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~「高橋敏也の改造バカ一台大全集」発売記念~
高橋敏也、改造バカを語る

高橋敏也の改造バカ一台大全集1999-2013」を手にする高橋敏也氏。Windows 8.1深夜発売イベントへの出演直前で、ほとんど寝ていないと言いながらも、PC自作関連の話は止まらなかった。

 秋葉原におけるPC自作系イベントではもはや顔となった“改造バカ”こと高橋敏也氏。その高橋氏が14年近くにわたりDOS/V POWER REPORT誌上で連載を続けている「改造バカ一台」を電子版としてアーカイブするプロジェクトが10月26日より始まった。

 その名も「高橋敏也の改造バカ一台大全集1999-2013」。Amazonの新サービス“Kindle連載”で提供され、隔週ペースで過去の連載10回分ずつが配信される。端末に合わせて表示レイアウトが自動的に変更されるリフロー形式を採用しており、出先でも気軽に高橋氏のバカPCを楽しめる。

 今回は、プロジェクトのスタートを記念して、改造バカ一台に関するエピソードや、思い出に残るマシンなどについて高橋氏にうかがった。

(聞き手:DOS/V POWER REPORT編集部 編集長 佐々木 修司)


高橋敏也の改造バカ一台大全集1999-2013。2週に1回、全17回の配信で、合計170話の歴代「改造バカ」を配信。今回紹介した回ももちろん収録している
おなじみの自作PC雑誌、DOS/V POWER REPORT。「改造バカ一台」をはじめ、自作まんが「わがままDIY」、自作と女子の組み合わせ「PC自作女子学園」などユニークな連載から硬派な解説記事、レビューまで毎号盛りだくさんで発売中。写真は29日に発売される12月号。

――全集プロジェクト、ついに始まりましたね。まずは改造バカが生まれたいきさつを教えてもらえますか?

 最初に企画したのは、当時のDOS/V POWER REPORT編集長だった小川 亨さん(現株式会社Impress Watch社長)です。小川さんと当時のことを語ると、お互いの認識が見事に違っているんですが、お話してもいいんでしょうか……?

――ぜひお願いします。某社社長のことは気になさらず(笑)

 認識が共通している部分から話すと、改造バカは小川さんと私が共通の知人を介して会ったことから始まったんです。

 パワレポはその頃私がメインで執筆活動を行なっていたDOS/V magazine(ソフトバンクパブリッシング:当時)のライバル誌という関係で、しかも自分はDOS/V magazine執筆陣の中でも比較的経歴の長いライターだったこともあり、小川さんも少し遠慮していた部分があったと思います。でも、せっかくだからということで、小川さんが「うちでも何か書いてください」と依頼してきたんです。

 ……と、思っていたのですが、小川さんによると、そのときに「(パワレポでも)何か書かせてもらえませんかねえ?」と私が言ったと記憶していると(笑)

 まあ、それを今さら追求しても仕方がないので置いておくとして、とにかく何かやろうよということになりました。で、自作PCは改造も含めていろいろできるから、自作をテーマにおもしろいことをやってみようという方向で決まりました。「やってください」だったのか、「やらせてください」だったのかはともかく、そんなスタートでした。

――連載開始時の1999年と言えば、PC自作というジャンルはメジャー感が出始めた頃で、それをネタにして笑いを取るというのはかなりの冒険だったと思います。パワレポにしても当時は総合PC誌という感じで、自作記事の比率はまだ少なかったはずです。

 当時の人たちは、パーツ単位で購入して自分で組み立てられることが分かったとたんに、既存の世界(完成品PC)をいじるのではなく自分で世界を創る(自作)というおもしろさに気付いちゃった。ある意味、これまでの概念が壊れた。自作ならいろいろできそうだ、どこまでできるんだと。

 そういう背景の中で小川さんと話をしていて、ほかにはないおもしろいものをってことになりました。メーカー製PCの改造ではなくて、PCで極端なことをやってみようってことになったんです。たとえば初期の頃は「ファンをたくさん付けてみる」とか、「ドライブを一杯積んでみる」っていうのから始まっているんですよ。

 そうして始まったんですけど、「極端なこと」路線はそのうちネタ詰まりになってしまって、あるときリミッターを外してしまった。まあ、後々何度もリミッターは外すことになるんですが、リミッターを外したときに「何か」が来たんでしょうね(笑)


記念すべき改造バカの1号機、「強制空調マシン壱号」。各種のケースファン、5インチベイファン、拡張スロットファンなど合計10個以上のファンを搭載した“極端路線”の冷却重視マシンだった

