簡単に追加できます。
ホームユーザーなら様々なマルチメディアアプリを、企業ユーザーではビジネスアプリを追加でき、ユーザーが思うNASへと最適化していくことが可能です。具体的には、ホームユーザーならメディアプレイヤーやメディアサーバー、ダウンローダー、企業ユーザーであればeコマースシステムやバックアップ、コンテンツ管理システム、掲示板、プロジェクト管理など、様々なアプリを利用できます。
我々が提供するのはあくまでミニマムな環境です。最初から様々な機能がドサッと入っているような製品とは異なり、必要な機能のみを選りすぐっていくことができます。
そして、これは重要なことですが、アプリケーションとファームウェアは切り離されています。そのため、「ファームウェアのアップデートによって、アプリが使えなくなる」といったことがなく、安心してお使いいただけます。
――日本市場のユーザーに、これはオススメという機能はありますか
[Allen氏]日本のユーザーは音楽やビデオでも高品質を求めるニーズが強くあります。そうした高品質な音楽、ビデオのファイルは、ファイルサイズも大きくなる傾向にあります。そうした大容量データを取り扱うという点で、NASが最適なデバイスと言えます。そこで、我々は日本市場向けにスペシャルな機能を提供することにしました。それがハイレゾプレーヤー機能や4K~フルHD映像を直接出力できる機能です。
まず、ハイレゾプレイヤー機能は専用プレイヤーとUSB DACを組み合わせることで利用できるものですが、この新機能を搭載するにあたり、人気の高いUSB DACを調査、iFiのmicro iDSDというDSDではメジャーな製品に対応させています。
また、4K出力については、COMPUTEX TAIPEI 2015に合わせて発表しましたミドルレンジモデル「AS 61シリーズ」は、HDMI端子を搭載し、4K~フルHD映像出力をサポートしました。既にリリース済みの上位モデル「AS 7シリーズ」でもHDMI出力と4K~フルHD映像出力をサポートしています。AS 7シリーズはCPUにCore i3を採用したハイエンドモデルとなりますが、AS 61シリーズはAtom(Braswell)を採用することで低コスト化を実現しています。こうした4K映像出力をサポートできるのも、パワフルなIntel CPUを使うメリットと言えます。
[越沼氏]ハイレゾプレーヤー機能は、元々ユニスター自体がDSD再生機能に力を入れておりまして、このDSDが盛り上がってきたタイミングでAllen氏に話したところ、直ぐにアプリを作成してくれたというのが背景です。
音源メーカーやショップに持ち込みヒアリングしたところ、これが好評でして、じゃあしっかり作りこんでみようという話になりました。PCを介さず、DAC直結でDSDを再生できるNASはオーディオ特化型のNASが僅かにある程度で、さらにDSD11.2MHz音源を直接再生出来る製品はASUSTOR製品が唯一だと思います。
[Allen氏]また、日本ではPCよりもスマートホンやタブレットのほうが普及していると聞きます。そこで、「AiMaster」の最新アプリでは、PCレスでNASの各種設定を可能としました。
ネットワークに接続されたスマートフォンやタブレットがあれば、PCレスで初期設定し、そのままスマートフォンやタブレットの対応アプリでNASを活用する、といったことが可能です。スマートフォンやタブレットの記録容量は小さいですから、NASと組み合わせることで非常に便利になると自負しています。ちなみに、このアイデアは日本市場発のものですね。
ほか、IRレシーバーを搭載しておりますので、リモコン操作ができるのもASUSTORのNASの特徴です。HDMI出力と合わせて、ディスプレイやテレビをインターフェースに、NASをより手軽に、多機能に使いこなすことが可能です。
また、日本ではクラウドも普及しています。Microsoftのアプリケーションも人気で、OneDriveの1TBサービスの利用者も多いと聞いています。そこで、こうしたクラウドとシンクする機能を提供しています。自宅のNASとクラウドとがシンクすることで、より様々な環境でデータを共有することが可能になります。
「ASUSTORでしか実現できない機能」がある
――ユニスターから見たASUSTORの特徴とはどのようなところでしょう
[越沼氏]我々はASUSTORと合わせてQNAPという2つのNASメーカーを取り扱っています。当初のASUSTORは、創業間もないこともあり「価格プッシュ」というところもあったのですが、DSD再生機能などASUSTORでしかできない機能が登場してきましたので、うまく住み分けできてきたと感じています。
また、ビジネスアプリケーションでは、「ASUSTORでしかできない」「QNAPでしかできない」といった、クセのようなものが出てきますが、当然、我々は使い分けのノウハウがございます。そうした点で、2つのNASメーカーを取り扱うことは大きなメリットと言えます。「これこれこうした機能を実装するならこちらですよ」と提案できるわけです。
――今コンシューマーにイチオシのASUSTORのNAS製品を教えて下さい。
[越沼氏]Intel Atomプロセッサを搭載した2ベイNASのAS202TEをオススメします。
コンシューマー向けのローエンドNASですと、求められるのはシンプルにNAS機能という現状ではありますが、AS202TEは他社のARMプロセッサ搭載モデルと勝負できる価格帯にありながら、ADMによるアプリケーションの追加や、USB DACによるDSD再生、HDMI端子の搭載によって、NASの新たな可能性を体験することができます。
――日本のユーザーに向けて一言いただけますか
[Allen氏]日本市場は成熟しており、各家庭にNASがあってもおかしくないと思います。NASはバックアップデバイスですが、ご家庭でお使いになる方でしたら、モバイルデバイスの各種メディアファイルの共有サーバとして機能します。
また、今やNASはそれ単体でマルチメディアプレーヤーとしても機能させることが可能になりました。モバイルデバイスで撮ったメディアを、NASに保存し、そこで再生するといった一連の操作ができるのです。
NASと言いますと、信頼性も大きな要因かと思います。我々のNASは、台湾で製造しています。機能面とともに、品質という面でも納得できる製品をお届けします。
4年を経て成長したASUSTORはNAS業界をリードする存在になる
NAS専業メーカーとしては、QNAPやSynology、Thecusなどがあるが、そのOSとなると機能的には似通ったものとなってしまう。しかし、ASUSTORは、DSD再生機能など、独自の機能も光る。また、こうしたリクエストにすぐに反応できる「フットワークの軽さ」も、ASUSTORの特徴だと言えそうだ。
[制作協力:ASUSTOR / ユニスター]