特集、その他

ゲーム用小型PCキットの最高峰、GTX 960搭載の「MAGNUS EN970」を試す

ゲーム機より小型なのに高性能、静音性も高いハイエンドモデル text by 石田賀津男

 ZOTACのベアボーン「ZBOX」シリーズより、ゲーミングPC向けの「MAGNUS EN970」が11月に発売された。店頭価格は税込132,800円前後だ。

 「ZBOX」シリーズは小型であることが最大の特徴で、「MAGNUS EN970」も210×203×52.5mm(幅×奥行き×高さ)と非常にコンパクト。ゲーミングPCとしてはもちろん、家庭用ゲーム機と比べても小さくまとまっている。

 今回は「MAGNUS EN970」の実機をお借りし、パーツを組み込んだものを試用させていただいた。ハードウェアの検証に加え、実際に最新ゲームをいくつか試してフレームレートを見るというテストも実施した。

今回使用したゲームタイトル
METAL GEAR SOLID V: THE PHANTOM PAIN
グランド・セフト・オートV
Star Wars バトルフロント
World of Warships

小型でも高性能なゲーミングPCを実現するための工夫

 まずは「MAGNUS EN970」の基本的なスペックを紹介しよう。

 CPUは2コア4スレッドのCore i5-5200Uを搭載。GPUはGeForce GTX 960搭載とされており、OSからもそう認識されているが、ビデオメモリは3GBと書かれている。

 もしやと思いツールなどを使って調べてみると、搭載されているGPUとスペックが合致するのはデスクトップPC用のGeForce GTX 960ではなく、ノートPC向けに使われるGeForce GTX 970M。

 つまり本機は、CPUにCore i5-5200U、GPUにGeForce GTX 970Mを搭載した、高性能ゲーミングノートPCに近い構成のコンパクトPCと言える。GPUの名前については、本機をノートPCではなくデスクトップPCとして扱う上で何かしらの決まり事があるのかもしれない。

 PCとして使用するには、別途メインメモリとストレージ、OSが必要。メインメモリはDDR3L-1600のSO-DIMMが2スロットあり、最大16GBまで搭載可能。ストレージはM.2と2.5インチの両方に対応できる。2.5インチは2スロットあるので、SSD+HDDという構成も問題なく対応できる。光学ドライブは載せられないので、必要ならUSBで外付けとなる。

 拡張端子は、USB 3.0が前面と背面に2つずつ、USB 2.0が背面に2つ。Gigabit Ethernetが2ポート用意されているほか、IEEE 802.11acの無線LANとBluetooth 4.0も搭載。

 HDMI端子も4つあるので、マルチモニター環境にも対応できる。さらに前面にはヘッドフォン端子とマイク端子に加え、SDXC UHS II対応のSDカードスロット端子も装備。コンパクトながら、ゲーミングPCに求められる拡張性は十分に整っている。

GPU-Zやデバイスマネージャーからの認識はGeForce GTX 960だが、一般的なGeForce GTX 960とはスペックがことなる。CUDAコア数が1,280である点や、メモリのバス幅が192bitである点など、ツール上から確認できるスペックはGeForce GTX 970Mと合致する。

外見も中身もシンプルでカスタマイズも簡単なベアボーン

 続いて実際の製品を見ていきたい。

 外見は黒で統一されたカラーリングで、天面に丸い意匠がある以外には特に凝ったデザインもないシンプルなもの。前面左に電源ボタンがある以外に、特に触る部分もない。

 右側面はスリットがないデザインなので縦置きもできそうに見えるが、アタッチメントなどは付属しておらず、横置きを想定しているようだ。

正面は電源ボタン、SDカードスロット、マイク端子、ヘッドフォン端子、USB 3.0×2
電源やストレージアクセスなどのLEDも正面。本体下方に漏れる光が面白い
天面は丸いデザインがあるだけで平ら
左側面は排熱のためのスリットがある
右側面は何もなし
背面は電源、USB 3.0×2、USB 2.0×2、HDMI×4、Gigabit Ethernet×2、無線LANアンテナ端子(アンテナも付属)