――では、記憶に残っている作品について聞かせてください。

 第1回目は小川さんと打ち合わせをして考案した「強制空調マシン壱号」。これは自作マニアとしては基本中の基本ですよね。

――空調をとにかく強化する……と。この辺は、今で言う「チューニング」の範囲内ですね。

 この頃は編集部との間で決めごとがあって、一般の人が手に入れようと思ったら手に入れられるものを使うことにしていました。それからもう一つのルールが、基本的にはやろうと思えばできる。この二つを守っていまいた。マニアックユーザー向けの自作って感じです。だから、パーツを結構重視してたんですよ。第2回では、カノープスの拡張カードを集めて、ベンチまで取っています。私にしてはかわいらしい。って、かわいらしいって何ですか?(笑)

――初期はこういう極端路線が続いていくわけですね。

 はい。第2回が終わって、「次に何やっぺ?」ってな話になって、最初のリミッター外しはここら辺です。第3回では本体ケースがないマシンを作っているんですよ。それが壁掛けPC初号機。これでPCパーツ以外も使い始めました。


第3回で登場した壁掛けPC初号機。ここでパーツを駆使する最初期の路線から大きく舵を切った

――3回目でリミッター解除ですか、ずいぶん早いですね……。確かに一般的な自作路線から工作レベルが一気に高まりましたね。

 次に作った「グリーンPC」では魚や植物を織り交ぜたんですよ。5インチベイに水槽を入れて、そこでベタという魚を飼うというものでした。これがかなり好評?だったので、第2弾ではハムスターをPCケース内で飼いました。生態パーツと命名しましてね。これをやるときは動物虐待にならないようにかなり気を使っていたんですよ。ちゃんと電磁波を測定して、よけいな電磁波を与えないように注意していました。あとはPC自体がどれくらいの電磁波を発しているのか、ちゃんと写真に撮って説明してますね。


第4回掲載のグリーンPC。この辺りからマニアックから“バカ”へとノリが変わってきた模様。
第6回ではグリーンPCの生態パーツがベタからハムスターに。実によく駆動するパーツだった。


これが水没PCこと液体冷却電算機。マザーボードが完全に液体に漬かったシステムが問題なく動作する姿は今見ても感動もの。
これがアシスタント犬ムームー初登場のカット。おそるおそるフロリナートの香りを確かめる改造バカの後ろにしれっと映り込んでいた。

――今見ても先取り感がありますよね。このグリーンPCは。

 そこら辺はね、別に私が世界初だから云々とか言うつもりはないのだけれど、そこはネタとして誰もやらないであろう、下らないことをやって世界初であろう、なんてうたってますね。そういう流れで記憶に残っているのが水没PC。水冷システムよりも驚きのある冷却をという欲求から、読者に教えてもらったフロリナートという薬品を使って実現しました。意外なまでにうまくいってこれはびっくり。

 この水没PCの回はもう一つ印象的なことがありました。この号からアシスタント犬のムームーが登場しているんですよ。実は私はムームーを誌面に登場させるつもりはまったくなかったんですが、偶然写っている写真があった。それに担当編集者が気付いて、(フロリナートのにおいに)「後ろにいる犬も反応していない」という文を付けたんですよ。これで「高橋の家には犬がいるんだな」ってことが明らかになって、ムームーの活躍がなぜか始まると。主人を追い越してねえ……。


風呂PCというネタだが、自身がネタになってしまった改造バカ。(男が)全裸でモザイクというシチュエーションもPC誌では世界初かもしれない。

――私が一番記憶に残っているのは「風呂PC」です。この回で使われた風呂に入りながらPCを使うカットが、本当にバカであると(笑) そうか、自作PCと全裸ってのはアリなんだって。本当にリミットがないですよね。

 「よし、風呂で全裸で撮ろう」ってことに、まったくためらいがなかったところが、ちょっとイカレていてると言うか、バカだなあと。今だったら防水のタブレットPCとかですむ話ですけれど、当時は風呂場とか車とかで使うとか、シチュエーション的なネタが結構受けたんです。


「ワンダーライト(改)」としてMicrosoft主催のイベント「Media Center EXPO」に展示されたマシン。アーティスティックな仕上がりなのだが、高橋氏が長年熱望しているMoMAへの収蔵依頼はこのときもなかった……。