 内部へのアクセスには、背面にある手締めネジを2つ外し、底面パネルを外す。

 するとメインメモリやストレージのスロットが現れるので、必要に応じて装着する。2.5インチ SATAスロットは、装着されているガイドを手締めネシを回して取り外し、ガイドにHDDやSSDを装着して、元の位置に戻しながらSATAと電源の端子を挿し込むだけ。

 SATAケーブルすらなく、あらゆる作業にドライバーすら不要(最初はネジが固く締められているので必要な場合もある)で、作業的にも見た目にも極めて洗練されている。

 あとはOSをインストールしてやれば完成。自作PC経験者からすると、「こんな簡単にゲーミングPCが完成していいの?」と言いたくなるほどあっという間の作業だ。最近はUSBメモリをインストールメディアに使えるし、ゲームもダウンロード販売が主流になっているので、光学ドライブがなくてもあまり困らなくなった。

背面の手締めネジを外すと、底面がスライドして開く
底面を開くと、メインメモリやストレージのスロットが見える
2.5インチHDD/SSDは手締めネジで固定されたガイドを外し、HDD/SSDのネジ穴にガイドのピンを合わせて装着する

最新ゲームも十分美しく快適にプレイ可能

「ファイナルファンタジーXIV: 蒼天のイシュガルド ベンチマーク」は十分に期待できるスコアが出た

 それではお待ちかねのゲーム動作確認に移りたい。

 今回は、「METAL GEAR SOLID V: THE PHANTOM PAIN」、「グランド・セフト・オートV」、「Star Wars バトルフロント」、「World of Warships」の4タイトルを実際にプレイして、フレームレートを確認した。なおOSはWindows 10 Homeを使用している

 ちなみに後のテストで使用する「ファイナルファンタジーXIV: 蒼天のイシュガルド ベンチマーク」では、1,920×1,080ドットの最高品質(DirectX 11)で6,902(とても快適)というスコアが出ている。確かにデスクトップ版のGeForce GTX 960相当と言えそうな結果だ。

METAL GEAR SOLID V: THE PHANTOM PAIN

 まずは「METAL GEAR SOLID V: THE PHANTOM PAIN」。ゲームの画質を調整してくれるGeForce Experienceでは、最高画質が推奨設定とされていた。

 ゲームプレイでは、建物の多い村に潜入すると40fps台になることはあったが、動きの激しいシーンも含めてフレームレートの低下を感じるほどではなく、常に美しく滑らかな映像が堪能できた。本作は緊張感のあるスニーキングアクションだが、同時に映像としての素晴らしい演出も楽しみたい作品だけに、最高画質でも快適にプレイできるのは嬉しい。

潜入作戦も快適なフレームレートで進行できる
美しいデモシーンも本作の見どころ。最高画質で見られるのは嬉しい
GeForce Experienceの設定は最高画質の指定

グランド・セフト・オートV

 次は「グランド・セフト・オートV」。

 GeForce Experienceの推奨設定がかなり高めに設定されていたので、そのままプレイ。大抵のシーンでは60fps付近を維持できており、比較的負荷が重い街中のシーンで稀に30fps台になる程度。プレイ中に違和感を覚えることはなかった。シングルプレイならこのくらいの画質でプレイしても問題ない。

銃撃戦ではフレームレートは全く低下する気配なし
ビルが多い街中ではややフレームレートが落ちるが、30fpsを割りこむシーンはなかった
GeForce Experienceではかなり高画質な設定が推奨されている

Star Wars バトルフロント

 「Star Wars バトルフロント」はGeForce Experienceで最適化するとかなり低画質設定になった。

 この推奨設定では全てのシーンで60fpsを維持していたので、GeForce Experienceの設定でちょうど真ん中辺りの画質に設定を手動で変更した。それでもプレイ中のフレームレートはほとんど60fpsを維持していたが、森林など一部のステージで時折50fps台に落ちる時があった。対戦スコアを重視するならこのくらいがいいだろう。

一部のステージでかすかにフレームレートの低下があるが、普通は気づかない程度だ
地上戦だけでなく空中戦も快適にプレイできる
GeForce Experienceの標準設定はかなり低めになるので、中程度まで引き上げた

World of Warships

 「World of Warships」はGeForce Experienceに対応していないため、ゲーム内の画質設定を使用。最高設定を選んでプレイしてみたところ、島の合間での戦闘シーンで40fps前後までフレームレートが低下したが、十分快適にプレイできた。対戦ゲームだが1フレームの差を競うシビアな内容ではないので、これで実用的な設定だ。もちろん海戦の映像的な美しさも十分に堪能できる。

複数の島と艦船がいる場所では負荷が高いが、それでも40fps前後で耐える
美しい海と激しい戦い。映像も存分に楽しめる
GeForce Experienceが未対応なので、ゲーム内のオプションで最高画質を選択

 以上の4タイトルをプレイした範囲では、最新のゲームも比較的高画質な設定で快適に遊べると言っていいだろう。ミドルクラスのゲーミングPCに並ぶ性能を持ちながら、家庭用ゲーム機より小型なのだから、ゲーム機としての満足度はかなり高い。

静音・省電力ゲーミングPCとしても優秀

 続いてシステム全体の消費電力とCPUの温度も見ていく。温度の測定には「HWMonitor 1.28(CPU Core Package)」、消費電力の測定には「ワットチェッカー(TAP-TST5)」を利用した。また負荷テスト用のソフトとして、「CINEBENCH R15」と、「ファイナルファンタジーXIV: 蒼天のイシュガルド ベンチマーク」(1,920×1,080ドット、最高品質)を使用している。

 ハードウェアは「MAGNUS EN970」に、メインメモリ「SanMax SMD-N8G28CP-16KL-D」(DDR3L-1600 8GB×2)、SSD「OCZ VECTOR 180」(SATA3、480GB)を組み込んだ。OSはWindows 10 Homeを使用した。

CPU温度の測定結果
消費電力の測定結果

 CPU温度は、アイドル時から40度前後でやや高め。最も高い「ファイナルファンタジーXIV: 蒼天のイシュガルド ベンチマーク」(DirectX 9)で88度まで上昇している。小型PCなので排熱が難しいのはやむを得ない。

 ただ使用感としては、電源を入れてもファンが回転する音はほとんど聞こえない。ベンチマークテスト中には僅かに音が大きくなるが、ゲームの音が出ていたりすればもう気にならない程度だ。一般的なゲーミングPCと比べれば、騒音は極めて小さく抑えられている。排熱は本体左側と背面から出ており、高負荷時には温風が出ているのがわかるが、触れないほど熱くはない。

 消費電力は、アイドル時19W、最大値の「ファイナルファンタジーXIV: 蒼天のイシュガルド ベンチマーク」で105Wとなった。システム全体で100W強に収めつつ、先述の高性能を発揮していると考えれば、これもゲーミングPCとしては極めて高いワットパフォーマンスを発揮している。

本気のプレイも付けっぱなしも持ち運びも、あらゆる状況に対応できる1台

 コンパクトなPCはNUCやスティックPCなど様々なジャンルがあるが、ゲーミングPCで小型となると途端に見つけるのが難しい。もしあったとしても、申し訳程度のGPUを積んで、軽いゲームがそこそこ動けばいいじゃないか……という製品になりそうなイメージがある。

 しかし本機は立派にゲーミングPCを名乗れる性能を持ちながら、サイズも立派にコンパクトと呼べる範囲に収まっている。「たまにはリビングの大画面でPCゲームを遊びたい!」と思ったとしたら、本機は片手で掴んで持ち運べる(キーボードやマウスは必要だが)。ゲーム以外にも、高性能PCを持ち運びたいという用途があれば重宝するはずだ。