――打って変わってきれい目に仕上がっていたマシンとして、クリアな女性型のボディに入れたPCがありましたね。

 あの当時、確かMicrosoftのイベントがあって、別にそれ用に作ったわけじゃないのですが、展示しようかって話になったんです。当時のMicrosoftの人が「こんなの展示していいのかな?」って言ったら、当時の谷川編集長(現Car Watch編集長)が「いや、これおもしろいからやりましょう」ってことでまとまって。

 んで、結構ウケたので、Microsoftの担当者もそれで度胸がついて自作系イベントで私を呼ぶようなことが増えたと。


こちらは女体PCから打って変わってPCにスク水&縞パンを搭載した数年後の作品「禁断の手触りマシン」。読者からは品がないとの声が(いつもより)多く寄せられたが、改造バカとPC自作にタブーはない。

そのほかに、記憶に残っている初期のマシンとして高橋氏が挙げたのがこの「黄金マシン」。編集長の「金粉ショーのイメージ? それとも百式?」という突っ込みに対しては「007 黄金銃を持つ男!」と真顔で答えが反ってきた。
もう一つの記憶に残るマシンが「自走PC」。車載ではなく、自走という発想の転換はPCユーザーには新鮮だったが、ご近所の目は冷たかった模様。

――そう言えば、マシンを作っているときに事故や、ひやっとしたことなどはありますか?

 幸いなことに、改造バカでこれまで作ってきて火を噴いたってことは3、4回しかないんですよ。

――ということは、176分の3、4回は出火と(笑)これが幸いかどうかは分かりませんが、少なくとも大きな事故にはつながっていないわけですね。

 一番大きな事故って何だっけかなあ? ぱっと思い出せないぐらいだから、たいした事故はないですね。

――では、最後に改造バカのこれからについてお話をうかがいましょう。2000年に単行本を出したときには今後こんなことをやりたいといった話がありました。たとえば「戦車PC」とか……。

 それは陸上自衛隊の協力があればいつでもOKです。あとは陸上自衛隊がいかに決断してくれるかというだけです。もちろんPCケース(戦車)は10(ヒトマル)式じゃないと。それ以外はダメです。

 ま、それは置いておいて、今になってみるとおかしいのが単行本で実現したいPCとして挙げている、「HDD 1T、メモリ1Gマシン」。これはいったい何年前に実現しているんだと(笑)

――確かに。今じゃその何倍もいってますからね。

 空中浮遊をいつかやりたいですねえ。NUCが出てきているから、重量的にもそろそろいけるかな。人力発電稼働マシンもいいですね。今のPCパーツは省電力になっているからPentium 4の頃よりだいぶ楽そうですよ。発電機になる私が。

 実はアイディアってのは山ほどあるんですよ。今でも無限に。ただ一つ問題なのが「老いたか高橋」、「臆したか高橋」じゃないけど、年を取ってくると考え方が変わってくるってこと。一番変わるのが「勢い」ですね。


死ぬまで改造バカ宣言を行なった(?)高橋氏。バカPCの歴史を刻む今後の作品にも期待したい。

――勢いですか。確かにこのところ脱いでいませんね(笑)。でも、そこは熟練度が上がってきていると言うか。

 年食った話が続くけど、自分ももう半世紀生きてきたわけで、何と言うか「タイムリミット」が見えてきたわけですよ(笑)

 これまでPCのおかげで食わせて来てもらったので、そろそろPCへ恩返しをしたいわけですよ(笑)。今までありがとうございますと。タイミングとしては、自作PCの市場がちょっと元気がなくなっている状況ですから、少しでも盛り上げていきたいなと。たとえばインプレスジャパンさんに後援をしていただいて、HDDをどこまで遠くに飛ばせるかというHDD遠投大会とか。

 あとは同じくHDDネタですが、ビルの3階から落としても壊れない梱包を競う大会とか。どこかの学校でやっているみたいに、紙1枚で卵を包んで壊れないようにするのHDD版みたいな。

 とにかくですね、PCというものの存在に憧れて、PCの世界に入って、PCのマニアになって、PCに食わせてもらっていて、今さらPCから離れるつもりは毛頭ないんで、最後の最後には遺言に「俺の棺には本体ケース3台ぐらい入れておいてくれ」と書き残したいです。「入らなかったらCPUで埋めつくせ」と。多分、火葬場で断られるだろうから、こっそり1個ぐらいは。Celeron 300AMHz辺りでいいんで(笑)。

――最後はちゃんと生前に自作した墓PCに納骨しますので……。

前で手を合わせると「ピポッ!(PC-9801の起動音)」ってビープ音が鳴るようにしますから(笑)

――本日はありがとうございました!

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