 またゲーマー的視点から見ると、静かで低消費電力というのも大いに意味がある。MMORPG経験者ならおわかりいただけると思うが、PCでゲームを動かしたまま放置したい状況というのがよくある。電気代も気になるし、冷却ファンがフル回転するゲーミングPCの横で寝たいとはあまり思わない。しかし本機ならそれもさほど気にならない程度に収まってくれる。

 「だったらノートPCでいいじゃん」という声もありそうだが、ゲーマーならモニターやキーボードがない方がありがたいことは多々ある。それにノートPCはモニターを閉じたらレジュームしてしまうし、そうならないよう設定をいじって付けっぱなしにするより、モニターの電源を消すだけで済む本機の方がスマートだ。……というのはいささかヘビーゲーマーすぎる論旨かもしれない(笑)。

 そしてもう1つの魅力が、カスタマイズの簡単さ。自作PC経験者でなくとも、本機ならパーツの組み込み程度は何とかなりそうに思う。小型で高性能なゲーミングPCが欲しいという人にとって、実に魅力的な1台に仕上がるだろう。

 黒単色で落ち着いた外見なので、どこに置いても違和感が出にくいデザインもいい。拡張端子も多いので、用途も広く考えられる。ゲーミングPCと言ってしまうと用途が限られるが、コンパクトな高性能PCと言えば意外と収まりのいい場所も多いのではないだろうか。新しい高性能PCをお探しの方は、本機の存在を頭の片隅に置いていただければ幸いだ。

ゲーミングモデル以外にもまだまだある「ZBOX」ファンレンスから高スペックモデルまで多数ラインナップ

 最後に「MAGNUS EN970」以外の「ZBOX」のラインナップをいくつかご紹介したい。

 ゲーミングモデルの「MAGNUS EN970」とは違い外部GPUは搭載しないが、日常使い向けや究極のコンパクトなど、コンセプトの定まった製品が数々用意されている。用途に合わせたモデルを選べるラインナップの豊富さも「ZBOX」シリーズの魅力だ。

・ZOTAC ZBOXシリーズ
https://www.zotac.com/jp/product/mini_pcs/overview

モデル製品特徴
ZBOX MI551 Mシリーズの「MI551」は、小型筐体ながらデスクトップ向け省電力CPUのCore i5-6400Tを搭載したモデル。M.2 SSDも搭載可能で、USB 3.1も用意。コンパクトなだけでなく性能面でも十分な快適性を確保している。
ZBOX MI525 同じくMシリーズの「MI525」は、CPUにノート向けCPUのCore i3-6100Uを採用したモデル。外観は「MI551」と同じだが、より省電力で、USB 3.1も搭載。価格も「MI551」より安価に設定されており、気軽に使える1台になっている。
ZBOX CI323 nano Cシリーズの「CI323 nano」は、4コアCPUのCeleron N3150を搭載したモデル。127×127×57mmというコンパクトな筐体が、ファンレスで動作するのが魅力だ。2.5インチドライブも内蔵可能で、無音と性能を両立したい人向け。
ZBOX BI323 Bシリーズの「BI323」もCeleron N3150を搭載したモデル。サイズは188×188×44mmで「CI323」より大きいが十分にコンパクト。小ささと同時にコストパフォーマンスを追及しており、「ZBOX」のベーシックモデルと呼ぶべき存在だ。
ZBOX PI320 Pシリーズの「PI320」は、4コアのAtom Z3735Fを搭載したモデル。115×66×19mmという、ポケットにも入る圧倒的な小ささとファンレス駆動が特徴。内蔵の32GB eMMCにはWindows 8.1 with Bingがプリインストールされ、買ってすぐ使えるのも魅力だ。
【ZOTAC ZBOX プロモーションビデオ 2015】
[Amazonで購入]

石田 賀津男